セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
6 / 52
1章

04 下準備として

しおりを挟む
4



 壁かけ時計が12時になろうとしたとき、玄関の扉が開いた。

「ただいま!」

 ソファで寝転びながら雑誌を読んでいた彩乃は、両手を下ろして豪篤を出迎えた。

「お帰りー。どこ行ってたの?」
「ちょっと買い物」

 豪篤の両手には、はち切れんばかりの黒いビニール袋がひとつずつ提げられていた。そしてそのまま、そそくさとリビングを通り過ぎて自室に入ろうとする。
 怪しいと踏んだ彩乃は、半身を起こしてカマをかけてみた。

「何々、エッチぃもんでも買ってきたの?」
「断じて違う!」

 ドアノブに手をかけた豪篤は、顔だけ向けて断言する。

「ふーん。違うんなら中身、見せてよ」
「断る!」

 にべもなく言い切ってリビングを出る。自室にさっさと入り、カギを閉めた。

「高3の暇な時期だからって、昼間からお盛んだこと」

 肩をすくめていた彩乃だったが、雑誌をソファに置いて立ち上がった。腕を上に大きく伸ばす。

「さてと、バカはほっといて昼ごはん食ーべよ」

 戸棚からカップ麺を取り出し、ふたを開けて鼻歌混じりに電気ポットからお湯を注ごうとする。

「がああああああッ、いってェ―――――ッ!」

 反射的に悲痛の叫びがしたほうに首を回す。

「何やってんの、あのバカ」

 彩乃はカップ麺をその場に置いて急行する。豪篤の部屋のドアを強くたたく。

「開けなさい! 私は、多少まともなあんたを母さんと父さんから預かったつもりよ。好奇心はとっても大事だけど、せめてその……塗ってから――」

 ガチャッと解錠する音が聞こえ、少し間があってからゆっくりドアが開いた。
 苦痛の表情を顔いっぱいに広げている豪篤が出てきた。右手には拳が作られ、左手は左足をさすっている。
 ジャージの片足だけまくられ、歯を食いしばって一定の箇所を絶えずさすっている。
 ピンときた彩乃は、豪篤の右手の拳を力ずくでこじ開ける。丸められたガムテープを奪い取って広げると、無数のすね毛が貼り付いていた。
 彩乃はすね毛のついたガムテープと豪篤の顔を交互に見る。一度嘆息し、あきれを滲ませた声を発した。

「ああそっち……じゃなくて、わけを話してみなさい」

 豪篤は観念したのか少しの間があって、素直にうなずいた。



* * *



「なるほどね……。その店長に言われたから、ガムテープでこんな暴挙に及んだわけね」

 ひと通りわけを聴いた彩乃は、コーヒーをすすった。
 正面に座る豪篤は、先ほどまでの元気は遥か彼方に飛んでいったらしい。今ではすっかり小さくなっていた。顔をうつむかせ、自分のしたことに打ちひしがれている様子である。

「彼女にフラれた直後で、ここまで行動的なのはいいことだけど、いろいろとぶっ飛びすぎ。階段を2段飛ばしで駆け上がってるものよ? まあ、案の定つまずいて転げ落ちたけど」

 豪篤は無言を貫く。

「物事には段階ってものがあるの。まずは私に相談する。よほどのことじゃない限り、笑わないし、けなさない。あんたが真剣なら、私も真剣に考えるよ」

 耳が痛い豪篤は、ますます口を結んで小さくなるばかりである。

「ひとりで勝手に決めないこと。いい? わかった?」
「わかりました……」
「わかってない! もう一回!」
 
 テーブルをたたいて容赦なくやり直しを求めた。豪篤は、彩乃を射殺さんばかりの眼光で、

「わかりました!」

 やや逆ギレ気味に答えた。

「ところで……」

 パンパンに膨らんだふたつの黒い袋が、テーブルの上で存在を誇示している。
 彩乃はそれを流し見た。

「ずいぶんとまあ、買ってきたもんだね」

 ふたつの袋を手元に引き寄せ、中身を物色し始める。
 豪篤は再度顔を下に向けたままである。しかし、目線を時折ちらつかせてはいた。 

「まずは大量のガムテかー、これはなんかのときに使えるからよしとしよう。あー、黒髪ロングのカツラと茶髪ロングのカツラとピンク髪ショートのカツラ……何者になりたいか迷走してるわね。それから口紅、グロス、顔パック、チーク、コンシーラー、つけまつ毛……あーもう、もったいない。八割ぐらいは私があげたり貸したのに」

 急に顔を上げて抗議をする豪篤。

「こんなこと姉貴に言えるわけないだろ」
「普通はそうだね。その割にグロスはパクったくせに」
「グロス? あれはリップだろ?」

 彩乃は眉間に手をやった。

「……はあー、アンタがなんでフラれたかよーくわかったわ」
「なんだよ。今は渚のことは関係ないだろ。いつまでも過去のことをグチグチ言うなよな」
「はいはい。ごめんねごめんね。ま、このダブった化粧品たちは、授業料だと思って反省なさい」
「ああ。そうだな」

 豪篤は荒い口調で言ってそっぽを向く。

「……ところでアンタ、そこまでして変わりたいの?」

 彩乃を豪篤はジッと見据える。表情は真剣そのものだ。

「もちろんだ。俺には、あいつしか好きになれないし、あいつ以外は考えられない。それに、あいつからいろいろなことが学べそうなんだ」

 豪篤の恋愛に一本気な性格を知り、彩乃は相好をくずした。

「惚れた弱みってやつね。さすがわが弟、いいこと言うじゃない。私もこういうことを言ってくれる相手がいたらなぁ……」

 ぶっきらぼうに、でも少し優しさが感じられる口調で豪篤は言った。

「姉貴は女にしちゃ背が高いから、なかなか釣り合う野郎がいないんだよ。だいたい今の日本は、野郎の平均身長が姉貴の身長だからさ」
「ふふっ、ヘタな慰めをありがとう。なんにせよ、暇な休日が充実したものになりそうな予感ね」

 底冷えする笑みを、彩乃は満面にたたえる。
 豪篤は嫌な予感で背筋が冷たくなるのを感じた。だが、

(こうなってしまっては受け入れるしかない……!)

 と思い直し、彩乃をひとまずは信じることにした。



* * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...