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一章
レーファの力
しおりを挟むレーファはまた壁を登って外に出ようと考えてたようだが、街を出る際、冒険者のパーティや商隊は一人がギルドカードを見せれば良いため特に問題にならなかった。……門番の兵士から侮蔑の視線を送られたのは別としてだが。
「そう言えば、どうやって魔王軍に志願するんだ?」
「そうですねえ……どうしましょうか?」
「どうしましょうって……。知ってたからあんな自信満々に魔王軍に入ろうとか行ってたんじゃないのか?」
「いやー、それがですね。私が住んでた里に魔王軍の人が来て志願者を募ってたんですけど、それ以外って知らないんですよね」
「そうか……」
こいつ、だめだ。俺も大概だから責めることは出来ないが、まさかのノープランか。
「とりあえず魔族領に向かってみるか。ここは人族領の中じゃ一番魔族領に近いからな。向かいやすいだろ」
「賛成です!」
などと言って割と呑気に出発したわけだが。
「レーファ! お前ふざけんなよ!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
俺たちは全力で走っていた。背後を俺の倍くらいの大きさはありそうな蜂に追われているからだ。原因はもちろんレーファ。
「ハチミツが欲しいからってなんでヘルホーネットの巣に石を投げつける! レッサーホーネットの巣を見つけろよ!」
「だって蜂の巣見つけたんですもん! それにグレンさん勇者パーティだったんですからヘルホーネットくらいいけるかなって。てへ!」
「お前後で殴らせろ!」
このまま走って逃げ続けても、こっちが先に体力が尽きて捕まってしまう。戦うしかない。
正直レーファは戦力にならないだろうから俺一人で相手をしなきゃいけないが、いけるのか?
ちらっ、と背中越しにヘルホーネットを確認する。三匹か。初撃で一匹何とか出来れば……いけるか。
「レーファは走り続けろ!」
「グレンさん!?」
身を翻して先頭の一匹へ切りかかる。ヘルホーネットの甲殻は硬い。一撃で倒すのなら頭と胴体の隙間を狙って……!
「はっ!」
よし、不意打ち気味だったからか上手くいった。だが、すぐに他の二匹が突っ込んでくる。針で突き刺そうとしてきた一匹を剣で受け流し、そのまま突進してきた一匹は口を突き刺す。
「ぐっ……!」
半端じゃない衝撃と痛みが腕を襲うが、闘気で回復と強化を同時に行って無理やり抑え込む。剣を捻って頭の中を壊して、胴体を蹴り飛ばしながら剣を引き抜く。
「次!」
振り向いた瞬間、ヘルホーネットの足が俺を捕らえる。まだ距離があると思っていたが、突進のせいで近づいてしまったらしい。
ヘルホーネットが針を刺すため腹を振り上げる。ああ、こりゃ駄目だ。喰らうな。
「駄目です!」
「レーファ!?」
その振り上げた腹にレーファが飛びついた。あいつ、走り続けろって言ったのに! それに、いくら吸血鬼でも一人じゃヘルホーネットを止められるわけがない。ないんだが……。
「止めた……?」
ヘルホーネットは予想外のことが起きて焦っているのか、めちゃくちゃに羽を動かしている。俺たち程度の重さなら軽々と持ち運べるはずだが、何故か飛び上がることが出来ていない。
「グレンさん……早く何とかしてください……!」
レーファの言葉に我に返り、ヘルホーネットの足を斬って脱出する。そのまま一匹目と同じように、頭を斬り飛ばした。
腰が抜けたのか、レーファがヘルホーネットの体を持ったままへたり込む。
「ありがとう、何とか助かった」
「いやいや、グレンさんが無事で良かったです。もう私、グレンさんが肉団子にされちゃうって必死でしたよ」
「……想像させないでくれ」
一応一撃だけだったら耐えられなくもないんだけどな。ヘルホーネットの毒は俺には効かないし、片腕を犠牲にすれば受けられただろうし。
なんにせよ無傷で済むに越したことはないし、それはレーファのおかげだ。
「しかし、すごい力だな。吸血鬼だからか? それに、なんでヘルホーネットは飛べなかったんだ?」
「いえ、普通はこんなに力強くないですよ。私が特殊なんです。皆にはよく言われてましたよ、吸血鬼の力が全部筋肉にいってるって。あのときはこう、足を踏ん張って頑張りました」
「……そうか」
少しは脳みそにもいって欲しかったな……。それに、踏ん張ったくらいでどうにかなるもんじゃないんだが。
「ほんと、色々ととんでもないなお前は」
「そうですかねー、えへへ」
「それじゃあ先に進もう。次から何かする時は俺に一声かけてからにしてくれ」
「はい!」
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