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彼の大切な人に会いに
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「それ、嬉しいです。頭を撫でてくれるの」
「ん? そうか?」
「私、父親の記憶がないので、シスターにしかこうしてもらったことはないんです。……でもエデンに向かって父性を感じるって、なんだか変ですね」
「いいんじゃないのか? 恋人や夫のなかに、友人や弟、兄、父を求めても俺はいいと思っている。夫婦だから決まった形の愛情でなければいけないというのも、逆に変な話だ」
「あいかわらず……、エデンの考え方はすてきです」
私が微笑みかけると、エデンは昔から私の側にいて知っている人のように、優しく微笑み返してくれた。
それはまるで父のようであり、兄のようでいて、弟かもしれなくて――、神さまかもしれない優しい微笑み。
**
翌日、私はいつもと変わりない様子のイグニスさんの給仕で、エデンと朝食を取った。
それから出かける用にと、クローゼットの中から好きなドレスを選ぶように言われる。
「本当に着てもいいんですか?」
今まで結婚式の時の黒いウェディングドレスと、ナイトドレスとガウンだけは袖を通していた。
けれど部屋にある白いクローゼットのドレスは、どこか引け目があって着ていなかったのだ。
「お前の物なんだから当たり前だろう」
キョトンとした様子のエデンは、いつものように黒い軍服を着ている。
毎日バリエーションがあるような感じだけれど、基本的にはこの格好が落ちつくみたい。
「どうしようかしら……。どのドレスも色やデザインが比較できないぐらいにすてき」
迷っているとエデンはテーブルの上にある冊子を広げた。
「なんならこの中から好きなデザインと色を指定してもいい。素材となる服があるのなら、その色を変えたり細部を変更するぐらいならたやすい」
「そんなことが……」
魔法って本当に万能ね。やっぱり悪魔の世界では、人間のお針子さんは生きていけないわ。
「まぁ……なんだ。俺の父親と、俺を変えてくれた人に会いに行くから、お前も納得のいく物を着たほうがいいと思って」
「えぇ!? お父さま!? と、エデンの大切な人!?」
今日会いに行く相手がエデンのお父さまと大切な人だと知り、私は急に緊張してきてしまった。
好きな人のお父さまに新妻が会いに行くというシチュエーションにも緊張するし、エデンのお父さまということは、前の魔王さまだったということよね?
あぁ……、怖い人じゃなければいいけれど。
それにエデンを今のような優しい人に変えてくれたっていう大切な人にも、失礼があってはいけないんだわ。
「そう構えなくていい。いまは本当にただの親父だから」
エデンが魔王になるまでこの西の大陸を陰ながら守ってくださっていた方に対して、エデンはなかなかな言い方をする。
「エデンを変えてくれたという人は……以前に言っていた、人間を好きになるきっかけになった人ですか?」
「あぁ。今は父と一緒に住んでいる。いつかはちゃんと会わせたいと思っていたんだ」
「嬉しいです」
心の中はフワッとした安堵に満たされていた。
以前から少し嫉妬を感じていた存在が、本当にエデンとは男女の関係ではないと分かったからだ。
「えぇと……」
私はうなりながらソファに座って冊子をめくり、イグニスさんが今はやっているデザインを集めてくれただろうドレスのデザイン画に目を通してゆく。
「あまりお姫さまっぽいのも大変そうだし……。窮屈じゃないのがいいわね」
そうつぶやきながらめくっていくと、プリンセスラインの項目が終わった頃に、ややシンプルで楽そうなエンパイアラインのドレスがある。
ページをめくる手を少し遅くしてじっくり見ていくと、シンプルだけれどデザインも少し凝っていて可愛いものを見つけた。
これがいい、と思って私はそれを指さす。
「これがいいです! 色は……そうですね。うーん……きっとあまり強すぎる色も良くないんだわ。大人しそうに見える色……。白も黒もきっといけなくて……。アイボリーとか薄いピンクとか……」
私が顎に手をやってブツブツ言っていると、横に座ったエデンが私の顔をクイと自分の方にむける。
「どうせならお前の美しい瞳の色をひきたてるような、ピンクはどうだ? ほら、このピンクはバラの花びらのようで美しい。その赤毛も一緒に引き立ててくれる」
