タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

文字の大きさ
29 / 97
本編

28,休憩する勇者たち

しおりを挟む

「やっぱり、おかしいわよね……」
「どれのことだ?」
「多分、こないだのキマイラの事なんじゃないかと」

  訓練の休憩時間。丸いテーブルを囲んでお茶を飲んでいるとき、私のつぶやきに勇者の二人、御影さんと光一くんが反応してくれる。二人とも違和感は覚えていたみたい。どうにもおかしいのよね、やっぱり。

「キマイラのこともだけど、まあ色々ね。そのキマイラは特殊個体ってやつだったらしいけど、私たちの初陣としてはちょうどよかったはずなのに、全部終わったあとに知ったでしょ」
「そうですね。確かに話を聞いた時は、あれ?  とは思いましたね」
「だな。意図的に隠されてた感じはした」

  彼らも私と同じ意見みたい。よかった、これなら話がしやすい。

「二人とも、この国正直どう思う?」
「胡散臭いですよね」
「右に同じ」

  そう、この国は何か怪しい。国というよりは国の上の方、はっきり言ってしまえば王様と神官長のあのおじいさん。ひたすらにへりくだった感じで私たちと話すけど、尊敬とはまた違うねばついた感じの目で見てくるよよね。

「訓練だって言って戦ってはいるが、相手は城の兵士たちだ。魔王軍が相手なら魔物も相手にしなきゃいけないのに、魔物に関しては一切情報がない。まるで魔物と戦わないようにされてるみたいにな。兵士たちはそのうち魔物と戦うことになるんじゃないか、とは言ってたけど。どうもな」
「そうなんですよ。使用人の人達にも色々聞いてますけど、魔王軍は殆どが魔物で、人と同じような姿をしてるのは部隊長クラスらしいですよ。確かに部隊を潰すにはトップを倒した方がいいとは思いますけど、そこまでたどり着くには周りを切り崩さないとですから対人より対魔物の方が訓練するべきだと思うんです」

  二人とも色々と情報収集はしてたみたいね。自分と同じように考えてくれてる人がいるのって心強い。

「沙夜香さんは何か聞いてます?」

  多分戦いについての話よね。……あんまり気分のいい話ではないけど、この二人には話しておかないとね。

「貴族連中から少しね。私に話しかける貴族の殆どが口を揃えて『私と我が民があなたをお守りします』って言うのよ」
「それって……」
「おそらく、兵士は私たちを幹部にぶつけるまで消耗させないための盾よ」
「どこでも上のために下は犠牲になるもんなのかね……」

  重苦しい空気が私たちの周りに立ち込める。戦争なんてもの経験したこともなければ、人の死に関してもはっきりとした記憶はない。でも誰かが私のために死ぬなんてのは、気持ちのいいものじゃない。

「二人とも、少しいいですか?」

  光一くんが真剣な顔をして私と御影さんを見る。促すように少し身を乗り出して指を組む。少し司令官っぽいわねこれ。

「単刀直入に聞きますね。二人はあの子、入江さんがどうなったと思いますか?」
「メルドのじいさん曰く、戦闘のない安全な屋敷にかくまってるとのことだが……。まあ違うだろうな」

  私たちと一緒にこの世界に来てしまった女の子、入江杏子さん。あの子はとてもじゃないけど戦えるような加護を持っていなくて、それどころか占いがよく当たるってだけの加護しか持ってなかった。私たちとは別の部屋に連れてかれたあと姿を見てない。御影さんの言う通り、かくまわれてるなんて嘘よね。戦闘のない安全な場所って、つまりここ、王城なんだから。

「貴族にも確認を取ったけど、王国内で戦闘のない場所はないらしいわ。ここ、王城を除けばね」
「だろうな。となると入江さんはどうなったかだが……」
「それについてはメイドの一人から少しだけ聞けました。王城から追放されたって」

  ……あのおじいさんならやりそうね。神官長だし宗教の考え方にかなり染まっているだろうし。

「デウグレス教……だっけか。加護は神に愛されし証。強き加護を宿す者ほど神に愛されたよき人である。そんな教えのトップからしたら、入江さんはさぞかし邪魔だったんだろうな。そのあとの話は?」
「分かりません。ただメイドさんは入江さんの荷物に守り刀のナイフを入れてくれたらしいです。手放したりよっぽどのことがなければ助けてくれるとのことでした」
「それってどんな見た目なの?」

  私が聞くと、光一くんが少し困ったような表情を浮かべる。そんな顔をするくらいひどいものなのかしら。

「金と宝石で装飾されたナイフだそうです」
「それは……」

  逆に狙われそうね、強盗とかに。うん、光一くんもそりゃ苦笑いするわ。

「もう一つ頭の痛い話ですけど。そのナイフ、持ち主のメイドさんに届けられたんですよね。知り合いの武器屋に売られたとかで」
「あー……。手放したのね……」

  まあ普通そうするわよね。でもそうなると守り刀としての役目は果たせないわけだけど、入江さん大丈夫なのかしら。

「とりあえずその後どうなったかは色々調べてもらってるところです」
「そっか……。じゃあ光一くんはそのまま使用人の人たちの方でお願い、御影さんは……」
「俺は兵士の方で調べてみる。貴族は頼んだ」

  私の意見を先回りしてくれる。やっぱり考えが似てると意思疎通が取りやすくて楽ね。勇者としての共通点とかなのかしら。

「とりあえず、当面は普通に訓練して入江さん探しだな」
「ですね。無事だといいですけど……」

  私たちは今後の方針を立て、再び訓練に戻る。勇者としてちやほやされるのは正直楽しいし、人を助けるのもやぶさかじゃないけど、利用されるのは嫌だ。たいてい最後はバッドエンドになっちゃうからね、そういうのだと。私は日本に帰るにしてもこの世界で過ごすにしても無事でいたい。それは多分他の三人も同じ考えだと思う。
  だからこそ、入江さんは私たちが見つけて、助けてあげなきゃいけない。私たちは年上だし、何より勇者の力があるんだから。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...