22 / 52
3章
05 萌と成実への取材
しおりを挟む
5
次の日からは早速、開店したと同時に北川と大山がやって来た。
客がいないことを利用して、ボックス席でひとりひとり長めの雑談形式の取材を行っている。今はちょうど萌が受けていた。
「佇まいはどこで身につけたものですか!?」
「大和撫子ですもの。物心つく前から身につけておりますの」
「その男心を捉えて離さず、雑味を幾度ともなく濾過して澄み渡るような美声は、いかにして会得したものなのでしょうか?」
「この声は天性のものです」
「何か趣味やマイブーム的なものはありますか!?」
「手先が器用ですので手芸や縫い物をしています。常連さんと進捗を確認しがてら見せあったりもしていますのよ」
「萌さんは古来より現存する大和撫子像そのものではありますが、ぶしつけ承知の上でひとつ謝罪でもせねばならない質問がございますが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」
「非の打ち所を見つけることも困難極まりなく、ただの今お召しになってなさるメイド服は、天下無敵の様相であり、お似合いと存じます。しかし存ぜぬのは、何ゆえを持ちましてメイドの格好をされて働いているのでしょうか? 着物をお召しになることは思考案件として、脳内に差し込まれませんでした?」
「自宅では着物で過ごしております。着物も着物でよいものではございますが、さすがに四六時中着物では飽きはきますし、窮屈である点も否めませんわ」
「ちなみに、メイドというものはどこで知りました!?」
「わたくしの元学友に、メイド文化が発達した街に通っている方がおります。その方といっしょにそこへ行った際、なんだか雷を体を突き抜けた感覚がしましたの」
「つまり、メイド服で働きたい! と思ったと!」
「そのとおりでございますわ。こうしてわたくしのような者であっても、奉仕させていただく機会があり、今はとても幸せを噛みしめておりますの」
* * *
「成実さんはメイド歴何年ですか!?」
「んーっとね、もうちょっと4年目になるよね~」
「メイドになるきっかけはあったんですか!?」
「うん、あったよ~。あたしのキュート全開でおしゃまなところもあるかわいさを、学校以外のみんなに知ってもらいたくなってね。ちょうどここのバイトを見つけたんだよね。かわいい格好もできて、かわいいあたしも披露できるなんて、この若さにして最上級の喜びを知ってしまったんだよ。筋肉くん♡」
成実のかわいさにメロメロになりそうになりつつも、大山は努めて冷静に質問を続ける。
「中性的で髪形はショートカット、ついでに幼顔だと普段の生活で少年に間違えられてわずらわしさはありません!?」
「あたしはあたしですよー。ありのままのかわいさをみなさんにお届けしてるだけなので。普段の生活が男の子に見えちゃうのは、その人は所詮、見た目だけでしか見てないってことなんだよね~。だから、ぜーんぜん気にしてないよ♡ ……ねぇねぇ、逆に質問なんだけど、女装メイドだとしたらなんだって言うのかな~?」
北川は首をちぎれんばかり横に振った。
「いやはやとんでももとんでもでございません。ただ、わたくしの心の隅のあまのじゃく的な要素を持つ成分がささやいてきたのでつい魔がさしたのです。万が一――いや、兆が一の奇跡で成実さんが男で女装をしていたとしたら、それはもうとんでもないビッグバンだと。これまたし失礼ながら申し上げますが、ここまでの薄化粧でご自身の美と可憐さを表現できる女性など、この世の中にごく少数の割合しかおりません。女性でごく少数であるに、男だとさらに数は絞られてきます。いくら男も美を追求する時代に変遷したとはいえども、持って生まれたものの素質や、ホルモンバランスの均衡具合によって女性のような美を世に顕現できるのか? いえ、なかなかどうしてできるものではありません。カラスの色が白に変化した地球であれば、成実さんが女装したメイドかもしれません。そこで本来の姿が男であるなら、思春期の荒波に揉まれてこの肌艶をキープもしくは高め続け、可憐な大人になり切れないメイドを演出している――それはそう! 現代の奇跡そのものなのです!」
空気が凍る。
北川という変態はトンデモ妄想とはいえ、近からず遠からず正解を導き出した。隣の大山が正気を疑うような目を北川に向けているが、成実は途中から心臓に汗をかく思いでうつむいていた。おそるおそる北川をうかがう。北川本人は、言いたいことを一気に言えてドヤ顔でアイスの溶け切ったコーラフロートをストローで吸っている。
「ふ~~~ん……? とりあえず、あたしのかわいさは規格外ってことでおーけー?」
「その認識でおーけーでございます。こんな可憐で愛らしい貴女が、男なわけありませんからね」
「そうだよ~。ホントにもう失礼しちゃうんだからー。めっだよ。めっ」
「だはははははは、申し訳ございません。わたくしめときましたら、こと女性に関しては、カオスな脳内で宇宙規模で妄想するのが、ルーチンワークとなっておりますゆえ。……ほら、大山。お前もやってもらいなさい。成実さん、駄文と没文を量産しないおまじないでもあればかけてやってくださいな」
「いいよー♪ 昔の人もー、今の人もー、文章に携わるすべての人が、0.1%でも大山ちゃんに力を分けてくれますよーに!」
* * *
次の日からは早速、開店したと同時に北川と大山がやって来た。
客がいないことを利用して、ボックス席でひとりひとり長めの雑談形式の取材を行っている。今はちょうど萌が受けていた。
「佇まいはどこで身につけたものですか!?」
「大和撫子ですもの。物心つく前から身につけておりますの」
「その男心を捉えて離さず、雑味を幾度ともなく濾過して澄み渡るような美声は、いかにして会得したものなのでしょうか?」
「この声は天性のものです」
「何か趣味やマイブーム的なものはありますか!?」
「手先が器用ですので手芸や縫い物をしています。常連さんと進捗を確認しがてら見せあったりもしていますのよ」
「萌さんは古来より現存する大和撫子像そのものではありますが、ぶしつけ承知の上でひとつ謝罪でもせねばならない質問がございますが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」
「非の打ち所を見つけることも困難極まりなく、ただの今お召しになってなさるメイド服は、天下無敵の様相であり、お似合いと存じます。しかし存ぜぬのは、何ゆえを持ちましてメイドの格好をされて働いているのでしょうか? 着物をお召しになることは思考案件として、脳内に差し込まれませんでした?」
「自宅では着物で過ごしております。着物も着物でよいものではございますが、さすがに四六時中着物では飽きはきますし、窮屈である点も否めませんわ」
「ちなみに、メイドというものはどこで知りました!?」
「わたくしの元学友に、メイド文化が発達した街に通っている方がおります。その方といっしょにそこへ行った際、なんだか雷を体を突き抜けた感覚がしましたの」
「つまり、メイド服で働きたい! と思ったと!」
「そのとおりでございますわ。こうしてわたくしのような者であっても、奉仕させていただく機会があり、今はとても幸せを噛みしめておりますの」
* * *
「成実さんはメイド歴何年ですか!?」
「んーっとね、もうちょっと4年目になるよね~」
「メイドになるきっかけはあったんですか!?」
「うん、あったよ~。あたしのキュート全開でおしゃまなところもあるかわいさを、学校以外のみんなに知ってもらいたくなってね。ちょうどここのバイトを見つけたんだよね。かわいい格好もできて、かわいいあたしも披露できるなんて、この若さにして最上級の喜びを知ってしまったんだよ。筋肉くん♡」
成実のかわいさにメロメロになりそうになりつつも、大山は努めて冷静に質問を続ける。
「中性的で髪形はショートカット、ついでに幼顔だと普段の生活で少年に間違えられてわずらわしさはありません!?」
「あたしはあたしですよー。ありのままのかわいさをみなさんにお届けしてるだけなので。普段の生活が男の子に見えちゃうのは、その人は所詮、見た目だけでしか見てないってことなんだよね~。だから、ぜーんぜん気にしてないよ♡ ……ねぇねぇ、逆に質問なんだけど、女装メイドだとしたらなんだって言うのかな~?」
北川は首をちぎれんばかり横に振った。
「いやはやとんでももとんでもでございません。ただ、わたくしの心の隅のあまのじゃく的な要素を持つ成分がささやいてきたのでつい魔がさしたのです。万が一――いや、兆が一の奇跡で成実さんが男で女装をしていたとしたら、それはもうとんでもないビッグバンだと。これまたし失礼ながら申し上げますが、ここまでの薄化粧でご自身の美と可憐さを表現できる女性など、この世の中にごく少数の割合しかおりません。女性でごく少数であるに、男だとさらに数は絞られてきます。いくら男も美を追求する時代に変遷したとはいえども、持って生まれたものの素質や、ホルモンバランスの均衡具合によって女性のような美を世に顕現できるのか? いえ、なかなかどうしてできるものではありません。カラスの色が白に変化した地球であれば、成実さんが女装したメイドかもしれません。そこで本来の姿が男であるなら、思春期の荒波に揉まれてこの肌艶をキープもしくは高め続け、可憐な大人になり切れないメイドを演出している――それはそう! 現代の奇跡そのものなのです!」
空気が凍る。
北川という変態はトンデモ妄想とはいえ、近からず遠からず正解を導き出した。隣の大山が正気を疑うような目を北川に向けているが、成実は途中から心臓に汗をかく思いでうつむいていた。おそるおそる北川をうかがう。北川本人は、言いたいことを一気に言えてドヤ顔でアイスの溶け切ったコーラフロートをストローで吸っている。
「ふ~~~ん……? とりあえず、あたしのかわいさは規格外ってことでおーけー?」
「その認識でおーけーでございます。こんな可憐で愛らしい貴女が、男なわけありませんからね」
「そうだよ~。ホントにもう失礼しちゃうんだからー。めっだよ。めっ」
「だはははははは、申し訳ございません。わたくしめときましたら、こと女性に関しては、カオスな脳内で宇宙規模で妄想するのが、ルーチンワークとなっておりますゆえ。……ほら、大山。お前もやってもらいなさい。成実さん、駄文と没文を量産しないおまじないでもあればかけてやってくださいな」
「いいよー♪ 昔の人もー、今の人もー、文章に携わるすべての人が、0.1%でも大山ちゃんに力を分けてくれますよーに!」
* * *
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる