【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

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ある女性

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「父は俺と似ない性格で、どちらかというとちゃらんぽらんな性格だが、随分と人間に好意を抱いていた魔王だった。俺もそんな甘い部分を受け継いだのだと思う。

 父とある女性の頼みで、俺は魔王になってからあの村を特に気を付けて見守ってきた。

 生贄を求めれば村人が怖がるのは分かっていたが、こちら側からすれば対価を求めたぶん、しっかり村を守ることができる。

 そして、あの村を見守るなかで俺はお前に惹かれていったんだ」

「…………」

 彼の宝石のような色の目と、この世ならざる美貌を見て、さらにその言葉が耳に入って私は不思議な気持ちでいた。

 ――また、妖精に化かされた感じがする。

 私たちとはとても遠い存在――物理的にも心理的にも――の人。魔王さまが、悪を装った父なる立場で私たちを見守ってくれているという真実。

 村のみんなも、きっとこんなこと思いもしなかったと思う。

 照明に照らされて漆黒の髪をつやつやとさせた彼は、クシャリと前髪をかき上げてごまかすように笑った。

 感情などないと思っていた魔王は、いま私に素直な心を向けて、少年のような笑顔を見せてくれている。

「私は……妻としてあなたに愛情を捧げることができていますか?」

 大きな愛情で私たちを包んで守ってくれていた彼に、私は自分の愛情しかお返しをすることができないと思った。

 けれど、自分の言葉に私は少し自信が持てない。

 私はコンプレックスばかりで、お世辞にもエデンに釣りあうような絶世の美女でも美少女でもない。

 まだまだ色んなことを勉強中の、ただの小娘。

 そんなふうに不安ばかりしかない私が、完璧すぎるエデンを満足させられているとは思えない。

「まだ始まったばかりなのに、すべての結果を望もうとしなくてもいいのではないか? だが、少なくとも俺はお前といると楽しい気持ちになるし、幸せだとも感じる。……それではお前の求める答えにはならないだろうか?」

「……今は、それでいいと思います」

 むしろ、その返事に私はホッとしていた。

 会ったばかりの魔王にずっと見守られていたと言われ、知らない間に好きになられたと言われても、多分答えに困ってしまう。

「でも……、びっくりしました。まさかエデンが私をずっと見守ってくださっていただなんて……」

「気持ち悪いか?」

「いいえ! その逆です! なんていうか……、私には想像もつかない優しさで、守ってくださったんだなと思うと……。何も知らない自分が申し訳なくて」

「アメリアはそのままでいい。俺はこういうことしかできないから」

 そう言って優しく目を細めるエデンを、私は心のなかで「まるで神さまみたい」と思っていた。

 誰にも知られず、誰にも感謝されないのに、この人は縁の下の力持ちのようなことをしている。

 ……変な言葉だけれど、本当に生贄に選ばれて良かった。

 でも、ひとつだけ気になることがある。

「ある女性って……、誰ですか?」

 さっきエデンの口から言葉を聞いた時から、チリッと私の胸の奥で小さな火が灯っていた。けれどエデンはそれを察したのか、緩く首を振ってみせる。

「お前が思っているようなものじゃない。そこに恋愛感情はないんだ。ただ、憧れて尊敬する気持ちがある」

「そう……ですか」

 隠し事などしていないというエデンの様子に、私は「浮気」とかくだらない単語を頭の隅に追いやった。

 そして、この話題をこれ以上引っ張ってもいけないのだとも察した。

 彼はきっと嘘をついていない。

 けれど私の心は彼に影響を与えた人に嫉妬をし、暗くもやがかかったままだった。



**



 その夜、エデンは私を愛したあとに「用事があるから少し城を出る」と言って部屋を出て行って、私は広い部屋のベッドで横になっていた。

 けれど私はエデンと話していたときに感じた嫉妬で心が不安になり、彼がこの城にいないということも相まって寝つけない。

 喉の渇きを癒そうと思って起き上がり、サイドテーブルにある水差しに手を伸ばしたときだった。

 コンコン、とノックをする音があり、エデンかと思った私は「どうぞ」と返事をする。

 が、現れたのは、いつもと変わらない表情のままのイグニスさんだった。
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