セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

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2章

07 豪篤と優美

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 3人がファミレスを出る。途端に、寒くて凍える冬の風が、横殴りに顔を見舞った。
 コートやダウンジャケットに身を包んでいても、店内からの温度差も手伝って体がブルッと大きく震えた。

「んじゃ、俺はあっちだからー! 友よ、また明日だ―――ッ!」

 すっかり酔っ払って多少のふらつきがあるものの、茂勝はひとりで帰っていった。
 豪篤も修助に別れを告げようと目線を下げた。すると、修助と目が合い、待っていたかのように話し出した。

「別れる前にいくつか言っておくね」
「ん? ああ」
「今日はお疲れ様でした。公の場での女装姿でバイト、しかも長時間だったわけだから、自分が思うほど優美ちゃんも心も体も疲れてるからね」
「そうだな。ありがとう」
「言うまでもないけど、人格と自分は同じ体。こんなことを言うのも変だけど、人格――優美ちゃんの機嫌を損ねたら大変なことになるから」

 いまいち飲み込めなかった豪篤は、探るように思ったことを口にした。

「たとえば……高い声が出せなくなるとか?」
「よくあるのはそれだね。あとは、感情の振り幅が大きくなりすぎて、コントロールできなくなるとか」
「自分の体なのにか?」

 何回も聞いているはずなのに、オウム返しをしてしまった豪篤。

「女装で、しかもキャラを脳内に創った時点で優美ちゃんの体でもあるから」
「ああ……すまん」
「ううん、いいよいいよ。最初のうちは混乱するのがあたりまえだからね。さてと、帰りますか」
「だな。俺、こっちだから」
「僕はこっち。それじゃ、気をつけてね」
「修助もな」

 ふたりはお互いに背を向けて歩き出した。



7



「ただいま」

 豪篤がリビングに入ると、彩乃がソファに寝転がってテレビを観ていた。

「おー、遅かったね。寒かったでしょ? そうだ、めっちゃおいしい紅茶でも淹れてあげるねっ」
「ありがとう、助かる」

 彩乃はソファから起き上がって、食器棚に向かう。
 豪篤は茶色のジャケットをイスにかけ、ソファに身を預けた。

「はい」

 豪篤にカップを手渡す。隣に座って豪篤の顔を覗き込んだ。

「初日はどうだった?」


 ひと口紅茶を飲んだ豪篤は、苦笑いを浮かべた。

「いろいろあったし、覚えることはたくさんだし、漠然と大変だなって思ったよ」
「ただでさえ、必要以上に気の利かないアンタだしね。でもよくやったんじゃない? プラス女装でキャラを演じるのはムリだなー」
「女装はともかく、接客があんなに難しくて神経を使うもんだと思わなかった。いやあ、正社員や長くやってる人はすごいわ」
「んんっ? 女装のほうはうまくいったの?」
「格好はいいとして、キャラはまあまあだと思う。ある先輩からは少し注意されちゃったけど、ほかの先輩からはとくに何も言われなかったし」
「そっか、それはよかった。これから慣れてけばいいのよ」
「でもさ、不思議なことを言われた」

 今まで彩乃のほうを見ていた豪篤の顔が正面を向き、遠い目になっていく。

「俺の中にもうひとつの人格があるんだってさ」
「そんなのあたりまえじゃん。何言ってんの?」

 豪篤は、はじかれたように彩乃をまじまじと見つめる。何か言おうとするが、言葉が出てこない。

「だって、女装してるときは素のアンタじゃないじゃん。人格というかキャラを作ってやってるじゃない。不思議でもなんでもないよ」
「ま、まあ、そうだけどさ……」
「んで、その先輩からはほかに何か言われたの?」
「えーっと、人格をひとりの人間として受け止めること。支配ではなく共存。体をシェアするような感じだったかな? ……ああ、あとはご機嫌取りをするのも大事だって言われたような気がする」

