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おいで、とベッドに座って言うその姿に甘える。
ぽたりと俺の髪から水滴が落ちて、くすぐったそうに身を捩った。
「少しは落ち着いた?」
「……ああ」
「ごめんな」
そう言う声は、少し暗い。だから、小さく首を横に振る。
床に座り込んで、肉の無い太ももに頭を乗せて。撫でてくれる手に、目を閉じた。
「シグが気に病むことは、なんにもないよ」
そんなはずはないのに、エディはこうして俺を甘やかす。
「俺がムカついたから、俺が壊しただけ。お前はなんにも悪くない」
母親が子供に言い聞かせるように、俺の固い髪を撫でながら。
大丈夫だよ、と何度も繰り返すから、腕を細い腰に回した。
ちらりと視線を上に向ける。
エディ、と呼べばそれだけで俺が何を欲しているのか理解して、軽く体をかがめた唇が額に触れた。
「何か、話したい?それとも、セックスする?」
「……もうちょっと、いい誘い文句ないのかよ」
呆れながら体を起こし立ち上がる。
ふふ、と笑うエディをベッドに押し倒して、だけど何をするでもなく。その体を跨いで、ベッドの奥に寝転がった。
「シーグ。シグルド、おいで」
「……ん」
そんな俺のことなんか全部わかってて。横向きになったエディは両手を広げるから、その中に頭と体をもぐり込ませる。
ゆるく抱きしめながらも、頭を撫で続けられて、俺は黙ったままその体にすり寄った。
どれぐらい、そうしていたんだろう。俺が顔を動かすのに合わせたように、エディの手が頬に触れる。
「好きだよ」
俺が欲しいと思った言葉を、ひどく優しい声で言うと、泣き出しそうになった目尻にも唇を落とされた。
きっと、こいつは。俺が何をしても、どれだけ情けなくても、そうやって欲しい言葉をくれるんじゃないか、なんて考える。
「あいつ、さ」
ぼそりと呟いた俺に、うん、という声。ただの相槌なのに、もっと聞きたいと思うような声で。
「昔、俺の家の隣に住んでたやつなんだ」
「家って、あの町の?」
「いや、違う」
否定すれば、不思議そうに首を傾げた。
「もともと……違う町に、住んでて。ガキんときだった、から、町の名前なんか覚えてないんだけど」
「そっか」
「……それで、俺と、両親と……あと、鳥を、飼ってた。黄色い中に、綺麗な緑色の羽を持った……透き通った声で鳴く、鳥、で」
思い出せるのはそれだけだ。俺なりにかわいがっていたはずなのに、薄情だななんて思った。
「俺、は……ガキの頃、他の奴らよりも細くて小さくて、いっつもいじめられてばっかりで。あいつはそのリーダー格で……」
「……シグ、辛いならいいよ?」
「話したいんだよ。聞いてくれよ」
俺を甘やかす言葉に、首を横に振る。わかったよ、という声に少なからず安堵した。
「何歳くらいだったっけかな……あいつに、飼ってた鳥を殺された」
「……そんなことができるタイプでもなさそうだったけど」
「直接じゃ、ないんだ。連れてくるように言われて……逆らえなくて。当たり前のように籠から出されて、それで……飛ばそうぜって」
飛べないように風切り羽を切られていたその鳥は、投げられて地面に落ちて。
「その時はまだ生きてて……でも、野良猫が」
「……うん」
指先が俺の髪に入ってきて、優しく梳く。その動きから、大丈夫かという気遣いが伝わってきて、抱きついている両腕に力を込めた。
「……そのとき、頭が真っ白になって。気付いたらぶん殴ってた」
「やるじゃん」
「……でも、あいつ、町の権力者の息子で」
よくある話だ。
自分が悪いくせに親に泣きついたあいつのせいで、両親ともども町にいられなくなって。
あちこちを転々として、俺が働ける年齢になったころ、立て続けに両親は他界した。まだ若かったから、多大な心労のせいだろうことは想像に難くない。
「……もう、大丈夫だよ。お前が傷つくことから、全部俺が守ってやるから」
