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第二十一部・フェルナンド 編
えぇっ!? 誰っ!?
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だが香澄の体は、先ほど強かに打たれた痛みに恐怖を覚えてしまった。
渾身の力で男の手を振りほどいて走っても、すぐに追いつかれてまた思いきり打たれるのが目に見えている。
痛みで教え込む方法は、シンプルなだけに実に効果的だ。
「また叩かれたくない」という怯えを感じた香澄は、男たちに従ってしまっていた
香澄はときおり足を止めて抵抗したが、そのたびに手を引っ張られ、豪華客船に近付いていく。
やがてタラップまで辿り着いた男たちは、それまでの雰囲気と打って変わって陽気に受付に話し掛けた。
『三名様ですね。お一人ずつパスポートと乗船券を確認致します』
先にスーツケースを持った男が通され、次に香澄の番がくる。
男が手を離した隙に走って逃げようと思ったが、後ろのもう一人が凝視している。
まるで「逃げようとすればまた殴るぞ」と言っているようだ。
(駄目だ……)
香澄は絶望しながら、受付にオリエ・スミスとして身元を確認された。
緊張しながらも、香澄は「今逃げる。……今、……今」と自分にタイミングを促す。
だが圧倒的な恐怖を前に心がくじけ、彼女は数分後には船内にいた。
香澄はゴージャスなホテルさながらの内装に見とれる間もなく、男たちに腕を掴まれたままエレベーターに乗せられる。
そしてスイートルームとおぼしき、やけに広い部屋に入れられた。
『このままこの部屋にいろ』
男の一人はそう言ってから、リビングを見渡せる出入り口の前に立ち、もう一人は寝室の窓際に立つ。
『……この船は、どこ行きですか?』
香澄が尋ねても、今度は二人とも何も言わなかった。
(パスポートが必要だから海外に行くのは確かだ。東京湾から次の寄港先まで、日本の港は経由しないの?)
香澄はさりげなくスイートルームの中を見回し、脱出経路を見つけようとする。
『言っておくが、バルコニーに近付くなよ』
低い声で脅され、本能的に与えられた痛みを思いだす。
『俺たちだって女に暴力を振るいたくない。痛い目に遭いたくなければ、賢く振る舞え。殴られて犯されるより、大人しく座っていたほうがずっといいだろう?』
最悪なパターンを提示された香澄は、唇を引き結びリビングのソファに腰を下ろした。
**
呉代は久住、佐野とともに直通エレベーターに乗り、地上まで一気に降り、河野の指示を受けながら品川駅に向かった。
大きな駅の中で、待ち合わせで立ち止まっているならともかく、移動中の人を探すのは至難の業だ。
だが香澄の姿なら毎日見ている。
身長がどのぐらいか、頭部だけを見ても髪の艶だけですぐ分かる。
(……いた! あれか!?)
走っていくと、大柄な外国人男性二人に挟まれた、香澄らしき女性を見つけた。
呉代は近くを走っている久住、佐野に彼女を指差し、アイコンタクトを取ると頷き合った。
自分は右側の男を止めると手でサインし、佐野には左側の男、久住には香澄の救出を指示した。
普段はセレブな佑の側でいい思いをさせてもらっていても、彼らはプロの護衛だ。
空いた時間はみっちりとトレーニングをし、現役の陸上選手なみに走り込みをしている。
他の二人も呉代と代わらないフィジカルの強さを持っていた。
(いっせーの、でっ!)
心の中でタイミングを掴み、呉代は男の胴に腕を回し、足を踏ん張って香澄から引き離した。
「What!?」
男が声を上げる。反対側でも佐野がもう一人の男の動きを止めている。
(赤松さんは……!)
バッと久住を見ると、彼は香澄の手を引いて前方に駆けだしていた。
インカムから久住の『ターゲット保護しました!』という声が聞こえたが、すぐに『えぇっ!? 誰っ!?』と叫ぶ声がした。
「は?」
久住の反応の意味が分からず、呉代は混乱する。
『呉代、佐野! 作戦失敗だ! ニセモノだ!』
久住の悲鳴に似た声が聞こえ、呉代は「は!?」と声を上げ、男を離して久住のもとに駆けつける。
「どういう事だ!?」
十メートルほど先にいる久住に追いついた呉代は、〝香澄〟の顔を覗き込んだ。
渾身の力で男の手を振りほどいて走っても、すぐに追いつかれてまた思いきり打たれるのが目に見えている。
痛みで教え込む方法は、シンプルなだけに実に効果的だ。
「また叩かれたくない」という怯えを感じた香澄は、男たちに従ってしまっていた
香澄はときおり足を止めて抵抗したが、そのたびに手を引っ張られ、豪華客船に近付いていく。
やがてタラップまで辿り着いた男たちは、それまでの雰囲気と打って変わって陽気に受付に話し掛けた。
『三名様ですね。お一人ずつパスポートと乗船券を確認致します』
先にスーツケースを持った男が通され、次に香澄の番がくる。
男が手を離した隙に走って逃げようと思ったが、後ろのもう一人が凝視している。
まるで「逃げようとすればまた殴るぞ」と言っているようだ。
(駄目だ……)
香澄は絶望しながら、受付にオリエ・スミスとして身元を確認された。
緊張しながらも、香澄は「今逃げる。……今、……今」と自分にタイミングを促す。
だが圧倒的な恐怖を前に心がくじけ、彼女は数分後には船内にいた。
香澄はゴージャスなホテルさながらの内装に見とれる間もなく、男たちに腕を掴まれたままエレベーターに乗せられる。
そしてスイートルームとおぼしき、やけに広い部屋に入れられた。
『このままこの部屋にいろ』
男の一人はそう言ってから、リビングを見渡せる出入り口の前に立ち、もう一人は寝室の窓際に立つ。
『……この船は、どこ行きですか?』
香澄が尋ねても、今度は二人とも何も言わなかった。
(パスポートが必要だから海外に行くのは確かだ。東京湾から次の寄港先まで、日本の港は経由しないの?)
香澄はさりげなくスイートルームの中を見回し、脱出経路を見つけようとする。
『言っておくが、バルコニーに近付くなよ』
低い声で脅され、本能的に与えられた痛みを思いだす。
『俺たちだって女に暴力を振るいたくない。痛い目に遭いたくなければ、賢く振る舞え。殴られて犯されるより、大人しく座っていたほうがずっといいだろう?』
最悪なパターンを提示された香澄は、唇を引き結びリビングのソファに腰を下ろした。
**
呉代は久住、佐野とともに直通エレベーターに乗り、地上まで一気に降り、河野の指示を受けながら品川駅に向かった。
大きな駅の中で、待ち合わせで立ち止まっているならともかく、移動中の人を探すのは至難の業だ。
だが香澄の姿なら毎日見ている。
身長がどのぐらいか、頭部だけを見ても髪の艶だけですぐ分かる。
(……いた! あれか!?)
走っていくと、大柄な外国人男性二人に挟まれた、香澄らしき女性を見つけた。
呉代は近くを走っている久住、佐野に彼女を指差し、アイコンタクトを取ると頷き合った。
自分は右側の男を止めると手でサインし、佐野には左側の男、久住には香澄の救出を指示した。
普段はセレブな佑の側でいい思いをさせてもらっていても、彼らはプロの護衛だ。
空いた時間はみっちりとトレーニングをし、現役の陸上選手なみに走り込みをしている。
他の二人も呉代と代わらないフィジカルの強さを持っていた。
(いっせーの、でっ!)
心の中でタイミングを掴み、呉代は男の胴に腕を回し、足を踏ん張って香澄から引き離した。
「What!?」
男が声を上げる。反対側でも佐野がもう一人の男の動きを止めている。
(赤松さんは……!)
バッと久住を見ると、彼は香澄の手を引いて前方に駆けだしていた。
インカムから久住の『ターゲット保護しました!』という声が聞こえたが、すぐに『えぇっ!? 誰っ!?』と叫ぶ声がした。
「は?」
久住の反応の意味が分からず、呉代は混乱する。
『呉代、佐野! 作戦失敗だ! ニセモノだ!』
久住の悲鳴に似た声が聞こえ、呉代は「は!?」と声を上げ、男を離して久住のもとに駆けつける。
「どういう事だ!?」
十メートルほど先にいる久住に追いついた呉代は、〝香澄〟の顔を覗き込んだ。
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