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本編
31,吊るされた男
しおりを挟む「があっ!」
大男の拳を後ろに跳んでなんとかかわす。どうしよう、両手はスクイレル・ラフィーで塞がってるし、魔術師のアルカナの魔法はまだ細かいコントロールが出来ないからレベッカを巻き込みかねない。……結構まずいのでは。
「レディ、他の悪魔を呼んだらどうだ?」
教授に提案される。それは一応思ったけど……。
「あんまり傷つけないで無力化出来る人っている?」
「その条件だと難しいな」
だよね。命を奪うとか、大怪我を負わせるとかいう方法で無力化できる人は大勢いるだろうけど、怪我をさせずには厳しいよね。
とりあえず動けるようにしとかないと。さっきはなんとか避けられたけど、このままじゃいつかやられちゃう。
「力、隠者」
身体能力の強化と冷静な判断力。とりあえずこれで攻撃は避けられるだろうけど……。
「ぬあぁっ!」
連続で振られる大男の拳をかわす。最後の大振りに合わせて、カウンターで鳩尾を蹴る。大男は少し怯むけど、やっぱりあんまり効いてないみたい。いくら力が強くなっても、もともとの力が弱いから肉弾戦はできないからなあ。
「うーん、どうしよう」
「随分と、余裕だね、アンジュ!」
激しく剣をぶつけ合いながらレベッカが言う。そういうレベッカも案外余裕そうだけど。このままだとひたすら体力勝負になりそう。力のおかげで体力も増えてるから別にそれでもいいんだけど、狐顔の人が何かしてきた時嫌だしなあ。
できればどうにかしたいけど、リュウセン様に教わったアルカナの中には今使えそうなものは無いし……。直感で分かるとは言ってたけど、特にピンとこないなあ。あ、アルカナを思い浮かべないと駄目とか?
「アンジュ! 割と辛いから早くどうにかして欲しいな!」
レベッカの叫び的にまだ大丈夫だろうけど、辛いのは本音みたい。あの長髪の人かなり強いみたいだ。急がないと。
法王、……違う。運命の輪、……じゃない。正義、……でもない。吊るされた男、……これだ!
「吊るされた男!」
私が叫ぶと、どこからともなく麻縄が出てきて大男の腕に絡みつく。麻縄はそのまま大男を後ろ手に縛り上げ、足にも絡みついて空中に逆さに吊るしあげた。
「姫。拙僧の力、存分にお使い下され」
「姫!?」
教授もマジマさんも私のことを少し恥ずかしい呼び方で呼ぶけど、この人はダントツだ。というか、金髪の司祭みたいな格好してるのになんで姫と拙僧?
「とりあえず、あとの二人もお願いします」
「御意」
パン、と司祭さんが柏手を打つと、長髪の人も狐顔の人もどこからか現れた縄に縛られて空中に吊るされた。
「レベッカ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。怪我はないよ、ありがとう」
「よかった。それで……どうしよう、これから」
なんとか抜け出そうともがいている男たち。もがくたびにぷらぷら揺れるのがすごいシュール。んー、まずはこの子のことを聞くところかなあ。スクイレル・ラフィーは男たちが戦えない状況だからか、もう震えてはないけど、逆に動いてもない。じっ、と男たちを見つめてる。
「アンジュ、普通に吊るすことはできない? このままだと頭に血が上ってしまうよ」
「あ、そうだね。えーと……」
「拙僧のことはロゥと」
「じゃあロゥさん、逆さはやめてあげてください」
「承知」
ロゥさんが指を鳴らすと、男たちの足の縄が解けるのと同時に体に縄が巻きついた。逆さじゃなくなったけどあれはあれで辛そうだなあ。
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