セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
11 / 52
2章

01 メイドに変身!

しおりを挟む
1



 朝食を食べ終え、身じたくも終えた豪篤は玄関で靴を履いていた。
 初日だからといって、さすがに自宅から女装姿で出勤はせず、昨日と同じような格好をしていた。

「もう8時半だけど……そろそろ行かなくていいの?」

 見送りに玄関まで来た彩乃の率直な疑問だ。

「あっちが開店前はバタバタするから、開店してから来てほしいだとさ」
「それならいいんだけど。そういや、メイド名はなんて名乗んの?」
「やっぱり、女らしい名前に決まってるだろ!」
「ほー、アンタが思う女らしい名前って何さ」
「優美(ゆみ)って名前がそうだと思ってる。だから、俺はこの名前でやるんだ!」

 彩乃の眉が一瞬困りかけたが、応援するかのように弟の肩を力強くたたいた。

「……優美ねぇ。いいんじゃない。アンタがいいと思うんなら」
「ありがとう! それじゃ、行ってくる!」
「はいはい。がんばってねー」

 豪篤はマンションから徒歩で最寄りの駅向かう。普通でも急行でも停まる駅で降り、サラリーマンや学生たちを掻き分けるように駅を離れる。5分ほど歩くと商店街が現れ、そのアーケード内を抜けると、道を挿んだ真正面に3つの雑居ビルが立ち並んでいた。
 道を渡ってちょうど正面にある雑居ビルの一階のドアを開けた。

「おはようございます!」
「いらっしゃいませ~ってあら、豪篤さんじゃありませんこと」

 掃除の手を止めて真っ先に出迎えてくれたのは萌だった。

「え? 豪(たけ)ちゃん!?」

 カウンターで顔をつけて寝ていたらしい成実が、勢いよく跳ね起きて豪篤に抱き着いた、

「待ってたよっ! さあ早くあたしとロッカーに行って着替えよっ。メイド服の着方からメイクの仕方まで手取り足取りなんでも教えてあげるから!」
「ハハハ……お手柔らかに頼むわ」

 20センチ以上の身長差と成実の中性的な容姿も合わさり、本当に小柄でかわいい女子メイドに見えてきた。

「豪篤(たけあつ)さん」

 とても優しく、耳に心地のよい名前の呼ばれ方をした。声の主は萌である。

「成実ちゃんに惚れてしまいますと……心身ともに疲れてしまいますよ」
「ちょっと萌さん! その言い方はあたしがあまのじゃく的な性格だから一理あるけど、もうちょいオブラートに包んでもいいんじゃなーい?」
「ふふふ、ごめんあそばせ」
「もうっ、キャラのネタバレはほどほどにね!」

 成実は怒ったような口調で言い置くと、すっかりノリに置いていかれた豪篤を振り返った。

「そんじゃ豪ちゃん、こっちだよ~」

 成実に有無を言わされず手を引かれ、スタッフルームのプレートがついたドアを開けて薄暗い廊下に出た。成実が今度はロッカールームのプレートがついた部屋の扉を開ける。ここもロクに隣のビルのせいで窓はあれども光が入って来ない。そのため、外は良い陽気であるのに、用があるたびに電気を点けねばならなかった

「ほら、入って入って♪」

 奥にはピンク色のドレッサーと姿見がひとつずつあり、さらに横には試着室がふたつ設置されていた。ロッカーは壁際に5つ置いていて、それぞれネームプレートが嵌め込まれてある。

「これロッカーのカギね。一応3つあるけど、なくさないようにって店長が言ってたよ」
「ありがとう。気をつけるわ」

 解錠してロッカーの扉を開けると、メイド服一式がハンガーにかけられ用意されていた。

「おお、これが本物メイド服か……すげーな」
「つい最近届いたばっかりの新品だから、大事に使ってよー」

 豪篤は力強くうなずき、紺色のワンピースを手に取った。

「さすがに俺のはピンクじゃないんだな」

 思わずホッと安堵の息をついたところに、色がピンクのワンピースの成実が、イジワル気な笑みを浮かべた。

「あれれー? その顔とガタイでピンクが好きなんだー?」
「いや、確認だよ確認! あのお天気キャスターじゃねぇんだからさ」
「アハハ、冗談だよじょーだん♪」
「それで……どれから着ればいいんだ?」

 両手にエプロンとワンピースを持ち、豪篤は首をひねっている。

「むふふ、そーだねぇ~……まずは服を脱いでもらおうかなー♪」
「パンイチ?」
「ブラジャーを持ってきてるなら、どーぞどーぞ。つけ方がわからなければ教えてあげるし」
「やっぱ、ブラジャーってつけたほうがいいのか?」
「最低限スポブラぐらいはつけてもらいたいかな。気持ちの入り方も違うし」
「それもそうか。じゃあ、帰ったらすぐに調達するわ」

 豪篤は成実に凝視されながら下着姿になった。成実の目が爛々と異常な輝きを放っていて、脱ぎづらかったのだが、仕方のないことだった。

「はあぁぁぁあああぁ……ホント、いい体してるねぇ! 太さはちょっともの足りないけど、焼けて引き締まった脚は魅力と筋肉が詰まってるよ!! あとねあとね、店に初めて来たときに見えたデコルテも良い色してたし、女性と違って厚みがあってあたしの中のセクシーメーターがギュンギュン反応してたんだよ! でも、メイドだし、女装もするからデコルテも腕も脚も隠れて見えなくなっちゃうけどね! ちくしょう!」

 成実の性癖らしき妄想を聞かされ、豪篤は真顔でツッコんだ。

「何言ってんの?」
「ごめんごめん、男でも女でもいい体を見ると、つい思ったことを口にしたくなっちゃうんだ」
「……俺だからいいけど、人によってはドン引きされるぞ」
「アハハハハ、まあまあなんとかなるよ。こんなにかわいいメイドが、ちょっとばかし血迷ってるだけだから」
「いろいろ言いたいことはあるけどさ、まだ会って何回も経ってないから遠慮するわ」
「でね、豪ちゃん」
 ――あ、コイツ聞いてねぇ……。

 人の話をあまり聞かない成実が、構わず続ける。

「豪ちゃんの持つ男としてのセクシーさは封印してもらうことになるけど、いいよね」
「メイドになるって決意したんだから、しょうがないわな。男の魅力を出したって逆効果になるに決まってるだろうし。なんで今それを聞くんだ?」
「この店から少し離れた所につい最近『細マッチョ喫茶』なんてオープンしたなんて話を聞いたから」
「案外客が入りそうだなおい。興味本位で客として行ってみてぇわ」
「うんうん、だいぶ接客向けの口の回り方になってきたね。んじゃま、お着替えしちゃいましょうか♡」
「おいおい、俺は幼児じゃねえんだぞ」
「まずはね……」
 ――やっぱ聞いちゃいねぇ……。

 豪篤が濃紺のワンピースを身にまとう。その上からフリルのついたお決まりとも言える純白のエプロンを身につける。さらに、小さな鈴がついた同色の蝶ネクタイで首元を飾る。膝下までのエプロンから伸びる足には、黒のタイツを慎重に穿いた。

「はい、あとはカチューシャを頭に載せれば完成だよ~」

 黒髪ロングウィッグを装着し、カチューシャタイプのヘッドドレスを頭につけた。

「んじゃ、姿見でお披露目お披露目~♪」

 修助に連れられるまま姿見の前に立ち、今の自分と正面から向き合う。

「これが私なの……?」

 豪篤――優美が思わず口元を両手で覆う。ほどよく日に焼けた褐色気味の肌と純白のエプロンとの相性は、文句のつけようもないぐらい抜群だった。

「おっ、リアクションが乙女チックで非常にいいね。ちなみにメイクは自分でできる? それとも僕――いや、あたしがやってあげよっか?」

 優美は姿見の前で何度もターンをしている。ターンの度に花弁のように広がるスカート。優美の今の姿はまるで、初めて子どもがスカートを穿いてはしゃいでいるようにも見えた。

「メイクは大丈夫。姉さんから教えてもらったから」

 バツが悪そうに取り繕うな口調で優美は言う。

「オッケー♪ 店に出るときは手袋を忘れないでね。手は性別が出やすいって言うから」

 修助は優美を放っておいて自分のロッカーに戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...