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一章
暗黒神官
しおりを挟む「何かするなら声掛けてからって俺言ったよな!?」
「ごめんなさい!」
「コゲェェ!」
俺たちはまた全力で走っていた。蛇の尾を持つ、大きめの馬車くらいはあるんじゃないかと思うほど巨大な鶏、コカトリスに背中を追われながら。今度は大きな卵を見つけたレーファが、卵焼きが食べたいと言って飛びついたことが原因だ。
「だいたい、あんなでかい卵な上にこんな所に巣を作るようなやつ、普通の鳥なわけないだろ! 魔物に決まってるじゃねえか!」
「知りませんよ! 私ずっと里でしか暮らして来なかったんですから!」
「だったらちゃんと何かする前に俺に言えよ!」
さっきのヘルホーネットとは違って一匹とはいえ、強さが段違いだ。森の中に逃げ込めばさすがのコカトリスも動きづらいかと期待したが、木をバタバタ薙ぎ倒しながら向かってきている。
正直、一人で勝てる気がしない。だが逃げ切れるとも思えない。……覚悟を決めるか。
「レーファ! 今度こそ足をとめ――」
「ぶぇっ!」
レーファが盛大に転ぶ。すかさずコカトリスが倒れたレーファを踏み潰そうと足を振り上げる。
「レーファ!」
駄目だ、間に合わない! そう思った瞬間、木々の隙間から鋭い声が響いてきた。
「邪悪なる加護!」
すると、おどろおどろしい光の膜がレーファを覆い、コカトリスの足を防いだ。
「今よ! 援護はするから行って!」
「ああ!」
誰だかは分からないが、レーファを守ってくれたのは確かだ。その言葉を信じてコカトリスに斬り掛かる。振るった剣はコカトリスの胸あたりを切り裂くが、浅い。思った通り、羽毛に阻まれてほとんどダメージを与えられない。しかし、警戒してくれたのか少し距離を取ってくれる。
「レーファ、お前はとりあえず下がってろ」
「分かりました!」
言うが早いかすぐさまレーファは離れていく。あいつ、こういう時だけ聞き分け良すぎるだろ。
コカトリスがレーファの背中を追おうとするが、それは俺が許さない。もう一度コカトリスの胸あたりを斬りつける。傷は浅いが、十分注意は引けたようだ。コカトリスは俺を睨み付け、足を振り下ろしてくる。
「邪悪なる加護!」
今度は俺の周りにおどろおどろしい光の膜が俺を覆い、蹴撃を防ぐ。二度も攻撃を防がれコカトリスも腹が立ったのか、嘴で連続して攻撃してくる。
「あと五回で障壁が壊れる! 三、二、一、 今!」
掛け声と同時に走り出し、再びコカトリスの胸を斬りつつ背後に回る。そのまま尾に剣をふりおろす。切断は出来ないだろうが、少しでも傷つければ尾の攻撃はしづらいだろうからな。
「冥き力の刃!」
声が響くと同時に、俺の剣に黒い靄みたいなのがまとわりついた。構わずそのまま斬りつけると、コカトリスの尾をバッサリ切り落とすことが出来た。
「ゴゲェェ!」
コカトリスが苦悶の声を上げながら距離を取る。血走った目でこちらを睨み、仰け反って喉を膨らませた。
「ダメ! それは私じゃ防げない!」
次の瞬間、コカトリスが灰色の煙を吐き出した。一気に視界が奪われる。
「間に合わなかった……! あなた、早く逃げるわよ!」
「あれってなんですか?」
「あれは石化ブレス。あそこまでまともに食らっちゃ、もう手遅れよ……。さあ、行くわよ」
「あ、それなら多分大丈夫ですよ」
「そんなわけないでしょ!? 早く走って!」
レーファ……。流石に呑気過ぎないか? いやまあ大丈夫なんだけどさ。
コカトリスは俺を倒したと考えているのか、追撃はしてこない。徐々に煙が薄れ、視界が戻り始めたと同時にコカトリスの足を切り裂く。立てなくなり、横倒しになった所で首を切り落とす。
「……何とかなったか」
完全に動かなくなったのを確認して剣を収める。レーファの所に向かうと、隣に女性が立っていた。
縁のない丸眼鏡の奥に、ツリ目気味の藍色の瞳。背はレーファより少し高いくらい。だがあどけなさは残っていないし、レーファより少し年上かな。修道女のような服装ということは神官系の職なんだろうが……、さっきの呪文はかなり物騒な響きだった気がする。
「俺はグレンだ。誰だか分からんが助かった。感謝する」
握手を求めると応じてくれるが、驚いているのか動きがぎこちない。
「え、あなたあのブレスまともに受けたわよね……? なんで無事なの……?」
「グレンさんは状態異常の耐性が高いんですよー」
「耐性が高い程度でなんとかなる物じゃないでしょ!?」
レーファの言葉に鋭くツッコミを入れる女性。まあ普通はそういう反応になるか。
「いやー、それがこの人吸血鬼の魅了も効かないんですよー。あ、私吸血鬼なんですけどね?」
「えっ、そうなの? じゃあ彼も……、グレンさんも人間ではないの?」
「グレンでいい。俺はれっきとした人間だ」
「ただの人間がコカトリスの石化ブレスを受けてなんともないなんて……。充分人間辞めてるわよ……」
呆れたようにため息をつく女性。そんなこと言われても怪我とかは普通にするし、治るのも普通の早さだからなあ。
「とりあえず、二人とも怪我はないか?」
「はい! 転んだ時擦りむきましたけど治ったので大丈夫です!」
「ええ、私も大丈夫。ああ、驚いてたせいで名乗って無かったわね、ごめんなさい。私はアミラ、一応神官よ」
「よろしく、アミラ。俺達が言うのもなんだが、こんな所で何をしてるんだ?」
「……それは先にあなた達の目的を聞いてからでもいいかしら?」
流石に警戒されるか。正直に言っても良いんだが、神官は基本女神信仰だから下手をすると戦闘になりそうなんだよな。女神の宿敵の魔王に仕えようとしてるわけだし。
「私たちはこれから魔王軍に志願しに行くところなんですよ。追い出されちゃってお仕事が無くなっちゃったんです」
レーファ……。お前少しは考えるってことをだな……。
レーファの言葉を聞いたアミラは眉間にシワを寄せる。
「あなた達も……?」
「も、ってことはまさか」
「ええ、私も魔王軍に志願するつもり。私は邪神を信仰する神官、暗黒神官よ」
なるほど、さっきのサポートが妙に禍々しかったのは暗黒神官だったからか。
「じゃあ一緒に行きませんか? 三人だったら安全でしょうし!」
「ええ、お願いしてもいい? 私一人だとやっぱり少し危険だったの」
「……正直一人の方が安全だと思うけどな。今の所襲われた理由は全部レーファだし」
「そ、そんなことは! ないとは言えないですけど……」
「す、少し不安だけどお願いするわ」
「分かった。改めてよろしく」
「ええ、よろしくね」
こうしてまた一人仲間を加え、魔族領に向かって行った。もちろん、俺とアミラはレーファを交代で見張りながらだ。
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