【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第二十二部・岐路 編

別人みたい

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《佑? 元気?》

 佑は溜め息をつき、「元気だよ」と返事をする。

 恐らくこの会話は、御劔家にあるフェリシアに繋がっていて、家族全員が聞いているのだろう。

《その後、傷の具合はどうなの?》

 思った通りアンネの声がし、佑は返事をする。

「経過はいい。担当医からも順調だと言われている」

《香澄さんの事は思いだしたの?》

 今一番避けたい話題を出され、佑は溜め息をついて本を閉じ、横に置いた。

「まだだ」

《香澄さんは? 側にいるの?》

 澪がそう尋ねてくるという事は、自分と彼女はそういう関係にあると家族にも認識されていたのだろう。

(二人とも、美智瑠の事は『合わなかった』と言っていたのに、よく赤松さんを認めたな)

 確かに香澄は温厚で人当たりのいいタイプだが、そこまでアンネと澪に気に入られるとは思っていなかった。

 あの二人は好き嫌いが激しく、本能的に人を判断する。

 美智瑠は二人の眼鏡に適わず拒絶されたが、香澄はうまく二人の懐に入ったのだろう。

 そう思うと、ますます赤松香澄という女性が不思議に思える。

 いたって普通の女性なのに、どこか人の心を和ませ、いつの間にか笑顔にする魅力がある……、のかもしれない。

 あの意地悪でクセのありすぎる双子が、あそこまで肩入れしているのもその証拠といえる。

(どうやらマティアスも彼女を気に入っているようだし……。あいつが女性を気に入るのは珍しいよな。……というか、なんで今札幌にいるんだ?)

 香澄関連で考えていくと、分からない事が多く出てくる。

 それらから目を逸らすように、佑は思考を現実に戻した。

「彼女はいない」

《お風呂?》

 ここで本当の事を言ったら母と妹がどう反応するのかたやすく想像でき、佑はまた溜め息をつく。

「出ていった」

 答えたあと、二人はしばらく黙っていた。

 いつもは喋りすぎるほどの二人なので、その沈黙が怖いほどだ。

 怒鳴られると思っていたのに、返ってきたのは溜め息と呆れた声だった。

《あげまんを失ったかもね》

 澪の乾いた声を聞き、佑は眉間に皺を寄せる。

 妹はもう一度溜め息をついてから言う。

《初めて会った時、私も香澄さんの魅力が分からなかった。でもあの人と一緒にいると、とても優しい気持ちになれるって気づいた。彼女のいいところは、パッと見て分かるもんじゃないんだよ。一緒に暮らしている佑が一番分かるはずなのに、……なんで?》

「……なんでって言われても……。思いだす努力はしている。……ただ、一緒にいると頭が痛くなって、つらかったんだ」

 答えながら、自分がとても言い訳じみた事を言っている自覚を得る。

《香澄さんと縁を切ったの? 正式に別れたの?》

 アンネに尋ねられ、佑は自信なさげに答える。

「……思いだしたら迎えに行くとは言った」

《なに、その自信のない言い方。彼女は今どこなの?》

「……アロクラが連れて行った」

《っはー!》

 呆れきった澪が大きな声を上げる。

《……呆れた。別人みたい。あんだけ『香澄、香澄』って言ってベタ惚れだったのに。こんなに冷たくできるんだね。最近の佑にすっかり慣れてたけど、もとの佑を思いだしたわ》

「……人でなしみたいな言い方をしないでくれるか?」

 さすがに家族にまでこう言われると、少し傷付いてしまう。

《……幾ら忘れてしまったとはいえ、自分の婚約者なのに、従兄とはいえ他の男性に委ねるなんてあり得ないわね。……もう少し責任感のある子かと思ってた》

 母にまで呆れられ、佑は大きな溜め息をつき、額に手を当てる。

 やがて、女二人に責められている息子を哀れに思ったのか、見かねた父が入ってきた。

《つらさに耐えられず、香澄さんにつらく当たってしまったんじゃないか? 頭痛の他にも、仕事や腹部の怪我でままならないストレスはあっただろうし》

《でもあなた、家から追い出すなんてあんまりよ。香澄さんもどうせなら一言いってくれれば良かったのに。相談してくれたら、持ち不動産から住まいを用意したわ》

《日本から出たかったんじゃない? この国にいたら〝世界の御劔〟の話題は目にしちゃう訳だから》

 澪の声に棘がある。

「……澪」

《……私、香澄さんの事、本当に好きなんだからね。あの人だから義姉になってほしいと思ったし、大好きな佑のお嫁さんになっても受け入れられた。……なのに何なの》

 吐き捨てるように言われ、佑は何度目になるか分からない溜め息をつく。
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