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本編
88,発覚
しおりを挟む「手紙? うーん、私は送る相手は特に思いつかないかな」
「俺もだ。そこまで親しかったやつはいねえな」
「私もね。主だった知り合いには挨拶してから来たから、手紙を送る必要はないわね」
「そっかあ」
エリックさんに教えてもらったことを早速その日の夜にみんなに伝えたけど、どうにも微妙な反応。もしかしてレベッカたちって交友関係狭かった……? いや、ミリアは違うみたいだけどさ。冒険者ってそんなものなのかな?
「とりあえず、そんな状態なら急いだ方がいいかもね。そこまで王国が本気でいるなら入出国が制限されちゃうかもしれないし」
「うん、そうする。そうだ、手紙ってどうやって送るの?」
あったら楽だけど郵便局みたいなところは無いだろうし、宅配業みたいなものはどうなんだろう、あったりするのかな?
「それならバスカルヴィー氏に頼めばいい。手紙や荷物の配達は商人がやってくれる。あの人はもうやってないかもしれないけど、アンジュの頼みならそれくらい聞いてくれるだろうから」
「あー……、そっかー……」
バスカルヴィーさんに借りを作るのはちょっとなあ……。ただでさえなんやかんやで皇女さまの占いさせられちゃったわけだし、何が起きるか分からないもんなあ。かと言って別の商人さんに頼むのもあれだし……。
「んー、代わりに何をお願いされるか怖いけどバスカルヴィーさんにお願いするかあ……」
「代わりの要求が怖いならこっちから先に言っちまえば良いじゃねえか。依頼を一つ受けるとかよ」
「あ、そっか」
ギルがまともなこと言ってる……! と少し驚いたけど、案外こういう交渉事に関してはギルは頭が回るんだよね。
「じゃあ明日あたりにでも行ってこようかな」
「んじゃ、レベッカまかせた」
「了解。ある程度の準備は頼むね」
ぱぱっ、と役割が決まってく。この辺りの速さは、流石昔からパーティを組んでるだけあるなあ、って感じる。阿吽の呼吸ってこういうことなんだろうな。
最初はどういうことだろう、と思うことばかりだったけど今は意図が分かるのが嬉しい。何より、私の個人的な思いつきなのにそれに着いてこようとしてくれるんだもん。思わず顔がにやけてしまう。
「少しいいかしら? お話が聞こえてしまったのだけれど、私も王国の知り合いに手紙を送りたいの。お礼はするから一緒にお願いしたいのだけれど……」
話がまとまった所にルルリカさんが話しかけてくる。ルルリカさんも王国に知り合いがいるんだ。話が聞こえちゃったなら不安だろうし、一緒に頼んであげよう。
「ええ、いいですよ。まあ、まずは受けてもらえるかどうかですけど」
「本当? ありがとうね。アンジュさんなら大丈夫じゃないかしら、彼がここに来た時の態度なんかを見たらね」
そう言って微笑むルルリカさんの姿がブレた。まただ、一体なんなんだろう。目を擦るけど、今度のはそれでもぶれたままだ。もう一度、と思った時、ルルリカさんの姿が掻き消えた。代わりにそこには浅黒い肌の額から黒い角の伸びた女の人が立ってた。
「……魔人?」
呟くと同時に思いっきり後ろに引っ張られた。ギルが私の肩を掴んで、自分の後ろに隠すように私を引き倒したんだ。何するの、と叫ぼうとしたけど声が出なかった。あまりに空気がおかしかったから。
レベッカたちはみんな武器を抜き放って臨戦態勢を取ってる。さっきまでルルリカさんの姿だった魔人も、武器こそないけどいつでも動けるように構えてる。
「普通なら何言ってんだって笑うところだが、これじゃあ笑い話にもなんねえな」
ギルが鋭い目で魔人を睨みつけて言う。今にも魔人に向かって槍を突き出しそう。
「ギルの言う通り、これは流石に笑えないよルルリカさん。あなたが魔人かどうかはともかく、その殺気を仲間に向けるのは看過できない」
そう言ってレベッカが一歩前に出る。殺気って……、この人そんなの出してるの? 私には全くわからないんだけど。
「どうして見破ったかは分かりませんが、こちらとしては都合の良いことではありません。申し訳ないですが実力を行使させていただきます」
そう言って魔人はどこからか細いナイフを何本も取り出して投げつけてくる。ギルは器用に槍で私とミリアに当たらないようにナイフを叩き落としてくれた。レベッカはナイフを躱して、そのままの勢いで魔人に切りかかる。レベッカの剣が魔人を真っ二つに切り裂くけど、すぐにその姿は煙みたいになって消えた。
「幻覚っ! ギル、そっちだ!」
「おう!」
返事をすると同時にギルが私の後ろを石突で突く。耳障りな金属音と一緒に、押し殺したようなうめき声が聞こえた。
「ちょ、ちょっとストップ!」
私が叫ぶけど、魔人もギルも止まらない。激しい攻撃の応酬をしてる。レベッカも加わろうとしてるし、ミリアはいつでも魔法を使えるように準備してる。
「だから止まってって!」
もう一度叫んでも誰も止まらない。むしろレベッカが加わったことでもっと激しくなってる。ダメだ、少し乱暴だけど強制的に止めるしかないや。
「吊るされた男。全員を止めて」
「御意」
突然だったからか魔人は縄を避けられず、案外簡単に捕まえられた。レベッカたちもまさか自分たちを捕まえるとは思ってなかったのか、あっさりと縄に捕えられた。
「ありがとう、ロゥさん」
「これが私の役目ですので」
「あー……、アンジュ。早めに下ろしてくれると助かるな」
「分かった。もう戦わないでね」
ロゥさんにお願いしてレベッカたちを下ろしてもらう。魔人は下ろしたらまた襲いかかってきそうだからそのままだけど。
「えーっと……、とりあえずルルリカさんって呼びますね。誰にも言わないので見逃して貰えませんか?」
「あなたがそれを守る保証はありませんので」
「信じてもらうことは出来ないですよね……?」
「ええ。看破の魔法か、能力かは知りませんがそれを使ってきた時点で信用は出来かねます」
だよねえ……。理由は分からないけど、魔法か何かで自分が魔人か隠してたのに、それを見破るような人相手だもんね。
どうにかして襲わないで欲しいんだけど、どうしたらいいんだろう。
(アンちゃん、私に任せてもらえる?)
(ダンタリアンどうにかできるの?)
(ええ、もちろん)
んー、まあダンタリアンなら心を読めるから任せても大丈夫かな?
「悪魔、ダンタリアン」
「はぁーい! それじゃあお話しましょうか、ルルリカちゃん?」
無駄にハイテンションでダンタリアンが影から出てくる。今日のダンタリアンは小さな女の子の姿で現れた。それに何故かゴスロリで。金髪のツインテールにヘッドドレスもつけてる。
「……悪魔召喚? なるほど、悪魔の力ですか」
なんか納得されたみたいだけど違います。私自身にも分からないけど、なんでか分かっちゃったとしか言いようがないんだよなあ。
「んー、ちょっと違うわねぇ。まあ、それはどうでもいいのよ。まず一つ質問するわね、あなたは何者?」
「答える理由がありません」
ダンタリアンが少し固まった後、くるっ、とこっちを向く。
「アンちゃん。この子、魔導王国の子よ。しかもかなりの権力者」
「……え?」
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