時戻りのカノン

臣桜

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東京観光、一日目

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 翌朝、花音はスマホのアラームで目を覚ます。

 ここが秀真の家だと思い出し、その割によく眠ってしまったと我ながら呆れてしまう。

 朝の身支度をしてリビングに向かうと、すでに秀真はソファに座っていて小さな音量でニュースを見つつ、タブレット端末に目を落としていた。

「おはようございます」

「ベッドは寝づらくなかった?」

「快眠でした! ベッドが本当に気持ち良くて、横になって目を閉じたあと、一分もせず寝てしまいました」

「それは良かった」

 花音の言葉に秀真は朗らかに笑い、朝一番から彼の笑顔が見られるなんて贅沢だと思った。

「さて、朝食は築地の海鮮丼だよな」

「はい、すぐに支度してきます」

 服装は動きやすいように、スキニーにTシャツを着て、靴はスニーカーだ。

 ササッと日焼け止めを塗ってメイクをしたあと、「お待たせしました!」とショルダーバッグを体に掛けてリビングに戻った。




 公共交通機関で時間のロスや余計に疲れてはいけないからと、秀真が引き続き運転手に車を任せ、スムーズに移動する事ができた。

 東京は音大生時代に一人暮らししていたが、それほど詳しいという訳ではない。

 毎日ピアノに向き合って情熱を注いだ毎日を送っていたので、遊ぶ暇はなかったのだ。

 子供の頃になら親に有名なテーマパークに連れてきてもらった事はあったが、まだテーマパークの良さも分からない年齢だった。

 最終的に弟の空斗と共に疲れ切った記憶しかない。

 社会人になってから何度か友人と旅行に行ったが、音大の思い出がある東京は避けた。

  向かったのは京都の神社仏閣巡りや、比較的安価な海外旅行である東南アジアなどだった。

 よって、東京を観光目的でじっくり回るのは初めてだ。

 築地まで移動したあと、観光客でごった替えする中、お目当ての海鮮丼を頬張った。

 満足したあとはまた車に乗り、今度は浅草寺に向かう。

 浅草寺の仲見世をゆっくり歩いて楽しみ、浅草寺の他、敷地内にある神社などもにもお参りをする。

 そのあと少し遅めのランチは、スカイツリーに直結している商業施設でイタリアンを食べた。

 商業施設内をブラリとみて、予約時間になったあとスカイツリーを上った。

 夕方は東京駅付近に行き、レンガ造りの美しい駅を写真に収め、中も見学する。

 そして花音の「銀座を歩いてみたい」という希望通り、ぶらりと歩いて雰囲気を楽しんだあと、秀真がカジュアルな服装でも入れる中華レストランに連れて行ってくれた。

 クタクタになって秀真のマンションに帰り、家政婦が入れてくれていた風呂に入り、ようやく人心地ついた。

「東京観光、一日目はどうだった?」

「楽しかったです。やっぱり人が多いですね」

 そう言うと、秀真は「確かに」と笑う。

「事故以来、東京は避けていたっていう話だけど、大丈夫だった?」

「はい。正直、以前に秀真さんのピアノを聴いてから、それほど怖くなくなったんです。音大時代の友達にあったら昔の傷が痛むかもしれません。ただ、東京っていう街自体への思い出はそれほどでもなかったな……って」

「そうか、ならよかった」

 彼はポンポンと花音の頭を撫でてくれる。

「明日は秀真さんプレゼンのデートコースですよね?」

「そう。水族館に行って、お台場にある女性受けのいいヨーロッパ的なショッピングモールでランチ。そのあとはデジタル美術館に行って、夜に観覧車でも、と」

 秀真が自分のためにデートコースを考えてくれただけで、すでに嬉しい。

「秀真さんが決めてくれたなら、きっと素敵な場所に決まっています」

「それはハードルが上がったな」

 二人で笑い合ったあと、隣に座っていた秀真が手を握ってきた。

(あ……)

 二人とも風呂上がりだからか、やけに秀真の手を熱く感じる。

 隣から視線を感じてチラッと秀真を窺うと、熱の籠もった目でこちらを見ていた。

 そして頬に彼の手が添えられ、秀真の顔が近付いてくる。

(……キスされる……)

 そう思った頃には唇が塞がれ、切なく呼吸をすると鼻腔いっぱいに秀真のいい香りを吸い込む事になった。

「ん……」

 以前のようにちゅ、ちゅ、と唇を啄まれ、すぐに秀真の唇の柔らかさに翻弄されてゆく。

 気が付けば花音はソファに体を押しつけられ、貪るようなキスをされていた。

「……ごめん。……疲れてるのに」

 けれど我に返った様子の秀真が顔を離し、甘美なキスは途中で終わってしまう。
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