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壁にかけられたカレンダーに目をやる。それから、冷蔵庫の中から水のペットボトルを三本ほど出した。
あとは、と考えて。一度そのペットボトルたちを寝室のテーブルに置いてから、大きめのバスタオルを二枚と、フェイスタオルも五枚ほど持っていくことにする。
「……え、っと」
ベッドの上のエディが、きまり悪そうにつぶやいた。
「あの、シグ」
「ん?そういやお前、リーンから何かもらってたな」
「ふぇ?!」
動揺のあまりか自分でも思ってもみなかった声が出たらしく、あわあわと手を動かす。
俺もベッドに腰掛けて、緩やかに髪を撫でてやると短く息を吐いた。ほんのり染まった頬がかわいい。
「え、ええっと、えっと、これ」
言って、取り出してみせたのは小さな瓶だ。中には透明な液体が入っていて、大した量もないそれはちゃぷん、と音を立てる。
「なに?それ」
問えば、さっきまでほんのりと乗っていた朱が一瞬にして広がった。爆発するんじゃないかっていうぐらい顔を赤くしたエディは、その瓶を迷ったあげくに俺に差し出す。
「え、えと、その、えっと」
「毒とかじゃないよな」
「あ、ああたりまえ、だろ?!」
少しからかえば、もう、と頬を膨らませて。
俺の前に突如現れたときの面影などもう見当たらないその表情が、愛しいと改めて思った。
「え、っと……せ、精力剤、っていうか、媚薬、っていうか……だって」
「俺に?」
「う、うん。その、俺が元悪魔で――今、そっちに、引きずられかけてるんだったら、その、人間のお前のほうが、キツいかも、って言って、たんだけど……」
語尾がどんどん小さくなっていく。同時に、上目使いで睨まれた。
そんなことをされてもただただかわいいだけなんだけれども、本人はどうもわかっていないらしい。
というか、ただでさえ普段絶倫と罵ってくるくせに、そんなものを渡そうとするあたり。
「なあ、本当にそれ必要だと思う?」
「え、あ、えっと」
「けっこう久しぶりになるけど」
軽く手首を掴んで引き寄せて、耳元で囁いた。
人間と悪魔の生態を研究しているというリーンによれば、エディの症状は体が勝手に、悪魔に戻ろうとしているとの事だった。
悪魔から人間になったり、人間から悪魔になったりするやつの中では意外と珍しくないらしく。そういった対象に、一定の期間が過ぎたのちとある条件が重なると起きる症状だと言われて。
そのとある条件とやらを、俺たちはうっかり満たしてしまったのだ。
エディの目が泳ぐ。震える手の平から、例の小さな瓶を奪い取った。
「何日だっけ?」
「えっと……俺が、寝込んだのが五日前だから、さらに、その前、だよな」
「てことはやっぱ俺の出張が原因か。難儀な体だなぁ」
「声が!嬉しそうなんだよ!」
クッションが飛んでくるから、笑って受け止める。
そもそも。そもそも、エディが人間になったのは、俺の体液のせいなのだとリーンは言った。
横で真っ赤な顔をしたアレクの補足説明を聞く限り、要は俺がエディをずっと抱いていたせいで、人間の体液が体内で吸収され――難しいことはよくわからないが、とにかくそういうことらしくて。
つまり、何日も何日も俺がこいつを抱かないままでいると、体が勝手に反応し悪魔の性質に戻ろうとしてしまうのだとか。
「五日前に一回でもしとけば良かったな」
「……心配、してくれたから、だろ」
ちょうどエディが寝込む前、俺に少し大きな仕事が入った。
そのせいで、約三週間ほど家には帰れず、あちこち飛び回って写真を撮っていたわけだけれど。
帰ってきたその日はもう疲れ果てて、苦笑するエディの作った飯を食ってシャワーを浴びて、気づいたら眠ってしまっていた。
翌朝目が覚めて、だけど何もしなかった日にしては珍しくエディが起きてこなくて。朝飯を作って起こしにきたら、手足がひどく冷たくなっていて、だるい、とこぼしたのだ。
そこから五日が経っている。つまり、俺がエディに何もしていない日数、二十五日。
「……いるか?これ」
正直媚薬だか精力剤だか知らないが、必要さを感じない。
普段からそうと言われればそうだけれども、今ならどれだけでも何回でもエディを抱ける気がした。
「い、一応だろ……腹上死なんかされたく、ねぇもん」
「腹上死か。それもずいぶん幸せな死に方だけどさ」
にや、と笑って。
いいことを思いついたので、その小さな瓶を開ける。
唇を付けて中身を一気に口の中に入れると、ベッドの上のエディに触れた。
不思議そうに見上げてくる顔を上向かせて、半開きの口を自分のそれで塞ぐ。驚いた気配が伝わってきたものの、案外素直に俺の舌を受け入れようと口が開いた。
「んんっ?!」
それをいいことに、飲み下さずにいた口の中の液体をエディの方へと移す。
だいたい半分ぐらいになったところで、白い喉が上下するのを確認し、ゆっくり離れた。俺の口の中に残った分は自分で飲み込む。
「っ、な、おま、なっ」
「いつもお前のほうが先に泣き言言うじゃん。飲んどいたほうがいいんじゃないかと思って。半分こな」
「ば、ばか、ばかぁあっ」
泣き出しそうな声の罵倒は聞こえないふりをして。
俺は家のカーテンを閉め、玄関の戸締りを確認し。よし、と気合を入れ直すのだった。
つう、と指先で背中をなぞればがくがくと震えて。
「何、またイったの?」
「……っあ゛、ぅ……ん、っ」
枕に落とした顔が見えない。ふ、と笑って首筋に噛みついた。
「や……い、た……」
「好きだろ?」
「いた、いの……や、だぁ……」
両腕を腹のところに入れて、力をこめ引き上げる。
逃げようともがく体は脱力して、きっと思い通りに動きはしないんだろう。もどかしそうに、伸ばした指先がかろうじてシーツを掴んだ。
「っあ、や、これ……や」
ふる、と首を横に振るそれの動きだけで、中がうねる。繋がったままのそこをもっと深くと強請り、腰を浮かせた。
「ひ、ぅうっ、あぁ、あ゛、っ」
軽く揺さぶっただけでも、今にも飛びそうな声を零して。
ぼろぼろと泣きながら、抗えない快楽に押し流されている細い体を抱きしめる。
「深いの、やだ?」
「っ、あぁ……や……」
「ほんとに?」
「きもち、よすぎ、て……や、だ」
ぞく、と俺の背中を何かが駆け上がっていって。
「そんな、煽ってくる、くせに」
「や、やだぁあ、あ、やだ、って、言ってっ」
「嘘つけ」
ぐ、と引き寄せてより深く繋がろうと動かせば、それでまた達した。
虚空を見つめ、意味のない声だけを落とす。
どくりと震えて中に吐き出せば、一生懸命にそれを受け止めてくれて。
「……ふ、ぁ……う」
「大丈夫か?」
汗で張り付いた髪を軽く撫でて、唇を落とした。ぴく、と睫毛を揺らし、俺の手を軽く引っ掻く。
「も、いい……からぁ……もぅ、だいじょ、ぶ、だから……」
「――手、貸して」
ずるりと俺自身をエディの中から引き抜いて、だけど体はそのままに寄りかからせて。くったりとした手を取って、その体温を確かめた。
体の内側はひどく熱いのに。
「まだ冷たい」
「っあ、ま、まって」
「冷たいってことは、まだ足りてないんだろ?」
体をひっくり返して抱きしめる。
自分で自分の体を支えられないらしく、顎が肩に乗って、体重を預けてきた。
「ほら、足もまだ冷たい」
「し、しらな……とに、かく、ちょっと休ませ、て」
「水、いる?」
こく、と俺の肩で頷く。
体をずらしてその場に横たわらせ、腕を伸ばすとサイドテーブルの上にあるペットボトルを取り蓋を開けた。
そのままエディに渡そうとするけれど、その手は力が入らないのか震えていて。
苦笑して体を起こしてやり、半分寄りかからせる。
「口開けて。持っててやるから」
「ん……」
