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本編
32,二人目の悪魔
しおりを挟む「お前ら、ただで済むと思うなよ……」
狐顔の男が睨みつけてくる。でもなんだろう、あんまり怖くない。
「お前達は何者だ?」
「誰が答えるかよ」
そのあともレベッカの質問にへらへら笑うだけで、狐顔の男は何も話さない。
「教授、洗脳とか以外で質問に答えさせる力を持ってる人とかいないかな?」
「それは後遺症のようなものが無いという意味かな?」
「そうそう。いるかな?」
教授は少し考え込んだあと、ぽん、と手を打つ。音は鳴らなかったけど。
「一人だけ心当たりがある。ダンタリアンという者だ」
「じゃあその人にお願いしよう。悪魔、ダンタリアン」
薄暗い路地裏のはずなのに、私の影がはっきりと見える。影は壁に伸びていって、私より高くなる。一際影が濃くなったあと、ずるり、と黒い塊が出てきた。
演出なんだろうけど、これやらないと出てこれないのかな。変に不安を煽るような感じだからやめて欲しいんだけど。
「ごめんねぇ。私たちは初めて呼ばれるときは影から生まれなきゃいけないのよ。我慢して、アンちゃん」
黒い塊がどろどろ溶けて、中からグレーのスーツを着た仮面の男の人が現れた。ベストまでしっかり着てる。ワイシャツは薄ピンクで、ネクタイは濃いピンク。仮面は目のところにだけ穴が空いてて、真っ白な陶器のような感じ。この人がダンタリアン? というかアンちゃんって呼んだ?
「あら? アンちゃんは嫌だった? 私は教授みたいにレディ、なんて呼ぶのはキャラじゃないのよねぇ」
「えーと、ダンタリアンさんですよね? 男性ですよね?」
「ダンかタリアって呼んでね。ダンタリアンって言いにくいでしょう? 男よ、今はね」
うん、変な人だ! どうしよう、変な人しかいない。というか人型の人はみんな変だ。ヒトデの教授が一番まともって大丈夫かなあ。
「変だなんて酷いわぁ。私はまだまともな方なのに」
あれ、私変な人って口に出してないよね。この人ってもしかして……。
「そのもしかしてよアンちゃん。さ、質問どーぞ。見てあげるから」
やっぱり人の考えたことが分かるのか! 心を見透かすオネエ、なんかすごい字面。とりあえず、さっさと質問しちゃおう。
「あなた達は何者ですか」
「だから答えるわけねえだろう」
「ふんふん、商人ね。グリゴリ商会なんて洒落た名前してるじゃないの」
「なっ!? てめえ、なんで!」
おお、さすが。図星だったみたいで狐顔の人が暴れ出す。
「こいつはその商会の館主ね。部長みたいなもの。横の二人は護衛兼取立て屋、要するに荒事担当の雇われね」
ずるずると芋づる式に情報をとってくなあ。考えただけでアウトってどうしようもないよね。
「アンちゃん、続きは?」
「あ、はい。この子はなんでここにいるんですか? あと、この首輪は……」
狐顔の人はぎゅっと目をつぶってそっぽを向いた。考えがバレないようにって抵抗なんだろうけど、多分意味無いよね。悪魔が相手だし……。
「商品ね。捕獲が禁じられてるものは高く売れるから密猟してきた。その首輪は隷属の首輪ね。主人に危害を加えられなくする物。本来は命令を聞かせられるようになるんだけど、魔力で抵抗されちゃったのね」
そういえば最初にそんなこと言ってた。それより、隷属の首輪……? そんな酷いものを着けたのか。この人たちは。
「アンジュ、憲兵に突き出そう」
「うん、そうしよう。でもその前にこの子の首輪を外さないと。どうしたらこれは外せるの?」
私がそれを訊くと、狐顔の男はいやらしく笑った。それを見てダンタリアンが少し不機嫌そうな声を出す。
「なるほどね。それはその首輪の所有者として登録された人が死ぬか、その人の許可、もしくは強力な解呪の魔法じゃないと外せないみたい。だから笑ったのよ。とんだ小物ね」
「今の所有者は?」
「こいつの上司。要は商会のトップよ」
そんな、それじゃあこの子の首輪を外せない。その商会で一番偉い人のところに行っても外してもらえないだろうし、解呪なんて使えないし。
「あら? アンちゃん解呪ならできるでしょ? 私たちをどうやって呼んでるのよ」
「え?」
悪魔だけど……。でも悪魔のアルカナに解呪の意味なんて無いよ? 正位置はマイナスの意味ばかりだし、逆位置は新たな出会いとか誘惑を断ち切るとか……。
「あ、束縛からの解放?」
「そうよ、呪いとは体を蝕む束縛。解放なんて簡単なわけ。むしろ悪魔相手に呪いなんてとんだ笑い話よねぇ」
楽しそうにダンタリアンが笑う。確かに悪魔の目の前で呪いがどうのっていうのは笑い話なのかも。呪いのエキスパートなんだし。
「悪魔」
首輪が外れるのをイメージして悪魔のアルカナを使う。スクイレル・ラフィーの首輪は音もなく空気に溶けるように無くなった。不思議そうに首の辺りを触る仕草がかわいい。
「それじゃあ憲兵のところに行こうか」
「うん」
振り返ってみんなにお礼を言う。
「ありがとう、みんな」
「なに、構わないよ」
「そうよぉ、私とアンちゃんの仲でしょ」
「拙僧は姫の力なれば」
うん、なんかすごい絵面だ。ヒトデに仮面オネエに何故かお坊さんみたいな話し方の神父。すごい怪しい集団だよね。
「では私たちは帰るとしよう」
「じゃあね、アンちゃん」
三人は瞬きした一瞬で消えてしまった。
そして、いつの間にか手足を縛った状態で地面に転がってた男たちを憲兵に引き渡して、日が暮れるまでレベッカと改めて街の中をぶらぶらと歩いてまわった。
ナイフはちゃんと直ったかなあ。
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