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母さん
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最初に村から城へ来たように、馬車は私の知らない大地を下に、もの凄いスピードで飛んでゆく。
雲というものは地上から見れば羊のように見えるものや、空一面を覆うものぐらいしか認識していなかった。でも山よりも高い場所から見おろすと、山の形にそって形を変えているのも分かる。
「空から地上を見おろすというのも、勉強になるのね……」
そうつぶやく私を、エデンは隣から優しげな目で見てくれているのだった。
**
快適な空の旅を終えて馬車が降り立ったのは、私の知らない場所だった。
高地にあるのか青と白の鋭利なシルエットの山が近くに見え、少し肌寒い。けれどひろびろとした牧草地や野の花が咲き乱れている、とても美しい場所だ。
「イグニスはここで待て。アメリア、行くぞ」
馬車から下りたエデンは私に手を差し出す。
男性と手をつないで歩くということがない私は、キョトンとしてから、はにかんでその手を取った。
少し歩いた距離に山小屋風の大きな家があり、家の前で一人の男性が椅子に座って本を読んでいる。
「……親父」
その男性にむかってエデンが声をかけ、私は目をむくほどに驚いてから、エデンとその男性とを見比べた。
お父さま……というには、その男性は身なりのいい貴族のおじさまという感じだ。
黒い髪には少し白髪が混じり、肌の色はエデンと似て白い。目は赤茶色。耳も普通の耳のように丸くてどこにも魔王的な要素はない。
エデンとの外見のギャップに私はめんくらい、馬車の中で考えてきた挨拶の言葉が、頭から飛んでしまった。
「あっ……、あの……」
「やぁ、エデン! おっ、そっちのお嬢さんがお前の新妻か?」
ダンディな印象のおじさま――もといお父さまは、にこやかに笑いながら立ち上がり、私は彼にペコリと頭を下げた。
「はっ……、初めまして! 私、アメリアと申します! ……おっ、お父さま!」
私は気を取りなおし、顔を赤くしながら大きな声でハキハキと挨拶をして頭をさげる。
その時、開いたままの玄関ドアの奥から、ガシャーン! ともの凄い音がした。
「えっ!?」
驚いてお家の中を見ると、バタバタという足音がして一人の女性が姿を――えぇっ!?
「アメリア……っ!」
玄関から姿を現したのは、若草色のドレスにハチミツ色の金髪を三つ編みにして前に垂らした女性――。
シスター姿じゃないけれど、シスタージェシカ!
「母さん!」
大声を上げる私をエデンはポカンとした顔で見ている。
私と母さんが感動の再会をはたして抱きあおうとした瞬間、目の前で母さんはズダーン! と転んだ。
「あぁっ! 母さんまたスカートの裾を踏んだのね!?」
「大丈夫よ! アメリア! 大きくなってぇ~!」
下から私の腰にすがりつくような体勢で母さん――シスタージェシカは私に抱きつき、私はそっとしゃがむと震える手で彼女を抱きしめ返した。
あぁ……、いい匂い。母さんの匂いだわ。このハチミツ色の髪も、ふかふかの胸も。
「……うぇぇん……っ」
そこに彼女が生きていると実感した瞬間、いきなり鼻にヅンッと強烈なものがこみ上げて、私は声を上げて泣き出していた。
「アメリアっ、ごめんね、ごめんねぇっ」
それにつられたように母さんもポロポロと涙をこぼす。
わけの分かっていないエデンとそのお父さまが微笑んで見守っているなか、私たちの泣き声が白い山脈に響いた。
**
「エデンさん、アメリアを見守ってくださって、どうもありがとうございます」
「いいえ、アナ」
家の中に入ると母さんは来客のためにアップルパイを焼いていたらしく、いい匂いがする。
家はそれこそ山小屋風で丸太がむき出しになっているものの、温かくて家具や調度品も上品なものが並び、二人がなに一つ不自由なく暮らしているのが分かる。
革張りのソファの上には上等な毛皮がしいてあり、私たちはそこに座っていた。
八年ぶりの母さんのアップルパイに、私はにやけが止まらない。
紅茶もおいしくて、食がモリモリ進んでしまうのだった。幸せ……。
