異世界に美少女の姿で転生してしまい心が折れてしまいそうです

第３話 メイドがお金持ちの特権所有物なのは異世界であっても変わらないようです

　（温かい……、こんな日は会社を休んで一日中布団の中でゲームしていたい気分だ。目覚まし時計はまだ鳴っていないな？　真面目な僕が寝過ごすなんてありえないから、そもそも今日祝日だっけ？　それならもうちっと寝てたっていいか。疲れているときにゲームするよか元気な時にゲームした方がより面白く感じるに決まっている。そういえば昨日新しいゲーム初めったんだったっけ。キャラメイクした後それから――）
　
　いつも枕元で充電しているはずのスマートフォンを手に取ろうと腕を動かしたが一向にそっらしい物は見つからなかった。それになんだかいつもより布団が柔らかいし、なんか良い匂いがする。前に布団干したのいつだっけか？　三ヵ月……いやもっと前だった気がする。暦が眉を寄せて思索に耽るっていると、投げ出したままの手の平が温かいものに握り返された。
　
　「っ!? 誰？」

 暦は一人暮らしを始めてからもう随分と立つ、彼女もいないため自室に他の誰かいるとなると泥棒以外には思い当たらない。或いは知人の部屋にでも転がり込んでしまったのだろうか？

　「申し訳ございません。うなされているご様子でしたので――」

　しかし、手を取ってくれた女性は暦の全く知らない人だった。暦の知り合いにここまで可愛い女性はいない。形の良い輪郭に大きな瞳、アイドルと言われても信じてしまいそうだ。ただ気になるのは髪の色が黒ではなく蒼寄りの水色をしている点だ。初めはゲームキャラのコスプレかと思ったが、着ているメイド服と部屋の内装を鑑みるに、メイド喫茶の店員さんかなと思った。暦が呆けているのを見越してか、メイドさんは言葉を継ぎ足した。

　「私はメルヴィーと申します。気軽にメルと及び下さい。あなたはソヴィラフの館で倒れていたと、この屋敷の主であるホダスティルモ伯爵が言っておりました。おそらく半日程眠っていたのだと思います。私はこれから伯爵様にあなたが目を覚ましたことをお伝えに上がらなければなりませんのでこれで失礼しますが、何か御用がありましたらそこにおいてある呼び鈴を鳴らしてください。部屋仕えのメイドが用件を伺いに参ります。差し当たって何か必要なものなどございますか？」

　「あ、いや、その大丈夫で……す」
　
　暦のお腹から可愛らしい音が鳴った。　

　「ふふふっ、お食事をお持ちしますね」

　……恥ずかしい。
　メルが出て行く様子を申し訳なさそうに見送った暦は改めて部屋の様子を見渡した。
　天蓋付きのベットに細工の細かい家具、巨大な窓から垂れる純白のカーテン。伯爵と言っていたが相当な金持ちに違いない。しかし、見ず知らずの客人をもてなすには豪華過ぎないか？　もっと詳細に観察しようと身体を捻ったところ突然、髪の毛を引っ張れたような痛みが走った。　
　
　「痛いってぇ、なんなんだよ」

　原因を追究すべくゆっくり先ほどと同じ行動をとってみると、どうやら自分の頭から長く伸びたを手の下に敷いてしまったらしい。腰まで伸びる金色の髪を手に取ると思った以上に障り心地が良く綺麗だったが、

　「長い髪って不便だな……」

　キャラクターとしてゲームで使う分には見ていて好感を持てるのだが、私生活には不便過ぎる。最悪寝返りとかうっただけで痛みを感じて目を覚ますんじゃなかろうか？　そう考えるとリアルに髪の毛を伸ばしている女の人ってどう対処しているのかと本当に気になる。