略して えふえふっ!

約およそ

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第一話 不幸が始まるファーストフレーズ

02 出会い

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「だーかーら……外出すんなっつったじゃろ!! 大馬鹿者!!」

そんな罵声を浴びせられ、俺は目を覚ました。

意識はハッキリしている。が、状況がわからない。
周りを見渡すと、黒の世界が広がっていた。

自分の体以外、全てが黒色に染まっていて、立っているのか横たわっているのかすら理解ができない。光源と呼べるものが全く無いにも関わらず、俺の体だけはハッキリと見える、そんな世界。

どこなんだココは?
そう焦っている俺の前に、暗闇から見知らぬ男が現れた。
頭はボサボサでヒゲもモジャモジャ、無地のTシャツに短パンの、いかにも身なりを気にしていない風体の、どこにでもいそうなオッサンだった。
ただし、頭の上には蛍光灯のような丸い輪っかが浮かんでいた。

「あれだけ忠告したのに、どうして外に出るんじゃお主は!? ああ~ヤバイヤバイって!!」

なんだかわからないが、相当慌てているようだ。
せわしなく頭を掻いたり、ウロウロしている。
そして頭に浮かぶ輪っかは、オッサンの心情を示しているのか点滅を繰り返している。
小汚いオッサンだが、その輪っかはどう見ても作り物には見えなかった。
なんとなく嫌な予感がしたので、思い切って聞いてみる事にした。

「もしかして貴方は神様ですか?」
「あ~……正確には違うんだが、まぁそんな遠いモノでもないかの。正しくは“管理者”と呼ばれる存在じゃ」

とりあえず、超常的な存在である事は間違いなさそうだ。つまり俺は……

「俺は、外に出たから死んだ。という認識でよろしいのでしょうか?」
「率直に言えば、そういう事じゃ」

マジか~……。
凹む。あれだけ楽しみにしてた夢のキャンパスライフを1日も味わう事なく死ぬ事になろうとは……

「つまりあの占いは……死に向かう俺の事を案じて、神様が遠回しに助けようとしてくれたんですよね?」

オッサンのだらしない格好からは神々しさなど微塵も感じないが、この不可思議な状況から察するに、おそらくそういう事なんだろう。

「だけども、忠告を聞かなかった俺は天罰によって死んだ。その認識であってますでしょうか?」
そう俺は問いかけた。すると……

「ウン、ソウダヨ。」

脂汗をダラダラと流しながら、捻れにねじ曲がった作り笑顔でオッサンはそう答えた。

「おいコラオッサン!! なんか隠してんだろ!! 俺が死んだ理由はどうせアンタが原因だろ!? 吐け! 吐きやがれ!!」

俺は激昂してオッサンの首元に掴みかかる。
よれよれのTシャツを両手で握りしめ、息の根を止める勢いで締め上げる。
どう考えても怪しい。そもそも何故俺は死んだのだ?
理由もなく、あんな占いがあった後で、突然死するはずがない。
白状するまでこの手を緩めるつもりはないぞ俺は。

「ギブ! ギブ!! 話す! 話すから!!」

オッサンはバタバタともがきながら俺の腕をタップし、降参の意を示す。
まぁこのままだと言い訳も聞けそうにないしな。俺は手を離した。

「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……! 殺されるかと思った」

非難がましい目をこちらに向けて息を整えるオッサン。
うるせぇよ。こっちはマジで殺されてんだよ。さっさと説明しろ。

「さっきも言った通り、ワシは神様じゃあない。ワシたち“管理者”ができるのは精々人類の運勢の操作や、忠告を誰かの体を借りて伝えるくらいのもんなんじゃ……」

ほう。思ってたよりも万能の存在ではないみたいだ。

「ワシらに課せらた役割は、人類の円滑な循環を見守る事でな。その流れを止める悪しき存在をなるべく自然な形で排除する為、運勢を調整し、在るべく形を保てるよう色々と……」

