時戻りのカノン

臣桜

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東京デート二日目

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(……もっと一緒にいたい。秀真さんに求められたい)

 だが「やめてほしくない」と思った花音は、恥ずかしいのを我慢し、勇気を出して彼の手を握った。

「……せっかく東京に来たんだし、……泊まりだし……。だから……」

 小さく震える声が言葉を最後まで紡ぐ前に、秀真がギュッと花音を抱き締めてきた。

「……分かった。ありがとう」

 そのあと秀真は立ち上がり、リビングの照明を落とした。

 彼の行動が何を意味するのか、自分が求めたのだから花音だって分かっている。

 そのまま、二人は手を繋いで寝室に向かった。




 翌日は前日より少し遅めに置き、マンションの近くにあるパン屋まで二人で散歩をした。

 朝食のパンを食べ終わったあとは、支度をして予定通り品川にある水族館に向かう。

 花音の服装はデートらしく、ベージュのロングタイトスカートに白いTシャツ、その上にジージャンだ。足下は歩き回れるよう低めのヒールのパンプスを履いている。

 秀真は黒いテーパードパンツに白いTシャツ、紺色のジャケットだ。

 水族館で、色とりどりのライトに照らされた水槽は、花音の知っている〝水族館〟とはまったく違った。

 どの水槽を覗いても幻想的で、黒い床にも色彩豊かなライトが反射している。

 巨大な水槽のトンネルをくぐる時は、マンタの可愛らしい顔が見え、イルカが楽しげに泳ぐ姿も見られる。

 イルカショーは光と水、音の競演という感じで、背景で花火が打ち上がるCGが浮き上がる中、イルカたちが音楽に合わせて呼吸の合ったジャンプを見せた。

 また屋内にメリーゴーランドと、大きな船がスイングするアトラクションもあり、せっかくだからと秀真と一緒に楽しんだ。

「水族館にいながら、遊園地もちょっと味わえるなんて凄いですね」

 大満足で水族館を出たあとは、秀真が言っていたヨーロッパ的なショッピングモールに向かった。

 彼の言葉を聞いて「どういう事だろう?」と思っていたが、まるでヨーロッパの街並みに迷い込んだかのような造りに息を呑んだ。

 広場の天井はドームになっていて、どうやらその時によって投影される映像が青空だったり、星空だったり変わるらしい。

 女神を思わせる女性像が並んでいる噴水前では、記念撮影をしているカップルもいた。

「こんなショッピングモールなら、毎回友達とデートで来たいです」

「おや、俺は?」

 秀真に悪戯っぽく微笑みかけられ、花音は慌てて両手を胸の前で振る。

「もっ、勿論、秀真さんは第一候補でデートしたいです!」

「あはは! 光栄だよ」

 彼は満足そうに笑い、「行こうか」と花音の手を握って歩き始めた。

 ショッピングモール内で服やアクセサリー、小物などを見て、ランチは洋食店に入った。

 スパゲッティや肉、サラダなどが少しずつ入っているランチプレートを楽しみ、そのあとは隣接しているデジタルミュージアムに向かった。

 プロジェクションマッピングという存在は知っていて、札幌にいた時も雪まつりの石像に投影されたものを見た事があった。

 だがここでは室内を見回す限り、デジタル作品で作られた花畑や滝、一面に浮かぶランプなどがあり、こんな体験はした事がなかった。

 たっぷり数時間楽しんだあとに外に出ると、もう夕暮れが迫りつつある。

「夕食に行く前に、あれ乗ろうか」

 そう言って秀真が指差したのは、七色に光る巨大な観覧車だ。

「はい……!」

 秀真と一緒に観覧車に乗れるだなんて、あまりに嬉しくて花音は二つ返事で承諾した。

 少し並んだあとにゴンドラに乗り込み、秀真と向かい合わせに座る。

「何か……、照れますね。本当にデートみたい」

「ん? 今までデートって思ってなかった?」

「いえ、そうじゃなくて」

 照れ笑いを浮かべてごまかし、花音はポツリポツリと話し始める。

「私、以前にも言いましたけど、学生時代は音楽一本でした。周りは女友達ばかりで、元彼と出会ったのも合コンです。なので他の女性ほど、男性に慣れていないっていう自覚がありました」

 片側には東京湾が見渡せ、反対側にはレインボーブリッジの七色の光が見えた。

「元彼の事も、好きで堪らないっていう程じゃなかったんです。けど秀真さんの事は、一目見て『素敵な人だな』って思いました。……そういう、外見だけ見て好きになるとかを、秀真さんは好まないっていうのは分かっていますが」

 花音の言葉に、秀真は緩く首を左右に振る。

「この年齢になるまでほぼ男性とご縁がなくて、たまに『このままずっと一人なのかな?』って焦っていました。デートも人並みにした事がなくて、同年代の女性より自分が劣っているように感じていました」

 秀真は正面で「そんな事はない」という表情をしていて、花音も彼に苦笑いしつつ頷いてみせる。
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