 彩乃は眉をしかめてうなっていたが、やがて腕まで組み始めた。

「なんつーか、ほら! たまに本音と建前が逆になって喋っちゃうことがあるだろ! そういう……感……じ……?」

 豪篤も完全に理解できていないせいか、最後のほうは消え入りそうな声だった。

「んー、わかるようなわからんでもないような……。小面倒くさいことを言うんだね。その先輩は何かやってるの?」
「劇団に入って演技をしたり、勉強してるって」
「ああー、じゃあ専門なわけだ。でもね、素人に初っ端からここまで言うのはよくないわ。違う性格の自分がいる。ただそれだけをわかってればよろしい。ったくもう、自分がよくわかってて、相手がわからないってのがダメなの。わからんもんかねぇ」

 苦言を呈し続ける彩乃に、豪篤はどう応じていいかわからず黙っている。

「まあとりあえず、アンタが最初に言ってた人格を受け入れてみるってのをやってみればいいんじゃない。その子が言ったことは次のステップだろうから、そっちは追々取り組んでいけばオッケーだと思うよ」

 彩乃は内心言い過ぎたと思いながらも、そのことはあえて口に出さなかった。

「わかった。そうしてくよ。ありがとう、姉貴。先に寝るわ」

 カップをテーブルの上に置いて、豪篤はリビングから去っていった。



 * * *



 部屋に入って照明とエアコンのスイッチを入れると、豪篤はジャージに着替えてふとんに潜り込んだ。

(そういえば、人格を受け入れるってどうすればいいんだ? 普通にこっちから話かければいいのか? もしも――)
――そんな必要はないわ。
「うわッ?」

 突然、心の中に響いた女の声。それに驚き、声を上げてしまった豪篤だったが、片手で口をふさいで平静を取り戻そうとする。
 深呼吸を数回してから人格に語りかける。

(もしかして……優美か?)
――そうよっ。ほかにだれがいるっていうの?
(心の中で対話するのか)
――口に出したら姉さんが来るじゃない。
(とうとう頭がぶっ壊れたと思われても、困るしな)
――あたりまえよ! それに……。
(なんだよ)
――なんでもないわ!
(あっそう。……で、この会話は心の中でやる自問自答と同じわけか)
――小説を読むとき、いちいちキャラの姿と場景を思い浮かべる?
(ある程度はするけど、かったるいと思ったらあまりしないな。文だけ追う感じだ)
――そうよね。実態は想像すれば出るけど、普段は声だけなの。そのほうがアンタも楽でしょ。
(確かにな。あ、今日は一日お疲れ様でした)

 取ってつけたような豪篤の労いに、

――思い出してもらったみたいで、わざわざありがとうございます。

 トゲトゲしい優美の口調で応じられた。。なんだかおかしくなって、豪篤は小さく笑う。

――何よ、そんなにおかしいこと言った?
(いいや。悪い悪い、なんか不思議な気分でさ。にしても、今まで押し込めてたみたいで、ごめんな) 
――本当だわ。修助がいなかったらと思うとゾッとする。だって今までは、練習で私になって終わったら、なんにもない部屋に入ってろと言ってるようなものだったから。
(そうだったのか……)

 優美の非難が心に突き刺さる。

――あの子は大事にしないとね。もうひとりのバカはべつとして。
(おいおい、茂(しげ)さんに向かってバカはねえだろ)
――はあ? 事実じゃない。萌さんは尊敬できるメイドの鑑のような人。けど、茂勝とかいうのはいい奴だけどバカ。ただ、それだけのことよ。
(わけて考えてるってか。にしても、少しひどいんじゃないか)
――ひどい? それはこっちの台詞よ! バイト中にアンタが緊張してちょっと出てきたせいで、今日一日微妙な感じだったじゃない!
(仕方ねーだろ、緊張するものはするんだから。しかし、お前にも伝わることがわかった以上は、迷惑をかけないように影に徹する)
――わかってるならいいのよ。さ、そろそろ寝るわよ。私も疲れて頭が痛いんだから。
(わかった。明日もよろしくな)
――よろしくお願いします、でしょ?
(……よろしくお願いします)
――よし!
(こんなキャラにするつもりじゃなかったよな……どこでどうしてこうなったのか)
――なぁにっ?
(いやいや、なんでもないです)

 豪篤はたじたじになりながらも、枕元にある照明のリモコンに手を伸ばす。いつもより早く照明を落とすと、疲れからか瞬く間に眠りに落ちた。
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