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一章
討伐
しおりを挟む「俺が前に出る、サポートは頼んだ!」
そう叫びながらカースヒュドラに肉薄する。ジルトは武器を持っていないようだし、さっきの魔法の威力から考えるに風の魔法を得意とする魔法使いなんだろう。だとしたら俺がするべきことは近接戦を仕掛けてジルトにカースヒュドラを近づけさせないこと。以前パーティを組んでいたギリアムのように壁役になること。
「はあっ!」
一瞬脳裏をチラついたギリアムの顔に叩きつける気持ちでカースヒュドラに剣を振り下ろす。余計な感情を混ぜると剣が鈍るが、力に変えられれば結果オーライだ。
「暴風の弾丸!」
薄く緑色に輝く風の塊がカースヒュドラの鱗をひしゃげさせる。そこに目掛けて剣を振るい、追撃を仕掛ける。
カースヒュドラはそれを嫌がり、俺を引き剥がそうと襲いかかってくるが、ジルトが的確に魔法で牽制してくれる。
そんな魔法を放つジルトを先に倒そうとカースヒュドラが動くが、それは俺が許さない。ジルトに一瞬でも意識が向いたら、その瞬間中央の頭を狙って剣を振るう。そうするとカースヒュドラは再び俺へ攻撃を繰り出してくる。
確証は無いが、中央の頭はカースヒュドラにとってかなり重要なはずだ。攻撃に参加していないところや、魔法を使えることから考えるにほぼ間違いない。
お互いにカバーし合いながら、カースヒュドラの相手をする。戦っていて思うが、ジルトはかなりレベルの高い魔法使いだ。しかも、相手の呼吸を読むことに長けた。今日初めて出会ったはずなのに、長い間一緒に戦ってきたと錯覚するほど戦いやすい。
「グレン! その光るやつはあとどのくらい持ちそうだ!?」
「良くてあと五分そこそこだ!」
ジルトが来てくれたおかげでかなり楽になったが、それまでの消耗も含め『戦気闘刃』の限界が近い。少々無理をすればもう少し戦えるが、その場合『戦気闘刃』が切れた途端に芋虫みたいにその場に這いつくばることになる。
「ならその前に大技を一発叩き込みたい。少しだけ一人で耐えられるか?」
「任せろ!」
一応さっきまでも一人で耐えていたんだ。少しくらいどうってことない。それに、今度は一人で応援を待ちながらじゃなく、ジルトの大技を打つまでの時間稼ぎだ。気力の満ち方が違う。
ジルトが集中を始めると、辺りの空気が変わった。彼を中心に風が逆巻き、全てがそこに集まっていくように感じる。
もう少しだ、そう思った時カースヒュドラの頭の一つ、中央の頭がジルトを見ていることに気づく。嫌な予感がしてこちらへ注意を戻そうと、そいつに攻撃を仕掛けるが他の頭に阻まれてしまう。嫌な予感は的中した。魔法陣が浮かび上がる。駄目だ、間に合わない!
「ジルト避けろ!」
人の頭ぐらいありそうな岩がジルトへ襲いかかる。魔法使いが集中している時は動くことが出来ず、無防備になる。あの状態であんな岩を食らったら無事じゃ済まない。岩がジルトへ迫る。
「邪悪なる加護!」
禍々しい光の膜が岩を防ぐ。この魔法は!
「二人ともまだ生きてるわよね!?」
「ぐ、グレンさんなんで光ってるんですか!? 人間辞めたんですか!?」
やっぱりアミラたちだ。ついに援軍が到着した。気を緩める訳にはいかないが、これでかなり楽になる。レーファは相変わらずいらんことを言っているが。
「グレン! 離れろ!」
ジルトに言われ、すぐにカースヒュドラから距離を取る。近くにいると巻き込まれる可能性がある。
「嵐の支配者!」
竜巻がカースヒュドラを飲み込む。竜巻の中は最初にジルトが放った風の刃で満たされてるみたいだった。カースヒュドラがみるみるうちに切り刻まれていく。これほどの威力ならもう大丈夫だろう。そう考えた瞬間、竜巻の中心が紫色に輝いた。
「グレン! 野郎、回復魔法かけてやがる!」
「押し切れるか!?」
「分からない! やってはみる!」
「最悪でも周りの頭は落としてくれ、あとは俺がやる!」
竜巻が消える瞬間走り出す。すかさずアミラから支援が飛んできた。
「冥き力の刃!」
カースヒュドラは中央とあと二つがまだ動けるようだった。しかし、明らかに満身創痍で動きもかなり鈍くなっている。狙いは中央の頭一つだが、当然阻止しようと二つの頭が動く。
だが、どちらももう相手にならない。さっきまではともかく、今はアミラの支援のおかげで簡単に切り裂くことが出来る。
「これで、終わりだ!」
中央の頭に真っ直ぐ剣を振り下ろす。頭を両断され、カースヒュドラは巨体を横たえ沈黙した。
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