タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

75,噂と噂

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  ひとしきり泣いたあと、リーゼロッテ様はハンカチで涙を拭いてこっちをむいた。目は少し腫れてるけど、やる気に満ち溢れた顔だ。
  やっぱり、いいなあ。私はこんな顔ができる人の手助けを出来たんだ。そう思うと私もなんだか力が湧いてくる気がする。

「改めてあなたに感謝を、アンジュさん」
「いえいえ、お役に立てたのなら良かったです」
「それで、お礼なんだけれど……」
「あ、はい。銅貨三枚です」

  私がそう言うとリーゼロッテ様は笑顔のまま固まった。……もしかしなくても地雷踏んだ?  皇女様にお金を要求するのってタブーだったりする……?。そんなの私知らないんだけど、バスカルヴィーさんそういうことは事前に教えて欲しかったんだけど!?

「アンジュさん?」
「あっ、いえ、すいません。お礼は結構です」

  すっ、と皇女様の目が細くなる。真顔だよ。もう、どうしろって言うのさ!?  なんでそんな反応なの!?

「はあ……。いい、アンジュさん。バスカルヴィーから聞いてはいたけれど、あなたは自分の占いがもっと価値のあるものだと理解すべきよ」
「そう言われましても……」

  私の占いなんて素人占いだよ?  元々趣味でやってることなんだから、本当はお金なんてもらうことすらどうかと思うレベルなのに。
  たしかにリュウセン様の加護は頂いてるから占いは当たりやすいらしいけど、あくまで当たりやすいってだけだからなあ。当たるも八卦当たらぬも八卦はおんなじなはず。

「その様子だと何を言っても無駄のようね」

  呆れたようにリーゼロッテ様が微笑む。

「お礼は後日バスカルヴィーに届けさせるわ。楽しみにしてて」
「高価なものとか貴重なものとかは受け取らないですからね?  絶対送らないでくださいよ?」
「ええ、大丈夫。安心して」

  うふふ、と笑うリーゼロッテ様。これ絶対安心出来ないやつだ。

「本当にやめてくださいね?」
「安心しなさい。そう何度も言われなくても分かってるわ」

  不安しかないけどこれ以上言っても無駄なんだろうなあ……。私の胃が守られるといいんだけど。

「それじゃあ、婚約者さんの占いはどうしますか?  本当にやりますか?」
「いえ、いいわ。私とあの方が一緒になれる道があると分かったのだもの、十分よ」
「分かりました」 

  あー、無事に終わったー!  伸びをして全力でだらけたい。流石にそんなこと出来ないけど。
  なんか気が抜けたらお腹が空いてきた。パーティー会場に戻って何か食べたいな。

「では、私はこれで失礼します」
「あら、もう少しお話しましょう。あなたの冒険者としての噂も聞いているの、その話を聞きたいのだけれど」
「それは私なんかより仲間のレベッカたちに聞いた方が良いと思います。私は召喚術士なので前線に立って戦うのは彼女たちですから」

  さらっとレベッカたちを売る。私が胃の痛い思いをしてる中みんなはパーティーを楽しんでるんだろうし、少しくらいいいよね。ギルに至ってはご飯のために私を一度売ってるし。

「たしかに彼女たちの噂も有名だけれど、あなたの話が一番面白そうなの。戦う召喚術士なのでしょう?」
「なんですかそれ?」
「召喚獣に戦わせるのではなくて、召喚獣に支援をさせて自らが戦う奇特な召喚術士。その一撃はドラゴンの牙のように鋭く、敵目掛けて駆ける姿はかのフェンリルのように疾く勇ましい」
「なんですかそれ!?」
「城に来た吟遊詩人が唄ってたわ」

  尾ひれどころの話じゃないんだけど……!?  誰よそれ!

「他にも暗殺者が本当の職業で、召喚術士は仮の姿だ。などとも言われてたわね。それは面白おかしく脚色した噂のようだったけれど」
「そっちも言われてるのか……」
「そのような噂があるし、バスカルヴィーはどちらに転んでもよい物をお礼として送ったと言っていたわ。もし気に入ってたら伝えてあげて」
「はい。このあとよくお話したいと思います……」

  ほんと、よく話さないとダメみたい……。
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