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一章
人狼の村
しおりを挟む人狼の村は普通の人間の村と大して変わりはなかった。木で造られた家が建ち並び、畑を耕す大人や村の中を走り回って遊ぶ子供たちがいる。魔族領なのに、というのもおかしいが平和な光景だ。
冒険者として色々な村に立ち寄ってきたが、ここまで平和な村は魔族領から遠い場所でしか見たことがない。
「いい村だな」
「だろ? 外の人に褒められると嬉しいねえ」
言葉通り、嬉しそうにはにかむジルト。自分の村が自慢で、本当に好きなんだろうな。
とりあえず、村長に挨拶する必要があるということで、ジルトに案内してもらう。村長の家は村の真ん中あたりに建っている大きな平屋建ての建物だった。村の集会所になることもあるらしい。
そこには一人の老女がいた。彼女の髪は真っ白で、毛先に近づくにつれ灰色になっている。それを肩の辺りで一つに束ね、胸の前へと下ろしていた。顔にこそ深い皺が刻まれているものの、壮健そうに見える。
「初めまして、村長殿。私は人族のグレンと申します。こちらは仲間のレーファとアミラ。この森を抜けるために、一度この村で休憩を取らせて頂きたく訪ねて参りました」
「ほう? 見た目の割に礼儀が出来てるじゃないか。そういう奴は嫌いじゃないよ。あたしはサンドラだ。一応村長をさせてもらってる。村に宿なんて上等な物は無いから、全員うちに泊まってきな」
「本当ですか! 感謝します」
「婆ちゃん、久々に客が来たからって張り切るなよ。体に障るぜ?」
「村長と呼びなジルト! 半人前が一丁前に吠えるんじゃないよ。あんたはリックバードを捕まえてきな。今夜の夕飯にするから」
「分かったよ、婆ちゃん。グレンたちもどうだ?」
「それなら手伝わさせてくれ。ただで泊まる訳にはいかないしな」
荷物をサンドラさんの家に置かせてもらい、ジルトと一緒に外へ出る。すると、不意に声をかけられた。俺やジルトより一回り大きい男だ。茶色の髪に毛先が黒。人狼はみんなこのような、毛先の色が違う髪色なんだろうな。
「よお、犬っころ。お前、誰と一緒に歩いてるんだ?」
「客だよ、ヴィルゴ。変にちょっかい出すなよ」
「出さねえよ、お前が尻尾振ってる相手だ。何かしたらお前に噛まれちまう」
ヴィルゴと呼ばれた男は大笑いしながら去っていく。正直あまりいい印象はないな。
「なんですか今の人?」
「あいつはヴィルゴ。この村で一番力が強い野郎だよ。ま、村で一番嫌な野郎でもあるから、レーファちゃんは覚えなくていいよ」
「嫌なやつってことは今ので充分分かったわね。まあいいわ、リックバードってやつを捕りに行くんでしょう? さっさと行きましょう」
「アミラの言う通りだ。さっさと狩って、今日はゆっくり休もう」
そう言って、俺たち四人は森の中へと入っていった。森の中に何が待ち受けているかも分からずに。
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