【完結】君の手が、入道雲を彫る

江夏みどり

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第12章

第1話 大雪像を見上げて

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 土曜日。快晴。
 全国テレビのリポーターが、カメラに向かって早口でまくしたてている。

「始まりました、北海道雪まつり! ご覧ください、雪像・氷像合わせて200基以上が展示されています。こちらは第二会場の様子です……」

「皆さーん!」

 江角えすみが走ってやってきて、おっとっととつまずいた。
 相変わらず危なっかしい。

「大盛況ですね、雪まつり!」
「はい!」

 霜矢そうやが笑顔で答える。

「そうだ、須縄すのくん、どんな思いでこの『夏の樹』を制作したのか、カメラの前で話してもらっていいですか?」
「もちろんです」

 カメラマンの前に立って、霜矢が咳払いをした。

「この2週間、この3人で頑張ってきました。でも、3人の力だけで完成させたわけではありません。家族、学校の友人や先生、地元の方、運営スタッフの皆さんのご協力あってのことです。1週間の雪まつり、最後まで駆け抜けます!」

「はい、ありがとうございます、ちょっと確認しまーす」

 江角がカメラを確認し始める。

「霜矢、インタビューも板についてきたじゃん」

 深冬みふゆが霜矢を小突く。
 霜矢がへへっと笑うのを、夏樹は数歩離れた位置から見守っていた。

 雪まつりの雪像は、大きく破損した場合は会期中であっても、安全上の配慮からその場で解体となる。
 壊れないように細心の注意を払い、メンテナンスしながら1週間維持しなければならない。
 そのためか、会場内には準備期間以上の緊張感が漂っていた。

 学校は先生とも相談して順番に公休を取り、平日でも最低1人は対応できるようにしている。
 学校が終われば急いで札幌に集合し、不安なところがあれば修繕し、速やかに帰宅する。

 そんな毎日が、今日から始まるのだ。期待と不安で、頭の端がきりりと痛んだ。

 10メートルを超える大雪像は、第一会場の大通公園に集中している。
 見物客が減ったタイミングで、3人は第一会場へ視察に向かった。

「わあ」

 今回の目玉、ヴェルサイユ宮殿の大雪像を3人で見上げる。

「見るのは初めてじゃないけど、作る側になってみると改めてすごいな、これ」

 霜矢が中学生のときに見たという雪像も、おそらくこのサイズだろう。

「私たちが大雪像を作るとしたら、どんなのがいいかな」
「俺、浮世絵とか彫ってみたい! 時原は?」

 こちらを振り返って笑う霜矢と深冬が眩しい。

「俺は……」

 大雪像を彫る。そんな日が来るのなら。

「なんかすげーもん彫りてえな」
「なんだよ、抽象的すぎるだろー」

 霜矢が笑う。

 大雪像を作る。そんな夢の大きさがどれくらいかなんてわからないし、できるかどうかもわからない。しかし、霜矢の笑顔が、ただの夢ではなく現実を変える力を持っているように思えた。

   ×   ×   ×

 昼過ぎに、若い花嫁と花婿がやってきた。
『夏の樹』の前で写真を撮る二人を、夏樹たちは写り込まない位置から眺める。

「綺麗だね…」

 深冬が花嫁のわずかな動きさえ漏らさずに見つめている。

 雪に反射した日光を浴びて、花嫁のドレスが白く輝いている。
 自分には来ない未来。ひどく眩しい未来。

 ふいに、頭が強く痛んで視界がゆがんだ。

「時原!」

 霜矢の叫び声が遠くで聞こえる。
 頬に冷たい雪の感触がして、意識が途切れた。

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