【R-18】死神元帥はただ一人のために策謀する

臣桜

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二人きりになれない蜜月

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 翌日シャーロットが目を覚ますと、ギルバートの姿はなかった。

「あ……。だるい……」

 腰の重たさに顔をしかめ、ゆっくりと体を起こすとベッドサイドに書き置きがある。

『昨晩はよく頑張った。私は仕事があるので、先に屋敷を出る。気にしないでゆっくり過ごしなさい。目が覚めたらベルでアリスを呼ぶこと。ギルバート』

 結婚式の誓約書以外に、初めてギルバートの文字を見た。そしてそれは初めてシャーロットに宛てられたものだ。

 好きな人が自分宛にメモを残し、キュウッと胸が甘くなる。

 思わずシャーロットは書き置きを抱き締めてしまった。

「嬉しい……。このメモ取っておきたいわ」

 指先でギルバートの文字を追い、シャーロットの口元が幸せそうに笑う。

 それから言われた通りにベルを慣らしてアリスを呼ぶと、上手に動けないシャーロットを手伝ってソファに座らせてくれた。

「ありがとう、アリス」

「ギルバートさまは奥さまのお体を、もう少しお考えになられたほうがいいのでは……」

 天蓋の中の様子で昨晩のことを知られたと思うと、シャーロットも恥ずかしい。もちろんアリスを呼ぶのも躊躇われたのだが、シャーロット一人では何もできない。

「いま朝食を持って参りますね」
「あら、着替えないと」

「ギルバートさまからは、シャーロットさまをお寝間着のまま過ごさせるようにと仰せつかっています。立てなくなるほど攻めたから、無理はさせるなと。お腹がこなれましたら、腰などマッサージ致しますね」

「ありがとう、アリス」

「立てなくなるまで」のところをアリスに知られているのは、とても恥ずかしい。けれどこれが異性の執事だったら、シャーロットは本当に目も合わせられなかっただろう。

 この屋敷にも家令をはじめ男性の従者は多くいるが、シャーロットの身の回りについてはアリスに一任されている。

 彼女がこの二月宮の裏の番人であるというのもある意味本当だろうし、シャーロットとしても同性のアリスがいてくれるのは頼もしい。

 その後シャーロットはパンとスープを軽くとり、紅茶を飲みながらアリスと話す。

「今日はお屋敷の探検は控えますか? まだお体が辛そうですものね」

 ベッドメイクし直された上にシャーロットはうつ伏せになり、その腰をアリスが絶妙に揉みほぐしてくれる。

 彼女は脱臼を入れ直すこともできるそうだが、考えただけでも恐ろしい。

「アリスは医療にまで明るいのね」

「戦うということは、人体を知ることでもありますから」

 そう言ってアリスはシャーロットの華奢な体をもって、ここになんの筋肉があるとか、骨があると言う。

 自分の体に触れられて教えてもらうと、分かりやすい。

 筋肉などは男女によって違うものがついていると思っていたが、基本となる筋肉の名称はほぼ同じなのだという。

「男性と女性が、同じ筋肉や骨でできているって……不思議ね?」

「骨などは同じですが、骨格というものが異なります。例えば女性は丸い臀部を持つ骨盤がありますが、男性の腰は真っ直ぐです」

「まぁ、思ってみればそうね」

 ふと、シャーロットは昨晩のギルバートの肉体を思い出し赤面する。――と、彼のあの部分は一体どうなっているのだろう? と思った。

 恥ずかしいけれど、ギルバートに尋ねるよりはアリスに訊いた方がいいような気がする。

「ね……ねぇ、アリス。男性の……その。あそこって、骨があって筋肉がついているの?」

「あぁ」

 シャーロットが言いたいことを察したアリスは、こともなげに言う。

「男性の性器に骨などありませんよ。あの部分は血管が特に密集して集まっていて、興奮して血が集まると膨張するようになっているんです」

「そ……そうなのね」

 男性の神秘を知ってしまった、とシャーロットはドキドキしている。

「他にも何かございますか?」

 アリスに言われ、シャーロットは思案する。

 本当は閨事について知りたい気持ちもあるが、誰かに何か教わるよりも、ギルバートに直接教えてもらいたいと思う。

 その方が夫婦らしいと思ったのだ。

 代わりに、ここまで人体に詳しいアリスなら――と思って提案する。

「私に護身術を教えてもらえないかしら?」

 いい思いつきをしたというシャーロットに、アリスはクスクスと笑う。

「ギルバートさまにお聞きしてからですね。わたしの一任ではなんとも」

「そう……ね」

 それから他愛のない話が始まり、シャーロットは一日をゆっくりと過ごすのだった。





 王都の二月宮に留まるのは数日という話だった。

 だがギルバートの蜜月が終わった後に、アルトドルファー王国との会談が予定されている。それについてエドガー王自ら、ギルバートに計画を見てほしいという要求があった。

 結婚式を挙げる前に、会談にまつわる仕事は、ギルバートが計画をたててそれぞれ進行するよう言ってある。

 けれどお気に入りのギルバートの顔を見て、国王はすっかり「やはり我が国の英雄に、王都にいてもらわなくては」という気持ちになったらしい。

「すまない。すぐに城に戻ってまた君と二人きりになれると思っていたのだが……」

「いいえ、それがギルさまのお仕事ですもの」

 夕食後に二人は紅茶を飲み、今後のことについて話していた。

「わたしの父が十月堂の管理を担った時のように……。万が一のことがあってはいけませんから」

 琥珀色の液体に目を落とし、シャーロットは小さく笑う。

「あれは不幸が重なったことだ。警備は軍の管轄だが、十月堂という建物の管理はまた別のところにある。十月堂に入る者の身体検査を行うのは我々でも、催しそのものはアルバーン卿の責任になってしまう。私も軍側に非があると言ったのだが……」

 ギルバートが言うとおり、国で催す行事などはそれぞれ場所と警備とで責任者が異なる。

 政治のことに明るくないシャーロットでも、父が仕事のことを少し話すことから、それぐらいは知っていた。

「ギルさまがそのように仰る必要はありません。本当に……色々難しい問題があったのでしょうから」

 こうして気遣ってくれるのを思うと、ギルバートはやはり優しい。

「そうだわ。蜜月の間に実家に手紙を書くと約束したのです。明日、お茶でも飲みながらゆっくり認(したた)めたいと思います」

「そうするといい。アルバーン卿も私のような男に愛娘が嫁いで、心から心配しているだろうから」

「もう……」

 あくまで自分を『恐ろしい存在』と言うギルバートに、シャーロットは苦笑する。

 この優しい人が自分をこう思うようになってしまったのも、運命の悪戯なのだろう。

「わたしは……。ギルさまがお優しい方だということを、知っていますからね」

「…………」

 相変わらずその意見を曲げないシャーロットに、ギルバートは柔らかく微笑んだ。是とも非ともせず、無言で紅茶を飲む。

(この方はこういう方なんだわ)

 内心「もったいない」と思うが、ギルバートが自分を「優しい」と思わないのなら、他の人間がいる場所で声高に言うことはしない。

(ですが私は、ずっとそう思い続けますからね)

 心の中でそう呟いてから、シャーロットは別の話題を振った。



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