ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学園一斉清掃大会編

7話 限りなく零

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 俺の手元には、立派な文字で『風紀委員長』と刻まれた腕章が。ウズウズとした胸の高揚は抑えられるはずもなく、笑っていたけど真面目に注意されたので自粛。その代わりと言っては何だが、俺は会長から手渡されたばかりの腕章を早速腕にはめてみた。

 「すいません田中君。風紀委員設立は決まったんですが、公式発表はまだ先の事なのでその腕章返してもらってもいいでしょうか」
 「あっ、そうなんですか。じゃあお返しします……」

 何で腕章渡したんだよ。もうはめていいもんだと勘違いしちゃっただろうが。割りと恥ずかしくなって、顔に熱が集まるのがわかる。目の前で会長がニマニマと笑っていた。うわっ、この人こうなるの予測した上で俺に腕章渡してきやがったのか。中々良い性格をしていらっしゃる。

 外した腕章を会長に返す。その腕章を受け取った会長は、ポイッと会長の机に放り投げた。おい、何だその扱い。それ委員長の腕輪だろうがよ。

 「まぁ、今日君をお呼びしたのはこの為です。快い返事、ありがとうございました」
 「そういえば、少し聞きたい事があるんですが。質問してもいいんですか?」
 「ええ、構いませんけど」
 「それじゃあ何故、風紀委員を設立したのかってのを聞きたいです」
 「それは簡単です」

 会長はくるりと俺に背を向けた。そのまま、元いた席へと戻っていく。机に肘を突き、手に顎を載せる様子はとても絵になっている。

 「今までの生徒達の能力使用については生徒会の管轄にありました。その為、生徒会は私の信頼できる面々を選んでいるのですが、万が一が無いとは言い切れない事に気が付かされました」
 「………………………」

 隣に立って、同じ様に話を聞くカズミネが無表情になっている。滅多に見せないカズミネのこの表情が、一体どんな心境を表しているのか到底想像も出来ない。だが、今は親友のレア表情より、会長の方が大切か。

 「万が一、生徒会が機能しなくなる場合が存在するとしましょう。そうなると、生徒会ではないその他の生徒達にも少なからず影響があります」

 生徒会は平常時での能力使用を解禁されているだけでなく、生徒間の試合の立会人としての権利も有している。その他の生徒達への影響とはそこら辺の事を言っているのだろう。

 「そこで私は、生徒会が機能しなくなった場合の新たな能力使用の管轄に関する委員会の設立を決めました」
 「それが風紀委員って事なんですね」
 「ええ。言わば能力使用の管轄である生徒会が暴走した際の抑止力、とでも言いましょうか」

 抑止力、か。そんな物騒な単語が登場するとは思っていなかった。もっと軽い感じの風紀委員じゃないのか。いや、軽い感じの風紀委員ってなんだよ、とは俺も思うが。それに何だか━━━━

 「他に質問はないですか?」
 「え?ああっと、そうですね……」

 考え事のタイミングで会長から声をかけられた。特に質問なんて考えてはいなかったが、この機会が何だか勿体なく感じて、質問を必死に考える。

 そうして、もう一つ重要な事を思い出した。

 「風紀委員の設立ってのはいつ決定したものなんですか?」
 「設立が決定したのは今からほんの数日前ですよ。それから公式発表を行って、正式に活動を開始出来るのはまだ先になりますが」
 「なるほど。?」

 その時、会長の笑顔がピシリ、と凍りついた様に感じた。しかしそれは見間違いだったのか、会長は微笑みのまま首を傾げた。

 「何で、とは?」
 「生徒会会長が知らないとは言わせませんよ。今日は年に一度の清掃大会だ。
 風紀委員設立が決まって、風紀委員長に俺が選ばれたんだとして、何故今日この日に呼び出したんですか。設立した日にでも、公式発表の前日にでも、俺を呼ぶのは構わなかったはずだ」
 「偶然、たまたま、と言う奴ですよ。今日に君を委員長にする事を決めて、その事を君にすぐ伝えたかっただけです」

 会長の表情からは嘘を言っている様には見えない。ここで深く追求する理由も無し、意味も無し、ついでに興味もなかったのでここで納得しておく。

 「そうなんですね、わかりました。俺からの質問は以上です」
 「清掃大会の途中でお呼びしてすいません。私の伝えたかった事も伝えたので戻ってもらって結構です。………ああ後、田中君が風紀委員長になった事は」
 「公式発表まで黙っていろ、でしょ?大体想像はついてます。それじゃあ俺達はこれで」

 ペコリと一礼して俺達は生徒会室を出た。

◆◆◆

 生徒会室を出て、校舎を出て、俺達は公園エリアへの道を歩いていく。その間、俺達に会話はなかった。別に喧嘩なんてしている訳じゃない。俺達は俺達の考えで、あえて喋っていないだけだ。

 一度、後ろを振り返る。そして校舎から十分に距離が離れている事を確認して、俺達はやっと口を開いた。

 「シュウヤ、わかってはいると思うけど」
 「ああ。流石に。あんな説明で納得すると思ってんのか」
 「さぁね。会長の真意なんて誰も理解出来やしないよ」
 「でもまぁ、カズミネが会長に苦手意識を示している理由がなんとなくわかった気はするな」
 「それは良かった」

 そう言って、カズミネは俺の隣でケタケタと笑い出す。

 会長が先程、俺達に行った説明を思い返す。風紀委員は万が一機能しなくなった生徒会の為の抑止力。会長はそう俺達に説明した。大層立派な言葉で飾ってはいるが、

 生徒会が機能しなくなった場合、生徒会ではないその他の生徒達への影響はある。だがそれはかなり僅かなものだ。生徒会に許されている権限は、平常時の能力使用解禁と生徒間の試合立会人の権利、その二つだ。そして生徒会ではない生徒に関わる権限は、試合の立会人になる権利だけ。そしてこの権利は、勿論の事教師も有している。その上、教師は生徒単独での能力使用も許可出来る分、生徒会よりも権限は上であり、当たり前だが生徒会よりも人数は多い。

 

 生徒会は教師の代替版でしかないのだ。生徒会が機能していなくとも、普段から教師に頼む事の方が圧倒的に多いのだ。これでは、風紀委員の存在理由がいまいち理解出来ない。会長の説明には穴があり過ぎる。と言うより穴しかない。恐らく、意図的に開けられた穴が。

 「何だか裏がありそうだな」
 「会長が関わってる時点で、表は限りなく零に近いよ」

 カズミネの会長に対する棘のある言葉は、今なら共感出来る気がする。あの会長は見た目と違って、簡単に心を許してはいけないみたいだ。

 どうやらこの件、喜んでばかりではいられないようだ。
 
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