薄く開いたそこにペットボトルの口を押し付け、ゆっくり傾けた。こくこくと喉が上下して、ちゃんと飲めていることに少なからず安心する。
ただ、やはり自分で飲むのとは勝手が違うからか、唇の端から水が零れ顎を伝った。
「俺にもちょうだい」
「ん」
エディが口を離したペットボトルをそのままもらい、一気に喉に流す。
勢いよく飲んだせいで、俺の口からも少しこぼれてしまって。剥き出しの腕で拭おうとすると、やんわりとエディに止められた。
どうした、と聞こうとするより早くその顔が近づいてきて、こぼれた水を舐める。
「お、おい」
「ん……も、ちょっと……ほし、い」
「欲しい?」
「……うん」
何を、とは聞かずに好きにさせてやる。
猫や犬がそうするように、俺の首筋をひとしきり舐めて満足したのか、ありがと、と言って離れようとするその手首を掴んだ。
「で、わざと?」
「え」
軽く引くだけで、簡単に細い体は倒れる。蓋を閉めておいてよかったと思いながら、まだ中身の残っているペットボトルをベッドの床に放った。
「手」
「あ、う、うん」
言えば、素直に差し出す。両手を取って体温を確かめて、それがいつもの状態に戻っていることがわかって。
ほっと安堵の息を吐くと、だから大丈夫だって言ったじゃん、と抗議の声が俺の下からした。
まったくもって、厄介だ。俺が安心したことが、こんなにもあっさりバレてしまうのだから。
エディの抗議には答えず、今度は足に触れる。ぴく、と跳ねたものの大人しくされるがままになっているので、爪先の温度も確かめた。
「……こっち、まだ冷たいな」
「うそ、って、こら、や、ぁあっ」
そのまま片足を持ち上げて肩に引っ掻けて、散々煽られたせいでまた勃ち上がった俺自身を沈めていく。
「や、っ……あ、し、あし、おろし……って、これ、これふかいぃっ」
「好きだろ、奥。ここ入って、もっと出してやるから飲んで」
「っ、おま、っな、なに、っ」
文句の声はすぐに嬌声へと変わる。
エディの体の一番奥まで入って、腰を揺らせば泣き声のように喘いだ。
びくびくと跳ねる腰を抑えつけ、にやりと笑って動きを止める。
「もっと聞かせてよ、お前の声」
「っひ、う……な、に言って……」
ゆるゆると前を擦って、だけど中のいいところは避けて。ゆっくりゆっくり焦らして溶かす。
揺れようとする腰は許さずに、俺の動きだけで感じるように。
「や、やぁ、やああっ」
「もっと声出して」
「ひ、ぅうっ!あ、ぁ……あ、ぅあ゛……」
強くしたり、弱くしたり。
与える刺激を調整してやれば、もう何度も達した後の体は敏感に反応した。
「――エディ」
低く耳元で呼べば、ふわふわとした目が俺を見て。
「好き」
「っあ!あ……っ」
「エディは?」
ちゅう、と首筋に吸い付いてその言葉を強請る。
その間も、手と腰は止めない。柔らかく追い詰めていけば、どろりと蕩けた顔がそこにあった。
「す、き」
「もう一回」
「ぁ、あああっ!あ、あぅ……っ、あ、す、すき、すきぃ……っ」
その表情が合図だ。
内側がきゅうきゅうと疼いて、爪先が丸まって。何をしてもされても、甘くイき続けるエディの声が、俺の脳内を犯していく。
「し、ぐっ……ぁあ゛っ、あー……っ、すき、すき……っ、もっと、ほし……っ」
「ここ?」
「ん、んうっ、う、んっ……すき、そこ……っ」
言われなくてもわかるぐらいに、全身を震わせる姿が愛しい。何度も好きだと耳に吹き込めば、それに反応して、シーツを掴む指先に力が入った。
「こら、怪我すんぞ」
「ぁ、あ゛っ、あ、あー……っ」
その手の上に自分のそれを添えて撫でる。外すためのそんな動きにすら感じて、達して。たぶん、俺の声ももう聴こえていない。
ぎゅ、と握り込んだその手と。持ち上げたままだった足が、ちゃんと温かくなっているのを確認してから、エディの一番奥で俺ももう一度果てた。
あとは、と考えて。一度そのペットボトルたちを寝室のテーブルに置いてから、大きめのバスタオルを二枚と、フェイスタオルも五枚ほど持っていくことにする。
「……え、っと」
ベッドの上のエディが、きまり悪そうにつぶやいた。
「あの、シグ」
「ん?そういやお前、リーンから何かもらってたな」
「ふぇ?!」
動揺のあまりか自分でも思ってもみなかった声が出たらしく、あわあわと手を動かす。
俺もベッドに腰掛けて、緩やかに髪を撫でてやると短く息を吐いた。ほんのり染まった頬がかわいい。
「え、ええっと、えっと、これ」
言って、取り出してみせたのは小さな瓶だ。中には透明な液体が入っていて、大した量もないそれはちゃぷん、と音を立てる。
「なに?それ」
問えば、さっきまでほんのりと乗っていた朱が一瞬にして広がった。爆発するんじゃないかっていうぐらい顔を赤くしたエディは、その瓶を迷ったあげくに俺に差し出す。
「え、えと、その、えっと」
「毒とかじゃないよな」
「あ、ああたりまえ、だろ?!」
少しからかえば、もう、と頬を膨らませて。
俺の前に突如現れたときの面影などもう見当たらないその表情が、愛しいと改めて思った。
「え、っと……せ、精力剤、っていうか、媚薬、っていうか……だって」
「俺に?」
「う、うん。その、俺が元悪魔で――今、そっちに、引きずられかけてるんだったら、その、人間のお前のほうが、キツいかも、って言って、たんだけど……」
語尾がどんどん小さくなっていく。同時に、上目使いで睨まれた。
そんなことをされてもただただかわいいだけなんだけれども、本人はどうもわかっていないらしい。
というか、ただでさえ普段絶倫と罵ってくるくせに、そんなものを渡そうとするあたり。
「なあ、本当にそれ必要だと思う?」
「え、あ、えっと」
「けっこう久しぶりになるけど」
軽く手首を掴んで引き寄せて、耳元で囁いた。
人間と悪魔の生態を研究しているというリーンによれば、エディの症状は体が勝手に、悪魔に戻ろうとしているとの事だった。
悪魔から人間になったり、人間から悪魔になったりするやつの中では意外と珍しくないらしく。そういった対象に、一定の期間が過ぎたのちとある条件が重なると起きる症状だと言われて。
そのとある条件とやらを、俺たちはうっかり満たしてしまったのだ。
エディの目が泳ぐ。震える手の平から、例の小さな瓶を奪い取った。
「何日だっけ?」
「えっと……俺が、寝込んだのが五日前だから、さらに、その前、だよな」
「てことはやっぱ俺の出張が原因か。難儀な体だなぁ」
「声が!嬉しそうなんだよ!」
クッションが飛んでくるから、笑って受け止める。
そもそも。そもそも、エディが人間になったのは、俺の体液のせいなのだとリーンは言った。
横で真っ赤な顔をしたアレクの補足説明を聞く限り、要は俺がエディをずっと抱いていたせいで、人間の体液が体内で吸収され――難しいことはよくわからないが、とにかくそういうことらしくて。
つまり、何日も何日も俺がこいつを抱かないままでいると、体が勝手に反応し悪魔の性質に戻ろうとしてしまうのだとか。
「五日前に一回でもしとけば良かったな」
「……心配、してくれたから、だろ」
ちょうどエディが寝込む前、俺に少し大きな仕事が入った。
そのせいで、約三週間ほど家には帰れず、あちこち飛び回って写真を撮っていたわけだけれど。
帰ってきたその日はもう疲れ果てて、苦笑するエディの作った飯を食ってシャワーを浴びて、気づいたら眠ってしまっていた。
翌朝目が覚めて、だけど何もしなかった日にしては珍しくエディが起きてこなくて。朝飯を作って起こしにきたら、手足がひどく冷たくなっていて、だるい、とこぼしたのだ。
そこから五日が経っている。つまり、俺がエディに何もしていない日数、二十五日。
「……いるか?これ」
正直媚薬だか精力剤だか知らないが、必要さを感じない。
普段からそうと言われればそうだけれども、今ならどれだけでも何回でもエディを抱ける気がした。
「い、一応だろ……腹上死なんかされたく、ねぇもん」
「腹上死か。それもずいぶん幸せな死に方だけどさ」
にや、と笑って。
いいことを思いついたので、その小さな瓶を開ける。
唇を付けて中身を一気に口の中に入れると、ベッドの上のエディに触れた。
不思議そうに見上げてくる顔を上向かせて、半開きの口を自分のそれで塞ぐ。驚いた気配が伝わってきたものの、案外素直に俺の舌を受け入れようと口が開いた。
「んんっ?!」
それをいいことに、飲み下さずにいた口の中の液体をエディの方へと移す。
だいたい半分ぐらいになったところで、白い喉が上下するのを確認し、ゆっくり離れた。俺の口の中に残った分は自分で飲み込む。
「っ、な、おま、なっ」
「いつもお前のほうが先に泣き言言うじゃん。飲んどいたほうがいいんじゃないかと思って。半分こな」
「ば、ばか、ばかぁあっ」
泣き出しそうな声の罵倒は聞こえないふりをして。
俺は家のカーテンを閉め、玄関の戸締りを確認し。よし、と気合を入れ直すのだった。
つう、と指先で背中をなぞればがくがくと震えて。
「何、またイったの?」
「……っあ゛、ぅ……ん、っ」
枕に落とした顔が見えない。ふ、と笑って首筋に噛みついた。
「や……い、た……」
「好きだろ?」
「いた、いの……や、だぁ……」
両腕を腹のところに入れて、力をこめ引き上げる。
逃げようともがく体は脱力して、きっと思い通りに動きはしないんだろう。もどかしそうに、伸ばした指先がかろうじてシーツを掴んだ。
「っあ、や、これ……や」
ふる、と首を横に振るそれの動きだけで、中がうねる。繋がったままのそこをもっと深くと強請り、腰を浮かせた。
「ひ、ぅうっ、あぁ、あ゛、っ」
軽く揺さぶっただけでも、今にも飛びそうな声を零して。
ぼろぼろと泣きながら、抗えない快楽に押し流されている細い体を抱きしめる。
「深いの、やだ?」
「っ、あぁ……や……」
「ほんとに?」
「きもち、よすぎ、て……や、だ」
ぞく、と俺の背中を何かが駆け上がっていって。
「そんな、煽ってくる、くせに」
「や、やだぁあ、あ、やだ、って、言ってっ」
「嘘つけ」
ぐ、と引き寄せてより深く繋がろうと動かせば、それでまた達した。
虚空を見つめ、意味のない声だけを落とす。
どくりと震えて中に吐き出せば、一生懸命にそれを受け止めてくれて。
「……ふ、ぁ……う」
「大丈夫か?」
汗で張り付いた髪を軽く撫でて、唇を落とした。ぴく、と睫毛を揺らし、俺の手を軽く引っ掻く。
「も、いい……からぁ……もぅ、だいじょ、ぶ、だから……」
「――手、貸して」
ずるりと俺自身をエディの中から引き抜いて、だけど体はそのままに寄りかからせて。くったりとした手を取って、その体温を確かめた。
体の内側はひどく熱いのに。
「まだ冷たい」
「っあ、ま、まって」
「冷たいってことは、まだ足りてないんだろ?」
体をひっくり返して抱きしめる。
自分で自分の体を支えられないらしく、顎が肩に乗って、体重を預けてきた。
「ほら、足もまだ冷たい」
「し、しらな……とに、かく、ちょっと休ませ、て」
「水、いる?」
こく、と俺の肩で頷く。
体をずらしてその場に横たわらせ、腕を伸ばすとサイドテーブルの上にあるペットボトルを取り蓋を開けた。
そのままエディに渡そうとするけれど、その手は力が入らないのか震えていて。
苦笑して体を起こしてやり、半分寄りかからせる。
「口開けて。持っててやるから」
「ん……」
薄く開いたそこにペットボトルの口を押し付け、ゆっくり傾けた。こくこくと喉が上下して、ちゃんと飲めていることに少なからず安心する。
ただ、やはり自分で飲むのとは勝手が違うからか、唇の端から水が零れ顎を伝った。
「俺にもちょうだい」
「ん」
エディが口を離したペットボトルをそのままもらい、一気に喉に流す。
勢いよく飲んだせいで、俺の口からも少しこぼれてしまって。剥き出しの腕で拭おうとすると、やんわりとエディに止められた。
どうした、と聞こうとするより早くその顔が近づいてきて、こぼれた水を舐める。
「お、おい」
「ん……も、ちょっと……ほし、い」
「欲しい?」
「……うん」
何を、とは聞かずに好きにさせてやる。
猫や犬がそうするように、俺の首筋をひとしきり舐めて満足したのか、ありがと、と言って離れようとするその手首を掴んだ。
「で、わざと?」
「え」
軽く引くだけで、簡単に細い体は倒れる。蓋を閉めておいてよかったと思いながら、まだ中身の残っているペットボトルをベッドの床に放った。
「手」
「あ、う、うん」
言えば、素直に差し出す。両手を取って体温を確かめて、それがいつもの状態に戻っていることがわかって。
ほっと安堵の息を吐くと、だから大丈夫だって言ったじゃん、と抗議の声が俺の下からした。
まったくもって、厄介だ。俺が安心したことが、こんなにもあっさりバレてしまうのだから。
エディの抗議には答えず、今度は足に触れる。ぴく、と跳ねたものの大人しくされるがままになっているので、爪先の温度も確かめた。
「……こっち、まだ冷たいな」
「うそ、って、こら、や、ぁあっ」
そのまま片足を持ち上げて肩に引っ掻けて、散々煽られたせいでまた勃ち上がった俺自身を沈めていく。
「や、っ……あ、し、あし、おろし……って、これ、これふかいぃっ」
「好きだろ、奥。ここ入って、もっと出してやるから飲んで」
「っ、おま、っな、なに、っ」
文句の声はすぐに嬌声へと変わる。
エディの体の一番奥まで入って、腰を揺らせば泣き声のように喘いだ。
びくびくと跳ねる腰を抑えつけ、にやりと笑って動きを止める。
「もっと聞かせてよ、お前の声」
「っひ、う……な、に言って……」
ゆるゆると前を擦って、だけど中のいいところは避けて。ゆっくりゆっくり焦らして溶かす。
揺れようとする腰は許さずに、俺の動きだけで感じるように。
「や、やぁ、やああっ」
「もっと声出して」
「ひ、ぅうっ!あ、ぁ……あ、ぅあ゛……」
強くしたり、弱くしたり。
与える刺激を調整してやれば、もう何度も達した後の体は敏感に反応した。
「――エディ」
低く耳元で呼べば、ふわふわとした目が俺を見て。
「好き」
「っあ!あ……っ」
「エディは?」
ちゅう、と首筋に吸い付いてその言葉を強請る。
その間も、手と腰は止めない。柔らかく追い詰めていけば、どろりと蕩けた顔がそこにあった。
「す、き」
「もう一回」
「ぁ、あああっ!あ、あぅ……っ、あ、す、すき、すきぃ……っ」
その表情が合図だ。
内側がきゅうきゅうと疼いて、爪先が丸まって。何をしてもされても、甘くイき続けるエディの声が、俺の脳内を犯していく。
「し、ぐっ……ぁあ゛っ、あー……っ、すき、すき……っ、もっと、ほし……っ」
「ここ?」
「ん、んうっ、う、んっ……すき、そこ……っ」
言われなくてもわかるぐらいに、全身を震わせる姿が愛しい。何度も好きだと耳に吹き込めば、それに反応して、シーツを掴む指先に力が入った。
「こら、怪我すんぞ」
「ぁ、あ゛っ、あ、あー……っ」
その手の上に自分のそれを添えて撫でる。外すためのそんな動きにすら感じて、達して。たぶん、俺の声ももう聴こえていない。
ぎゅ、と握り込んだその手と。持ち上げたままだった足が、ちゃんと温かくなっているのを確認してから、エディの一番奥で俺ももう一度果てた。
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不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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