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俺はお前を花嫁にほしいと思って選んだ
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頭を使うボードゲームはさることながら、体を使った一対一のスポーツ、単純な的当てゲームですら、エデンは百発百中だというのに私は的にかすりもしない。
「あれぇ……?」
いつもなら八割は当てているというのに、おかしいと思って首を傾げる私の背後で、エデンが笑いながら魔法でボールを自由自在に動かしていたことは知りませんとも。
今日一日で寝る前に三つゲームをし、全力で取り組んだ私は髪を乱して疲れ果てていた。
うう……、もう少し頭脳ゲームと体力ゲームとのバランスを考えて挑まないと。
「疲れただろう。続きは明日、挑戦を受けてやる」
遊戯室の床で大の字になって伸びている私に、エデンは笑いながらレモン水をくれる。
「ありがとうございます……」
のっそり起き上がってソファに座ると、私は清涼感のあるレモン水を飲みながら、テーブルの上に置いてあるチェスの駒を恨みがましくにらむ。
しかし駒をにらんだところで私が勝てるわけでもない。
そう言えば、と思って私は目の前でくつろいでいるエデンに質問をした。
「あの、エデン。初日に聞きそびれたことですが……、食料の生贄を求めるのは分かるのですが、野蛮な意味での生贄が必要でない……殺さないのなら、なぜ人間の生贄を必要とするんです?」
細かな刺繍がほどこされたソファに座ったエデンは、「ん?」というように少し眉を上げてから、シャツのボタンを一つ開けて答えてくれた。
「そうだな……。父が魔王の時は話し相手がほしいからだと言っていた」
「話し相手? ……なら、最初からそう言えば村の人たちだって、いたずらに怖がることはないんじゃないですか?」
この人は優しい魔王なんだから、誤解されてほしくない。そう思うのは私のわがままなんだろうか?
「アメリア、統治者というものは己が支配する民を守るのが義務だ。お前たちの王は民を守る代わりに税収というものを行っているだろう? 魔王が『いい人』であってはならないのだ」
「……? 王さまは確かに私たちの統治者ですが、……失礼ですがエデンは私たちに……何かしてくれているのでしょうか?」
失礼だけれど、私は思ったことを素直に訊いた。
確かに失礼な質問だけれど、今ではこれぐらいの質問でエデンは怒るような人ではないと分かっている。
「……俺が西の魔王と呼ばれているのは知っているな?」
「はい。この広大な西の大陸を統べる魔王だと認識しています」
「西の魔王がいるのなら、東も、北も南もいる。人間の知らぬところで魔王たちは争い、虎視眈々と侵略しようとしている」
エデンの言葉に私はハッとした。この西の大陸は平和だけれど、噂に聞いた話では東の大陸は魔物が徘徊しているのだとか。
大きな街に行った時に見かけた船乗りが、ずいぶんと傷だらけだったのを思い出した。
そんな危険があるぶん、西の大陸では東の大陸からとり寄せたものは、とても高価な値をつけられている。
「人と魔王は同じ立場にいられぬ存在だ。俺は人間を奴隷と思わず別の種ではあるが、いい関係を築いていきたいと思っている。
だが、魔王と人間が慣れ合って人間が魔王を庇うようなことになってはいけない。同じように魔物を前にして人間が緩んだ気持ちになってはいけない。
だから、人間にとって悪魔や魔物、魔王という存在は恐怖の対象でなければならないのだ」
「…………」
とても、寂しく悲しいことをいう人だと思った。
この人は誰よりも優しいのに、みずから恐れられ、距離を置かれて孤独になることを選んでいる。
「エデンも……、生贄である私に話し相手を求めたんですか?」
彼の妻となっている今では愚問かもしれないけれど、彼のお父さまが生贄に話し相手を求める平和な人だったのなら、彼も同じように育っても不思議はない。
私はそれにとてつもない感謝をおぼえるのだ。
私の問いにエデンは優しい笑みを浮かべ、紫暗の瞳で私を見つめる。
「俺の場合は少し違うかな。俺はお前を花嫁にほしいと思って、選んだ」
「えっ?」
最初からエデンが私を選んでいたことを、嬉しいという前に疑問に思ってしまった。
「エデンはどうして私を知っているんです? なんで……会ったこともない私を花嫁に……?」
頭のなかは「?」が一杯で、私は彼がなにを考えているのか分からない。
「俺はずっと、あの万望の鏡でお前とあの村を見守ってきた。最初は……父に見守るようにと言われていたんだ」
「エデンのお父さま――前の魔王さま? がどうして私や、村のことを特別にひいきしてくださったんですか?」
私の問いに、エデンは「そういう疑問を持つのも仕方がない」というふうな顔をして、優しく教えてくれる。
「あれぇ……?」
いつもなら八割は当てているというのに、おかしいと思って首を傾げる私の背後で、エデンが笑いながら魔法でボールを自由自在に動かしていたことは知りませんとも。
今日一日で寝る前に三つゲームをし、全力で取り組んだ私は髪を乱して疲れ果てていた。
うう……、もう少し頭脳ゲームと体力ゲームとのバランスを考えて挑まないと。
「疲れただろう。続きは明日、挑戦を受けてやる」
遊戯室の床で大の字になって伸びている私に、エデンは笑いながらレモン水をくれる。
「ありがとうございます……」
のっそり起き上がってソファに座ると、私は清涼感のあるレモン水を飲みながら、テーブルの上に置いてあるチェスの駒を恨みがましくにらむ。
しかし駒をにらんだところで私が勝てるわけでもない。
そう言えば、と思って私は目の前でくつろいでいるエデンに質問をした。
「あの、エデン。初日に聞きそびれたことですが……、食料の生贄を求めるのは分かるのですが、野蛮な意味での生贄が必要でない……殺さないのなら、なぜ人間の生贄を必要とするんです?」
細かな刺繍がほどこされたソファに座ったエデンは、「ん?」というように少し眉を上げてから、シャツのボタンを一つ開けて答えてくれた。
「そうだな……。父が魔王の時は話し相手がほしいからだと言っていた」
「話し相手? ……なら、最初からそう言えば村の人たちだって、いたずらに怖がることはないんじゃないですか?」
この人は優しい魔王なんだから、誤解されてほしくない。そう思うのは私のわがままなんだろうか?
「アメリア、統治者というものは己が支配する民を守るのが義務だ。お前たちの王は民を守る代わりに税収というものを行っているだろう? 魔王が『いい人』であってはならないのだ」
「……? 王さまは確かに私たちの統治者ですが、……失礼ですがエデンは私たちに……何かしてくれているのでしょうか?」
失礼だけれど、私は思ったことを素直に訊いた。
確かに失礼な質問だけれど、今ではこれぐらいの質問でエデンは怒るような人ではないと分かっている。
「……俺が西の魔王と呼ばれているのは知っているな?」
「はい。この広大な西の大陸を統べる魔王だと認識しています」
「西の魔王がいるのなら、東も、北も南もいる。人間の知らぬところで魔王たちは争い、虎視眈々と侵略しようとしている」
エデンの言葉に私はハッとした。この西の大陸は平和だけれど、噂に聞いた話では東の大陸は魔物が徘徊しているのだとか。
大きな街に行った時に見かけた船乗りが、ずいぶんと傷だらけだったのを思い出した。
そんな危険があるぶん、西の大陸では東の大陸からとり寄せたものは、とても高価な値をつけられている。
「人と魔王は同じ立場にいられぬ存在だ。俺は人間を奴隷と思わず別の種ではあるが、いい関係を築いていきたいと思っている。
だが、魔王と人間が慣れ合って人間が魔王を庇うようなことになってはいけない。同じように魔物を前にして人間が緩んだ気持ちになってはいけない。
だから、人間にとって悪魔や魔物、魔王という存在は恐怖の対象でなければならないのだ」
「…………」
とても、寂しく悲しいことをいう人だと思った。
この人は誰よりも優しいのに、みずから恐れられ、距離を置かれて孤独になることを選んでいる。
「エデンも……、生贄である私に話し相手を求めたんですか?」
彼の妻となっている今では愚問かもしれないけれど、彼のお父さまが生贄に話し相手を求める平和な人だったのなら、彼も同じように育っても不思議はない。
私はそれにとてつもない感謝をおぼえるのだ。
私の問いにエデンは優しい笑みを浮かべ、紫暗の瞳で私を見つめる。
「俺の場合は少し違うかな。俺はお前を花嫁にほしいと思って、選んだ」
「えっ?」
最初からエデンが私を選んでいたことを、嬉しいという前に疑問に思ってしまった。
「エデンはどうして私を知っているんです? なんで……会ったこともない私を花嫁に……?」
頭のなかは「?」が一杯で、私は彼がなにを考えているのか分からない。
「俺はずっと、あの万望の鏡でお前とあの村を見守ってきた。最初は……父に見守るようにと言われていたんだ」
「エデンのお父さま――前の魔王さま? がどうして私や、村のことを特別にひいきしてくださったんですか?」
私の問いに、エデンは「そういう疑問を持つのも仕方がない」というふうな顔をして、優しく教えてくれる。
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