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一章
人狼
しおりを挟むその後、何かとやらかしそうなレーファをアミラと二人で抑えつつ、何とか魔族領の入口であるジェボードの大森林にたどり着いた。
ここまでの道のりで、食料の面が不安だったが、思いがけずコカトリスを倒せたことや、アミラが野草の知識があって助かった。俺も多少は知識があるが、基本的に耐性にものを言わせて食べてたから二人に食わせるのは危ないからな。
とりあえず、当面の目標だった魔族領に辿り着くことは出来た。
「ここからは魔族領だ、気を引き締めて行こう。特にレーファ」
「なんで私を名指しするんですか!?」
「日頃の行ないよ。まだ二日程度しか一緒にいないけど、痛いほど理解したわ」
「そんなあ……」
いや、アミラは正しい。ここまで来るまでに何度レーファを止めたことか……。基本的にレーファは好奇心の強い子供と同じだ。考えるより先に体が動く。途中からはアミラがずっとレーファの手を握ることで何とか抑えてたけどな。
「あ、そうだ。森に入る前に聞きたいのだけど、目的地は決まってるの?」
「いや、まったく」
「ここまで来たのも半ば思いつきですからねえ」
「あなたたち……。問題児はレーファだけかと思ったらそうとは言えないみたいね」
深いため息を吐いて額を押さえるアミラ。流石にレーファと同じ扱いをするのは勘弁して欲しい。
「流石に何も考えずに来たわけじゃ無いぞ? 森を抜けた先に街があるとは聞いているから、とりあえず森を抜けることが目標だ」
「目指してる場所はともかく、それはほとんど無計画ってことよ。食べ物だってなんの用意もしていなかったし、野宿の用意も外套だけだったわよね?」
「まあそれには理由があるんだよ」
用意しなかったんじゃなくて、出来なかったんだよな。荷物はほとんどシュライン達に持ってかれたし、金も稼ぎの殆どはパーティ資金としてたから手持ちはあまりない。何より、街の店はみんな売ってくれなかったしな。
「理由ね……、まあいいわ。ただの人間が魔王軍に入ろうなんて、よっぽどだもの。とりあえず、私たちは森の中にある人狼の村を目指すわ」
「人狼の村? そんなものがあるのか?」
「あ、そう言えば里で聞いたことあります! ジェラードの森には人狼の村があって、美味しいお酒があるとか!」
「あー、それは魅力的だな」
「遊びに行くんじゃないのよ? そこで少し物資の補給をさせてもらって、先に進むわよ」
アミラ曰く、その人狼の村へは木に付いた爪痕を追っていけば辿り着けるとのことだった。それを探しながら小一時間ほど獣道を歩き、ようやくそれらしきものを見つけることが出来た。
しかし、その後はどこを探しても見つけることが出来ない。念の為歩いてきた方向の木も確認したが、爪痕なんてどこにもなかった。
「おかしいわね……。これだけ探して無いなんてことはないと思いたいんだけど……」
「しかし、事実見つからないんだ。最悪見つからない場合も考えて、とりあえず先に進もう」
「えー、このまま行くんですか? 少し休みましょうよお……」
俺はまだ体力に余裕があるが、レーファはもうクタクタのようだ。アミラも態度には出ていないが、顔は疲労の色が濃い。
「そうだな、少し休憩にしよう。結構動いたし、水を飲んでおいた方がいい。ただ、川なんかが見つからない時が最悪だから飲みすぎるなよ」
「分かりましたー」
「ええ、分かったわ」
しかしどうするか。先に進むとは言え、難しいよな。食料はコカトリスの肉をアミラが香草で日持ちするようにしてくれてるからしばらくはなんとかなるが、水の問題がある。早いうちに川を見つけられればいいが。最悪雨でも構わないが。
「こんにちは御三方。こんな所で何してるんだ?」
不意に背後から声をかけられる。すぐさま振り返って剣に手を添える。
「あー、ちょいちょい。俺に戦う意思は無いよ。純粋に疑問に思ったからつい声をかけたんだ」
そこには一人の青年が立っていた。灰色の髪だが毛先は黒く、頭の上には三角の耳が二つ着いている。
「もしかして人狼か?」
「そ。俺の名前はジルト。よろしくな」
人懐っこい笑みを浮かべるジルト。だが、隙があるようには見えない。警戒を解かずに自己紹介をする。
「俺はグレン、人間だ。よろしく」
「わ、私はレーファと言います! 一応吸血鬼です」
「私はアミラ。よろしく」
「うんうん、よろしくー。アミラちゃんは……、事情がありそうだね。それで、なんだってこんな所に種族もバラバラな三人が集まってるんだ?」
ここは正直に話した方が得策だろう。元々村で補給をさせてもらうつもりだったし、友好的に接するべきだ。
「実は俺たちは魔王軍に志願するつもりなんだ。だから魔族の街を目指して森を抜けようとしてるんだよ」
「ふーん……? じゃあなんで人狼の村を探すような真似をしてたんだ?」
「流石にここを一気に突破は厳しいからな。人狼の村で水や食料を分けてもらえないかと思ったんだ」
「なるほどねぇ……。ま、嘘は吐いてないみたいだな。いいよ、村に案内する」
「本当か!?」
それは非常にありがたい。そうしてもらえるのならレーファたちの負担も減るし、ジルトを通せば補給もしやすいだろう。
「ここまで野宿続きだったんだろ? 女の子をこれ以上地べたに寝かせるのは偲びないからね」
「ありがとう、恩に着るよ」
「ありがとうございます!」
「感謝するわ」
「いいっていいって。とりあえず、もうちょい休憩してから行こっか。それなりに歩くからさ。別に俺がおんぶして行っても良いけどね?」
「グレンさんお願いします!」
「嫌だ」
ジルトの言う通り、レーファとアミラに充分休憩を取らせてから出発する。
ジルトに教えて貰ったが、人狼の村への道を示す爪痕は木の上に付けられていた。爪痕は目印でもあり、矢印でもあるらしい。最初の爪痕が左下から右上に付けられていたから、右の木の上の方を調べれば良かったみたいだ。単純といえば単純だが、知らない人間からしたら気付きにくく付けられてるな。
ジルトの案内でしばらく歩いていくと、不意に目の前が開けた。
「ようこそ御三方、ここが人狼の村。通称ウェル村だ」
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