セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
7 / 52
1章

05 変身からの別れ

しおりを挟む

「はい、完成ー。鏡を見てみな」

 イスに座らされ、なすがままだった豪篤。渡された手鏡で自分の顔を映してみる。

「これが……俺?」

 あれほど不評を買っていた太い眉毛が整えられ、すっかり柳眉になっていた。次に不評だったヒゲも、全部そり落としただけですんだ。
 角度のついた柳眉の下は切れ長の目。鼻も高く、肌はそこそこ黒いものの、ニキビやほくろがひとつもない綺麗な顔。そこに、買ってきた黒髪ロングのカツラをつけてセット。うすめの唇に薄桃色の口紅を引く。
 すると、暑苦しそうな雰囲気を全身から発していた男はどこへやら。今度はクールな雰囲気を発しそうな美人ができあがったのだ。

「本当なら、毛抜きで残さずヒゲを引き抜きたかったんだけどなー」

 彩乃は口をとがらせる。

「一生女装生活するわけじゃねーし! かんべんしてくれよ……」
「あ、そう。そこまで言うんならやめるけど。でもやっぱ、私の目に狂いはなかった」

 小さくガッツポーズをする彩乃。変わり果てた自分に当惑している豪篤に、意地悪気味に提案する。

「いっそのことカツラをはずして頭もツルッツルにしちゃう? 尼さんメイドなんて、そういるもんじゃんないし」
「バカなことを言うなよ! 俺は真剣なんだ!」

 手鏡から目をはずし、豪篤は彩乃に非難をぶつける。
 彩乃は笑ってごまかす。

「はいはい、ごめんねごめんね。あ、そうだ。今度からその格好のときは女言葉ね。そうしないと、働いてたときにうっかり出ちゃうよ。それで興ざめして来なくなっちゃうお客さんもいるんだから、気をつけないとね」
「うう……まあ、そうだな。でも、やっぱ恥ずかしいな……」
「そりゃ、素でやれば8~9割の人間は恥ずかしいでしょ。そこは、アンタにはなさそうだけど、演技力よ」
「演技力?」
「そう。自分が好きだったり、興味があるキャラをアニメや漫画や映画から選ぶ! しゃべり方とか声の抑揚とか表情とか体の動き――とにかく、見てまねて覚えることだね」
「なるほどな」
「脱毛は自分でしなよ。そこはどうしても面倒見切れないからさ」
「除毛クリームがあるから、次こそは大丈夫だ」
「服のコーディネートは私も協力するから、絶対に自分の独断でしないこと。必ず、私に相談すること」

 ふと、彩乃は豪篤の目の前に立つ。それから目を合わせるようにしゃがんだ。

「これから荊(いばら)の道だよ。覚悟はできてる?」
「ここまで来たんだから、やってやるさ! ……じゃなくて、やってやるわ!」

 あまりにもおそまつな女声に、彩乃は噴き出してしまった。

「し、仕方ないだろ!」
「あはは、ごめんって」

 立ち上がった彩乃の視界に、壁かけ時計が写りこんだ。

「もうこんな時間か……ちょっと夕ご飯の買い物に行ってくるね」

 カツラを取りはずしながら、豪篤はうなずいた。

「ああ、行ってらっしゃい。のど飴をたくさん買ってきてもらえると助かる」
「オッケー。お安い御用よ」

 彩乃はカバンを持って玄関へ向かおうとする。

「あ、姉貴!」

 呼び止められて彩乃は振り返った。

「ん? どうしたの?」
「いろいろとありがとうな」

 豪篤は頭を掻きながら照れくさそうにしている。
 彩乃も活発そうな笑みを浮かべると、

「たったひとりの弟だもん。協力したり助けるのはあたりまえだよ」

 そう言い残し、玄関へ歩みを進めていった。



 * * *



「まずは脱毛からだな」

 豪篤は脱衣所で全裸になり、彩乃からもらったクリームを持って浴室に入る。

「えーっと、脱毛したい部位にクリームを塗って3~5分放置。そのあとに、付属のスポンジを使って洗い流すだけか。へー、これだけで毛が落ちるのか」

 感心しつつクリームをとりあえずは両腋に塗る。アロエの成分が入っているのか、それらしき匂いが浴室内に広がった。
 そのまま腰を下ろして座禅を組む。自分の勘じゃあてにならないので、数を数え始めた。
 中間の時間にあたる4分間はクリームにつけておいたほうが無難だろうと思い、4分を秒に置き換えて240まで律儀に数えた。

「よし、どんなもんかな」

 豪篤の声がふるえている。それもそのはずである。2月に入り、寒さはピークに達するこの時期に、全裸で浴室にいるからだ。肌という肌から鳥肌が立ち、体が自然とふるえてくる。
 毛を落とすというよりは暖を取るために、体をふるわせながら立ち上がる。シャワーヘッドをつかんでお湯を出す。
 空いた手でスポンジを持って濡らし、腋の下を上から下におそるおそるなでる。

「おお、これはすげえッ!」

 見れば、毛がごっそりと一気に抜けている。シャワーに流されて排水溝に流れていく毛もあれば、スポンジに残っている毛もあった。
 もう片方の腋も同じようになでて毛を落とす。両手を上げて確認すれば、思春期に入る前の懐かしい光景が目の前に浮かんできた。

「ああ、そういえばこんなんだったな……」

 少しの間感慨にふける。

「よし! 次は足をやって、それから――」

 顔をわずかに下にかたむける。

「悲しいけど、俺はやるんだッ!」

 グッと歯を食いしばって、近くまできている別れの悲しみに耐える豪篤だった。



 * * *



「ただいまー」

 夕食の買い出しから帰ってきた彩乃は、リビングのテーブルの上に、ビニール袋を置く。

「……どうしたの?」

 ソファに黒のジャージを着て仰向けで寝転がっている豪篤。遠い目をして天井を見るともなくも見ている。

「この世で悲しい別れをしたんだ」
「なんのことよ」

 豪篤は無言で起き上がる。両足はひざ上までまくり、上はわざわざ上着とシャツを脱いで両腋を見せた。

「おおー、綺麗さっぱりじゃない! 足なんか引き締まってほどよく細くて長いんだから、ストッキングやニーソックスを穿けば、そこらの男はイチコロよ」

 豪篤のそこそこ割れている腹筋を触りながら、彩乃は褒めちぎる。しかし、豪篤はあまりうれしそうではない。

「ああ」

 察した彩乃は咳払いをすると、豪篤の両肩に手を置いて諭すように言った。

「ズボンの下のことは残念だったね。でも、これは一時的な別れ。永久脱毛をしたわけでもあるまいし、そんなに悲しまないこと。必ずやつは帰ってくるんだから」

 優しげな姉の言葉にハッとなる。

「姉貴……そうだな。初めてのことだったから、このままじゃないかって感傷的になっちまってた。ありがとう! 胸のつかえが取れた気がする」
「うんうん。ま、これが荊の道のひとつなんだよ。男の要素をできるだけ捨てて、女の要素を取り入れる――このことがいかに難しいか……。まだ、後戻りできるけど?」

 豪篤は強く首を横に振る。整えられた顔が自信に満ちていた。

「大丈夫、心配しなくてもいい。毛という毛を落とした俺に、もう怖いもんなんてない! 吹っ切れたよ……なんでもどんとこい! って感じだ。そうだ、姉貴!」
「何?」
「俺もう、タンクトップを着るのやめるわ」
「勝手にすればいいじゃん」

 彩乃は口調とは裏腹に優しく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...