33 / 97
本編
32,二人目の悪魔
しおりを挟む「お前ら、ただで済むと思うなよ……」
狐顔の男が睨みつけてくる。でもなんだろう、あんまり怖くない。
「お前達は何者だ?」
「誰が答えるかよ」
そのあともレベッカの質問にへらへら笑うだけで、狐顔の男は何も話さない。
「教授、洗脳とか以外で質問に答えさせる力を持ってる人とかいないかな?」
「それは後遺症のようなものが無いという意味かな?」
「そうそう。いるかな?」
教授は少し考え込んだあと、ぽん、と手を打つ。音は鳴らなかったけど。
「一人だけ心当たりがある。ダンタリアンという者だ」
「じゃあその人にお願いしよう。悪魔、ダンタリアン」
薄暗い路地裏のはずなのに、私の影がはっきりと見える。影は壁に伸びていって、私より高くなる。一際影が濃くなったあと、ずるり、と黒い塊が出てきた。
演出なんだろうけど、これやらないと出てこれないのかな。変に不安を煽るような感じだからやめて欲しいんだけど。
「ごめんねぇ。私たちは初めて呼ばれるときは影から生まれなきゃいけないのよ。我慢して、アンちゃん」
黒い塊がどろどろ溶けて、中からグレーのスーツを着た仮面の男の人が現れた。ベストまでしっかり着てる。ワイシャツは薄ピンクで、ネクタイは濃いピンク。仮面は目のところにだけ穴が空いてて、真っ白な陶器のような感じ。この人がダンタリアン? というかアンちゃんって呼んだ?
「あら? アンちゃんは嫌だった? 私は教授みたいにレディ、なんて呼ぶのはキャラじゃないのよねぇ」
「えーと、ダンタリアンさんですよね? 男性ですよね?」
「ダンかタリアって呼んでね。ダンタリアンって言いにくいでしょう? 男よ、今はね」
うん、変な人だ! どうしよう、変な人しかいない。というか人型の人はみんな変だ。ヒトデの教授が一番まともって大丈夫かなあ。
「変だなんて酷いわぁ。私はまだまともな方なのに」
あれ、私変な人って口に出してないよね。この人ってもしかして……。
「そのもしかしてよアンちゃん。さ、質問どーぞ。見てあげるから」
やっぱり人の考えたことが分かるのか! 心を見透かすオネエ、なんかすごい字面。とりあえず、さっさと質問しちゃおう。
「あなた達は何者ですか」
「だから答えるわけねえだろう」
「ふんふん、商人ね。グリゴリ商会なんて洒落た名前してるじゃないの」
「なっ!? てめえ、なんで!」
おお、さすが。図星だったみたいで狐顔の人が暴れ出す。
「こいつはその商会の館主ね。部長みたいなもの。横の二人は護衛兼取立て屋、要するに荒事担当の雇われね」
ずるずると芋づる式に情報をとってくなあ。考えただけでアウトってどうしようもないよね。
「アンちゃん、続きは?」
「あ、はい。この子はなんでここにいるんですか? あと、この首輪は……」
狐顔の人はぎゅっと目をつぶってそっぽを向いた。考えがバレないようにって抵抗なんだろうけど、多分意味無いよね。悪魔が相手だし……。
「商品ね。捕獲が禁じられてるものは高く売れるから密猟してきた。その首輪は隷属の首輪ね。主人に危害を加えられなくする物。本来は命令を聞かせられるようになるんだけど、魔力で抵抗されちゃったのね」
そういえば最初にそんなこと言ってた。それより、隷属の首輪……? そんな酷いものを着けたのか。この人たちは。
「アンジュ、憲兵に突き出そう」
「うん、そうしよう。でもその前にこの子の首輪を外さないと。どうしたらこれは外せるの?」
私がそれを訊くと、狐顔の男はいやらしく笑った。それを見てダンタリアンが少し不機嫌そうな声を出す。
「なるほどね。それはその首輪の所有者として登録された人が死ぬか、その人の許可、もしくは強力な解呪の魔法じゃないと外せないみたい。だから笑ったのよ。とんだ小物ね」
「今の所有者は?」
「こいつの上司。要は商会のトップよ」
そんな、それじゃあこの子の首輪を外せない。その商会で一番偉い人のところに行っても外してもらえないだろうし、解呪なんて使えないし。
「あら? アンちゃん解呪ならできるでしょ? 私たちをどうやって呼んでるのよ」
「え?」
悪魔だけど……。でも悪魔のアルカナに解呪の意味なんて無いよ? 正位置はマイナスの意味ばかりだし、逆位置は新たな出会いとか誘惑を断ち切るとか……。
「あ、束縛からの解放?」
「そうよ、呪いとは体を蝕む束縛。解放なんて簡単なわけ。むしろ悪魔相手に呪いなんてとんだ笑い話よねぇ」
楽しそうにダンタリアンが笑う。確かに悪魔の目の前で呪いがどうのっていうのは笑い話なのかも。呪いのエキスパートなんだし。
「悪魔」
首輪が外れるのをイメージして悪魔のアルカナを使う。スクイレル・ラフィーの首輪は音もなく空気に溶けるように無くなった。不思議そうに首の辺りを触る仕草がかわいい。
「それじゃあ憲兵のところに行こうか」
「うん」
振り返ってみんなにお礼を言う。
「ありがとう、みんな」
「なに、構わないよ」
「そうよぉ、私とアンちゃんの仲でしょ」
「拙僧は姫の力なれば」
うん、なんかすごい絵面だ。ヒトデに仮面オネエに何故かお坊さんみたいな話し方の神父。すごい怪しい集団だよね。
「では私たちは帰るとしよう」
「じゃあね、アンちゃん」
三人は瞬きした一瞬で消えてしまった。
そして、いつの間にか手足を縛った状態で地面に転がってた男たちを憲兵に引き渡して、日が暮れるまでレベッカと改めて街の中をぶらぶらと歩いてまわった。
ナイフはちゃんと直ったかなあ。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる