13 / 20
13
しおりを挟む
よし、と笑って鏡の中を見る。
俺とは違う、不安そうな目。それが俺を見て、泣き出しそうに歪んだ。
「な、なぁ、楓?」
「なんだよ」
「今度はなんだよ……?」
双子の兄が涙目でそう問いたくなるのもわからないでもない。
何しろ彼は今、俺の手によって俺そっくりな姿に変えられている。
「ちょっとした悪戯だって」
「い、悪戯、って」
「だってさぁ、樹は腹立たねぇの?周りからさんざん馬鹿にされてきたくせに」
珍しくもないが、俺は怒っていた。
圭人と付き合い初めてから、樹は一気に垢抜けて。今まで俺や智にぃがいくら言っても変えようとしなかった見た目を、圭人のために変えた。
それはまあ、いい。再三言ってはいるが、悔しいことに間違いはなくても、樹が嬉しそうに変わってくれたことが嬉しいから。
「なんでお前がそんなに怒ってんだよ」
「俺は樹が大事なの。その大事な兄貴が馬鹿にされて、なんで怒らないと思えんだよ」
だけど今、俺が腹を立てているのは、樹の周りの連中に対してだった。
昔からの知り合いはいい。最近友達になったっていう、圭人の友達も別にいい。
俺が一番気に食わないのは、ずっと樹のことを『双子の暗い方』と馬鹿にしていて、いまだに変わったのは見た目だけだろうと嘲笑う奴らだ。
「だからって、なんで」
「俺と樹の区別のつかない奴らに、馬鹿にされる謂れなんかない」
「なんなんだよその楓論理……」
ぼやく樹の言葉は右から左に流し、髪型のチェック。ワックスをつけて整えて、うん、と頷く。
「今日は俺の方、座学の講義しかないから。代返して、あとは話聞いてノートだけ取っといて」
「まったく……まあ、それで楓の気が済むならいいけどさぁ。俺の方も今日は講義少ないから大丈夫だとは思うけど」
「ん、なんかあったら連絡するから」
いろいろ文句は言いながらも、いつも最終的には俺の好きなようにさせてくれる兄のことが、俺は大好きなんだ。
かくして俺は樹と入れ替わり、大学のキャンパスにきている。
とはいえ、俺と樹の大学は一緒だから大差はない。学部も同じで、違うのは取っている講義の種類だ。
だからいつもは違う建物にいることが多い。多い、だけで、たまに一緒にはなる。
なるからこそ、わかっていた。樹を馬鹿にするやつのことも。
「おはよ」
「おはよ。あのさ、今日のあれなんだけど」
ざわざわとした教室の中に入る。何人かがこっちを見て目が合って、樹の仕草に見えるよう軽く会釈した。
へらへらした笑みを浮かべた奴らが何人か近寄ってくる。そいつらの顔に見覚えはなかったけれど、嫌な雰囲気は感じ取れた。
「お前さぁ、いつまで弟の真似してんの?」
「似合わねぇんだって」
やっぱり感じた通りだ。あいつは変なところで頑固だから、周りに嫌なことを言われてもそれを俺に言わない。
それは昔からで、俺が勝手に聞きつけては蹴りをかましたりしていたなぁと小学生のころを思い出した。
もっと頼ってくれていいのに。俺は樹が笑ってくれるなら何でもするのに、と思う。
「無視かよ」
がん、と音がした。すっかり思考の外側に追い出していたそいつらをじとりと見上げる。
俺の座っていた机を蹴られた音だった。
「弟がいなきゃ何にもできねぇくせに」
そのセリフに、にこりと笑って立ち上がる。それから、周りには見えないように鳩尾へ一撃入れた。
う、と呻いた男の体を支えてやって、倒れる前にもう一撃入れておく。
「俺とあいつの区別もつかねぇくせにくだらない文句つけにくんな」
そいつにだけ聞こえるよう耳元で言うと、傍から見てわかるほどの冷や汗が落ちた。
「まぁ、それでも言いたきゃ言えよ。その相手はまた俺かもしんないけどな?」
あいにく、俺は樹みたいに優しくない。倒れることも許さずに、今度は足を思い切り踏んだ。
それから、具合悪そうだねとわざとらしく言う。
連れのほうに目を向ければ、案の定顔を青くしていた。
「大丈夫?早く救護室かなんか連れていってあげたほうがいいんじゃない?」
眉を八の字に下げると、俺の後ろ側にいた数人がそうだよ、と援護してくれる。
青い顔と冷や汗だらけの二人が教室を出て行くのを見送って、軽く息を吐き座り直した。さっきの擁護の声を聞く限り、孤立はしてないんだなと安心しながら講義を受けることにする。
しばらくのあと携帯電話が鳴って、ねむい、という絵文字つきのメッセージが表示され、苦笑した。
誰もいない、小さな庭のような場所に置いてあるベンチ。そこに横になって、空を見上げる。
「……俺、そんなに頼りねぇかなぁ」
ぼそ、と独り言が口からこぼれた。
樹はけして鈍感ではない。むしろ繊細すぎるぐらいだから、あいつらの悪意に気付いてないなんてことないのに。
なのに、俺には何も話してくれない。それが、少し寂しかった。
「……圭人には話してんのかな」
自分でつぶやいたくせに、自分で嫌になる。いつになったら、この微妙な嫉妬心は消えてくれるんだろうか、と考えた。
深呼吸を数回して、スマホを取り出す。家を出るときに交換した、樹のそれから圭人にメールを送った。
しばらくそのまま待っていると、走ってくる足音が聞こえる。
「っ、ど、うしたよ……珍しいとこに、いんじゃん」
はあ、と息を切らせて、寝転んだ俺の頭の方から声をかけられた。どんだけ急いで来てるんだ、と思いながら体を起こす。
息を整える圭人の顔を見れば、ほんの少しだけ目が動いた。
「――樹、だよな?」
「誰に見えるんだよ」
疑いの声音に驚きながらも、しれっと返す。
以前ならまだしも、今の俺と樹の見分けがつくやつなんてそれほど多くない。
「なんか、あったのか?」
「――あったと言えばあったし、ないと言えばない。いつもと同じ」
訝しげな視線が俺を捉える。
それから、少し考える素振りをして、圭人は言った。
「で、今日は何か弾くの?」
「お前に決めてもらおうと思って呼んだ。この中から決めてよ、どれがいい?」
「そうだなあ」
俺が渡した樹のスマホの画面を覗き込む。
「今から弾きに行く?」
「んー、どうしよっかな」
言いながら、スクロールする指を眺めていると、かなりの悪戯心が湧き上がってきた。
今日の俺は、メイクも薄めで。服装も、俺にしては地味。樹の服を借りてきたからそれも当然なのだけれど。
そんな今の状況で、いったいどこで圭人は俺が樹じゃないって気づくんだろうか、と素朴な疑問のように頭をもたげる。
「つか、樹はこの後講義あんの?」
「俺?えーっと」
確かなかったはずだ。朝確認したそれを思い出しながら首を横に振ると、圭人は嬉しそうに笑った。
「俺も、あとひとコマで終わりなんだわ。うちくる?」
「え」
思わず声が漏れたけれど、ここで何も予定がないのに断る方が不自然だろう。
そうは思っても、樹と圭人は恋人なわけで。そして俺にも、智にぃという人がいるわけで。
「?なんか用事?バイトとか?」
「あ、いや、そうじゃなくて」
だけど、しゅん、と。まるで叱られた犬みたいにうなだれる圭人を見てしまったら、なんだかかわいく思えてしまう。
まあ、いよいよそういう恋人っぽい雰囲気になるまで気づかないようなら、俺からバラせばいいし。何よりそこまで気づかないなんて事態、怒ってもいいぐらいだろうと結論付けて、なんでもないよと俺は返した。
「大丈夫。行ってもいい?」
「俺が呼んでんの。あ、じゃあ先帰ってていいよ、鍵持ってんだろ」
鍵、の言葉に固まる。
あいつ、合鍵なんてもらってたのかという思いと、それを内緒にされてることと、どこにあるのか知らないという焦りが、俺の胸中でぐるぐるとした。
「忘れた?」
「か、かも……」
「そっか、仕方ねーな。俺の貸すよ」
慌てる俺に気付いているのかいないのか、にこりと笑って。チワワのキーホルダーが付いた鍵を手のひらに落とされる。
「え、えっと、その、ごめん」
「いいって。ほとんど無理やり押し付けたみたいなもんだし、急に言われたって人んちの鍵を持ち歩いてんのも危ないもんな」
笑って言うけれど、やっぱりその顔は少し寂しそうだ。もう一度ごめん、と言うと優しい手が頭を撫でた。
「悪いと思うなら、なんか飯作って」
「……うん」
「そんな顔すんなよ。じゃ、また後でな」
温かな手が離れ、それをひらりと振って、自分の教室があるほうに消えていく圭人の背中を見送る。
俺の手の中で、借りた鍵がかすかな音を立てた。
勝手に鍵を使って、何度かきたことのある圭人の部屋に入る。
がさ、と途中で買い物をしてきたスーパーの袋が鳴った。
「つかなんだよ、樹のやつ。飯まで作ってやってんの?嫁か」
ぼそりと独り言をつぶやいて、でも自分も智にぃには作ってるなぁと思い直し軽く頭を振る。
買ってきたものをやたらでかい冷蔵庫にしまおうと、その扉を開けると、中には酒類と、タッパーに小分けされたおかずが重ねられていた。
「我が兄ながら、ほんとこういうとこマメだな。変なとこ大雑把なくせに」
言いながら、買い物も少しにしておいてよかったと改めて思う。
帰る前に樹に連絡したのは正解だった。
『バレたらどうすんだよ!』
そう言った樹に、むしろバレなかったほうが嫌だろと返したのを思い出す。
鼻歌交じりでご飯を炊いて、樹の作り置きとあと何かもう一品あったかいものでも作ってやるかと手を動かしていると、俺の――いや、樹のスマホが鳴った。
よいしょ、と手を伸ばしカウンターに置いてあったそれを見る。内容は樹本人からのメッセージだ。俺のスマホを渡しているから、表示される名前は『楓』だけれども。
『ちょっと智にぃのとこ行ってくる。どうせバレるだろうからバラすよ』
「だろうな」
苦笑しながら、どうぞ、と返した。
何しろ付き合いの長い智にぃのことだ。どれだけ似せたって、たぶん数分もすれば俺か樹かなんて気づいてしまうだろうし。
だけど、せっかく入れ替わったんだから勿体ない。それに、樹の後ろ向きな性格も、俺を演じてると思えば少し改善されるかもしれないし。
『でもちょっとぐらい騙す努力してみたら?』
『なんでだよ!俺に楓の真似なんて無理だって!』
『今日一日、大学でバレなかったんだろ?どうせバレても相手は智にぃなんだから、気楽にだましてみろよ』
『お前なぁ……どうなっても知らないぞ、絶対バレるから』
『物は試し、だろ?』
何度か樹とメールのやりとりをして。最後に呆れた顔のスタンプが送られてきて、笑いながら画面を閉じた。
結局のところ生姜焼きでも焼いてやるかと思い立ち、買ってきたものと冷蔵庫の中身を組み合わせて準備を始める。
さて、と一息ついたところでまたスマホがメッセージを知らせ、開くと圭人からだった。もう帰ってくるらしい。
それならちょうどいいなと肉を焼き始めることにする。タイミングよく、炊飯器も炊き上がりを告げた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
玄関の扉が開いて、足音がして。すぐに聞こえた声に、背を向けたまま返す。
「なんかいい匂いする」
「生姜焼き。手、洗ってこいよ」
「そうだな。あ、でもその前に」
思ったよりも声は近くでした。
戸惑う俺に構いもせず、腰に手が触れる。緩く抱きしめられて、ぴく、と勝手に体が跳ねた。
「な、なんだよ」
「ちょっとだけ」
首筋に唇が触れる。キス、とも言えないようなわずかなそれは、俺の髪を通って耳に行きついた。
「や、やだ、ってば」
「耳?好きなくせに」
「っあ」
左の耳朶を柔く食まれて、ぞくりとする。身を捩る俺に苦笑して、それはすぐに離れた。
「でも焦げちゃうな。また後にするわ」
「な、ちょっ、お、いっ」
「手、洗ってくる」
苦笑したまま、俺の体をひと撫でして手も離れる。
その手が今度は頭を撫でて、上機嫌に鼻歌なんぞを奏でつつ、圭人の背中は洗面所のほうに消えていった。
もう、と誰も聞いていない声を零し火を止める。幸い、焦げてはいないようだ。
「……あいつ、あんな声出すのかよ……」
独り言をつぶやきながら、フライパンの中身を勝手に出した皿に移す。
いつも俺が目にしている圭人とはちょっと違う雰囲気だった。確かにイケメンで面白くていいやつ、だけど。
あんな、低くて熱のこもった声なんて、当たり前だけど聞いたこともない。
『好きなくせに』
吹き込まれるように囁かれた低い声がリフレインして、背中にぞくりとしたものが走った。
ぺたん、と。その場にへたり込んでしまって。
「できた?」
「あ……」
戻ってきた圭人を、たぶん赤い顔で見上げる。
「どした?大丈夫か?」
「だ、だいじょ、ぶだけど……その、えっと、腰が、抜けて」
なんで、という声に少し笑いが入っていて。
「ちょっと待ってな」
「ご、ごめん」
「いいよ。あとで一緒に食お」
言いながら、皿にラップをかけるのを待った。
それから、圭人が俺の前にしゃがみこんで。脇の下に手を入れると、へたり込んだ俺の体を支えて立たせてくれる。
そのままソファーまで連れていかれるから、されるがままに体を投げ出した。
ちゅ、と。音を立てる唇が、今度は軽く首筋をなぞっていく。
「っ、ま、まって、や」
「なんで?」
「だっ、て、あ、だめ、だめだって」
着ていたシャツのボタンが少しずつ外されていって。これ以上はさすがにまずいと思いながら、俺の体は力が抜けてしまってろくに抵抗もできない。
早くバラさないと、と必死にその腕を掴んで引っ掻く。
「ずいぶん嫌がるじゃん?」
「そ、れはっ」
止めようとする俺を見下ろして、にやりと笑った。
ここまできても気づかないのかよと、理不尽な怒りが顔を出す。
覆いかぶさってくる体。耳に唇が触れて、びくりと全身が跳ねた。
「や、ぁ、やめ、っ」
「弱いくせに」
「ひ、あ、やぁ」
俺の声は泣きそうなそれに変わっていて。ダメだと思いながらも、露わになった皮膚を撫でる指先に反応してしまう。
「や……とも、に……」
俺の口から勝手に落ちた言葉に、圭人の手と動きがぴたりと止まった。
同時に、今自分が誰を呼んだのかわかってしまって、さあっと顔が青ざめる。
だって俺は今、樹だと思われているわけで。樹が圭人に押し倒されて触られながら、智にぃの名前を出したなんてまずすぎる。
「ち、ちが、圭人これは、その」
「いいって、下手な言い訳しなくて」
「言い訳じゃなくて、なあ、話聞いて」
「だから、いいって――楓」
俺を組み敷いたまま、にやにやと笑う圭人の顔が視界に入った。
「……は?」
「は、じゃねーよ。バレてないと思ってんのか」
「いたい」
びし、とデコピンをかまされ文句が漏れた。
「え、あ、ちょ、いつから?!」
「大学んときから。そんときは違和感、ぐらいだな。んで、さっき」
圭人の指が俺の左耳に触れる。
「ピアス外したって、穴は塞げねーんだから。それで確信した」
「……マジかよ……」
「耳弱いの同じなんだな?痛えって殴んな」
「るっさい!笑ってんな!お前性格悪いぞ!」
面白くて仕方ないという顔をするので、とりあえず胸板を一発殴っておいた。
「つか言えよ!俺が馬鹿みたいだろ!」
「いやどこまで黙ってんのかと思って」
お前なぁ、と言おうとした俺の口が止まる。がちゃん、という音と、足音が聞こえたからだ。
数秒後、リビングのドアが開いて。
『あ』
期せずして、四人分の声が重なった。
俺とは違う、不安そうな目。それが俺を見て、泣き出しそうに歪んだ。
「な、なぁ、楓?」
「なんだよ」
「今度はなんだよ……?」
双子の兄が涙目でそう問いたくなるのもわからないでもない。
何しろ彼は今、俺の手によって俺そっくりな姿に変えられている。
「ちょっとした悪戯だって」
「い、悪戯、って」
「だってさぁ、樹は腹立たねぇの?周りからさんざん馬鹿にされてきたくせに」
珍しくもないが、俺は怒っていた。
圭人と付き合い初めてから、樹は一気に垢抜けて。今まで俺や智にぃがいくら言っても変えようとしなかった見た目を、圭人のために変えた。
それはまあ、いい。再三言ってはいるが、悔しいことに間違いはなくても、樹が嬉しそうに変わってくれたことが嬉しいから。
「なんでお前がそんなに怒ってんだよ」
「俺は樹が大事なの。その大事な兄貴が馬鹿にされて、なんで怒らないと思えんだよ」
だけど今、俺が腹を立てているのは、樹の周りの連中に対してだった。
昔からの知り合いはいい。最近友達になったっていう、圭人の友達も別にいい。
俺が一番気に食わないのは、ずっと樹のことを『双子の暗い方』と馬鹿にしていて、いまだに変わったのは見た目だけだろうと嘲笑う奴らだ。
「だからって、なんで」
「俺と樹の区別のつかない奴らに、馬鹿にされる謂れなんかない」
「なんなんだよその楓論理……」
ぼやく樹の言葉は右から左に流し、髪型のチェック。ワックスをつけて整えて、うん、と頷く。
「今日は俺の方、座学の講義しかないから。代返して、あとは話聞いてノートだけ取っといて」
「まったく……まあ、それで楓の気が済むならいいけどさぁ。俺の方も今日は講義少ないから大丈夫だとは思うけど」
「ん、なんかあったら連絡するから」
いろいろ文句は言いながらも、いつも最終的には俺の好きなようにさせてくれる兄のことが、俺は大好きなんだ。
かくして俺は樹と入れ替わり、大学のキャンパスにきている。
とはいえ、俺と樹の大学は一緒だから大差はない。学部も同じで、違うのは取っている講義の種類だ。
だからいつもは違う建物にいることが多い。多い、だけで、たまに一緒にはなる。
なるからこそ、わかっていた。樹を馬鹿にするやつのことも。
「おはよ」
「おはよ。あのさ、今日のあれなんだけど」
ざわざわとした教室の中に入る。何人かがこっちを見て目が合って、樹の仕草に見えるよう軽く会釈した。
へらへらした笑みを浮かべた奴らが何人か近寄ってくる。そいつらの顔に見覚えはなかったけれど、嫌な雰囲気は感じ取れた。
「お前さぁ、いつまで弟の真似してんの?」
「似合わねぇんだって」
やっぱり感じた通りだ。あいつは変なところで頑固だから、周りに嫌なことを言われてもそれを俺に言わない。
それは昔からで、俺が勝手に聞きつけては蹴りをかましたりしていたなぁと小学生のころを思い出した。
もっと頼ってくれていいのに。俺は樹が笑ってくれるなら何でもするのに、と思う。
「無視かよ」
がん、と音がした。すっかり思考の外側に追い出していたそいつらをじとりと見上げる。
俺の座っていた机を蹴られた音だった。
「弟がいなきゃ何にもできねぇくせに」
そのセリフに、にこりと笑って立ち上がる。それから、周りには見えないように鳩尾へ一撃入れた。
う、と呻いた男の体を支えてやって、倒れる前にもう一撃入れておく。
「俺とあいつの区別もつかねぇくせにくだらない文句つけにくんな」
そいつにだけ聞こえるよう耳元で言うと、傍から見てわかるほどの冷や汗が落ちた。
「まぁ、それでも言いたきゃ言えよ。その相手はまた俺かもしんないけどな?」
あいにく、俺は樹みたいに優しくない。倒れることも許さずに、今度は足を思い切り踏んだ。
それから、具合悪そうだねとわざとらしく言う。
連れのほうに目を向ければ、案の定顔を青くしていた。
「大丈夫?早く救護室かなんか連れていってあげたほうがいいんじゃない?」
眉を八の字に下げると、俺の後ろ側にいた数人がそうだよ、と援護してくれる。
青い顔と冷や汗だらけの二人が教室を出て行くのを見送って、軽く息を吐き座り直した。さっきの擁護の声を聞く限り、孤立はしてないんだなと安心しながら講義を受けることにする。
しばらくのあと携帯電話が鳴って、ねむい、という絵文字つきのメッセージが表示され、苦笑した。
誰もいない、小さな庭のような場所に置いてあるベンチ。そこに横になって、空を見上げる。
「……俺、そんなに頼りねぇかなぁ」
ぼそ、と独り言が口からこぼれた。
樹はけして鈍感ではない。むしろ繊細すぎるぐらいだから、あいつらの悪意に気付いてないなんてことないのに。
なのに、俺には何も話してくれない。それが、少し寂しかった。
「……圭人には話してんのかな」
自分でつぶやいたくせに、自分で嫌になる。いつになったら、この微妙な嫉妬心は消えてくれるんだろうか、と考えた。
深呼吸を数回して、スマホを取り出す。家を出るときに交換した、樹のそれから圭人にメールを送った。
しばらくそのまま待っていると、走ってくる足音が聞こえる。
「っ、ど、うしたよ……珍しいとこに、いんじゃん」
はあ、と息を切らせて、寝転んだ俺の頭の方から声をかけられた。どんだけ急いで来てるんだ、と思いながら体を起こす。
息を整える圭人の顔を見れば、ほんの少しだけ目が動いた。
「――樹、だよな?」
「誰に見えるんだよ」
疑いの声音に驚きながらも、しれっと返す。
以前ならまだしも、今の俺と樹の見分けがつくやつなんてそれほど多くない。
「なんか、あったのか?」
「――あったと言えばあったし、ないと言えばない。いつもと同じ」
訝しげな視線が俺を捉える。
それから、少し考える素振りをして、圭人は言った。
「で、今日は何か弾くの?」
「お前に決めてもらおうと思って呼んだ。この中から決めてよ、どれがいい?」
「そうだなあ」
俺が渡した樹のスマホの画面を覗き込む。
「今から弾きに行く?」
「んー、どうしよっかな」
言いながら、スクロールする指を眺めていると、かなりの悪戯心が湧き上がってきた。
今日の俺は、メイクも薄めで。服装も、俺にしては地味。樹の服を借りてきたからそれも当然なのだけれど。
そんな今の状況で、いったいどこで圭人は俺が樹じゃないって気づくんだろうか、と素朴な疑問のように頭をもたげる。
「つか、樹はこの後講義あんの?」
「俺?えーっと」
確かなかったはずだ。朝確認したそれを思い出しながら首を横に振ると、圭人は嬉しそうに笑った。
「俺も、あとひとコマで終わりなんだわ。うちくる?」
「え」
思わず声が漏れたけれど、ここで何も予定がないのに断る方が不自然だろう。
そうは思っても、樹と圭人は恋人なわけで。そして俺にも、智にぃという人がいるわけで。
「?なんか用事?バイトとか?」
「あ、いや、そうじゃなくて」
だけど、しゅん、と。まるで叱られた犬みたいにうなだれる圭人を見てしまったら、なんだかかわいく思えてしまう。
まあ、いよいよそういう恋人っぽい雰囲気になるまで気づかないようなら、俺からバラせばいいし。何よりそこまで気づかないなんて事態、怒ってもいいぐらいだろうと結論付けて、なんでもないよと俺は返した。
「大丈夫。行ってもいい?」
「俺が呼んでんの。あ、じゃあ先帰ってていいよ、鍵持ってんだろ」
鍵、の言葉に固まる。
あいつ、合鍵なんてもらってたのかという思いと、それを内緒にされてることと、どこにあるのか知らないという焦りが、俺の胸中でぐるぐるとした。
「忘れた?」
「か、かも……」
「そっか、仕方ねーな。俺の貸すよ」
慌てる俺に気付いているのかいないのか、にこりと笑って。チワワのキーホルダーが付いた鍵を手のひらに落とされる。
「え、えっと、その、ごめん」
「いいって。ほとんど無理やり押し付けたみたいなもんだし、急に言われたって人んちの鍵を持ち歩いてんのも危ないもんな」
笑って言うけれど、やっぱりその顔は少し寂しそうだ。もう一度ごめん、と言うと優しい手が頭を撫でた。
「悪いと思うなら、なんか飯作って」
「……うん」
「そんな顔すんなよ。じゃ、また後でな」
温かな手が離れ、それをひらりと振って、自分の教室があるほうに消えていく圭人の背中を見送る。
俺の手の中で、借りた鍵がかすかな音を立てた。
勝手に鍵を使って、何度かきたことのある圭人の部屋に入る。
がさ、と途中で買い物をしてきたスーパーの袋が鳴った。
「つかなんだよ、樹のやつ。飯まで作ってやってんの?嫁か」
ぼそりと独り言をつぶやいて、でも自分も智にぃには作ってるなぁと思い直し軽く頭を振る。
買ってきたものをやたらでかい冷蔵庫にしまおうと、その扉を開けると、中には酒類と、タッパーに小分けされたおかずが重ねられていた。
「我が兄ながら、ほんとこういうとこマメだな。変なとこ大雑把なくせに」
言いながら、買い物も少しにしておいてよかったと改めて思う。
帰る前に樹に連絡したのは正解だった。
『バレたらどうすんだよ!』
そう言った樹に、むしろバレなかったほうが嫌だろと返したのを思い出す。
鼻歌交じりでご飯を炊いて、樹の作り置きとあと何かもう一品あったかいものでも作ってやるかと手を動かしていると、俺の――いや、樹のスマホが鳴った。
よいしょ、と手を伸ばしカウンターに置いてあったそれを見る。内容は樹本人からのメッセージだ。俺のスマホを渡しているから、表示される名前は『楓』だけれども。
『ちょっと智にぃのとこ行ってくる。どうせバレるだろうからバラすよ』
「だろうな」
苦笑しながら、どうぞ、と返した。
何しろ付き合いの長い智にぃのことだ。どれだけ似せたって、たぶん数分もすれば俺か樹かなんて気づいてしまうだろうし。
だけど、せっかく入れ替わったんだから勿体ない。それに、樹の後ろ向きな性格も、俺を演じてると思えば少し改善されるかもしれないし。
『でもちょっとぐらい騙す努力してみたら?』
『なんでだよ!俺に楓の真似なんて無理だって!』
『今日一日、大学でバレなかったんだろ?どうせバレても相手は智にぃなんだから、気楽にだましてみろよ』
『お前なぁ……どうなっても知らないぞ、絶対バレるから』
『物は試し、だろ?』
何度か樹とメールのやりとりをして。最後に呆れた顔のスタンプが送られてきて、笑いながら画面を閉じた。
結局のところ生姜焼きでも焼いてやるかと思い立ち、買ってきたものと冷蔵庫の中身を組み合わせて準備を始める。
さて、と一息ついたところでまたスマホがメッセージを知らせ、開くと圭人からだった。もう帰ってくるらしい。
それならちょうどいいなと肉を焼き始めることにする。タイミングよく、炊飯器も炊き上がりを告げた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
玄関の扉が開いて、足音がして。すぐに聞こえた声に、背を向けたまま返す。
「なんかいい匂いする」
「生姜焼き。手、洗ってこいよ」
「そうだな。あ、でもその前に」
思ったよりも声は近くでした。
戸惑う俺に構いもせず、腰に手が触れる。緩く抱きしめられて、ぴく、と勝手に体が跳ねた。
「な、なんだよ」
「ちょっとだけ」
首筋に唇が触れる。キス、とも言えないようなわずかなそれは、俺の髪を通って耳に行きついた。
「や、やだ、ってば」
「耳?好きなくせに」
「っあ」
左の耳朶を柔く食まれて、ぞくりとする。身を捩る俺に苦笑して、それはすぐに離れた。
「でも焦げちゃうな。また後にするわ」
「な、ちょっ、お、いっ」
「手、洗ってくる」
苦笑したまま、俺の体をひと撫でして手も離れる。
その手が今度は頭を撫でて、上機嫌に鼻歌なんぞを奏でつつ、圭人の背中は洗面所のほうに消えていった。
もう、と誰も聞いていない声を零し火を止める。幸い、焦げてはいないようだ。
「……あいつ、あんな声出すのかよ……」
独り言をつぶやきながら、フライパンの中身を勝手に出した皿に移す。
いつも俺が目にしている圭人とはちょっと違う雰囲気だった。確かにイケメンで面白くていいやつ、だけど。
あんな、低くて熱のこもった声なんて、当たり前だけど聞いたこともない。
『好きなくせに』
吹き込まれるように囁かれた低い声がリフレインして、背中にぞくりとしたものが走った。
ぺたん、と。その場にへたり込んでしまって。
「できた?」
「あ……」
戻ってきた圭人を、たぶん赤い顔で見上げる。
「どした?大丈夫か?」
「だ、だいじょ、ぶだけど……その、えっと、腰が、抜けて」
なんで、という声に少し笑いが入っていて。
「ちょっと待ってな」
「ご、ごめん」
「いいよ。あとで一緒に食お」
言いながら、皿にラップをかけるのを待った。
それから、圭人が俺の前にしゃがみこんで。脇の下に手を入れると、へたり込んだ俺の体を支えて立たせてくれる。
そのままソファーまで連れていかれるから、されるがままに体を投げ出した。
ちゅ、と。音を立てる唇が、今度は軽く首筋をなぞっていく。
「っ、ま、まって、や」
「なんで?」
「だっ、て、あ、だめ、だめだって」
着ていたシャツのボタンが少しずつ外されていって。これ以上はさすがにまずいと思いながら、俺の体は力が抜けてしまってろくに抵抗もできない。
早くバラさないと、と必死にその腕を掴んで引っ掻く。
「ずいぶん嫌がるじゃん?」
「そ、れはっ」
止めようとする俺を見下ろして、にやりと笑った。
ここまできても気づかないのかよと、理不尽な怒りが顔を出す。
覆いかぶさってくる体。耳に唇が触れて、びくりと全身が跳ねた。
「や、ぁ、やめ、っ」
「弱いくせに」
「ひ、あ、やぁ」
俺の声は泣きそうなそれに変わっていて。ダメだと思いながらも、露わになった皮膚を撫でる指先に反応してしまう。
「や……とも、に……」
俺の口から勝手に落ちた言葉に、圭人の手と動きがぴたりと止まった。
同時に、今自分が誰を呼んだのかわかってしまって、さあっと顔が青ざめる。
だって俺は今、樹だと思われているわけで。樹が圭人に押し倒されて触られながら、智にぃの名前を出したなんてまずすぎる。
「ち、ちが、圭人これは、その」
「いいって、下手な言い訳しなくて」
「言い訳じゃなくて、なあ、話聞いて」
「だから、いいって――楓」
俺を組み敷いたまま、にやにやと笑う圭人の顔が視界に入った。
「……は?」
「は、じゃねーよ。バレてないと思ってんのか」
「いたい」
びし、とデコピンをかまされ文句が漏れた。
「え、あ、ちょ、いつから?!」
「大学んときから。そんときは違和感、ぐらいだな。んで、さっき」
圭人の指が俺の左耳に触れる。
「ピアス外したって、穴は塞げねーんだから。それで確信した」
「……マジかよ……」
「耳弱いの同じなんだな?痛えって殴んな」
「るっさい!笑ってんな!お前性格悪いぞ!」
面白くて仕方ないという顔をするので、とりあえず胸板を一発殴っておいた。
「つか言えよ!俺が馬鹿みたいだろ!」
「いやどこまで黙ってんのかと思って」
お前なぁ、と言おうとした俺の口が止まる。がちゃん、という音と、足音が聞こえたからだ。
数秒後、リビングのドアが開いて。
『あ』
期せずして、四人分の声が重なった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
過去のやらかしと野営飯
琉斗六
BL
◎あらすじ
かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。
「一級になったら、また一緒に冒険しような」
──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。
美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。
それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。
昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。
「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」
寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、
執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー!
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる