Unknown Power

ふり

文字の大きさ
66 / 103
3章

23 無期謹慎

しおりを挟む

「なぜ呼ばれたかわかっておるな」

 拝藤は両肘をつき、さらに指を組んで探るような鋭い視線を葵に送っている。
 翌日のことだった。朝一番に社長室に呼びつけられた。なんの予測もしなくてもわかる。ポケベルで誰とやり取りしているのかの聴取及び尋問(じんもん)だろう。予想通り過ぎて、思わず乾いた笑いが顔に出そうになるのを押し込め、葵は拝藤の目の前に立っている。

「ポケベルの件のことでしょうか」

 横目で拝藤の後ろで控えている一女を見つつ、葵は端的に答えた。

「うむ。最近は外と連絡を取り合っているらしいな?」 
「すみません、うちの母が今ごろドラマに感化されたのか、ポケベルを持ってはしゃいでいまして。電話で話すような内容でもないので、公衆電話で返してあげています」

 拝藤は鷹揚(おうよう)に笑った。

「母親は息災(そくさい)なのか?」
「はい。ここ数年は重い病気になったという報告もありませんので」
「ならばよい」

 拝藤は満足げにうなずき、タバコに火を点(つ)けた。

「それと、せっかくこの場に呼んでいただいたので、ついでと言ってはなんですが、話したいことが……」

 葵の後方に控えていた園木があっと口を開くが止めようもなかった。

「生名(いきな)茜の件、考え直していただけませんでしょうか」

 意を決した葵の一言であった。

「葵ィッ!」

 園木が目を剥(む)いて金切り声を上げた。

「アンタ、アタクシの話を聞いてなかったわけじゃないでしょうねッ? どうなるかわかって言ってるの!?」
「罰を受けるのであればそれでいいです。わたしは、わたしよりも生名茜のほうが大事ですから」
「何を言ってるの! この馬鹿ッ」

 園木の癇癪(かんしゃく)が炸裂し、葵に大股で詰め寄ろうとした。

「馬鹿は貴様だ園木。こんな狭い社長室で大声を出しおってからに」
「も、申し訳ございません」

 園木は震えながらその場で体をすばやく折り曲げた。

「のう、真鍋。俺が先週言ったことを憶えておるだろうな?」
「憶えています。『直談判をしてきたら謹慎である』と」
「戦士たるもの色恋沙汰を巻き込むとは言語道断。このまま強制退部をしたいところだ。しかし、これまでの我が部での功績を認め、無期謹慎とする。謹慎が解けるまでは生名茜との接触は禁ずる。これを破れば、強制退部及び即刻解雇処分とする。よいな?」
「……わかりました。しばらく実家に帰らせていただきます」
「実家は新後だったな? 万が一あの、にっくき新後アイリスのチームメイトと接触した場合も――」
「はい、心得ております。誓ってそのようなことがないよう、気を付けます」
「惜しいな、実に惜しい。今のお前は先週よりもいい面構えをしておる。だが、肚(はら)の中に何かを飼っているようにも見える。危うい気配がするのだ」

 心胆(しんたん)を溶かし尽くす視線に晒され、葵は逃げ出したい気持ちに駆られたが、正面から受け止めて耐えに耐えた。逃げてしまえば怪しまれ、謹慎部屋に入れられてしまう可能性もある。そうなれば、坂戸と綿密にやり取りしてきた計画が白紙になってしまう。白紙となれば、茜も救えず、壊れゆくのを身近にいることもできず、孤独のうちに後悔に苛(さいな)まれるだろう。心の傷として、癒えることなく死ぬまで一生残ることが確定だ。
 対峙(たいじ)が数分間続いた。

「まあ、よい。しばしの別れになるのう。息災でな」

 拝藤は不意に表情を和らげた。

「はい、ありがとうございます。失礼いたします」

 葵が硬い笑みを浮かべ、社長室を辞した。

「よろしいのですか」

 事の成り行きを一言も口を挿(はさ)まず黙って見ていた一女が口を開く。

「処分に納得いかぬか?」
「納得も何も、野に放たずとも檻(おり)に押し込めてもよかったのでは」
「それも考えた。だが、一女よ。よく考えてみよ」

 椅子に座ったまま一女のほうを向いた拝藤が、あごひげをしごいている。

「自分の相方――いや、恋女房を追い詰めた奴らに、助けを求める発想などありえぬ話だとは思わんか」

 拝藤はさすがに茜を残してまで、葵が新後アイリスに寝返るとはまるで思ってもいなかった。

「真鍋が抜けたところで我が拝藤組に影響はない。そうだろう、園木」
「そ、そうですとも。真鍋よりも優れた捕手はいくらでもおります!」
「ならばよい」

 拝藤にとって選手は戦士であり、いくらでも替えが利くと思っている。情をかけるにしても最低限かそれ未満だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

名もなき春に解ける雪

天継 理恵
恋愛
春。 新しい制服、新しいクラス、新しい友達。 どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。 そんな羽澄が、図書室で出会ったのは—— 輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。 その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。 名前を呼ばれたこと。 目を見て、話を聞いてもらえたこと。 偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと—— 小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。 この気持ちは憧れなのか、恋なのか? 迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく—— 春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...