「あんまり……甘やかすなよ……」
「いいんだよ、俺が甘やかしてやりたいの」
撫でていた手を止めて、お返しみたいにきゅうと抱きしめてくるから。
否定なんて建前でしかないことを思い知るとともに、もっと許して欲しくて。甘えさせて欲しくて、エディの顔を見上げる。
「いいよ。手、貸して?」
「……俺、は」
「ほら、服、脱がして……今だけでも、全部忘れていいから」
微笑む口が近づいて、俺の鼻先に触れた。唇だけで噛んだそれが離れて、にこりと笑う。
言われた通りに服を一枚一枚剥がし終わると、今度は逆にエディが俺の服を脱がし始めた。
緩く反応を示しているそこを、そっと指先が撫でていく。それから、ゆっくり口を開くと。
「っ……ふ、ぅ」
「ぁ、う」
まだ幾分柔らかいそれを咥えられて、思わず声が漏れた。
水音が響く。俺の股間で揺れる頭が、不満そうに上げられた。
「んー……反応、悪いね」
「……やっぱ、今日はやめとく……悪い」
座ってかくん、と首を傾げたエディの体を離そうと、両肩に手を置く。
けれど視線を軽く泳がせて、それから何か思いついたのか、俺のその手を取った。
「じゃあ、シグが触って」
「……え」
「俺のこと、好きに触ってみてよ。そんでそういう気にならないなら、抱き合って眠ろう。俺の、体温だけ……感じてくれればいいから」
ぺたり、と。何も纏っていない胸の、その中心に手のひらが持っていかれる。
確かな温かさがそこにはあって、とくとくと動く心臓の鼓動を感じられて。
「な?ちゃんと、あったかいだろ?」
「……うん」
当たり前のことが、こんなにも嬉しい。
そう思えば、もっと触れたくなった。シグ、と呼ばれて目を合わせれば、そうすることが自然であるように唇が重なる。
「ん、ぅ」
開かれたそこへ舌を這わせると、小さく声を漏らした。
そのまま、滑らかな肌の感触を味わっていたくて、胸に置いていた手を動かす。
「ん、んんっ、ぁ、ぅ……ふぁ、んっ」
かり、と指先で胸の突起を引っ掻けば、漏れた声は甘ったるいものへと変わった。
指の腹で擦ってみたり、軽く摘んでみたり。くにくにと捏ねるように親指を動かしてみたりすると、そのたびにびくびくと細い体が跳ねる。
「っ、あ、ちょ、っと待っ、て……」
「……舐めていい?」
答えも返事も待たずに押し倒して、赤く固くなったそれを口に含んだ。背中が反って、押しつけるように震えているのは無意識なんだろうか。
ひとしきり口の中での感触を楽しんだ後、舌先で転がす。反った背中に手を回し、指でなぞれば嬌声が溢れた。
「ぁ、あぅっ、んっ」
「なに、背中弱い?」
「ん、んぅ……っ、そ、うみた、い」
「……どんな、感覚?」
小さく震える体に唇で触れながら問いかける。
「ぁ、んっ……ぞ、くって……して……ぅ、あっ」
「ぞくぞくする、だけ?」
「ふ、ぁ……ん、からだ、のなか、きゅうって……なる」
とろりとした目が俺を見て、強請るように腰が揺れた。
それから、あ、と小さく呟き視線を下に向ける。
「っ、ふふ……嬉しい」
現金なもので、俺のそこはしっかりと固く勃ち上がり主張していた。
「おれ、も……触りた、い」
「……今日は、俺にさせて」
耳元に鼻先を擦り寄せて囁くと、少し驚いた気配が伝わってくる。だけどそれも一瞬のことで、すぐに小さな笑いと、いいよ、という甘い声が返ってきた。
「いいとこ、教えてくれよ」
「っ、あ、ぁぅ……っ」
「エディ」
背中から脇腹に手を滑らせる。そのまま腰を捕まえ、滴を垂らす前に触れた。
「え、あ、や、やめっ」
「ふぁんへ」
「そんな、のしなくていい、ってばぁっ」
抗議の声も無視して、揺れるそれを口に含む。
弱々しい手が俺の髪を掴むけれど、そんなもの抵抗にもならない。強く吸い上げ舌を動かすと、泣き出しそうな喘ぎ声に変わっていった。
じゅう、と音を立てれば、びくりと大きく震えて俺の口の中で果てる。
「っ、ん」
「な、っ、なに、なんでっ」
ごくりと飲み干す俺に、焦るエディを見た。
「別に、お前だって飲むだろ」
「おれ、はっ、おまえの、だから……っ、その、えっと」
「……つか、なに?今日、ずいぶん……」
かわいいな、と言いそうになって踏みとどまる。口に出してはいけない気がした。
その代わりに、後ろへと指を伸ばす。
「っあ、ぁ、っ」
「柔らかいな……指、どんどん飲み込まれてく」
かあ、と耳が赤く染まったのがわかった。
小さな笑いを堪えながら、今までの見様見真似で中を広げていく。
「ま、って……いい、から……も、いいからぁっ」
「なんで?俺が、したい。お前の中触って、お前の気持ちいいとこ、探したい」
「や、やめ、っあ!」
耳だけじゃなく、白い肌を全身赤く染めて喉を反らした。ひくりと反応しながら、涙の浮いた目が睨みつけてくる。
「も、いいって……ん、ふぁ、あっ……はや、く挿れ、て……よ、もう……ほし、い……」
「そんな誘うなよ」
「挿れ、たくねぇ、の……?」
ゆっくり指を引き抜いた俺に、足を開いて。
これ、と囁きながら、伸びてきた指が俺自身に絡みついた。
素直すぎるほどに固くなっているそれを、愛おしいものでも触れるように撫でるから、我慢なんかできるはずもなくて。
「……挿れたい」
「ん、いいよ……きて」
細い腰を掴んで、誘うそこに当てがえば、早くと急かすようにひくつくから、ぐっと腰を進める。
「っ、ぁ、ぁあ……っ」
「ん、っ」
「ま、まって、なんか、っ」
俺の腕に、かり、と爪が立てられた。まって、とか細い声で言われれば余計に興奮してしまう。
もっと欲しくて、欲しがられたくて。
冷静に思えば、そんなふうに考えている時点で、俺はもう。
「っあ!あ、だ、だめ、そこだ、めっ」
「いい、の間違い、だろ」
中を擦って、発せられる声に夢中になる。
甘くて高くて蕩けそうなその声を聞きたくて、何度も何度もダメだと言われる場所を執拗に責め立てた。
「も、おれ……ず、っとイ、ってる、からぁ……とま、って、いっか、いやすませ、て……っ」
「……エディ」
「っひぁっ!あ、ぁぅっ!おく、おくきて、っ」
「奥、入って、いいんだ、ろ?」
ぼろ、と涙を落としながら、それでもこくこくと頷く。
悪魔なのに。俺を散々、誘惑して堕とそうとしている悪魔、なのに。
震える手で俺の腕を掴むその姿は、俺に乗っかってきた時よりもよっぽど、扇情的に思えた。
「っぁ……っ、ぅん、っ……ふぁ、ま、さぃ……っ」
「ん……大丈夫か?」
「へ、いき……きもち、いい……」
汗で張り付いた髪を撫でてやれば、うっとりと目を細めて。
「し、ぐは……?きもち、い……?」
「……ああ」
「はふ……う、れし……」
ひどく幸せそうに笑うから、どうしようもなく腹の内側が重たくなる。
本能ののおもむくまま、その体をぐちゃぐちゃに開いてやりたくなって、そんな仄暗い衝動を必死に逃した。
「エディ……こっち、きて」
「っ、ふ……ん、ぅん」
腕を取って首に回させ、背中に手を入れて体を起こす。弱いらしいその背中をなぞると、開いた足が震えた。
「あ、ふか、い……っ」
「ん……ここ、な……俺も、気持ち、いい」
「……おれ、も……ふかい、とこ……すき……」
「あんま、煽んな、って……保たない、から」
ふふ、と笑う口を塞いで、応える舌を吸い上げる。同時に、中が柔らかく締め付けてきて。
「っあ、あぁ、あっ、ぁんっ」
「ま、てって……んな、揺らしたら、っ」
「……がまん、なんか……すんなよ……おれのここ、で、イって……?」
揺らす腰に追い立てられて、奥へどくどくと欲を注ぎ込んだ。
その感覚に体を震わせ、達している爪先が伸びて。反らした喉に柔く噛み付けば、入ったままの中がまた締め付けてくる。
「あ……ぅ」
「っ、気持ち、いいな」
「ん、ふぁ、う……んっ、い、今、うごかな、っ」
「……もう一回、いい?」
拒否なんかしないだろうと思いながら問いかけた。案の定、こくりと頷いて微笑む。
ゆるゆると腰を動かせば、一度出したにも関わらず俺のそこはまた硬度を取り戻し始めた。
「……エディ」
「ん……しぐ……シグルド、すき、だよ」
反射的に出そうになった言葉を飲み込む。
それを悟られないよう、濡れた音のするそこを犯して。結局繋がったまま、さらに二度ぺけの中で果てた。
俺の隣で眠る、その髪をそっと掬う。
もう、どうしようもない。どうしようもないほど、エディと離れられない。
「……情けないな」
許されることが、どんな時でも欲しい言葉をくれることが、醜い感情を肯定してもらえることが。居場所を与えられることが、こんなにも満たされることだなんて知らなかった。
ただ、と思う。
「俺が……」
俺が、お前を好きだと言ったら、どうするんだろうか。
今は俺といるから、歌っていないけれど。また誰かを殺して、町を消すんだろうか。
「……嫌だな」
独り言ばかりが落ちた。
そんなこと、させたくない。して欲しくない。ただ、あの悪魔らしくない屈託のない笑顔でいて欲しい。
それが本能のせいでできないのなら、せめて。誰かを殺すときは、俺のためにだけにしてくれたら。
そうしたら、共にどこまでも堕ちていくのに。
「……ん、む」
「おはよう」
「ん……おは、よ」
エディがうっすら目を開けるから、髪を梳いていた手を離す。
声が少し枯れていた。水でも、とベッドを離れた俺の背中に、いつもの問答が投げられる。
「なぁ、まだ俺のにならない?」
「……気長に口説けよ」
笑いを交えて返した言葉に聞こえる苦笑。
いつか歌を、こいつの歌を聞きたいと思ってしまいそうな自分が。人が死んで町が消えても、好きに歌って欲しいと思ってしまいそうな自分が、怖い。
「ちぇ、まだ駄目かぁ」
「ほら水。ま、がんばれよ」
だから、俺は蓋をする。
もうお前のものだと言いたい気持ちと、お前が俺のものになれよという言葉を、必死に押し込んで、蓋をするんだ。
ぽたりと俺の髪から水滴が落ちて、くすぐったそうに身を捩った。
「少しは落ち着いた?」
「……ああ」
「ごめんな」
そう言う声は、少し暗い。だから、小さく首を横に振る。
床に座り込んで、肉の無い太ももに頭を乗せて。撫でてくれる手に、目を閉じた。
「シグが気に病むことは、なんにもないよ」
そんなはずはないのに、エディはこうして俺を甘やかす。
「俺がムカついたから、俺が壊しただけ。お前はなんにも悪くない」
母親が子供に言い聞かせるように、俺の固い髪を撫でながら。
大丈夫だよ、と何度も繰り返すから、腕を細い腰に回した。
ちらりと視線を上に向ける。
エディ、と呼べばそれだけで俺が何を欲しているのか理解して、軽く体をかがめた唇が額に触れた。
「何か、話したい?それとも、セックスする?」
「……もうちょっと、いい誘い文句ないのかよ」
呆れながら体を起こし立ち上がる。
ふふ、と笑うエディをベッドに押し倒して、だけど何をするでもなく。その体を跨いで、ベッドの奥に寝転がった。
「シーグ。シグルド、おいで」
「……ん」
そんな俺のことなんか全部わかってて。横向きになったエディは両手を広げるから、その中に頭と体をもぐり込ませる。
ゆるく抱きしめながらも、頭を撫で続けられて、俺は黙ったままその体にすり寄った。
どれぐらい、そうしていたんだろう。俺が顔を動かすのに合わせたように、エディの手が頬に触れる。
「好きだよ」
俺が欲しいと思った言葉を、ひどく優しい声で言うと、泣き出しそうになった目尻にも唇を落とされた。
きっと、こいつは。俺が何をしても、どれだけ情けなくても、そうやって欲しい言葉をくれるんじゃないか、なんて考える。
「あいつ、さ」
ぼそりと呟いた俺に、うん、という声。ただの相槌なのに、もっと聞きたいと思うような声で。
「昔、俺の家の隣に住んでたやつなんだ」
「家って、あの町の?」
