螺旋列車

ryokutya

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第一章

運命共同体

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「そろそろ本題聞いていいですか?図書館で言っていた彩香さんの行きたい場所を聞きたいのですが」
俺と彩香さんがファミレスに入って2時間。お互いの距離も縮まってきて他愛もない雑談ができるほどの仲になっていた。
その最中俺は図書館で聞いた彼女の話の続きを聞いた。
「はい。私もそろそろお話したいと思っていました」
彼女は真剣な表情に戻った。
「この街が私の記憶であればやり直すことができると思うのです。あの豪雨のときのことを」
俺は彼女の顔を見つめながら話を聞いた。
「今この街で降っている雨。これは恐らくあの豪雨の2日前と同じです。このままいけば2日後にはこの街でもあの豪雨が起きるでしょう。」
彼女は顎に手を当てた。考えるときの彼女の癖なのだろう。
「あの図書館の2階が資料館になっていたのは私に豪雨のことを思い出させるためだったのでしょうね」
「なるほど。ここが彩香さんの記憶ならあり得る話です。しかし実際のところ豪雨を止めるなんて不可能ですよ」
俺は頭を掻きながら言った。彼女は更に続けた。
「私はあの豪雨のときに大切な人を救えなかった。その大切な人を救うことが私の目的です。そして行くのは大切な人のいる胡桃町という場所です」
彼女の力強い意思と覚悟を感じた。
俺は覚悟を決めた彼女の顔を見つめた。
そして彼女同様に覚悟を決めた。
「俺にも彩香さんの手伝いさせてください」
彼女は微笑みながら言った。
「彩香でいいですよ。これから運命共同体の仲間なんですから」
俺は照れ臭くなり頭を掻いた。
「それなら俺のことは総司と呼んでください。これからよろしくお願いします」

彩香の言う豪雨の正式名称は「胡桃地区大規模豪雨」というらしい。3年前の7月6日。山梨の奥地にある胡桃地区で記録的豪雨が発生。胡桃地区の中心である胡桃町や隣の山代町など大規模に被害を及ぼした。前日からの大雨で地盤が緩くなり大規模な土砂崩れも発生してしまった。避難者は約5000人、死者4名という痛ましい被害を出した。亡くなった4名は全て土砂崩れによるものだ。今までも大雨はあったが土砂崩れなど起きたことはない地域だった。役所の避難勧告も後手に回り結果4名の死者を出してしまったそうだ。
俺は彩香に聞くまでこの震災を知らなかった。山奥で起きた震災で大規模には報道されなかったと彩香は言う。

俺と彩香はファミレスを出てとりあえず寝床を確保することにした。時刻は既に夜の11時。行動するにしても明日からになるだろうという判断だ。
当てもなく歩いているとピンク色の電飾で彩られた昔ながらというようなラブホテルが目に入った。
彩香は嬉しそうにピンク色の電飾を指刺した。
「良かった。ちゃんと寝床見つけられましたね」
「ここラブホテルですよ。さすがにまずくないですか?」
彩香は頭を傾げた。
「寝るために使うのだから問題ないでしょう?ホテルなのだし」
「彩香が良ければ俺はいいですけど」
俺がそう言うと彩香は無邪気な笑顔でホテルの中に入っていった。

時刻は11時半。
俺はホテルのベットに腰掛けていた。
無音の部屋にシャワーの音だけが響く。
振り向けば裸の彩香がシャワーを浴びている。
俺は心臓が張り裂けそうなくらい緊張していた。
部屋は案の定というような内装でベットは一つでいろいろな道具も置いてある。

フロントで俺は2つ部屋を取ろうとした。
しかし彩香は部屋は一つで十分と譲らなかった。
「これからの話をするのだから同じ部屋の方が効率良いです」
これが彩香の言い分だった。
今まで女性とお付き合いをしたことが無かった俺にとって緊張は計り知れない。
部屋に入るとすぐに彩香は疲れたのでシャワーを浴びたいと言い出した。
シャワー室はガラス張りの壁になっており部屋から見える構造だ。
「さすがに恥ずかしいので見ないでくださいね?」
彩香は少し顔を赤らめながら言う。
「み、見ないようにします。こんな恥ずかしいシャワー室初めて見ました」
「私もです。こういうところに来る男女はシャワー浴びているところをお互い見合うのですね」
彩香は恥ずかしそうにシャワー室に向かった。
「あ、総司君!このシャワー室中からは見えないみたいですよ」
いわゆるマジックミラーというものらしい。外からは見えるが中からは見えない。
「俺は見てないですから!安心してシャワー浴びてください」
俺はそう言ってシャワー室を背にベットへ腰掛けた。
心拍数落ち着き一息つくと俺は一つ疑問が生まれた。
この町は彩香の記憶から作られているということはこのホテルも記憶ということだ。
彼女は来たことないと言っていたが誰かと来たことあり記憶が作り出したということなのだろうか。
シャワーを出た後に聞いてみようかと思ったが何か言いたくない思い出もあるかもしれないので詮索はやめることにした。

「お待たせしました。総司君もゆっくり入ってきてください」
20分くらいして彩香はシャワー室から出てきた。俺は彩香の声に振り向いた。
「、、、っ」
振り向いてすぐに前を向き直す。
彩香はバスローブ一枚という姿で立っていたのだ。胸元や足の露出が激しい。
「あ、お風呂上がりに着る服用意してなかったのでお恥ずかしい格好で申し訳ありません」
彼女は少し恥ずかしそうな声色で言う。
俺は彩香をあまり見ないようにシャワー室に向かった。

お互いシャワーを浴び一段落ついた。
俺も彩香と同じバスローブに身を包みベットに腰掛けていた。
時刻は深夜1時。
「さて夜遅いので休みたいところですが明日の話をしておきましょうか」
彩香はベット横に置いてある丸テーブル前の椅子に座りながら言った。
「そうですね。ある程度明日の行動を決めておきましょう」
俺はベットから立ち上がると彩香と対面に座る。
カバンの中からメモ帳を出して状況の整理を始めた。

1、この町は彩香の記憶から作られている
2、3年前に起きた豪雨がまた起きようとしている
3、彩香の大切な人は3年前豪雨で亡くなっている
4、記憶の町で大切な人を助けることが彩香がこの場所に来た理由

俺は彩香から聞いた話をメモ帳にまとめる。
目下の目的は豪雨から大切な人を助けることだ。
「差し支えなければ聞きたいのですが大切な人と彩香はどのような関係なのですか?」
俺は対面の彩香を見直して聞いた。
彩香は少し躊躇う様子を見せながら窓の外へ顔を向けた。
「言いにくいなら彩香のタイミングで話してくれていいですよ」
彩香は頭を軽く振った。
「いいえ。大丈夫です。どのように説明したものかと悩んでしまって」
彼女に目を向けるとこちらを真剣な表情で見ていた。
「私の両親は私が小さい時に別れているんです。今は一人暮らしですけど高校卒業までは父に育てられていました」
「2人が別れた理由はわかりませんが私は母を愛していました」
彩香はどこか寂しそうな笑顔を俺に向けた。
俺は彩香の顔を見て大切な人がわかった気がした。
「彩香の大切な人はお母さんなんですね」
彩香は小さく頷いた。
「母との思い出は小さいときに別れた記憶だけです。どこに住んでいるか誰と住んでいるかは大人になって調べたんです」
「どうして私を置いて出て行ったのか知りたかった。いざ調べて会おうと思ったら母には新しい家族がいました」
「母の家には行ったけど私には声をかける勇気はありませんでした」
彩香はまた窓の外へ目を移した。
「3年前に豪雨のニュースを見て私は母の住む家が近いことに気づいて」
「次の日に母の家に行った時にはすでに家は流されていました。何かを伝えたくても伝えたい人はもうこの世からいなくなってしまったんです」
彩香の瞳は真っ直ぐ外を見ていた。
轟々と降る雨に反逆するように。

俺はしばらく声が出なかった。
ふと顔を彩香の方へ向けると頭をコクコクとさせていた。
「そろそろ寝ますか?」
「ひゃい、、あ、私寝てました?」
彩香は目を擦りながら今にも寝てしまいそうな声で言った。
時刻は深夜2時。歩き回り探索していたのだから眠いのは当然だ。
俺も当然眠い。
「寝るならベットに、、」
俺は言いながら現在の状況を思い出した。
ラブホテルにベットは一つだ。寝るなら同じベットになるだろう。
今日出会ったばかりの女性と同じベットに寝るというのは倫理観としてどうなのだろう。
俺がベットの方を見ながら惚けていると彩香はノロノロとベットに向かって行った。
「総司さんも寝ましょう」
フワフワとした口調で言いながらベットに横たわりそのまま寝てしまった。
仰向けに横たわる彩香の胸元ははだけていて白い肌が覗いている。服の上からではわからなかったが豊満な乳房だ。
細い太ももの上までバスローブがはだけて淡いピンク色のショーツも露わになっていた。
今日出会ったばかりの男性の前で無防備な姿を見せる危機感の薄い女性だと思った。
そして改めて彼女はとても美しい女性だと感じたのだ。
彩香の上に布団をかけて俺はベットの下に横になった。
少し背中が痛かったが彩香の寝るベットで寝るのは小心者の俺にはできなかった。
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