【R-18】復讐を遂げた仮面王は愛妻の音色に微笑む

臣桜

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序章 地下の虜囚

 その夜、レックスは王族しか知らないはずの隠し通路に、誰か他の者の足音を聞いて耳をそばだてた。

 彼はここ六年ずっと〝捜し物〟をしていた。戦争に打ち勝ってこのグランヴェル城に王として君臨した後も、仕事を終えた夜にこうして城の裏側を歩き回る事が多い。なので、その小さな足音を拾う事ができたのだ。

 明かりをつければ勘づかれてしまう。なのでレックスは手と足に神経を集中させ、転ばぬよう暗闇のなかゆっくりと階段を下りてゆく。

 緩やかにカーブをした暗い階段の前方には、ぼんやりと蝋燭が石壁を照らしているのが見えた。小さな足音は、恐らく女性のものだろう。

 女性は寝静まった城内に気を遣い、ごくごく小さな足音で下へ下へと歩を進めてゆく。

 レックスの胸は不安と期待に高鳴っていた。

 大国として名高いグランヴェルに勝利したのは、つい先日の話だ。

 城内はまだ混乱しており、グランヴェルの貴族や騎士団の処遇に奔走する毎日を送っている。レックスの祖国ラドフォードの騎士も疲弊しており、協力を要請した同盟国への感謝や礼もまだ満足に済んでいない。

 いまや戦争で疲弊した三国を束ねる王となったレックスは、多忙を極めていた。

 以前はさっぱりと短く切られていた黒髪も、今は少し伸びて肩より長い。青い目はいまだ戦争の緊張が拭えずに爛々と光り、目元にはクマもある。

 そんな状態になってまで体を酷使し、働き続けていたには理由があった。

(どこに向かっている?)

 先ほど距離を寄せ過ぎてチラッと女の姿が見えた。
 頭に角を立てた頭巾を被っているその姿は、グランヴェルの侍女の格好だ。

 グランヴェルに君臨していた元の王には沙汰を出したが、その親族は利用価値があると思い城に軟禁している。グランヴェルの先王は子供がいなかったので、その姪か城に出入りをしている有力な貴族の侍女だろうか? あるいは――。

 侍女は城の最下層――地下まで進んだあと、更に奥へ進んでゆく。

(あの先は俺もちゃんと探した。確か強固な隠し扉があって、鍵がなければ入れなかった場所だ)

 地下の最奥にはグランヴェルを象徴する獅子の像がある。それをどうにかすれば奥に扉があるのは分かっているのだが、レックスは開け方も分からず鍵も持っていなかった。

 地下に下り、レックスが息を潜めて見守る先、侍女は手に持っていた食事のトレーを床に置き、明かりを手に何やらゴソゴソとし始める。
 闇の中でカチッと小さな音がし、優に二メートルはあるかという獅子の像が音もなく内側に引き、横へ姿を消した。

「姫様……お食事です」

 侍女の声がそう言った途端、レックスは弾かれたように駆けだしていた。

 ――まさか!
 ――もしかして!

 突如聞こえた足音に、侍女は背後を振り返り悲鳴を上げた。

「何者ですっ!」

 手にした明かりを武器にしようとしたのだろうが、レックスは構わず侍女を突き飛ばし隠し通路の中に入り込んだ。

 かび臭い、しっとりと濡れた匂いがする。

 真っ暗な中に〝誰〟がいるのか目を凝らそうとした時、ジャリンッと鎖の音がして喉に冷たい金属が食い込んでいた。

「ぐぅっ!」

 物凄い勢いで押され、鎖で首を圧迫されてレックスが呻く。

 だがそれよりも、微かな明かりのなか爛々と目を光らせこちらに憎悪を向ける存在に、レックスは狂喜乱舞した。
 全身全霊で自分を亡き者にしようとする小さな体を、レックスは逆に抱きすくめる。

「!?」

 相手が怯んだ瞬間、パンッと足を払うと華奢な体が床に転がった。

 こんな狭くて暗い場所に〝六年も〟いたのだから、レックスに立ち向かってくる闘志だけでも見事なものだ。

 同時にそれが、嬉しくて堪らない。
 六年もの間、彼女は生きる意志を手放さないでいたのだ。

「離しなさい! ガイ陛下! このけだものっ!」

 ――あぁ、耳に入るこの声のなんと甘美なことか。

 迸るほどの生命力に、レックスは驚嘆していた。

「――ん、むぅっ……」

 レックスに荒々しく唇を奪われ、口腔を蹂躙されて虜囚が呻く。
 細い手足が暴れに暴れ、レックスは髪を引っ張られ肌を引っ掻かれ散々だ。

 抵抗を受けながらもたっぷりと彼女の唇を堪能し、ようやっとレックスが顔を離す。

「辱めるぐらいなら、いっそ殺しなさい!」

 目の前の彼女は、まだ自分が誰なのか分かっていないようだ。

 頭頂部に手を置き、半円を描くように撫で下ろすと、定期的に体は清められているのか髪はそれほど汚れていないのが分かった。

「六年間、よく我慢した。俺だ、レイだ。――迎えに来たよ、コーネリア」

 目に涙を溜めたレックスの声を聞いた途端、薄闇の中で虜囚――コーネリアが息を呑んだ気配がした。



 その直後、安堵して気を失ったのか、レックスの腕の中で彼女の体の重みが増した。
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