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第十九部・マティアスと麻衣 編
生きていてくれて、ありがとう
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マティアスの胸板の奥で、心臓がドクッドクッと力強く鳴っているのが聞こえる。
――ああ、この人、生きてるんだ。
当たり前の事なのにとても嬉しく、麻衣は幸せそうに微笑んだ。
「……沢山の絶望を乗り越えて、……今こうして生きていてくれて、ありがとう」
自然とそんな言葉が出た。
マティアスが静かに息を呑んだのが分かったが、構わず続ける。
「変な事を言ってごめんね。でも凄くそう思うの」
麻衣は目を閉じて、マティアスの息づかいや体温、鼓動を感じた。
そうしていると、新宿のラブホテルにいるのに、二人だけが世界から切り離された場所にいるように感じられた。
マティアスはしばらく麻衣を抱き締めていたが、やがてポツリと呟いた。
「今まで『メイヤー家から解放された人生は、素晴らしいに違いない』と信じていた。自由になった未来にだけ希望を持ってきた。……だから、きっと神様は『よく耐えた』と、褒美として俺にマイをくれたのかもしれない」
「……だとしたら、嬉しいな」
麻衣は穏やかに笑い、そっと彼の匂いを嗅ぐ。
「愛してる。……これから、宜しく頼む」
マティアスは麻衣の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
そして愛しげに囁いて、想いのこもったキスをする。
優しい唇が離れたあと、ジワジワと恥ずかしくなった麻衣は、またマティアスの胸元に顔を伏せた。
「も~っ! …………好きだなぁっ!」
麻衣は照れ隠しで少し大きな声で言ってから、嬉しさのあまりクスクス笑った。
それを聞いてマティアスも笑ってくれる。
彼が柔らかに笑い、感情を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。
(香澄に報告する事が沢山増えちゃった。恥ずかしいけど、女子会しないと)
勿論、マティアスとの間にあった事を、一から十まで話すつもりはない。
相手が香澄でも、彼が自分から言わない限り黙っているつもりだ。
けれど香澄がいなければ、彼と出会えなかった。
(きっと香澄なら祝福してくれるはず。自慢の親友だもの)
御劔邸にいる親友を想った麻衣は、「報告するのが照れ臭いな……」と思いながら、残るデート時間を大切にしようと思った。
**
同時刻、香澄は夕食を食べて満腹になり、リビングのソファに座った佑にもたれかかり、ウトウトしていた。
双子たちは夕食後にまた飲みに行き、今は佑と二人きりだ。
「眠いか? 無理して起きていなくても、横になっていいんだぞ?」
舟を漕いでカクッとなった時、佑が小さく笑って支えてくれる。
「ん……。んぅ」
香澄は少し零れた涎を拭い、目をしょぼしょぼさせて伸びをした。
「ちょっと疲れたみたい」
「確かに家に客がいると、気心知れた相手でも気を遣うよな」
「ん……。でも、麻衣と一緒に過ごせるのは嬉しい」
その麻衣は今、マティアスとデート中なのだが……。
「ねぇ。麻衣とマティアスさん、うまくいくと思う?」
親友の恋が始まるかもしれない事を思うと、嬉しくて堪らない。
ニヤつく香澄を見て、佑は苦笑した。
「女子は本当に恋バナが好きだな。……気が合うならうまくいくんじゃないか?」
「んー、つまんない答えだなぁ。麻衣があんなふうに男の人を意識してるの、初めて見たんだ。幸せになってほしいなぁ……」
昼間にマティアスから佑に電話があり、日本での就職先を東京のChief Everyに……という希望があったと聞いた。
佑からは「まだ確認があっただけ」と言われたが、「二人が東京に来るのでは……?」と思うとワクワクしてならない。
「麻衣が東京に来てくれたらどうしよう。嬉しい……!」
そう言って小さく脚をバタつかせると、佑は笑う。
「本当に麻衣さんが好きだな。少し妬いてしまう」
「麻衣だって佑さんに嫉妬してるよ?」
「ん? そうか? 香澄はモテモテだな」
クシャッと頭を撫でられ、香澄は笑み崩れる。
「大好きな人から好かれるなら、嬉しい」
佑は微笑んで香澄を抱き締めていたが、しばらくしてポツッと呟いた。
「……ごめん。ちょっと空気を悪くする事を言う。ずっと言わないでおこうと思っていたんだが、どうしても……」
「ん?」
顔を上げると、佑は溜め息をついてソファの背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。
――ああ、この人、生きてるんだ。
当たり前の事なのにとても嬉しく、麻衣は幸せそうに微笑んだ。
「……沢山の絶望を乗り越えて、……今こうして生きていてくれて、ありがとう」
自然とそんな言葉が出た。
マティアスが静かに息を呑んだのが分かったが、構わず続ける。
「変な事を言ってごめんね。でも凄くそう思うの」
麻衣は目を閉じて、マティアスの息づかいや体温、鼓動を感じた。
そうしていると、新宿のラブホテルにいるのに、二人だけが世界から切り離された場所にいるように感じられた。
マティアスはしばらく麻衣を抱き締めていたが、やがてポツリと呟いた。
「今まで『メイヤー家から解放された人生は、素晴らしいに違いない』と信じていた。自由になった未来にだけ希望を持ってきた。……だから、きっと神様は『よく耐えた』と、褒美として俺にマイをくれたのかもしれない」
「……だとしたら、嬉しいな」
麻衣は穏やかに笑い、そっと彼の匂いを嗅ぐ。
「愛してる。……これから、宜しく頼む」
マティアスは麻衣の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
そして愛しげに囁いて、想いのこもったキスをする。
優しい唇が離れたあと、ジワジワと恥ずかしくなった麻衣は、またマティアスの胸元に顔を伏せた。
「も~っ! …………好きだなぁっ!」
麻衣は照れ隠しで少し大きな声で言ってから、嬉しさのあまりクスクス笑った。
それを聞いてマティアスも笑ってくれる。
彼が柔らかに笑い、感情を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。
(香澄に報告する事が沢山増えちゃった。恥ずかしいけど、女子会しないと)
勿論、マティアスとの間にあった事を、一から十まで話すつもりはない。
相手が香澄でも、彼が自分から言わない限り黙っているつもりだ。
けれど香澄がいなければ、彼と出会えなかった。
(きっと香澄なら祝福してくれるはず。自慢の親友だもの)
御劔邸にいる親友を想った麻衣は、「報告するのが照れ臭いな……」と思いながら、残るデート時間を大切にしようと思った。
**
同時刻、香澄は夕食を食べて満腹になり、リビングのソファに座った佑にもたれかかり、ウトウトしていた。
双子たちは夕食後にまた飲みに行き、今は佑と二人きりだ。
「眠いか? 無理して起きていなくても、横になっていいんだぞ?」
舟を漕いでカクッとなった時、佑が小さく笑って支えてくれる。
「ん……。んぅ」
香澄は少し零れた涎を拭い、目をしょぼしょぼさせて伸びをした。
「ちょっと疲れたみたい」
「確かに家に客がいると、気心知れた相手でも気を遣うよな」
「ん……。でも、麻衣と一緒に過ごせるのは嬉しい」
その麻衣は今、マティアスとデート中なのだが……。
「ねぇ。麻衣とマティアスさん、うまくいくと思う?」
親友の恋が始まるかもしれない事を思うと、嬉しくて堪らない。
ニヤつく香澄を見て、佑は苦笑した。
「女子は本当に恋バナが好きだな。……気が合うならうまくいくんじゃないか?」
「んー、つまんない答えだなぁ。麻衣があんなふうに男の人を意識してるの、初めて見たんだ。幸せになってほしいなぁ……」
昼間にマティアスから佑に電話があり、日本での就職先を東京のChief Everyに……という希望があったと聞いた。
佑からは「まだ確認があっただけ」と言われたが、「二人が東京に来るのでは……?」と思うとワクワクしてならない。
「麻衣が東京に来てくれたらどうしよう。嬉しい……!」
そう言って小さく脚をバタつかせると、佑は笑う。
「本当に麻衣さんが好きだな。少し妬いてしまう」
「麻衣だって佑さんに嫉妬してるよ?」
「ん? そうか? 香澄はモテモテだな」
クシャッと頭を撫でられ、香澄は笑み崩れる。
「大好きな人から好かれるなら、嬉しい」
佑は微笑んで香澄を抱き締めていたが、しばらくしてポツッと呟いた。
「……ごめん。ちょっと空気を悪くする事を言う。ずっと言わないでおこうと思っていたんだが、どうしても……」
「ん?」
顔を上げると、佑は溜め息をついてソファの背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。
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