1,343 / 1,589
第二十一部・フェルナンド 編
エミリオとショーン
しおりを挟む
だから、甘く見ていれば刺客が叩きのめされかねない。
なので両者を同時に潰そうと試みるのはやめておく事にした。
香澄の誘拐未遂で御劔佑には完全に気付かれたので、一度手を引いて別の作戦に切り替える。
原宿のカフェで護衛にレーザーポインターを当てたのは、御劔佑の警戒心を最大に引き上げるためだ。
香澄が狙撃手だと思い込んだあれは、大学の講義や星空教室などでも使われている、ただの強力なレーザーポインターだ。
いくらフェルナンドでも、本物の暗殺者に依頼して殺させようなど思わない。
それには相応のリスクが必要となる。
御劔佑の身の回りで誰かが死んだとなれば、クラウザーの獅子をも敵に回す事になる。
そこまで愚かではないつもりだ。
香澄は懸命に沈黙を守っているようだが、気付かれないように御劔佑と情報を共有している可能性は高い。
それも見越した上で、彼はまず二人の警戒を最大限に高める事にした。
一箇所を守ろうとすれば、油断した別の部分が脆くなる。そこを狙うつもりだ。
彼はトン、とチェスの駒――白のナイトを動かす。
ナイトは対角線なら、他の駒があっても構わず動ける。
その延長上にあるのは、黒のキングだ。
「伏兵というものは思わぬ場所にいるんだ」
彼は不敵に笑い、黒のキングを白のナイトで思いきり跳ね飛ばした。
カーンッと硬質な音が立ち、黒のキングが部屋の隅に飛んでゆく。
パソコンのモニターには、香澄のウォレットポシェットの内部が映され、スピーカーからは飛行機のエンジン音が聞こえていた。
「もうすぐ、お前の絶望した顔が見られる」
呟いた彼の唇は、綺麗な弧を描いている。
――あの日味わった、自分の絶望を忘れない。
「同じものを味わわせてやる」
低い声で告げてから、彼は足を伸ばしてオットマンの上にのせ、目を閉じて天井を仰いだ。
**
『ボス。ディナーのお時間が迫っています』
秘書に呼ばれた彼――〝エミリオ〟は、自宅で愛犬を撫でていた手を止め、『そろそろか』と立ち上がる。
これから会食があるが、相手は気心知れた友人なので緊張せずに食事を楽しめる。
スーツ姿のエミリオは愛犬の腹をポンポンと撫でたあと、『じゃあな』と声を掛けて玄関に向かう。
『ダーリン。気を付けてね』
長い黒髪が美しい妻にキスをされ、彼は微笑む。
玄関まで送りに来た娘と息子にもキスをし、エミリオは『行ってくるよ』とウィンクして車に乗り込んだ。
セダンの後部座席に座った彼は、タブレット端末で株価を確認してから、スマホで私用メッセージを確認し始めた。
やがて車はグラシア通りにある三つ星レストランに着く。
高さのあるガラスのドアに近づくと、黒服がドアを開けて店内にいざなわれた。
店内は明るく、フォーマルな服に身を包んだ人が席について上品に談笑している。
白いテーブルクロスが掛かった四角いテーブルに、ソファ席は白の革張り、椅子は黒い革張りというモノトーンで統一され、壁や床は柔らかなウッド調だ。
席まで案内されると、金髪碧眼の男性が片手を挙げて微笑んだ。
『やあ』
『久しぶりだね、ショーン』
二人は握手をしてからトントンとお互いの背中をさすり、着席する。
『わざわざ来てくれてありがとう』
『いいや。友人と美食を楽しめるならいつでも駆けつけるよ』
ダークブロンドのエミリオはチャーミングに笑い、ギャルソンが渡してきたメニューに目を落としてワインを選ぶ。
『お勧めの地元ワインはあるかい? ワイン生産世界第三位国だろ?』
ショーンに悪戯っぽく言われ、エミリオは微笑む。
ギャルソンにワインをボトルで注文し、二人はナプキンを膝の上に広げた。
『急な質問だが、君は最近うちのホテルに来たか?』
ショーンに尋ねられ、彼は目を瞬かせる。
『スペイン国内の……という意味ならノーだ。商談でレストランは利用したが、出張でない限り宿泊はしない。基本的に国内出張の場合、日帰りを心がけているしね』
『……だよな』
ショーンは不思議そうに首を傾げ、脚を組む。
