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夢と過去の記憶3
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「さあて……。問題はどうやってフィーネに近づくか」
オリバーなら、王家の繋がりで接触する機会はあるだろうが、その使用人……ましてや末端の者となると、お茶会やそれ以外の交流会で使わされる確率はかなり低い。
と言うよりゼロである。
王族や上流階級のパーティや集まりでは、使用人もランクが最上級の者たちばかりになる。
フィーネと接触さえ出来れば、後はどうにでもなるのに、第一段階が最難関であった。
「……こうなったら。背に腹は変えられないわ」
エルナはバイゼル家の地下室に向かうことにした。
長い長い廊下を渡ると、そこには厚い鉄の壁で覆われた扉がある。
エルナは扉の鍵を回し、重い扉を力一杯押し、何とか開けることが出来た。扉の中にはさらに地下へと続く長い長い階段が待っていた。エルナはため息を吐きながら階段を一段一段降りていく。
「……はあ。いつまで続くのよ、この階段!」
普段、何か用事でもない限り自室に引きこもりがちだったエルナは地下室の存在は知っていたが、実際に行くのは初めてであった。
息を切らしながら漸く階段を降りきると、そこにはまたもや厚い鉄に覆われた扉が現れた。
「なんでこんなに厳重なのよ! 意味わからないわ」
エルナは不満を口にしながらも、取り付けられているベルを鳴らす。
リーンリーンと甲高い音が鳴り響き、厚い扉が開いた。
「んー、誰?」
中から出て来たのは、エルナの五つ上の姉、ハンナ。
エルナと同じ金色の髪を後ろで一本に束ね、長い前髪で顔の左半分が隠れている。
姉妹だけあって顔立ち自体はエルナとかなり似ており、美形である。
「……あら、珍しいわね。あなたが私を訪ねてくるなんて」
ハンナは驚いた様子でまじまじとエルナを見た。
「お姉様にご相談がありまして、こちらに参りました」
エルナも姉、ハンナをじっと見つめる。
……相変わらず、なんて地味で不潔なの!
ハンナがっている灰色のドレスには皺や汚れが目立っている。
両親も最初は使用人達に身の回りを整えさせていたが、ハンナ本人がそれを極度に嫌がるので、最近では何も言わなくなった。
どこかへ訪問しなければならない時だけ身なりを整える。
エルナにはバイゼル家にふさわしい振る舞いをするよう、いつも厳しく叱っているのに、両親はハンナに対してかなり甘い。
それは、彼女が飛び抜けて頭が良く、身なりを整えれば美しいからである。
「ふうん……相談ね。いいわ。入りなさい。散らかってるけど」
ハンナに促され、エルナは地下室に入る。
そこにはしい数の本や実験か何かに使う様な瓶、薬、魔術に関する本、その他諸々が至る所に散乱しており、とても王家の令嬢の部屋とは思えない有様だった。
彼女は飛び抜けて賢く、魔術や薬に異常なほど関心があり、日々研究に明け暮れている変わり者である。
エルナは顔をひきつらせながらも近くの椅子に腰掛けた。
「それで? 相談って何よ?」
ハンナは少し気怠そうに尋ねる。
「実は、ローレン家のことでお調べしたいことがありまして。使用人、それも末端の使用人に近づく方法を考えていたのですが、良い案が思い付かず、お姉様にご助言頂きたいのです」
流石にオリバーへの復讐のためとは言わなかったが、ハンナにはこれだけでどういう状況が全てわかってしまうだろう。
「ローレン家か……オリバー関連?」
「……はい」
バイゼル家と同じ王族の家柄に手を出すなど、父母に知られようものなら、顔を真っ青にして叱責するだろうが、姉のハンナは基本的に『面白いかどうか』でしか動かない。
極端に言えば、一族がどうなろうと構わないとさえ思っている節がある。
「ああ、そういうこと……。ま、お茶会での出来事はお母様から聞いているし、そんなことだろうと思っていたけど」
ハンナは少しの間黙って思考を巡らせていた。エルナも黙って姉の考えが纏まるのをじっと待っていた。
「……ふーん。面白そうじゃない」
含み笑いをする。
「こういうのはどうかしら?」
そしてエルナに提案した。
「ローレン家の使用人で末端の者なら、一番過酷な労働をしている筈だわ。食事の買い出しや薪割り等、外へ行くことも多いから、接触するなら、勿論外へ出ている時ね」
「外へ……」
「エルナ、あなたはその美しさから有名人だし、目立つんだから、庶民風の小汚い格好をして出かける必要があるわよ?」
「えっ?」
庶民のフリをしなければならないと聞き、エルナは思わず顔をひきつらせた。
「庶民がどういう暮らしをしているのか知るために、姉から言われて市場へ来たという設定で、その使用人に近づけばいいんじゃないかしら?」
「……」
「姉からの調査命令と言うことにすれば、万一オリバーに伝わっても不審がられる可能性は少ないと思うわ。オリバーは確かに勇敢で優しくて知識もある男だけど、賢さはあまりないのよね」
「なるほど……」
ハンナの提案にエルナは反感を覚えたが、他に思いつく案もない。
仕方なくハンナの言うとおりにすることにした。
「……わかりましたわ。お姉様の提案通りに致します。ありがとうございます」
エルナは感情の籠もっていない声でそう言うと、そそくさとハンナの部屋を後にした。
「馬鹿な妹。でも……色々と面白くなりそうだわ」
ハンナは口元に笑みを浮かべてポツリと呟いた。
エルナは地下室を出ると、すぐに側近の一人、アリアを呼びつけた。
この時のアリアはまだ十七歳位であったが、エルナに気に入られ、側近としての立場を与えられていた。
エルナに呼ばれたアリアがすぐさまエルナの元へ駆けつける。
「お呼びでしょうか。エルナ様」
きながらエルナに問う。
「お姉様から庶民の暮らしについて、調査してくる様に言いつけられたの。このままでは目立ってしまうから、庶民の格好をしていけと言われたわ。すぐに庶民の服を調達して来なさい」
エルナはやや不機嫌そうに言う。
フィーネに近づくためとは言え、なぜ特別な存在である自分が卑しい庶民の格好なんか……と憤りを感じていた。
「かしこまりました」
アリアは驚きを隠しながら返事をし、すぐに調達に出かけた。
オリバーなら、王家の繋がりで接触する機会はあるだろうが、その使用人……ましてや末端の者となると、お茶会やそれ以外の交流会で使わされる確率はかなり低い。
と言うよりゼロである。
王族や上流階級のパーティや集まりでは、使用人もランクが最上級の者たちばかりになる。
フィーネと接触さえ出来れば、後はどうにでもなるのに、第一段階が最難関であった。
「……こうなったら。背に腹は変えられないわ」
エルナはバイゼル家の地下室に向かうことにした。
長い長い廊下を渡ると、そこには厚い鉄の壁で覆われた扉がある。
エルナは扉の鍵を回し、重い扉を力一杯押し、何とか開けることが出来た。扉の中にはさらに地下へと続く長い長い階段が待っていた。エルナはため息を吐きながら階段を一段一段降りていく。
「……はあ。いつまで続くのよ、この階段!」
普段、何か用事でもない限り自室に引きこもりがちだったエルナは地下室の存在は知っていたが、実際に行くのは初めてであった。
息を切らしながら漸く階段を降りきると、そこにはまたもや厚い鉄に覆われた扉が現れた。
「なんでこんなに厳重なのよ! 意味わからないわ」
エルナは不満を口にしながらも、取り付けられているベルを鳴らす。
リーンリーンと甲高い音が鳴り響き、厚い扉が開いた。
「んー、誰?」
中から出て来たのは、エルナの五つ上の姉、ハンナ。
エルナと同じ金色の髪を後ろで一本に束ね、長い前髪で顔の左半分が隠れている。
姉妹だけあって顔立ち自体はエルナとかなり似ており、美形である。
「……あら、珍しいわね。あなたが私を訪ねてくるなんて」
ハンナは驚いた様子でまじまじとエルナを見た。
「お姉様にご相談がありまして、こちらに参りました」
エルナも姉、ハンナをじっと見つめる。
……相変わらず、なんて地味で不潔なの!
ハンナがっている灰色のドレスには皺や汚れが目立っている。
両親も最初は使用人達に身の回りを整えさせていたが、ハンナ本人がそれを極度に嫌がるので、最近では何も言わなくなった。
どこかへ訪問しなければならない時だけ身なりを整える。
エルナにはバイゼル家にふさわしい振る舞いをするよう、いつも厳しく叱っているのに、両親はハンナに対してかなり甘い。
それは、彼女が飛び抜けて頭が良く、身なりを整えれば美しいからである。
「ふうん……相談ね。いいわ。入りなさい。散らかってるけど」
ハンナに促され、エルナは地下室に入る。
そこにはしい数の本や実験か何かに使う様な瓶、薬、魔術に関する本、その他諸々が至る所に散乱しており、とても王家の令嬢の部屋とは思えない有様だった。
彼女は飛び抜けて賢く、魔術や薬に異常なほど関心があり、日々研究に明け暮れている変わり者である。
エルナは顔をひきつらせながらも近くの椅子に腰掛けた。
「それで? 相談って何よ?」
ハンナは少し気怠そうに尋ねる。
「実は、ローレン家のことでお調べしたいことがありまして。使用人、それも末端の使用人に近づく方法を考えていたのですが、良い案が思い付かず、お姉様にご助言頂きたいのです」
流石にオリバーへの復讐のためとは言わなかったが、ハンナにはこれだけでどういう状況が全てわかってしまうだろう。
「ローレン家か……オリバー関連?」
「……はい」
バイゼル家と同じ王族の家柄に手を出すなど、父母に知られようものなら、顔を真っ青にして叱責するだろうが、姉のハンナは基本的に『面白いかどうか』でしか動かない。
極端に言えば、一族がどうなろうと構わないとさえ思っている節がある。
「ああ、そういうこと……。ま、お茶会での出来事はお母様から聞いているし、そんなことだろうと思っていたけど」
ハンナは少しの間黙って思考を巡らせていた。エルナも黙って姉の考えが纏まるのをじっと待っていた。
「……ふーん。面白そうじゃない」
含み笑いをする。
「こういうのはどうかしら?」
そしてエルナに提案した。
「ローレン家の使用人で末端の者なら、一番過酷な労働をしている筈だわ。食事の買い出しや薪割り等、外へ行くことも多いから、接触するなら、勿論外へ出ている時ね」
「外へ……」
「エルナ、あなたはその美しさから有名人だし、目立つんだから、庶民風の小汚い格好をして出かける必要があるわよ?」
「えっ?」
庶民のフリをしなければならないと聞き、エルナは思わず顔をひきつらせた。
「庶民がどういう暮らしをしているのか知るために、姉から言われて市場へ来たという設定で、その使用人に近づけばいいんじゃないかしら?」
「……」
「姉からの調査命令と言うことにすれば、万一オリバーに伝わっても不審がられる可能性は少ないと思うわ。オリバーは確かに勇敢で優しくて知識もある男だけど、賢さはあまりないのよね」
「なるほど……」
ハンナの提案にエルナは反感を覚えたが、他に思いつく案もない。
仕方なくハンナの言うとおりにすることにした。
「……わかりましたわ。お姉様の提案通りに致します。ありがとうございます」
エルナは感情の籠もっていない声でそう言うと、そそくさとハンナの部屋を後にした。
「馬鹿な妹。でも……色々と面白くなりそうだわ」
ハンナは口元に笑みを浮かべてポツリと呟いた。
エルナは地下室を出ると、すぐに側近の一人、アリアを呼びつけた。
この時のアリアはまだ十七歳位であったが、エルナに気に入られ、側近としての立場を与えられていた。
エルナに呼ばれたアリアがすぐさまエルナの元へ駆けつける。
「お呼びでしょうか。エルナ様」
きながらエルナに問う。
「お姉様から庶民の暮らしについて、調査してくる様に言いつけられたの。このままでは目立ってしまうから、庶民の格好をしていけと言われたわ。すぐに庶民の服を調達して来なさい」
エルナはやや不機嫌そうに言う。
フィーネに近づくためとは言え、なぜ特別な存在である自分が卑しい庶民の格好なんか……と憤りを感じていた。
「かしこまりました」
アリアは驚きを隠しながら返事をし、すぐに調達に出かけた。
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