「いや、違う」
否定すれば、不思議そうに首を傾げた。
「もともと……違う町に、住んでて。ガキんときだった、から、町の名前なんか覚えてないんだけど」
「そっか」
「……それで、俺と、両親と……あと、鳥を、飼ってた。黄色い中に、綺麗な緑色の羽を持った……透き通った声で鳴く、鳥、で」
思い出せるのはそれだけだ。俺なりにかわいがっていたはずなのに、薄情だななんて思った。
「俺、は……ガキの頃、他の奴らよりも細くて小さくて、いっつもいじめられてばっかりで。あいつはそのリーダー格で……」
「……シグ、辛いならいいよ?」
「話したいんだよ。聞いてくれよ」
俺を甘やかす言葉に、首を横に振る。わかったよ、という声に少なからず安堵した。
「何歳くらいだったっけかな……あいつに、飼ってた鳥を殺された」
「……そんなことができるタイプでもなさそうだったけど」
「直接じゃ、ないんだ。連れてくるように言われて……逆らえなくて。当たり前のように籠から出されて、それで……飛ばそうぜって」
飛べないように風切り羽を切られていたその鳥は、投げられて地面に落ちて。
「その時はまだ生きてて……でも、野良猫が」
「……うん」
指先が俺の髪に入ってきて、優しく梳く。その動きから、大丈夫かという気遣いが伝わってきて、抱きついている両腕に力を込めた。
「……そのとき、頭が真っ白になって。気付いたらぶん殴ってた」
「やるじゃん」
「……でも、あいつ、町の権力者の息子で」
よくある話だ。
自分が悪いくせに親に泣きついたあいつのせいで、両親ともども町にいられなくなって。
あちこちを転々として、俺が働ける年齢になったころ、立て続けに両親は他界した。まだ若かったから、多大な心労のせいだろうことは想像に難くない。
「……もう、大丈夫だよ。お前が傷つくことから、全部俺が守ってやるから」
「あんまり……甘やかすなよ……」
「いいんだよ、俺が甘やかしてやりたいの」
撫でていた手を止めて、お返しみたいにきゅうと抱きしめてくるから。
否定なんて建前でしかないことを思い知るとともに、もっと許して欲しくて。甘えさせて欲しくて、エディの顔を見上げる。
「いいよ。手、貸して?」
「……俺、は」
「ほら、服、脱がして……今だけでも、全部忘れていいから」
微笑む口が近づいて、俺の鼻先に触れた。唇だけで噛んだそれが離れて、にこりと笑う。
言われた通りに服を一枚一枚剥がし終わると、今度は逆にエディが俺の服を脱がし始めた。
緩く反応を示しているそこを、そっと指先が撫でていく。それから、ゆっくり口を開くと。
「っ……ふ、ぅ」
「ぁ、う」
まだ幾分柔らかいそれを咥えられて、思わず声が漏れた。
水音が響く。俺の股間で揺れる頭が、不満そうに上げられた。
「んー……反応、悪いね」
「……やっぱ、今日はやめとく……悪い」
座ってかくん、と首を傾げたエディの体を離そうと、両肩に手を置く。
けれど視線を軽く泳がせて、それから何か思いついたのか、俺のその手を取った。
「じゃあ、シグが触って」
「……え」
「俺のこと、好きに触ってみてよ。そんでそういう気にならないなら、抱き合って眠ろう。俺の、体温だけ……感じてくれればいいから」
ぺたり、と。何も纏っていない胸の、その中心に手のひらが持っていかれる。
確かな温かさがそこにはあって、とくとくと動く心臓の鼓動を感じられて。
「な?ちゃんと、あったかいだろ?」
「……うん」
当たり前のことが、こんなにも嬉しい。
そう思えば、もっと触れたくなった。シグ、と呼ばれて目を合わせれば、そうすることが自然であるように唇が重なる。
「ん、ぅ」
開かれたそこへ舌を這わせると、小さく声を漏らした。
そのまま、滑らかな肌の感触を味わっていたくて、胸に置いていた手を動かす。
「ん、んんっ、ぁ、ぅ……ふぁ、んっ」
かり、と指先で胸の突起を引っ掻けば、漏れた声は甘ったるいものへと変わった。
指の腹で擦ってみたり、軽く摘んでみたり。くにくにと捏ねるように親指を動かしてみたりすると、そのたびにびくびくと細い体が跳ねる。
「っ、あ、ちょ、っと待っ、て……」
「……舐めていい?」
答えも返事も待たずに押し倒して、赤く固くなったそれを口に含んだ。背中が反って、押しつけるように震えているのは無意識なんだろうか。
ひとしきり口の中での感触を楽しんだ後、舌先で転がす。反った背中に手を回し、指でなぞれば嬌声が溢れた。
「ぁ、あぅっ、んっ」
「なに、背中弱い?」
「ん、んぅ……っ、そ、うみた、い」
「……どんな、感覚?」
小さく震える体に唇で触れながら問いかける。
「ぁ、んっ……ぞ、くって……して……ぅ、あっ」
「ぞくぞくする、だけ?」
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それから、あ、と小さく呟き視線を下に向ける。
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現金なもので、俺のそこはしっかりと固く勃ち上がり主張していた。
「おれ、も……触りた、い」
「……今日は、俺にさせて」
耳元に鼻先を擦り寄せて囁くと、少し驚いた気配が伝わってくる。だけどそれも一瞬のことで、すぐに小さな笑いと、いいよ、という甘い声が返ってきた。
「いいとこ、教えてくれよ」
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「エディ」
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じゅう、と音を立てれば、びくりと大きく震えて俺の口の中で果てる。
「っ、ん」
「な、っ、なに、なんでっ」
ごくりと飲み干す俺に、焦るエディを見た。
「別に、お前だって飲むだろ」
「おれ、はっ、おまえの、だから……っ、その、えっと」
「……つか、なに?今日、ずいぶん……」
かわいいな、と言いそうになって踏みとどまる。口に出してはいけない気がした。
その代わりに、後ろへと指を伸ばす。
「っあ、ぁ、っ」
「柔らかいな……指、どんどん飲み込まれてく」
かあ、と耳が赤く染まったのがわかった。
小さな笑いを堪えながら、今までの見様見真似で中を広げていく。
「ま、って……いい、から……も、いいからぁっ」
「なんで?俺が、したい。お前の中触って、お前の気持ちいいとこ、探したい」
「や、やめ、っあ!」
耳だけじゃなく、白い肌を全身赤く染めて喉を反らした。ひくりと反応しながら、涙の浮いた目が睨みつけてくる。
「も、いいって……ん、ふぁ、あっ……はや、く挿れ、て……よ、もう……ほし、い……」
「そんな誘うなよ」
「挿れ、たくねぇ、の……?」
ゆっくり指を引き抜いた俺に、足を開いて。
これ、と囁きながら、伸びてきた指が俺自身に絡みついた。
素直すぎるほどに固くなっているそれを、愛おしいものでも触れるように撫でるから、我慢なんかできるはずもなくて。
「……挿れたい」
「ん、いいよ……きて」
細い腰を掴んで、誘うそこに当てがえば、早くと急かすようにひくつくから、ぐっと腰を進める。
「っ、ぁ、ぁあ……っ」
「ん、っ」
「ま、まって、なんか、っ」
俺の腕に、かり、と爪が立てられた。まって、とか細い声で言われれば余計に興奮してしまう。
もっと欲しくて、欲しがられたくて。
冷静に思えば、そんなふうに考えている時点で、俺はもう。
「っあ!あ、だ、だめ、そこだ、めっ」
「いい、の間違い、だろ」
中を擦って、発せられる声に夢中になる。
甘くて高くて蕩けそうなその声を聞きたくて、何度も何度もダメだと言われる場所を執拗に責め立てた。
「も、おれ……ず、っとイ、ってる、からぁ……とま、って、いっか、いやすませ、て……っ」
「……エディ」
「っひぁっ!あ、ぁぅっ!おく、おくきて、っ」
「奥、入って、いいんだ、ろ?」
ぼろ、と涙を落としながら、それでもこくこくと頷く。
悪魔なのに。俺を散々、誘惑して堕とそうとしている悪魔、なのに。
震える手で俺の腕を掴むその姿は、俺に乗っかってきた時よりもよっぽど、扇情的に思えた。
「っぁ……っ、ぅん、っ……ふぁ、ま、さぃ……っ」
「ん……大丈夫か?」
「へ、いき……きもち、いい……」
汗で張り付いた髪を撫でてやれば、うっとりと目を細めて。
「し、ぐは……?きもち、い……?」
「……ああ」
「はふ……う、れし……」
ひどく幸せそうに笑うから、どうしようもなく腹の内側が重たくなる。
本能ののおもむくまま、その体をぐちゃぐちゃに開いてやりたくなって、そんな仄暗い衝動を必死に逃した。
「エディ……こっち、きて」
「っ、ふ……ん、ぅん」
腕を取って首に回させ、背中に手を入れて体を起こす。弱いらしいその背中をなぞると、開いた足が震えた。
「あ、ふか、い……っ」
「ん……ここ、な……俺も、気持ち、いい」
「……おれ、も……ふかい、とこ……すき……」
「あんま、煽んな、って……保たない、から」
ふふ、と笑う口を塞いで、応える舌を吸い上げる。同時に、中が柔らかく締め付けてきて。
「っあ、あぁ、あっ、ぁんっ」
「ま、てって……んな、揺らしたら、っ」
「……がまん、なんか……すんなよ……おれのここ、で、イって……?」
揺らす腰に追い立てられて、奥へどくどくと欲を注ぎ込んだ。
その感覚に体を震わせ、達している爪先が伸びて。反らした喉に柔く噛み付けば、入ったままの中がまた締め付けてくる。
「あ……ぅ」
「っ、気持ち、いいな」
「ん、ふぁ、う……んっ、い、今、うごかな、っ」
「……もう一回、いい?」
拒否なんかしないだろうと思いながら問いかけた。案の定、こくりと頷いて微笑む。
ゆるゆると腰を動かせば、一度出したにも関わらず俺のそこはまた硬度を取り戻し始めた。
「……エディ」
「ん……しぐ……シグルド、すき、だよ」
反射的に出そうになった言葉を飲み込む。
それを悟られないよう、濡れた音のするそこを犯して。結局繋がったまま、さらに二度ぺけの中で果てた。
俺の隣で眠る、その髪をそっと掬う。
もう、どうしようもない。どうしようもないほど、エディと離れられない。
「……情けないな」
許されることが、どんな時でも欲しい言葉をくれることが、醜い感情を肯定してもらえることが。居場所を与えられることが、こんなにも満たされることだなんて知らなかった。
ただ、と思う。
「俺が……」
俺が、お前を好きだと言ったら、どうするんだろうか。
今は俺といるから、歌っていないけれど。また誰かを殺して、町を消すんだろうか。
「……嫌だな」
独り言ばかりが落ちた。
そんなこと、させたくない。して欲しくない。ただ、あの悪魔らしくない屈託のない笑顔でいて欲しい。
それが本能のせいでできないのなら、せめて。誰かを殺すときは、俺のためにだけにしてくれたら。
そうしたら、共にどこまでも堕ちていくのに。
「……ん、む」
「おはよう」
「ん……おは、よ」
エディがうっすら目を開けるから、髪を梳いていた手を離す。
声が少し枯れていた。水でも、とベッドを離れた俺の背中に、いつもの問答が投げられる。
「なぁ、まだ俺のにならない?」
「……気長に口説けよ」
笑いを交えて返した言葉に聞こえる苦笑。
いつか歌を、こいつの歌を聞きたいと思ってしまいそうな自分が。人が死んで町が消えても、好きに歌って欲しいと思ってしまいそうな自分が、怖い。
「ちぇ、まだ駄目かぁ」
「ほら水。ま、がんばれよ」
だから、俺は蓋をする。
もうお前のものだと言いたい気持ちと、お前が俺のものになれよという言葉を、必死に押し込んで、蓋をするんだ。
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