なので両者を同時に潰そうと試みるのはやめておく事にした。
香澄の誘拐未遂で御劔佑には完全に気付かれたので、一度手を引いて別の作戦に切り替える。
原宿のカフェで護衛にレーザーポインターを当てたのは、御劔佑の警戒心を最大に引き上げるためだ。
香澄が狙撃手だと思い込んだあれは、大学の講義や星空教室などでも使われている、ただの強力なレーザーポインターだ。
いくらフェルナンドでも、本物の暗殺者に依頼して殺させようなど思わない。
それには相応のリスクが必要となる。
御劔佑の身の回りで誰かが死んだとなれば、クラウザーの獅子をも敵に回す事になる。
そこまで愚かではないつもりだ。
香澄は懸命に沈黙を守っているようだが、気付かれないように御劔佑と情報を共有している可能性は高い。
それも見越した上で、彼はまず二人の警戒を最大限に高める事にした。
一箇所を守ろうとすれば、油断した別の部分が脆くなる。そこを狙うつもりだ。
彼はトン、とチェスの駒――白のナイトを動かす。
ナイトは対角線なら、他の駒があっても構わず動ける。
その延長上にあるのは、黒のキングだ。
「伏兵というものは思わぬ場所にいるんだ」
彼は不敵に笑い、黒のキングを白のナイトで思いきり跳ね飛ばした。
カーンッと硬質な音が立ち、黒のキングが部屋の隅に飛んでゆく。
パソコンのモニターには、香澄のウォレットポシェットの内部が映され、スピーカーからは飛行機のエンジン音が聞こえていた。
「もうすぐ、お前の絶望した顔が見られる」
呟いた彼の唇は、綺麗な弧を描いている。
――あの日味わった、自分の絶望を忘れない。
「同じものを味わわせてやる」
低い声で告げてから、彼は足を伸ばしてオットマンの上にのせ、目を閉じて天井を仰いだ。
**
『ボス。ディナーのお時間が迫っています』
秘書に呼ばれた彼――〝エミリオ〟は、自宅で愛犬を撫でていた手を止め、『そろそろか』と立ち上がる。
これから会食があるが、相手は気心知れた友人なので緊張せずに食事を楽しめる。
スーツ姿のエミリオは愛犬の腹をポンポンと撫でたあと、『じゃあな』と声を掛けて玄関に向かう。
『ダーリン。気を付けてね』
長い黒髪が美しい妻にキスをされ、彼は微笑む。
玄関まで送りに来た娘と息子にもキスをし、エミリオは『行ってくるよ』とウィンクして車に乗り込んだ。
セダンの後部座席に座った彼は、タブレット端末で株価を確認してから、スマホで私用メッセージを確認し始めた。
やがて車はグラシア通りにある三つ星レストランに着く。
高さのあるガラスのドアに近づくと、黒服がドアを開けて店内にいざなわれた。
店内は明るく、フォーマルな服に身を包んだ人が席について上品に談笑している。
白いテーブルクロスが掛かった四角いテーブルに、ソファ席は白の革張り、椅子は黒い革張りというモノトーンで統一され、壁や床は柔らかなウッド調だ。
席まで案内されると、金髪碧眼の男性が片手を挙げて微笑んだ。
『やあ』
『久しぶりだね、ショーン』
二人は握手をしてからトントンとお互いの背中をさすり、着席する。
『わざわざ来てくれてありがとう』
『いいや。友人と美食を楽しめるならいつでも駆けつけるよ』
ダークブロンドのエミリオはチャーミングに笑い、ギャルソンが渡してきたメニューに目を落としてワインを選ぶ。
『お勧めの地元ワインはあるかい? ワイン生産世界第三位国だろ?』
ショーンに悪戯っぽく言われ、エミリオは微笑む。
ギャルソンにワインをボトルで注文し、二人はナプキンを膝の上に広げた。
『急な質問だが、君は最近うちのホテルに来たか?』
ショーンに尋ねられ、彼は目を瞬かせる。
『スペイン国内の……という意味ならノーだ。商談でレストランは利用したが、出張でない限り宿泊はしない。基本的に国内出張の場合、日帰りを心がけているしね』
『……だよな』
ショーンは不思議そうに首を傾げ、脚を組む。
23
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる