螺旋列車

ryokutya

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第一章

探索

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彩香さんと同じ傘に入りながら雨の街へ繰り出した。街は曇天に包まれていて薄暗い。
見たことのない街並みを当てもなく進む。都会ではないが田舎という雰囲気でもない。
歩いている途中には地元民が利用してそうなスーパーや小さな商店もある。
すれ違う人は少ないのは雨だからだろう。
俺と彩香は身を寄せ合い雨を避けながら歩いた。
不意に何か見つけたのか彼女が止まった。
「あれ、、見覚えあります」
彼女の指差す場所には市立図書館があった。
「この街来たことあるんですか?」
俺が問いかけると彼女は首を横に振った。
「いいえ。この街には見覚えありません。ただ、あの図書館は来たことがあるような気がするのです」
彼女はどこか寂しそうな顔をしていた。
「入ってみますか?あの図書館に」
俺が問いかけると彼女はゆっくり頷いた。

図書館に入ると独特な本の匂いが漂ってくる。静寂な空間で他のお客さんはいない。
受付には40代くらいのメガネを掛けた女性が座っていた。
奥の方に階段が見える。外からだと気づかなかったが2階建てのようだ。
彩香さんは1階は無視してすぐに2階へ向かう。俺もそれに続いた。
2階に上がり俺は少し驚いた。辺り一面に写真が貼ってありアクリルケースに展示されているものもある。図書館というよりは資料館のような雰囲気だ。
「これは、、どこかで起きた震災の記録のようですね」
俺は1枚の写真を見て彼女に問いかけた。俺が今見ている写真には川が氾濫し流されている家が記録されている。
「私、この時にいたんですよ。この街に」
彼女は俺が見ていた写真を見ながら言った。俺が固まっていると彼女は続けた。
「何もかも流した雨は私の大切なものも流してしまった」
ここに来るまで彼女の笑顔を何度か見た。悲しそうな儚い笑顔。それはこの震災の辛い経験が原因なのかもしれない。
「、、、」
俺は何も言うことができなかった。

「あの、そろそろ閉館ですが」
振り向くと受付にいた女性が困ったような顔でこちらを見ていた。
時計を見ると8時を指している。
「彩香さんそろそろ行かないと」
俺は受付の女性に振り向くことなく黙々と資料に目を通している彩香さんに声をかけた。
「南雲さん、私行きたいところがあります」
彩香さんそう言いながら俺の目を見つめていた。

図書館を出ると外は街頭の光が頼りな漆黒の闇に包まれていた。相変わらず雨は強い。
俺と彩香さんは一つの傘に身を寄せ合いながら街の中心地へ向かった。
暗い街を歩いているとファミレスが見えた。
俺は腹ごしらえと雨宿りを兼ねてファミレスに行くことを提案した。
彩香さんも了承し2人でファミレスに入ることになった。
某有名ファミリーレストランで広すぎず狭すぎずという大きさだ。街の規模に合わせた店舗なのだろう。俺たちが入ると中には複数のお客さんがいた。
2人座りのテーブルに案内されようやく落ち着いて話ができた。
図書館から出てここに着くまで彩香さんはほとんど無言だった。
「何か食べますか?あの駅から何も飲まず食わずで俺は少し腹が空きました」
俺はメニュー表に目を通しながら言った。
彼女は何か話したそうだったが空腹だったようでお腹が鳴るのが聞こえた。
「彩香さんもお腹空いてるみたいですね」
俺が笑いながら言うと彼女は顔を赤らめた。
俺はカルボナーラを頼み彼女はオムライスを頼んだ。
他愛もない話をしながら食事をした。
お互いが食べ終わり一呼吸置いて彼女は図書館でした話の続きを始めた。

「私、さっきの資料を見てわかりました。この場所に来た理由」
彼女は真剣な表情で俺を見ている。
「理由?43番ホームで降りた理由がわかったということですか?」
俺は少し前屈みになり聞いた。
「はい。私、写真にあった豪雨のときあの場所にいたって言いましたよね」
「そう言ってました。あと大切なものを流されたとも」
彩香さんは小さく頷いた。
「私、図書館司書なんです。あの街にいたときも図書館で働いてました」
俺は図書館司書という彼女に少し驚いたが理知的な雰囲気の理由がわかった気がした。
「先程行った図書館は私があの街で働いていた図書館にそっくりでした。しかし私が働いていた図書館の2階は資料館ではなく学生が勉強する学習部屋のようになってました」
なるほど。彼女が図書館に入ってすぐに2階に行ったのはそれを確認するためだったのか。
「ですが彩香さんはこの街には見覚えがないと言ってました。図書館だけ似ててあの街ではないということですよね?」
俺は図書館を見つけたときの彼女の言葉を思い出して聞いた。
「はい。私は以前あの街で3年働いてました。さすがに忘れることはありません。でも街を歩いていて気付いたことがあるのです」
「気付いたことですか?」
俺は息を飲んで彼女の言葉を聞いていた。
「はい。恐らくこの街は私の記憶を元に作られたということです」
俺は沈黙した。彼女が何を言っているのか理解できなかったのだ。俺が目を丸くしていると彼女は続けた。
「南雲さんは今のこの状況どう思いますか?階層式になっている駅、ホームから外に出たら見覚えのない街に来ていた事実。明らかに普通じゃないですよね?」
俺が43番ホームを出たときに思っていたことを彼女もずっと感じていたということがわかった。もしかしたらこれは夢の中でこの異常な状況も俺以外の人達は普通だと思っているのではないかと感じていた。
それ故に彼女もこの状況に違和感を感じていることを知れたことに心から安堵した。
「もしかしたら俺だけがこの状況を異常と感じていて彩香さんも他の人も普通だと思っているのではと感じていました」
俺は安堵した表情で彼女を見た。
「この状況は確かに異常です。それならこの街が彩香さんの記憶で作られたというのも頷けます。しかしどうしてわかったのですか?彩香さんの記憶の街だと」
彩香さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「このファミレス小さいときに両親と良く来たとこなんです。それに途中見たスーパーも田んぼ風景も全部記憶にありました」
俺は思わず吹き出しそうになった。偶然入ったつもりのファミレスが彼女の思い出の場所だったのだ。
俺が吹き出しそうなのを見て彩香さんは顔を赤らめていた。
彼女の恥ずかしがる様子を見て俺は思わずドキドキした。
不覚にも心ときめいたのだ。
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