1,487 / 1,589
第二十二部・岐路 編
今、迎えに行く
しおりを挟む
「最後にしようとした時なんて、勃たなかったもんな……」
自嘲した佑は、ゆっくりとウエディングドレスを纏ったトルソーに近づく。
ドレスはすべての素材にこだわり、細部の花飾りや刺繍に至るまで手作りをしている。
このままオートクチュールのラストルックに使えそうな、ゴージャスな一点物だ。
それを着て笑っている香澄を想像し――、グッと拳を握る。
「今、迎えに行く」
涙を流した佑は、震える声で告げた。
彼女に酷い事を言ってしまった侘びはあとでするとして、今は行動すべきだ。
一分一秒だって惜しい。
今すぐ香澄に会って、謝罪し、彼女の愛を乞いたい。
佑はスマホを取りだすと、コネクターナウのアプリを立ち上げ、香澄とのトークルームを開き、少し緊張してメッセージを打った。
思っている事をすべて書こうとすると、言い訳がましく長くなってしまう。
だからとても簡潔に書いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
祈りにも似た想いで画面を見つめていたが、既読はつかない。
「ドイツに向かったはずだ」
呟いた彼は、次に松井に連絡する。
【松井さん、思いだしました。香澄を迎えに行きたいです】
すぐに既読がついたあと、彼らしい返事があった。
【飛行機の整備士とパイロット、スタッフたちに連絡しましょう。準備ができるまでに、行き先を決めておいてください。スケジュールは私が何とかします】
【ありがとうございます】
松井の返事を見たあと、また香澄とのトークルームを開いたが、まだ既読はついていない。
(今日の昼間に発ったなら、まだ機内か? マメな性格だから、機内Wi-Fiもあるし、そのうちスマホをチェックするはずだ)
香澄を想うと、初恋のように胸がドキドキして堪らない。
あの動画を残した事を思うと、彼女が激怒してこちらからの連絡を取り合わない……とは考えられない。
周囲から「何様だ」と言われるかもしれないが、唯一の救いは、香澄は自分にベタ惚れだという事だ。
あんな酷い追い払い方をしてもなお、彼女は自分を健気に想い続けてくれている。
「だから……、あとは信じて行動するのみだ。香澄に会えたら土下座して謝る。……それまでは後悔しても仕方がない。自分がしてしまった愚かな行いは、もう覆せないから」
こんな時まで、香澄の優しさに救われている。
「香澄。……必ず君を幸せにする」
佑はスポットライトを浴びて仄かに輝いているウエディングドレスを見て、彼女が着ている様子を想像し――、微笑む。
それから表情を引き締め、荷造りするために自室へ駆け上がった。
時刻は二十三時過ぎ。
これから整備士たちに連絡しても、フライトは明日の午前中になってしまうだろう。
気持ちはこれ以上なく急いていても、飛行機に関してはプロの手に委ねなければならない。
まず自分のコンディションを整え、リモートでもできる仕事やそうでないものを松井に教えてもらわなければ。
「待っていてくれ、香澄」
**
「いや~、カスミ、行き先変わってごめんね!」
「いえ、私はお二人に合わせるだけなので。それに私のお願いも聞いてくださって、ありがとうございます」
車で羽田空港に向かう途中で、双子のもとに仕事関係の連絡があった。
そして急遽、NYに向かう事になったのだ。
NYは、以前アフロディーテ号で世話になった、テオやソフィア、ジョシュアにシャーロットが住んでいる街だ。
彼らもパリコレに来ていて、テオはエミリアと浅からぬ因縁があるので、あの事件があったあとすぐにNYに引き返したそうだ。
『テオさん達には、まだまともに顔を合わせてお礼を言えていないんです』と言ったところ、『じゃあついでにテオ達にも会おうか』と提案されたのだ。
双子はデパ地下で買ったお菓子を広げ、日持ちのしない物からパクパク食べている。
日本茶や日本ブランドの紅茶も仕入れ、お菓子に合わせて飲んでいるのでさすがだ。
ベルタやフィン、久住に佐野、勢野も一緒になっておやつタイムを送り、機内は実に和やかだ。
自嘲した佑は、ゆっくりとウエディングドレスを纏ったトルソーに近づく。
ドレスはすべての素材にこだわり、細部の花飾りや刺繍に至るまで手作りをしている。
このままオートクチュールのラストルックに使えそうな、ゴージャスな一点物だ。
それを着て笑っている香澄を想像し――、グッと拳を握る。
「今、迎えに行く」
涙を流した佑は、震える声で告げた。
彼女に酷い事を言ってしまった侘びはあとでするとして、今は行動すべきだ。
一分一秒だって惜しい。
今すぐ香澄に会って、謝罪し、彼女の愛を乞いたい。
佑はスマホを取りだすと、コネクターナウのアプリを立ち上げ、香澄とのトークルームを開き、少し緊張してメッセージを打った。
思っている事をすべて書こうとすると、言い訳がましく長くなってしまう。
だからとても簡潔に書いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
祈りにも似た想いで画面を見つめていたが、既読はつかない。
「ドイツに向かったはずだ」
呟いた彼は、次に松井に連絡する。
【松井さん、思いだしました。香澄を迎えに行きたいです】
すぐに既読がついたあと、彼らしい返事があった。
【飛行機の整備士とパイロット、スタッフたちに連絡しましょう。準備ができるまでに、行き先を決めておいてください。スケジュールは私が何とかします】
【ありがとうございます】
松井の返事を見たあと、また香澄とのトークルームを開いたが、まだ既読はついていない。
(今日の昼間に発ったなら、まだ機内か? マメな性格だから、機内Wi-Fiもあるし、そのうちスマホをチェックするはずだ)
香澄を想うと、初恋のように胸がドキドキして堪らない。
あの動画を残した事を思うと、彼女が激怒してこちらからの連絡を取り合わない……とは考えられない。
周囲から「何様だ」と言われるかもしれないが、唯一の救いは、香澄は自分にベタ惚れだという事だ。
あんな酷い追い払い方をしてもなお、彼女は自分を健気に想い続けてくれている。
「だから……、あとは信じて行動するのみだ。香澄に会えたら土下座して謝る。……それまでは後悔しても仕方がない。自分がしてしまった愚かな行いは、もう覆せないから」
こんな時まで、香澄の優しさに救われている。
「香澄。……必ず君を幸せにする」
佑はスポットライトを浴びて仄かに輝いているウエディングドレスを見て、彼女が着ている様子を想像し――、微笑む。
それから表情を引き締め、荷造りするために自室へ駆け上がった。
時刻は二十三時過ぎ。
これから整備士たちに連絡しても、フライトは明日の午前中になってしまうだろう。
気持ちはこれ以上なく急いていても、飛行機に関してはプロの手に委ねなければならない。
まず自分のコンディションを整え、リモートでもできる仕事やそうでないものを松井に教えてもらわなければ。
「待っていてくれ、香澄」
**
「いや~、カスミ、行き先変わってごめんね!」
「いえ、私はお二人に合わせるだけなので。それに私のお願いも聞いてくださって、ありがとうございます」
車で羽田空港に向かう途中で、双子のもとに仕事関係の連絡があった。
そして急遽、NYに向かう事になったのだ。
NYは、以前アフロディーテ号で世話になった、テオやソフィア、ジョシュアにシャーロットが住んでいる街だ。
彼らもパリコレに来ていて、テオはエミリアと浅からぬ因縁があるので、あの事件があったあとすぐにNYに引き返したそうだ。
『テオさん達には、まだまともに顔を合わせてお礼を言えていないんです』と言ったところ、『じゃあついでにテオ達にも会おうか』と提案されたのだ。
双子はデパ地下で買ったお菓子を広げ、日持ちのしない物からパクパク食べている。
日本茶や日本ブランドの紅茶も仕入れ、お菓子に合わせて飲んでいるのでさすがだ。
ベルタやフィン、久住に佐野、勢野も一緒になっておやつタイムを送り、機内は実に和やかだ。
70
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる