魔竜を封じる部室にて!!

秋月 銀

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四章

その24 梅崎神、降臨

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 夏休みは遂に八月へと突入してしまった。

 七月の間は、「課題?しなくても余裕っしょwww」みたいな謎の余裕があるのだが、八月になった途端に急に焦りだしてしまう今日この頃。正直、高校の夏休みの課題を舐めていた。ベロベロ舐めすぎていた。放置に放置しまくった結果、一つたりとも手をつけていない課題に向き合うのも億劫だ。しかしやらねば、やらねば成績が危ない……!

 そんなことを考えながらも、俺は日ノ宮学園へと続く道程を歩いていた。

 どうせ俺一人では課題をやろうとはしない。ならば少しばかり騒がしかろうと、皆がいる文芸部室で課題に取り組んだ方が良いに決まっている。それにわからない箇所はすぐに質問できるから、一石二鳥である。

 俺は正門を潜り、下駄箱へと向かう。革靴から上履きへと履き替えてから、微妙に蒸し暑い校舎の廊下を進んでいった。窓から見えるグラウンドではサッカー部や野球部、それに陸上部なんかの掛け声が響いている。時刻は九時前。それでも太陽はさんさんと輝いていた。

 この暑さの中でも、汗を流しながら必死に取り組んでいる彼らの姿を見ると、なんだか元気を貰えたような気分だ。あんなにも運動部は頑張っているのだ。なら俺も課題程度で文句を言っている場合ではないな。

 部室棟へと続く渡り廊下を抜けて、階段を一段飛ばしで駆け上がる。三階に到着して、端っこの部室まで駆け足で向った。

 視界の先には古びた文芸部の看板。それを通り過ぎてスライド型の扉に手をかける。ガラガラと音を立てながら、扉は開かれた。

 「おはよーシュウ」
 「おはようございます。今日も今日とて辛気臭い顔をしていますね」

 部室には既に二人の姿があった。

 ナツキとフユカがそれぞれ挨拶をしてくる。二人は長机にパイプ椅子を持ち寄って、向かい合うようにして座っている。俺はその挨拶に軽く手を上げて応えた。

 「おはよう。辛気臭いは余計だが」

 そして文芸部室を軽く見回した。その後、ナツキに尋ねる。

 「アメとハルは、まだ来てないのか?」
 「うーんどうだろー。最近二人共忙しいみたいだし、今日はもう来ないかもねー」
 「そうか」

 特に気にもせず、この話はこれで終わりとなった。

 前にも言ったとは思うのだが、元々文芸部の活動は強制ではない。俺も毎日登校してきているわけではないし、誰かが部室に来ていないなんてことは今までにもしょっちゅうあった。だから、部活動に参加していないからと言って連絡したりはしないのだ。

 夏休みも既に中盤に差し掛かっている。もしかしたら二人共、友人達と遊びに行っているのかも知れない。夏休みを友達で楽しみたいと思うのはお互い様だ。文芸部より、そちらを優先してもらっても全然構わない。まぁ俺と同じく課題が終わってなくて、そちらにかかりっきりの可能性も有りはするが、アメに限ってはそれはないだろう。ハルについてはノーコメント。

 しかしそれでも、最近はアメやハルと顔を合わせることが少なくなったなぁと思った。その分、ナツキやフユカと顔を合わせているわけなのだが。

 俺もパイプ椅子を持ってきて、フユカの隣に腰掛ける。二人の間には課題が広げられており、どうやら俺と同じ様な状況であることが伺えた。

 「フユカはともかく、ナツキも課題が終わっていないってのは意外だな」
 「んー?そうかなー。ただ計画通りにやってるだけだよー。夏休みは毎日、それで少しずつ課題をやっていってるんだよー」
 「それは…流石というかなんというか」
 「シュウ。先程の私はともかくとは一体どういう意味なんですか」

 ナツキの言葉に俺は苦笑した。見た目はほんわかしてるのに、意外ときっちりしているところがナツキらしいなと思った。フユカの言葉は聞き流す。だってお前、やろうやろうと言って結局やらないヤツだからなぁ……。

 それから俺も課題を広げて、三人で机と向き合った。静かな環境で真面目に取り組むのではなく、軽く喋ったりもしながら手元の課題を片付けていく。一人でやったほうが確実に進む速度は早いのだろうが、やる気は保たないだろう。こちらの方が、やる気が持続するような感じがする。

 三十分程、課題に取り組んでいたら部室の扉が音を立てて開かれた。

 「ごめん、結構遅くなっちゃったかな?」
 「いいよいいよー。気にしないでー」

 アメが額に汗を浮かべながら、部室へと入ってきた。男子の中でも長身で、運動部にも負けない筋肉量。汗をかいていても爽やか感は衰えるどころか、むしろ高まったようにも感じる。

 そんなアメとの久しぶりの再会なのだが、挨拶を述べるより先に気になったことを指摘しておく。

 「なぁアメ。お前が脇に抱えているダンボールは一体何なんだ?」
 「ふふふ、シュウ。これを見て是非とも驚いてくれ!」

 アメの脇に抱えられていたのは、縦に一メートル弱くらいの長さがある大きなダンボール箱だった。アメはそれをドスンと床に置く。そして珍しく大きな声で、テンション高めにアメはダンボールを開封した。すると中からでてきたのは━━━━

 「こっこれは………!」

 光輝く純白の色!円形の土台からスラリと上に伸びる美しいフォルム!網の隙間から見える三枚の透明な羽!

 「扇風機!扇風機じゃありませんか!」

 ふわー!っとフユカが興奮した声をあげる。ナツキも驚いているのか細い瞳をいっぱいに広げた後、すぐに嬉しそうな笑顔になった。おそらく俺も喜びの表情を浮かべていることだろう。

 アメがダンボールから取り出したものは、見まごうことなき扇風機だった。

 俺達の反応を見て、アメがニカッと白い歯を見せて笑った。

 「そろそろこれが無いと駄目だなって思ってさ。家から古いものを持ってきたんだよ。ちなみに使用許可は顧問の先生からもう貰っているから、今すぐにでも使えるよ」
 「お前は神だな」
 「これからアメを梅崎神として崇めますね」
 「ありがたやーありがたやー」

 家から持ってきたって………部室に入ってきた時みたいに脇に抱えてきたのかしらん。それはそうと、本気で今のアメは輝いて見える。めっちゃカッコいい。超イケメン。惚れちゃいそう。

 アメが部室に設置されているコンセントに、扇風機の電源コードを差し込む。その作業を固唾を呑んで見守る俺達三人。そしてアメは、円形の土台にある『強』のボタンを力強く押した。

 カチリという小気味よい音と共に、爽やかな風が文芸部室に巻き起こった。

 「おお……!」
 「これが、文明なのですね………!」
 「涼しーねー」
 「そこまで喜んでくれると、持ってきた甲斐があったね」

 扇風機の風が来る方向に、体育座りで並ぶ俺達。既に課題のことなど、頭の片隅にも存在していなかった。今はただ、この風を浴びていたいだけ………。


 「ちょっと皆助けてーー!私の自由研究……って扇風機がある!?」


 しばらくすると、ハルも部室にやってきた。

 本日は久方ぶりの文芸部全員集合の日となった。
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