雲というものは地上から見れば羊のように見えるものや、空一面を覆うものぐらいしか認識していなかった。でも山よりも高い場所から見おろすと、山の形にそって形を変えているのも分かる。
「空から地上を見おろすというのも、勉強になるのね……」
そうつぶやく私を、エデンは隣から優しげな目で見てくれているのだった。
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快適な空の旅を終えて馬車が降り立ったのは、私の知らない場所だった。
高地にあるのか青と白の鋭利なシルエットの山が近くに見え、少し肌寒い。けれどひろびろとした牧草地や野の花が咲き乱れている、とても美しい場所だ。
「イグニスはここで待て。アメリア、行くぞ」
馬車から下りたエデンは私に手を差し出す。
男性と手をつないで歩くということがない私は、キョトンとしてから、はにかんでその手を取った。
少し歩いた距離に山小屋風の大きな家があり、家の前で一人の男性が椅子に座って本を読んでいる。
「……親父」
その男性にむかってエデンが声をかけ、私は目をむくほどに驚いてから、エデンとその男性とを見比べた。
お父さま……というには、その男性は身なりのいい貴族のおじさまという感じだ。
黒い髪には少し白髪が混じり、肌の色はエデンと似て白い。目は赤茶色。耳も普通の耳のように丸くてどこにも魔王的な要素はない。
エデンとの外見のギャップに私はめんくらい、馬車の中で考えてきた挨拶の言葉が、頭から飛んでしまった。
「あっ……、あの……」
「やぁ、エデン! おっ、そっちのお嬢さんがお前の新妻か?」
ダンディな印象のおじさま――もといお父さまは、にこやかに笑いながら立ち上がり、私は彼にペコリと頭を下げた。
「はっ……、初めまして! 私、アメリアと申します! ……おっ、お父さま!」
私は気を取りなおし、顔を赤くしながら大きな声でハキハキと挨拶をして頭をさげる。
その時、開いたままの玄関ドアの奥から、ガシャーン! ともの凄い音がした。
「えっ!?」
驚いてお家の中を見ると、バタバタという足音がして一人の女性が姿を――えぇっ!?
「アメリア……っ!」
玄関から姿を現したのは、若草色のドレスにハチミツ色の金髪を三つ編みにして前に垂らした女性――。
シスター姿じゃないけれど、シスタージェシカ!
「母さん!」
大声を上げる私をエデンはポカンとした顔で見ている。
私と母さんが感動の再会をはたして抱きあおうとした瞬間、目の前で母さんはズダーン! と転んだ。
「あぁっ! 母さんまたスカートの裾を踏んだのね!?」
「大丈夫よ! アメリア! 大きくなってぇ~!」
下から私の腰にすがりつくような体勢で母さん――シスタージェシカは私に抱きつき、私はそっとしゃがむと震える手で彼女を抱きしめ返した。
あぁ……、いい匂い。母さんの匂いだわ。このハチミツ色の髪も、ふかふかの胸も。
「……うぇぇん……っ」
そこに彼女が生きていると実感した瞬間、いきなり鼻にヅンッと強烈なものがこみ上げて、私は声を上げて泣き出していた。
「アメリアっ、ごめんね、ごめんねぇっ」
それにつられたように母さんもポロポロと涙をこぼす。
わけの分かっていないエデンとそのお父さまが微笑んで見守っているなか、私たちの泣き声が白い山脈に響いた。
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「エデンさん、アメリアを見守ってくださって、どうもありがとうございます」
「いいえ、アナ」
家の中に入ると母さんは来客のためにアップルパイを焼いていたらしく、いい匂いがする。
家はそれこそ山小屋風で丸太がむき出しになっているものの、温かくて家具や調度品も上品なものが並び、二人がなに一つ不自由なく暮らしているのが分かる。
革張りのソファの上には上等な毛皮がしいてあり、私たちはそこに座っていた。
八年ぶりの母さんのアップルパイに、私はにやけが止まらない。
紅茶もおいしくて、食がモリモリ進んでしまうのだった。幸せ……。
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