とまぁ、こんな感じでオッサンの話が長い上抽象的な言い回しが多いので要約させてもらう。

人類が生きる世界は、俺が生きていた世界以外にも無数に存在する。
オッサンはそのうち、俺の世界ともう一つ別の世界を任されている。
オッサンが管理する世界に、人類が滅びる要因になりそうな人物が現れた。
その存在を排除するため運勢をチマチマと操作し、あの手この手で抹消しようとしたが、どうにも死にそうになかった。
なので、今回メチャクチャ強引に、極一部に限定した存在の運勢を超凶悪にした結果、確認不足でたまたま同じ条件にいた俺が巻き込まれる形で死んでしまった。
一応、俺が死ぬ寸前にミスに気付いて忠告をしたが……今に至る。
と、いうことらしい。

「いやもう、名指しでいいじゃん。その人類滅ぼしかねない存在のさ」
「そういうわけにもイカンでなぁ。条件を縛りすぎると、その余波が近くの人間にも不幸が降りかかったりするし……あと、絞れば絞るほど、運勢を弄れなくなる時間が伸びるのじゃ。今回は……100年は操作できそうにないのぉ」

充分絞りに絞ってたと思うけどな。
余波でなんか動物園の動物逃げ出してたし、宇宙人襲来してたし。

「ちなみにお主は、落ちて来た小型隕石に頭を撃ち抜かれて死んだぞ。それはそれは見事なヘッドショットじゃった」

まるでFPSの神業を目撃した様な口ぶりで語るな、俺の死因を。

「ん? いや待て、隕石なんて防ぎようないだろ。それじゃあたとえ部屋の中にいても死んだんじゃないか?」
「いやいや、部屋の中にいたなら、威力が半減してギリギリ一命を取り留めて助かるはずだったんじゃ。
 部屋から出ない、もしくは高価な石を肌身離さず持っていれば、絶対に死にはしない。後遺症くらいはまぁ、残るかもしれんが」

なんて恐ろしい事をしてくれてんだコイツは……!
忠告通りにしてても、どの道とんでもない目に合ってたじゃないか。
もしかしたら痛みも感じず死ねたのは、運が良かったのかも知れない。
外に出た自分の勇気を褒め称えたい。

「で、俺は生き返してもらえるの? アンタのミスなんだろコレ」
「何度も言っとるじゃろ、ワシは神様じゃあない。蘇生などできるほど優れた存在ではない。残念じゃったな」

殴りたい。が、殴っても仕方ない。
俺は死んでしまったのだ。思わずうなだれてしまう。
せっかく受験勉強頑張って、入試に合格したんだけどな……
さようなら我がキャンパスライフ。そしてイチャラブ同棲生活。

そんな落ち込む俺に、オッサンは救いの言葉を投げかけた。

「ただし、転生なら可能じゃ」

やったぜ。

そうだよ。そういう展開だよなやっぱり。
ただ俺の死を告げる為だけに、こんな空間に呼んだりしないもんな普通。
オッサンの性格上、何の手立てもなけりゃ最悪、そのまま俺の存在を抹消しかねんもんな。
オッサンならそう言ってくれると信じてたよ。ありがとうオッサン。フォーエバーオッサン。

「まぁ、赤子からやり直しという形にはなるが、どうする?
 元の世界ともう一つの世界……どちらで人生をやり直す?」
「もう一つの世界……?」

そう尋ねると、オッサンの背後に、世界の営みを映した鏡が2枚現れた。

左には、俺の元居た世界。
学校で楽しそうに話し合う生徒の姿。電車に乗り出勤している会社員。テレビを眺める家族団欒のひと時が映し出される。

右には、もう一つの世界。
恐竜のような生物を相手に剣や杖を持って挑む男達。ローブを着た女性が何事か呟きながら巨大な鍋を混ぜる部屋。酒場で祝杯をあげる冒険者が肩を抱き合う瞬間が映し出された。

オッサン曰く、俺のいた世界とは別の世界は、いわゆる剣と魔法の世界らしい。様々な種族の人間達がいるらしく、獣人やエルフ、天使や悪魔も交流してるとか。
魔獣と呼ばれる存在が跋扈し、人々はそれを狩って生活をしている世界。
元いた世界に比べれば、危険極まりない物騒な世界ではあろうが……そんな事を聞かされて心躍らない男がいるだろうか。

俺が元居た世界……あの平和な世界に未練が無いわけではない。
家族と仲が悪かったわけでもないし、あの社会に俺は馴染めていた方だと思う。正直言って、母や父に感謝の言葉を伝えにいきたい気持ちはある。

だが、せっかく死んだのだ。そして、もう死んでしまったのだ。
どうせなら俺は……

「異世界に行く……!!」

そう決めた。
そんな俺を見て、何故かオッサンは満足げに微笑んでいた。

「そう言ってくれると信じておったぞ。お主がいた世界は戸籍とかキチンとしてるから、急に人を増やすと同僚にバレるからな。大変助かる」

どうやら、オッサンの保身の為に異世界に飛ばされる事は決定済みだったようだ。コイツこそ天罰落とせよと思うが、背に腹は変えられない。

「転生する種族を選べるけどもどうするのじゃ? なんか希望とかあるなら、なるべく沿うけども。
 魔力がクソ多い種族とか、格闘戦が得意な種族とか選べるぞい」

なんかチート臭い事言ってきた。
水を差すのが上手いなアンタ。褒めてないぞ。

「うーん、チート的なのはちょっとフェアじゃないというか良心的なモノが痛むような……」

いや待て。
思わず否定しかける俺だったが、考え直す。
俺はミーハー。異世界転生モノの小説も結構読んできた。
その度、俺がもし異世界に転生するような事になっても、チートだけには頼らない、と思って生きていた。

だが実際問題、本来人生は一度きりなのだ。失敗はしたくない。
せっかく転生したのに悲惨な境遇に身を置くことだけは絶対に避けたい。
せめて人並み以上の幸せは掴みたいものだ。
なら、ある程度有利な種族を選んでも、罰は当たらないんじゃあなかろうか。でも、あまり恵まれすぎてると、それはそれで人生つまらなさそうだし……悩ましい。
達成感を阻害されない程度にほどほどに楽に冒険ができて、ほどほどに女の子にモテる人生を送りたい。
よし、それなら……

「じゃあ、なるべく成長の早い種族がいいな。すぐ魔術とか憶えて使ってみたいし!
それと、女の子に好かれやすい容姿になりたい。どちらかと言えばお姉さん系の女性にモテる感じだと嬉しい。
それからイケメンボイスな声帯を所望する。なるべく主人公~って感じの声がいいな! と、まぁ……う~んいや、まぁ、そんな所か」
「拒否しかけた割には注文が多いな」

オッサンがツッコミを入れるが無視する。
いいからとっとと希望の種族に転生させろと目配せする俺。
意を汲んだオッサンは懐から、長方形で手乗りサイズな透明な板を取り出し、何やら指でなぞり始めた。
その板には不動産のホームページみたいな映像が映し出されていた。
どうやらこの画面で種族の検索ができるようだ。
こんなところまで電子化の影響が及んでるのか。

「成長が早くて……
 年上女子ウケの良い容姿で……
 声が良い種族……
 ちょっと待っておれよ、え~と……

 あったあった。1件だけヒットしたぞ」

辿々しい手つきではあったが、検索は完了したようだ。
この様子を見る限り、オッサンが電子化の波に乗り切れてないのが原因で俺を巻き込み事故死させたんじゃなかろうか。ありうる。

「では早速、転生させるぞ。早くしないと同僚にワシのミスがバレるかもしれんからな。覚悟はいいか?」

オッサンの保身の為に転生させられる事実は受け入れ難いが、我慢するしかない。
俺は覚悟を決めて……

「ああ。次の人生は、前よりもっと楽しんでやる……!」

精一杯強がってみた。
不安はある。でも、期待も充分にある。
大した経験を積み重ねたつもりはないが、元の世界で学んだ事を活かして生き抜いてやる!

そう心に誓って、もう一つの世界の鏡に手を当てた。
触れた手の先から、光に包まれていく。

オッサンは安堵したような表情で、俺に最後の言葉を連ねる。

「重ねがさね言うが、ワシは神でない。
 当然、世界を創ったのはワシらではない。
 世界とは、お主ら人類が望んで、辿りついたモノじゃ。
 これから先、いかように残酷な運命を辿ろうとも、神も世界も、誰を恨んでもならぬ。

 そのことを努々忘れるではないぞ」

そんな神様っぽい事を告げられつつ、俺は全身を光に包まれ……

異世界へと旅立ったのだ。









俺は目を覚ました。
謎の光に包まれてからどのくらい時間が経ったのかはわからないが、俺はどうやら気を失っていたらしい。
異世界転生に成功したのだろうか。

しかし、またもや真っ暗な世界に来てしまった。
見渡す限り、光と呼べるものは見当たらない。
先刻も同様に、黒一色の世界では合ったのだが……
今回は身動き一つ取れない。どういう事だろう。

もしかして、これは母親の胎内なのだろうか?
そう推測するも……どうやらそうでもなさそうだ。
何やら、全身をひんやりとしたもので包まれている様に感じる。

とにかく無理矢理動こうと試みる。
手は微かに動いた。何かをかきわける感触が伝わってきた。
これは土? 俺は土の中にいるのか?
精一杯、力を込めて腕を頭上に伸ばしてみると、何かを突き抜けた手応えがあった。手の先に空気を確かに感じる。
全身をフルに使い、手でこじ開けた空間から顔を出すと、周りの景色が一変した。

それは、木や草が生い茂る空間。森であった。
木々の間からは光が漏れ落ち、今は昼であると判断できる。
水の流れる音がするので、近くに川でもありそうだ。
いや、今大事なのはそういう事じゃあない。
俺は森の中の、土の中にいたことになる。

え? この世界の人間は、母親の腹から生まれるわけじゃなく、土の中から生まれるのか?
嫌な予感がする。
俺は穴を抜け出し、地面へと這い出た。

すると、またおかしな事に気付く。
生まれて数秒で、二本足で立っている事。
周りの景色が異様に大きく感じる事。
視界の隅に見えた俺の手足が、緑で透明感のある肌つやをしている事。

嫌な予感しかしない。
俺は、水の流れる音のする方へと、静かに歩き出す。

そこには波の小さな、穏やかな清流が流れていた。
川は浅いようで、透き通った水の奥には川底が見える。
そして、覗き込んだ水面には俺の上半身が映し出されていた。

どら焼きの如く潰れた頭部に、テキトーに乗せた感じの黒く巨大な瞳。
頬の位置には左右それぞれ一つずつ、ピンク色の石の様なもの。
頭部のサイズに対して貧弱すぎる、首と一体化した丸い胴体と短い手足。
光沢のある、湿り気を帯びた緑色の肌。

見紛うことなく、カエルの弱小モンスターの姿だった。


「ナニコレェェェエエエえええええええええええ!?」


絶叫した。絶叫せざるを得なかった。
事実を脳が受け止める事ができない。
体の内側から迸る感情が、冷静でいる事を許さなかった。
頭の中を疑問符が爆走乱舞する。
溢れる感情に身を任せて、腹の底から声を出してしまった。
そんな俺のリアクションを誰が責める事ができようか。
いや、どんな人間も、同じような反応をしたはずだ。許して欲しい。


だが、現実は優しくなかった。
俺の絶叫を聞いた人間がいる。
狂気に取り憑かれ、事態を直視できない俺の背後に、その人は来た。

その気配に、俺は振り返る。
そこにいたのは、女性だった。

レインコートに似た黒のローブ。
黒を基調とした衣装に、所々あしらわれた金色の装飾。
その手に持つのは青く輝く石が3つ嵌め込まれた杖。
フードの下から覗く顔には、赤く光る瞳に独特な肌の模様。
バッサリと整えられた、桃色の髪。

その姿を見た俺の胸中には、とある一つの感情が渦巻いていた。
この人は、きっと……



今の俺が知る由もないが、この女性こそが、後の俺の師匠となる存在。


蛙の魔女、その人であった。


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