エデンが指さした色見本には、シルクなのか光沢のある素材で、きれいなピンクの布がはってある。
「ん? そうか?」
「私、父親の記憶がないので、シスターにしかこうしてもらったことはないんです。……でもエデンに向かって父性を感じるって、なんだか変ですね」
「いいんじゃないのか? 恋人や夫のなかに、友人や弟、兄、父を求めても俺はいいと思っている。夫婦だから決まった形の愛情でなければいけないというのも、逆に変な話だ」
「あいかわらず……、エデンの考え方はすてきです」
私が微笑みかけると、エデンは昔から私の側にいて知っている人のように、優しく微笑み返してくれた。
それはまるで父のようであり、兄のようでいて、弟かもしれなくて――、神さまかもしれない優しい微笑み。
**
翌日、私はいつもと変わりない様子のイグニスさんの給仕で、エデンと朝食を取った。
それから出かける用にと、クローゼットの中から好きなドレスを選ぶように言われる。
「本当に着てもいいんですか?」
今まで結婚式の時の黒いウェディングドレスと、ナイトドレスとガウンだけは袖を通していた。
けれど部屋にある白いクローゼットのドレスは、どこか引け目があって着ていなかったのだ。
「お前の物なんだから当たり前だろう」
キョトンとした様子のエデンは、いつものように黒い軍服を着ている。
毎日バリエーションがあるような感じだけれど、基本的にはこの格好が落ちつくみたい。
「どうしようかしら……。どのドレスも色やデザインが比較できないぐらいにすてき」
迷っているとエデンはテーブルの上にある冊子を広げた。
「なんならこの中から好きなデザインと色を指定してもいい。素材となる服があるのなら、その色を変えたり細部を変更するぐらいならたやすい」
「そんなことが……」
魔法って本当に万能ね。やっぱり悪魔の世界では、人間のお針子さんは生きていけないわ。
「まぁ……なんだ。俺の父親と、俺を変えてくれた人に会いに行くから、お前も納得のいく物を着たほうがいいと思って」
「えぇ!? お父さま!? と、エデンの大切な人!?」
今日会いに行く相手がエデンのお父さまと大切な人だと知り、私は急に緊張してきてしまった。
好きな人のお父さまに新妻が会いに行くというシチュエーションにも緊張するし、エデンのお父さまということは、前の魔王さまだったということよね?
あぁ……、怖い人じゃなければいいけれど。
それにエデンを今のような優しい人に変えてくれたっていう大切な人にも、失礼があってはいけないんだわ。
「そう構えなくていい。いまは本当にただの親父だから」
エデンが魔王になるまでこの西の大陸を陰ながら守ってくださっていた方に対して、エデンはなかなかな言い方をする。
「エデンを変えてくれたという人は……以前に言っていた、人間を好きになるきっかけになった人ですか?」
「あぁ。今は父と一緒に住んでいる。いつかはちゃんと会わせたいと思っていたんだ」
「嬉しいです」
心の中はフワッとした安堵に満たされていた。
以前から少し嫉妬を感じていた存在が、本当にエデンとは男女の関係ではないと分かったからだ。
「えぇと……」
私はうなりながらソファに座って冊子をめくり、イグニスさんが今はやっているデザインを集めてくれただろうドレスのデザイン画に目を通してゆく。
「あまりお姫さまっぽいのも大変そうだし……。窮屈じゃないのがいいわね」
そうつぶやきながらめくっていくと、プリンセスラインの項目が終わった頃に、ややシンプルで楽そうなエンパイアラインのドレスがある。
ページをめくる手を少し遅くしてじっくり見ていくと、シンプルだけれどデザインも少し凝っていて可愛いものを見つけた。
これがいい、と思って私はそれを指さす。
「これがいいです! 色は……そうですね。うーん……きっとあまり強すぎる色も良くないんだわ。大人しそうに見える色……。白も黒もきっといけなくて……。アイボリーとか薄いピンクとか……」
私が顎に手をやってブツブツ言っていると、横に座ったエデンが私の顔をクイと自分の方にむける。
「どうせならお前の美しい瞳の色をひきたてるような、ピンクはどうだ? ほら、このピンクはバラの花びらのようで美しい。その赤毛も一緒に引き立ててくれる」
エデンが指さした色見本には、シルクなのか光沢のある素材で、きれいなピンクの布がはってある。
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