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本編
76,皇女の決意
しおりを挟む「……そろそろいい時間ね。今日は本当にありがとう、アンジュさん。そして長い間ごめんなさい。パーティーはまだもう少し続くから、『金の竪琴』のみなさんと楽しんでいってね」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼します」
アンジュが出ていってから少し経って、バスカルヴィーが部屋に入ってくる。
「いかがでしたか、アンジュ様は。面白い方だったでしょう?」
「ええ、本当に。不慣れながら丁寧な言葉使いをしようとしていたのに、必要以上に私に媚びることはない。かと思えば私の望んでいるようなことを占いの結果だと言って話してくる」
「まるでこちらの考えを読まれているようなのですが、嫌悪感どころか違和感すら抱くことはないのが不思議です。どんなに腕の良い占い師でも因果を見るのですから、多少の違和感を相手に与えるのは当然のはず。私も、あまりの自然さにも関わらず色々と言い当てられ、なおかつ具体的な策を提示された時はペテンか実力か判断に悩みました」
バスカルヴィーの言う通り、アンジュはかなり特殊な占い師だ。本来の占いは占われた対象に因果を"見られた"ということが少なからず伝わる。彼女の占いにはそれが一切ないのだ。
「占いの時アンジュは読む、と言っていたわ。どういう意味なのかしら」
「私が占っていただいた時はたしか、結果を出してから意味を捉える、というものだと言っていました」
「それなら意味を捉える、ということが読むということなのかしら」
「その可能性は高いですね」
やはり、アンジュの占いは特別だ。驚くほど早く、簡潔でわかりやすい。そして恐らくだが、占うための条件が無いに等しい。私に副団長と自分を思い浮かべてカードを混ぜろと言ったから、占いの対象を知っていることは条件の一つだろう。
だが、それは他の占い師にとっても同じことだ。彼らはその他に対象の体の一部や普段から観につけている物、もしくは特殊な魔物の素材などを必要とする。もし条件が情報だけならば、彼女は誰よりも素早く、簡潔に、縛られることなく占いを行える優れた占い師であるということだ。
「バスカルヴィー、アンジュは占術神の加護を受けているのよね?」
「はい。『金の竪琴』の皆さんに確認しております」
占術神の加護を受けている、それはつまり本気で行う占いはほぼ的中するということだ。それこそ、未来予知に匹敵するほどに。
「彼女、欲しいわね」
「ええ、本当に。ですが恐らく彼女を宮廷占術官にすることは不可能ですよ? 私も専属になって欲しいとお願いしましたが、すげなくお断りされました。考えることもせずに」
「あなたの誘いを断るのなら私が誘っても難しいでしょうね……。かと言って強制的に仕えさせても非協力的な占いでは価値が半減してしまうし……」
「あくまでお客として彼女に占いを頼むしかありませんね」
「そのためには帝国に留まって貰わなければならない。バスカルヴィー、頼んだわよ」
「お任せ下さい」
彼女のような人間をみすみす逃してはならない。その点、王国には感謝しなければ。彼女を逃すという愚を冒してくれたのだから。
未だに加護を持つ人間こそが最上だと信じている王国も、デウグレス教の信者も、等しくただの愚か者だ。加護なんて神が最も劣る人間に下さった情けに他ならないのに。
今はまだ私にはなんの力も無い。けれど、他の国を怖がって人街を残し続けているお父様にも、伝統ばかり気にして変化を求めない臣下たちにも、王族であることに胡座をかいている兄弟たちにも、私は負けない。負ける気がしない。
「私は、この国を変えてみせる」
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