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第二十一部・フェルナンド 編
佑の戦い、香澄の戦い
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「……ですよね。疑ってすみません。今、会社や私に向けた攻撃を受けています。その中の一つにChief Everyが二重帳簿を作り、脱税しているという噂があり、偽の帳簿が流出しているようです。先ほど税務署からも連絡がありました。念のため、正規データを確認させてください。その上でこちらで声明を発表したいと思います。また、税務調査も入ると思いますので、立ち会いをお願い致します」
『承知しました。私の仕事が正しいと思い知らせてやります!』
峰岸は鼻息荒く言い、すぐにTMタワーに行くと告げて電話を切った。
「どうやらデマのようです。峰岸さんは何もしていない」
松井に告げた佑は、溜め息をつきプレジデントチェアに座る。
「メディアが騒いだ時のために、顧問弁護士にも連絡をしておきます」
松井に言われ、佑は静かに頷く。
「お願いします。脅しを掛けたと取られてもいいですから、『騒げばこれぐらいの請求はする』と突きつけておきます。今はこんなもので足止めされている場合じゃありません。香澄を取り戻し、パリコレも成功させなくては」
松井が会釈して秘書室に下がったのを見送り、佑は溜め息をつく。
そして気を取り直すために、社長室内にあるウォーターサーバーから水を注いで飲んだ。
「このタイミングでこの騒ぎは、関係していないと思えませんね」
刑事が言い、彼も溜め息をつく。
「恐らく攪乱している間に、遠くに逃げるつもりなのでしょう」
時刻は十八時半になっていて、香澄がいなくなってから六時間が経とうとしている。
各地で検問が行われているが、収穫は何もない。
今頃香澄がどんな目に遭っているかと考えるだけで、頭から血の気が引く。
(くそ……っ!)
佑は何かに当たりたいのをグッと堪え、固く拳を握った。
「香澄……っ」
食い縛った歯の間から漏れた声は、――彼女には届かない。
**
クルーザー内には複数のレストランがあるが、フェルナンドが入ったのはその中でも最も格式の高いものだった。
チョコレート色で統一された内装に、金色の柱が林立し、クリスタルのついたシャンデリアが光っている。
香澄は白いテーブルクロスが掛かったテーブルに、フェルナンドと向かい合わせに座った。
『表情が死んでいる。俺が女性を笑わせられない、つまらない男と思われるじゃないか』
フェルナンドはウエイターにワインを頼み、『彼女にも同じ物を』と言った。
香澄は無言で窓の外に広がる黒い海を眺める。
『エスコートする男に恥を掻かせるんじゃない。笑ってごらん』
フェルナンドに静かに圧を掛けられ、香澄は背筋に嫌な汗を掻く。
ゴク……、と唾を嚥下した香澄は、ワナワナと震える唇でぎこちなく微笑んだ。
その表情を見て、フェルナンドは苦笑した。
『酷い顔だね。無理矢理笑っているのが丸わかりだ』
自分のせいだというのに、フェルナンドはおかしそうに笑う。
『そもそも君は幾ら着飾っても、普通の女の子だね。タスク・ミツルギの隣にいるのが不思議で堪らない。彼は君のどこに惹かれたんだろうね? よほどアレがうまかった?』
酷い侮辱を受けても、香澄は笑顔をキープしている。
『可哀想に。あの男に関わらなかったら、君は日本の片田舎で平和に暮らせていたのに。恨むならあの男を恨むといい』
自分ならどれだけ侮辱されても構わないが、佑を悪く言われるのは嫌だった。
『佑さんを恨むなんて、何があってもあり得ません』
どこまでも佑を信じて疑わない香澄を見て、フェルナンドは目を細めた。
『あの男が君の知らないところで、どんなに非道な事をしていても?』
『知らない以上、判断のしようがありません』
『マスコミに送ったあの写真は合成だが、君と出会う前、彼は似たような事をしていたかもしれない。男は大概そうだ。どれだけ綺麗事を言っても性欲はある』
『私と会う前の事を言っても、意味がないと思いませんか? 私だって彼氏がいました。お互い初めて同士ではないのは承知の上です。小学生の初恋じゃないんですから』
香澄の心の奥で、グツグツとした怒りが煮えたぎっている。
――絶対に負けない。
恐怖は勿論あるが、それに屈して何もできなくなるのは嫌だ。
だがよく考えて行動しないと、逃げ場のない船上ですぐ追い詰められ、フェルナンドたちに犯されるだろう。
香澄の戦いは、すでに始まっていた。
どれだけ圧をかけられ、恐怖で操られようしても、決して屈さず助けが来るまで耐えられるか。
(負けないからね! 佑さん!)
香澄は唇を引き結んでフェルナンドを見つめ返し、グッと顎を引いた。
**
『承知しました。私の仕事が正しいと思い知らせてやります!』
峰岸は鼻息荒く言い、すぐにTMタワーに行くと告げて電話を切った。
「どうやらデマのようです。峰岸さんは何もしていない」
松井に告げた佑は、溜め息をつきプレジデントチェアに座る。
「メディアが騒いだ時のために、顧問弁護士にも連絡をしておきます」
松井に言われ、佑は静かに頷く。
「お願いします。脅しを掛けたと取られてもいいですから、『騒げばこれぐらいの請求はする』と突きつけておきます。今はこんなもので足止めされている場合じゃありません。香澄を取り戻し、パリコレも成功させなくては」
松井が会釈して秘書室に下がったのを見送り、佑は溜め息をつく。
そして気を取り直すために、社長室内にあるウォーターサーバーから水を注いで飲んだ。
「このタイミングでこの騒ぎは、関係していないと思えませんね」
刑事が言い、彼も溜め息をつく。
「恐らく攪乱している間に、遠くに逃げるつもりなのでしょう」
時刻は十八時半になっていて、香澄がいなくなってから六時間が経とうとしている。
各地で検問が行われているが、収穫は何もない。
今頃香澄がどんな目に遭っているかと考えるだけで、頭から血の気が引く。
(くそ……っ!)
佑は何かに当たりたいのをグッと堪え、固く拳を握った。
「香澄……っ」
食い縛った歯の間から漏れた声は、――彼女には届かない。
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『表情が死んでいる。俺が女性を笑わせられない、つまらない男と思われるじゃないか』
フェルナンドはウエイターにワインを頼み、『彼女にも同じ物を』と言った。
香澄は無言で窓の外に広がる黒い海を眺める。
『エスコートする男に恥を掻かせるんじゃない。笑ってごらん』
フェルナンドに静かに圧を掛けられ、香澄は背筋に嫌な汗を掻く。
ゴク……、と唾を嚥下した香澄は、ワナワナと震える唇でぎこちなく微笑んだ。
その表情を見て、フェルナンドは苦笑した。
『酷い顔だね。無理矢理笑っているのが丸わかりだ』
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酷い侮辱を受けても、香澄は笑顔をキープしている。
『可哀想に。あの男に関わらなかったら、君は日本の片田舎で平和に暮らせていたのに。恨むならあの男を恨むといい』
自分ならどれだけ侮辱されても構わないが、佑を悪く言われるのは嫌だった。
『佑さんを恨むなんて、何があってもあり得ません』
どこまでも佑を信じて疑わない香澄を見て、フェルナンドは目を細めた。
『あの男が君の知らないところで、どんなに非道な事をしていても?』
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『私と会う前の事を言っても、意味がないと思いませんか? 私だって彼氏がいました。お互い初めて同士ではないのは承知の上です。小学生の初恋じゃないんですから』
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――絶対に負けない。
恐怖は勿論あるが、それに屈して何もできなくなるのは嫌だ。
だがよく考えて行動しないと、逃げ場のない船上ですぐ追い詰められ、フェルナンドたちに犯されるだろう。
香澄の戦いは、すでに始まっていた。
どれだけ圧をかけられ、恐怖で操られようしても、決して屈さず助けが来るまで耐えられるか。
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