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第10章
第4話 江角の志
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「はい、じゃあ撮りますねー。自然体でお願いしまーす」
翌日から、江角とカメラマンの男性がやってきて、身の回りをあれこれ撮り始めた。
授業風景も撮影するため、クラスメイトたちは大興奮で、カメラに向かってピースをしたりしている。
昼休みと放課後は雪像づくりの風景を撮られ、時々別室でインタビューを受ける。そんな毎日。
正直鬱陶しくはあるが、霜矢と深冬は楽しそうだ。
江角がカメラマンに指示をしながら、あれこれ質問して回る。
「なるほどー、雪に水をかけて固めるんですね。じゃあ須縄くん、さっきのをもう一度カメラに向かって説明してください! はいどーぞ」
「え、えっと、雪に水をかけて、凍らせてかためます。こうすると、く、崩れにくくなる、な、なります」
一番カメラ慣れしていない霜矢はずっとがちがちで、でもそれが逆に面白いようだ。
「ありがとうございます! では、3人が雪像づくりを始めた理由を聞かせてください。私がどうぞと言ったら話し始めてください。まず、須縄くん。どうして雪像を作ろうと思ったのですか? どうぞ」
「えっと、へへ、俺は昔見た雪まつりの雪像が忘れられなくて、ですね。従兄の兄ちゃんに連れてってもらったんです。俺は当時不登校で、でもこんなふうに作ることで夢を与えたいと思うようになりました」
江角がいきなり黙り込んで、霜矢を眺めた。
カメラマンにつつかれて、はっとする江角。
「ありがとうございます。それでは、真城さんが雪像づくりを始めた理由はなんですか? どうぞ」
「私は、霜矢の力になりたいと思ったのが最初でした。もともと雪だるまを作るのは好きでしたし、霜矢の夢を応援したかったので。私、他の二人ほど技術力はないけど、体力には自信があるんです。全体を大まかに彫るのが得意です!」
「なるほど! ありがとうございます。最後に、時原くんもお願いします。どうぞ」
夏樹はちらっと霜矢を見た。
「俺は須縄に巻き込まれただけです。でも、巻き込まれてよかったと思ってます」
× × ×
準備期間が2日後に迫った木曜日。
「わあ、これ樹ですか? ブロッコリーみたいですね!」
江角が大樹の試作を見上げる。
霜矢が「へへ」と笑った。
「ブロッコリーですか。言われてみればそうかも」
「あ、すみません失礼を」
笑う江角が、足元の雪につまずき、雪像にぶつかった。
「江角さん!」
深冬が悲鳴を上げる。
近くにいた夏樹が咄嗟に雪像を腕で押さえた。頭に、崩れたこぶし大の雪が落ちてくる。
「わ、すみません……」
尻もちをついて、なおも笑っている江角に苛立ちが募って、夏樹は思わず怒鳴っていた。
「なにしてんだよ! 雪は危ないんだ。あんたが怪我したら困るのはこっちだ! 邪魔するだけなら帰ってくれ」
しん、と空気が凍った。
江角が目を丸くする。
「す、すみません……ちょっと頭を冷やしてきます」
「あ、ちょっと」
江角が小走りでどこかへ行ってしまった。
「チッ、なんだよあの人……」
「あのー……」
今までずっと黙っていたカメラマンが、カメラを下ろして3人に声をかけた。
「雪が危ないってこと、江角さんが一番よく知ってると思いますよ」
「え?」
「自分も聞いた話なんですけどね。江角さん、学生の頃に雪崩に巻き込まれて手足に少し障害があるんです。それでよく転ぶんだと思います。手も思うように動かせなくなって、イラストレーターになる夢をあきらめたらしいです」
深冬が「そんな……」とつぶやいた。
夏樹は思わず唇を噛んでいた。
「俺、江角さんと話してくる」
× × ×
渡り廊下のところで、江角が落ち込んだように座っているのを夏樹は見つけた。
近づいて、頭を下げる。
「すみませんでした、さっきは怒鳴ったりして」
「時原くん!? 謝らないでください、私が悪かったんですから。あはは……」
夏樹は江角から少し離れた位置にしゃがみこんだ。
「……江角さんはなんでテレビ局に入ったんですか」
「あはは、なんか逆インタビューみたいですね……私、夢を届ける方法って、芸術だけじゃないと思うんです。表舞台に立つ方も、テレビに映らない裏方も、みんな志を持って何かを届けようとしています。私もその端くれになりたかったんですかね」
「……」
江角の言葉が、胸の奥にずしんと沈んだ。
夢を届ける。自分はまだ、その言葉の重さを測りきれていない。
霜矢も、深冬も、当然のように心の内に持っているのであろうその感覚を。
「しゃべりすぎちゃいましたね。戻りましょうか」
江角が明るく笑って立ち上がろうとしたとき、霜矢が裏門の方から、走ってやってきた。
「時原ぁ! 料理部の先輩がクッキー差し入れてくれたけど食うだろ? 江角さんもよかったらどうぞー!」
夏樹と江角は顔を見合わせた。
「おう、今行く」
「私も行きまーす!」
霜矢が笑って手を振る。
校舎の壁から剥がれ落ちた小さな雪片が頬に落ちた
それが一瞬で溶けるように、苛立ちもどこかへ消えていくような気がした。
翌日から、江角とカメラマンの男性がやってきて、身の回りをあれこれ撮り始めた。
授業風景も撮影するため、クラスメイトたちは大興奮で、カメラに向かってピースをしたりしている。
昼休みと放課後は雪像づくりの風景を撮られ、時々別室でインタビューを受ける。そんな毎日。
正直鬱陶しくはあるが、霜矢と深冬は楽しそうだ。
江角がカメラマンに指示をしながら、あれこれ質問して回る。
「なるほどー、雪に水をかけて固めるんですね。じゃあ須縄くん、さっきのをもう一度カメラに向かって説明してください! はいどーぞ」
「え、えっと、雪に水をかけて、凍らせてかためます。こうすると、く、崩れにくくなる、な、なります」
一番カメラ慣れしていない霜矢はずっとがちがちで、でもそれが逆に面白いようだ。
「ありがとうございます! では、3人が雪像づくりを始めた理由を聞かせてください。私がどうぞと言ったら話し始めてください。まず、須縄くん。どうして雪像を作ろうと思ったのですか? どうぞ」
「えっと、へへ、俺は昔見た雪まつりの雪像が忘れられなくて、ですね。従兄の兄ちゃんに連れてってもらったんです。俺は当時不登校で、でもこんなふうに作ることで夢を与えたいと思うようになりました」
江角がいきなり黙り込んで、霜矢を眺めた。
カメラマンにつつかれて、はっとする江角。
「ありがとうございます。それでは、真城さんが雪像づくりを始めた理由はなんですか? どうぞ」
「私は、霜矢の力になりたいと思ったのが最初でした。もともと雪だるまを作るのは好きでしたし、霜矢の夢を応援したかったので。私、他の二人ほど技術力はないけど、体力には自信があるんです。全体を大まかに彫るのが得意です!」
「なるほど! ありがとうございます。最後に、時原くんもお願いします。どうぞ」
夏樹はちらっと霜矢を見た。
「俺は須縄に巻き込まれただけです。でも、巻き込まれてよかったと思ってます」
× × ×
準備期間が2日後に迫った木曜日。
「わあ、これ樹ですか? ブロッコリーみたいですね!」
江角が大樹の試作を見上げる。
霜矢が「へへ」と笑った。
「ブロッコリーですか。言われてみればそうかも」
「あ、すみません失礼を」
笑う江角が、足元の雪につまずき、雪像にぶつかった。
「江角さん!」
深冬が悲鳴を上げる。
近くにいた夏樹が咄嗟に雪像を腕で押さえた。頭に、崩れたこぶし大の雪が落ちてくる。
「わ、すみません……」
尻もちをついて、なおも笑っている江角に苛立ちが募って、夏樹は思わず怒鳴っていた。
「なにしてんだよ! 雪は危ないんだ。あんたが怪我したら困るのはこっちだ! 邪魔するだけなら帰ってくれ」
しん、と空気が凍った。
江角が目を丸くする。
「す、すみません……ちょっと頭を冷やしてきます」
「あ、ちょっと」
江角が小走りでどこかへ行ってしまった。
「チッ、なんだよあの人……」
「あのー……」
今までずっと黙っていたカメラマンが、カメラを下ろして3人に声をかけた。
「雪が危ないってこと、江角さんが一番よく知ってると思いますよ」
「え?」
「自分も聞いた話なんですけどね。江角さん、学生の頃に雪崩に巻き込まれて手足に少し障害があるんです。それでよく転ぶんだと思います。手も思うように動かせなくなって、イラストレーターになる夢をあきらめたらしいです」
深冬が「そんな……」とつぶやいた。
夏樹は思わず唇を噛んでいた。
「俺、江角さんと話してくる」
× × ×
渡り廊下のところで、江角が落ち込んだように座っているのを夏樹は見つけた。
近づいて、頭を下げる。
「すみませんでした、さっきは怒鳴ったりして」
「時原くん!? 謝らないでください、私が悪かったんですから。あはは……」
夏樹は江角から少し離れた位置にしゃがみこんだ。
「……江角さんはなんでテレビ局に入ったんですか」
「あはは、なんか逆インタビューみたいですね……私、夢を届ける方法って、芸術だけじゃないと思うんです。表舞台に立つ方も、テレビに映らない裏方も、みんな志を持って何かを届けようとしています。私もその端くれになりたかったんですかね」
「……」
江角の言葉が、胸の奥にずしんと沈んだ。
夢を届ける。自分はまだ、その言葉の重さを測りきれていない。
霜矢も、深冬も、当然のように心の内に持っているのであろうその感覚を。
「しゃべりすぎちゃいましたね。戻りましょうか」
江角が明るく笑って立ち上がろうとしたとき、霜矢が裏門の方から、走ってやってきた。
「時原ぁ! 料理部の先輩がクッキー差し入れてくれたけど食うだろ? 江角さんもよかったらどうぞー!」
夏樹と江角は顔を見合わせた。
「おう、今行く」
「私も行きまーす!」
霜矢が笑って手を振る。
校舎の壁から剥がれ落ちた小さな雪片が頬に落ちた
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