46 / 51
第11章
第5話 キスの瞬間
しおりを挟む
「えっと……なんで?」
夏樹が困惑して尋ねると、なぜか霜矢も困ったような顔をして答えた。
「お、俺、こないだ時原の家にDVDプレーヤー忘れて行ったじゃん。プラネタリウムのビデオの続きも見たいし」
「お前、そんなにプラネタリウムに興味あったの」
「ある。うん、あるかも」
霜矢の声がごにょごにょと小さくなった。
「……わかった。飯買いたいから帰りにコンビニ寄っていい?」
「うん」
「じゃ、行くか」
並んで駅を出て、マンションの近くのコンビニでおにぎりを買う。
ココアを持ってレジに並ぶ霜矢。
「須縄、それだけでいいの?」
「うん。あんまり腹減ってなくて」
「ちょっとでいいからなんか食えよ。雪まつり終わるまでは体が資本なんだし」
「わかった」
霜矢が素直におにぎりを一つ取って、レジに向かった。
特に会話もしないまま、少し間を開けて歩き、マンションのエレベーターに乗る。
「今日、泊まってくの?」
「時原がいいなら。ばあちゃんにも連絡したし」
「あ……そう」
なんとなく向かい合って夕飯を食べ、順番に風呂に入る。
「時原、部屋着とタオルありがとう」
「ん。ビデオ見る?」
「うん……」
ソファに並んで座って、テレビをつける。
なんとなく、あの大雪の日のことが思い出された。
落ち着いた声のナレーションが流れる。
「惹かれ合った織姫と彦星は、毎日遊んで暮らしました。それに怒った天帝が、織姫と彦星を引き離し……」
霜矢がゆっくりと手を伸ばし、夏樹の右手を握った。
握られた瞬間、血が逆流したように手のひらが熱くなる。
夏樹は息を飲んだ。
霜矢はどういうつもりで手を握るのだろう。これも「練習」なのだろうか。もうよくわからない。
「時原」
霜矢がテレビの方を向いたままつぶやく。
「何?」
「……」
「なんだよ」
霜矢がココア缶をあおり、膝を抱きかかえて背筋を丸めた。
「……織姫と彦星ってさ、ちゅーとかしたのかな」
「なんだよその初心な質問。したんじゃねえの、あいつら相当関係性ただれてるだろ」
「そっか……」
沈黙が流れる。
夏樹が質問の意図を掴みかねていると、霜矢が消え入りそうな声で再びつぶやいた。
「時原はさ、キスとか、したことある……?」
「まあ、あるけど……」
霜矢が膝に顔をうずめた。
心臓の激しい鼓動が痛いほど耳に響いている。
夏樹は震える声で尋ねた。
「してみる……?」
霜矢が顔をうずめたまま、こくりと頷いた。
握っていない方の左手を、霜矢の首の裏にそっと伸ばす。
指先に伝わる脈拍が、おそろしく速かった。
首をとんとんと優しく叩くと、霜矢がゆっくりと顔を上げた。
霜矢の丸い目がうるんでいる。夏樹の両腕が震えた。
「目、閉じて」
霜矢が目を閉じた。瞼が小刻みに震えている。
首を押して、ゆっくり顔を引き寄せる。
霜矢の顔を見つめてから、そっと唇を重ねた。
あたたかさと冷たさが同時に押し寄せて、感覚がぐらりと揺れた。
冷えた唇が、一気に溶けていくようだった。
「ん……」
どちらのものかもわからない声が漏れる。
ゆっくりと顔を離すと、唇が互いにくっ付き合うようにして離れた。
一回だけのつもりだった。でも、名残惜しい。
霜矢も同じ気持ちだろうか。
「もう一回」
夏樹が囁くと、霜矢が小さく頷いた。
さっきよりも少し深くキスする。
汗ばんだ右手を強く握ると、霜矢の手が小さく震えた。
「んっ……はあ……」
唇の隙間から、霜矢の熱い息が漏れる。
体の芯がじんじんと熱を持って脈打っている。
口をそっと離して、額同士を合わせる。
霜矢の目は、縁の方が赤くなっていた。
かわいい、は何か違う。かっこいい、も適当ではない。
「眩しい……」
つぶやくと、霜矢がへにゃっと泣きそうな顔で「なんだよそれ」と小さく笑った。
首に当てていた手を、霜矢の真っ赤になった耳にすべらせて、外側の溝をなぞるように撫でる。
「もう一回、いい?」
「……うん」
霜矢が目を閉じる。
耳を軽く引っ張って唇を重ね、舌先で霜矢の唇に触れると、飲んだばかりのココアの甘さが伝わってきた。
霜矢がびくっと体を震わせる。
「時原ぁ……ふあ……んん……」
少し湿った霜矢の下唇を食むと、霜矢が夏樹の肩にしがみついてくる。
角度を変えながら唇を重ねていると、しがみついた手が少しずつ緩んで、全身の力が抜けたように霜矢がソファに横たわった。
霜矢の唇を追いかけるように覆いかぶさり、押し倒す体制で深くキスする。
夏樹の髪が霜矢のオレンジの髪と混ざり合った。
心臓の鼓動で鼓膜と胸が破裂しそうだ。
「んあ……時原、時原」
「ふぅっ……はあ……須縄、舌出して」
「やっ……んっ……」
もう止まれない。霜矢の手を強く握る。全身が熱を帯びている。
深いキスとキスの合間に、霜矢が上気した顔でつぶやいた。
「はあ……時原……俺たちって友達なのかな……」
夏樹は何も答えない。答えることができない。
外に降る雪が、街の音をかき消している。
いつのまにかプラネタリウムの動画は終わって、最初のメニュー画面が表示されていた。
夜が更けて疲れて眠ってしまうまで、二人は何度も何度も唇を重ねた。
夏樹が困惑して尋ねると、なぜか霜矢も困ったような顔をして答えた。
「お、俺、こないだ時原の家にDVDプレーヤー忘れて行ったじゃん。プラネタリウムのビデオの続きも見たいし」
「お前、そんなにプラネタリウムに興味あったの」
「ある。うん、あるかも」
霜矢の声がごにょごにょと小さくなった。
「……わかった。飯買いたいから帰りにコンビニ寄っていい?」
「うん」
「じゃ、行くか」
並んで駅を出て、マンションの近くのコンビニでおにぎりを買う。
ココアを持ってレジに並ぶ霜矢。
「須縄、それだけでいいの?」
「うん。あんまり腹減ってなくて」
「ちょっとでいいからなんか食えよ。雪まつり終わるまでは体が資本なんだし」
「わかった」
霜矢が素直におにぎりを一つ取って、レジに向かった。
特に会話もしないまま、少し間を開けて歩き、マンションのエレベーターに乗る。
「今日、泊まってくの?」
「時原がいいなら。ばあちゃんにも連絡したし」
「あ……そう」
なんとなく向かい合って夕飯を食べ、順番に風呂に入る。
「時原、部屋着とタオルありがとう」
「ん。ビデオ見る?」
「うん……」
ソファに並んで座って、テレビをつける。
なんとなく、あの大雪の日のことが思い出された。
落ち着いた声のナレーションが流れる。
「惹かれ合った織姫と彦星は、毎日遊んで暮らしました。それに怒った天帝が、織姫と彦星を引き離し……」
霜矢がゆっくりと手を伸ばし、夏樹の右手を握った。
握られた瞬間、血が逆流したように手のひらが熱くなる。
夏樹は息を飲んだ。
霜矢はどういうつもりで手を握るのだろう。これも「練習」なのだろうか。もうよくわからない。
「時原」
霜矢がテレビの方を向いたままつぶやく。
「何?」
「……」
「なんだよ」
霜矢がココア缶をあおり、膝を抱きかかえて背筋を丸めた。
「……織姫と彦星ってさ、ちゅーとかしたのかな」
「なんだよその初心な質問。したんじゃねえの、あいつら相当関係性ただれてるだろ」
「そっか……」
沈黙が流れる。
夏樹が質問の意図を掴みかねていると、霜矢が消え入りそうな声で再びつぶやいた。
「時原はさ、キスとか、したことある……?」
「まあ、あるけど……」
霜矢が膝に顔をうずめた。
心臓の激しい鼓動が痛いほど耳に響いている。
夏樹は震える声で尋ねた。
「してみる……?」
霜矢が顔をうずめたまま、こくりと頷いた。
握っていない方の左手を、霜矢の首の裏にそっと伸ばす。
指先に伝わる脈拍が、おそろしく速かった。
首をとんとんと優しく叩くと、霜矢がゆっくりと顔を上げた。
霜矢の丸い目がうるんでいる。夏樹の両腕が震えた。
「目、閉じて」
霜矢が目を閉じた。瞼が小刻みに震えている。
首を押して、ゆっくり顔を引き寄せる。
霜矢の顔を見つめてから、そっと唇を重ねた。
あたたかさと冷たさが同時に押し寄せて、感覚がぐらりと揺れた。
冷えた唇が、一気に溶けていくようだった。
「ん……」
どちらのものかもわからない声が漏れる。
ゆっくりと顔を離すと、唇が互いにくっ付き合うようにして離れた。
一回だけのつもりだった。でも、名残惜しい。
霜矢も同じ気持ちだろうか。
「もう一回」
夏樹が囁くと、霜矢が小さく頷いた。
さっきよりも少し深くキスする。
汗ばんだ右手を強く握ると、霜矢の手が小さく震えた。
「んっ……はあ……」
唇の隙間から、霜矢の熱い息が漏れる。
体の芯がじんじんと熱を持って脈打っている。
口をそっと離して、額同士を合わせる。
霜矢の目は、縁の方が赤くなっていた。
かわいい、は何か違う。かっこいい、も適当ではない。
「眩しい……」
つぶやくと、霜矢がへにゃっと泣きそうな顔で「なんだよそれ」と小さく笑った。
首に当てていた手を、霜矢の真っ赤になった耳にすべらせて、外側の溝をなぞるように撫でる。
「もう一回、いい?」
「……うん」
霜矢が目を閉じる。
耳を軽く引っ張って唇を重ね、舌先で霜矢の唇に触れると、飲んだばかりのココアの甘さが伝わってきた。
霜矢がびくっと体を震わせる。
「時原ぁ……ふあ……んん……」
少し湿った霜矢の下唇を食むと、霜矢が夏樹の肩にしがみついてくる。
角度を変えながら唇を重ねていると、しがみついた手が少しずつ緩んで、全身の力が抜けたように霜矢がソファに横たわった。
霜矢の唇を追いかけるように覆いかぶさり、押し倒す体制で深くキスする。
夏樹の髪が霜矢のオレンジの髪と混ざり合った。
心臓の鼓動で鼓膜と胸が破裂しそうだ。
「んあ……時原、時原」
「ふぅっ……はあ……須縄、舌出して」
「やっ……んっ……」
もう止まれない。霜矢の手を強く握る。全身が熱を帯びている。
深いキスとキスの合間に、霜矢が上気した顔でつぶやいた。
「はあ……時原……俺たちって友達なのかな……」
夏樹は何も答えない。答えることができない。
外に降る雪が、街の音をかき消している。
いつのまにかプラネタリウムの動画は終わって、最初のメニュー画面が表示されていた。
夜が更けて疲れて眠ってしまうまで、二人は何度も何度も唇を重ねた。
44
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる