腐女子が源氏物語的な世界に転生したので光源氏を受けにしてみた。

kanade

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6 詩歌に報告

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「ざっとこんな感じね。」
やっとの思いで房麿ふさまろの元を辞した私は自室で詩歌しいかを相手に、憎き光源氏と婚約することになった経緯を報告していた。初めは穏やかに相槌を打ちながら聞いていた詩歌だが、光源氏の名が出て瞬間嫌そうに顔をしかめ、最後に推しカプであるシンとケイが同じ職場に働けることを知ってガッツポーズよろしく拳を握り込んだ。
「素晴らしいですっ!流石は姫様!」
しかし、すぐにはっと真面目な顔に戻った。
「違います、私が言いたいのはそれじゃないんです。それより、源氏の君と婚約って……どういうことですか?」
「どういうことも何も、そういうことよ。父上が決められたことだもの。私は断れないわ。」 
余程動揺しているようで、詩歌らしからぬ意味のない質問だった。私はそれを落ち着かせようと、柔らかい口調を心がける。
まぁ、無理もない。
というか、平然としている方がおかしいくらいだ。
父親と面会してきた女主人が唐突に絶世の美男子と名高い『源氏の君』との婚約話を持ち帰ってきたのだから。
その名前が出た時の反応から考えて、詩歌もアンチ光源氏派だと思うし、尚更だ。
「すみません、取り乱しました……少し時間をください。」
詩歌はきゅっと目を閉じて深呼吸する。
心臓の鼓動を抑えるかのようにきつく胸元に当てられた手に、少し申し訳なくなった。
ちょっと…急すぎたかな? 
けれど、早めに話すにこしたことはない。
私はこの3年の間にやるべきことがあるのだから。
想定より長くの時間を手に入れたとはいえ、油断できないことに代わりない。
詩歌の背中を、早く落ち着けるように応援しつつ、ぽんぽんと叩くことしかできなかった。
しばらくして、詩歌はいつものきりりとした表情で顔を上げた。
「もう、大丈夫です。姫様、ありがとうございました。」
私は何もしてないよ、と思ったけれど、私の立場では詩歌を恐縮させてしまうから言えない。詩歌が割と気安く接してくれるおかげでほぼほぼ感じることがなかった身分差が急に現実味を帯びて、つらかった。
仕方なく、落ち着いたならよかった、とだけ答える。詩歌はそんな私の気持ちをわかっているようで、ありがとうございましたとは繰り返さずにぱんと朗らかに手を鳴らした。
「そう、聞きたいことは別にあるのです。」
「あら、何かしら?」
詩歌の瞳が妖しげな光を宿し、唇は挑戦的に歪んだ。何か悪いことを企んでいるときの顔。
「先程、旦那様の命令は断れなかった、とおっしゃっていましたが、嘘でしょう?姫様のご才覚なら上手く切り抜けられたはずです。」
「そうね。」
先日倒れた際に服で見えないところに痣ができてしまった、結婚話はそれが消える保証ができてからにてくれないか、とでも言えば確かにどうにでもなるだろう。
全部、見抜かれている。
ぴりりと鋭い刺激が背筋を貫いて、私は出会って半年と経たないうちに全てを把握している侍女に頼もしさと同時に戦慄を覚えた。面に出さぬよう軽い口調や態度を心がけ、肩をすくめてみせた。
詩歌はそんな私を責めるように凛とした響きで呼びかける。
「姫様。一体、何をなさるつもりなのですか?」
私も表情を引き締める。
「分かった、話すわ。だから、そこに座って。大声で言えるような話じゃないのよ。」
ほぼ真横の床を示すと、詩歌はすぐに承諾して優雅に座った。この思い切りの良さは詩歌の長所だと思う。
私はすぅっと深呼吸して、うっかり婚約承諾したことに気がついてからずっと考えていたことを切り出した。
「私、光源氏に嫁ぐことはさほど悪いことじゃないと思ってるのよ。」
詩歌が驚いたように私を凝視したが、話を止めようとはしなかった。私はつかみが成功した感触に満足しながら話し続けた。

・光源氏は最高に嫌な奴。
・だけど、家柄的にはうちの藤原家とも釣り合うし、見た目だって十分すぎるほどに綺麗。
・つまり、政略結婚のお相手としては、最上と言ってもいい。
・嫁ぐことを変に回避して婚期を逃すよりはましだと思った。
・ただ、それは光源氏との関わりは最小限であると仮定した場合の話だ。
・うちの家格から考えて、私が正妻となるのは確実だ。
・世間体もあるし、光源氏はそれなりに頻繁に通うようになるだろう。
・それは耐えられない。

話しているうちに、まだいくらか混乱していた頭が段々と冴え渡っていくのを感じた。
次にどう続けて、どう話を締めくくるか、しっかりと道筋が見えてくる。
眉を寄せて何か言いかけた詩歌だが、私の顔を見て口を閉じた。余程、自信満々な表情だったらしい。
仕方がない。
それだけ、私にとってこの計画を実行に移すことが魅力的だということだ。
「抱かれたくないのなら、抱けないようにしてしまえばいい。そう思わない?」
これまでずっと一方的に話し続けた私が初めて放った問いかけ。流石の詩歌も私の言いたいことはわからなかったらしく、訝しげに首を傾げた。
「思わなくはないですけど……」
「でしょ?」 
そう、光源氏ヤツを女じゃ満足できない身体に開発してしまえば、私の抱える問題は全て解決する。後ろでしか達することのできない身体に。
私は小声ながらも叫ぶように宣言する。
「名付けて、光源氏雌化計画よ……!」
詩歌が気が遠くなったように天を仰いで、ポツリと呟いた。
「んな、無茶苦茶な……」



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