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3章
06 優美と郷子への取材
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「貴女ほどのスタイル抜群の女性が、一般社会にいるのかが不思議でなりません。どこに隠棲しておられたのですか?」
「普通に女子高生してましたけど……」
どんな質問が飛んでくるかわかったものではない。優美はドギマギしながら少し歯切れの悪い口調で答えた。
「その魅力的な肌はもともとなんですか!?」
「実は少し日サロで焼いてきました。黒すぎても昔いたようなヤマンバになりますし……。あと、白すぎても、私的には健康的というか現実的に思えなかったので……」
「入ったばかりと聞きましたが、どういったきっかけでメイド服を着ることを選びましたか!?」
「テレビでメイドさんの特集があったんです。女子力の塊みたいな人たちばかりで、私も女子力を高めたくてここを受けました」
優美は我ながら苦しい理由だと思った。正直な動機など言えるはずもなく、嘘も織り交ぜつつ答えるしかなかった。
「優美さんにとって女子力とはなんですか!?」
「今の時代にあまりふさわしくない言葉ですが、女性らしさですかね。私は身長も高く、顔もかわいいわけじゃありません。それだけに周囲からは女としてではなく、男役の女として見られ、扱われてきました」
「女性らしさを磨くためにバイトしようと思ったわけですね!?」
「そうですね」
「ではその、男性より女性に好意を持たれ、告白されることも多かったというわけですか!?」
「おっしゃるとおりです。ですが、丁重にお断りしてきました。私の恋愛対象はあくまでも男性なので」
――よく考えてんな……。
豪篤は心の中で自分を恥じた。
自分が考えもしなかったことを優美は澱みなく答えていく。あらかじめ質問を想定して用意していたらしい。もしも豪篤自身の女装だったら、突飛なことを言うか、黙り込んで助け舟を待つだけだったであろう。
ふと、優美の視線が大山の手帳に落ちる。体に似合わず字はシャープで流れるような字体で、誰が見てもとても読みやすい。素直にうらやましい技能だなと豪篤は思った。だが、優美は違う捉え方をしてしまったようで、何度か大山の手帳と顔を見比べている。そのつど体――特に顔が熱くなってきた。
――もしかして、逆にギャップにやられたのか……?
大山の声は常にデカく、耳を塞ぎたくなるほどである。しかし、顔立ちはいいほうだ。
――なあ、優美。
(な、何よ? 取材中なんだから引っ込んでてよ!)
――確かに大山はカッコいいわ。俺もここまで鍛えたいなと思う。
(きゅ、急に何を言うのよ!)
――落とすはずのおまえが落とされかけてどうすんだよ。
(違う。わからないのよ! 急にその、キュンというかドキッとしたというか!)
「どうしました!? どこか具合悪いんですか!?」
うつむいたまま顔を赤くして黙ってしまった優美に、大山が心配そうな表情で声をかける。
「そろそろ今日の取材は終了いたしましょうか」
北川のまともな口調で優美の取材は終わった。
* * *
郷子はブスッとした顔で腕を組んだままそっぽを向いている。後輩のメイドたち総出で無理矢理引っ張り出されたから当然だった。
北川と大山は興奮を隠しきれない様子で郷子を見つめている。
郷子も郷子で高身長で顔もスタイルも甲乙つけようがない美女だ。眼鏡をかけ、額を出しているのも知的さを存分に表出させていている。
ふたりの頭の中で妄想の嵐が吹き荒れている。そんなふたりを睨み、郷子はいつもの低い声で言った。
「手短に」
「あ、すいません!! えー、このお店に入ったきっかけはあったのでしょうか!?」
弾かれたように質問を投げかける大山。
「店長に誘われて」
「なるほど。店長さんとは昔からのお知り合いとかで!?」
「答えたくない」
「料理をおひとりで作られてますが、大変ではないですか?!」
「慣れてるから気にならない」
「得意な料理はなんでしょうか!?」
「チャーハンとオムライス」
「先日いただいたその二品は絶品のおいしさでしたが、料理関係の学校に行っていたとか!?」
「ノーコメント」
「では、メイドさんとして接客をする日もあるのですか!?」
「気が向いたら。あと、誰かが休んで手が足りなそうだったら出る」
「普段は出ないのですか!?」
「3人もいりゃ、現場は回る」
「こんなに美人なのに、ですか!?」
郷子は大山を一瞥し、無言で立ち上がろうとする。
「あ、ちょっと! 待ってください!! もう少しだけお話を聞かせてもらえないでしょうか!?」
「そろそろランチの仕込みをしたいんだが」
「そこをなんとか!!」
食い下がる大山の目の前に北川の手のひらが現れた。
「貴女はなんといいましょうか。あの御三方とまた違った匂いがするのです。わたくしは、男が心から安息や愛情を求められる方だと愚考します。感覚的に感じ取ったもので、果たして本当にそれが真(まこと)であるかはわかりかねます。しかし、わたくしの様々な女性遍歴の経験上で申しますと、貴女が接客する時間が増えれば、新たな客層が開拓にも繋がるでしょう。いやいや、差し出がましいことを言って申し訳ございません。気持ち悪いおっさんの戯言としてご容赦ください」
「嫌です」
郷子は舌打ちをし、厨房へと帰っていった。
* * *
「普通に女子高生してましたけど……」
どんな質問が飛んでくるかわかったものではない。優美はドギマギしながら少し歯切れの悪い口調で答えた。
「その魅力的な肌はもともとなんですか!?」
「実は少し日サロで焼いてきました。黒すぎても昔いたようなヤマンバになりますし……。あと、白すぎても、私的には健康的というか現実的に思えなかったので……」
「入ったばかりと聞きましたが、どういったきっかけでメイド服を着ることを選びましたか!?」
「テレビでメイドさんの特集があったんです。女子力の塊みたいな人たちばかりで、私も女子力を高めたくてここを受けました」
優美は我ながら苦しい理由だと思った。正直な動機など言えるはずもなく、嘘も織り交ぜつつ答えるしかなかった。
「優美さんにとって女子力とはなんですか!?」
「今の時代にあまりふさわしくない言葉ですが、女性らしさですかね。私は身長も高く、顔もかわいいわけじゃありません。それだけに周囲からは女としてではなく、男役の女として見られ、扱われてきました」
「女性らしさを磨くためにバイトしようと思ったわけですね!?」
「そうですね」
「ではその、男性より女性に好意を持たれ、告白されることも多かったというわけですか!?」
「おっしゃるとおりです。ですが、丁重にお断りしてきました。私の恋愛対象はあくまでも男性なので」
――よく考えてんな……。
豪篤は心の中で自分を恥じた。
自分が考えもしなかったことを優美は澱みなく答えていく。あらかじめ質問を想定して用意していたらしい。もしも豪篤自身の女装だったら、突飛なことを言うか、黙り込んで助け舟を待つだけだったであろう。
ふと、優美の視線が大山の手帳に落ちる。体に似合わず字はシャープで流れるような字体で、誰が見てもとても読みやすい。素直にうらやましい技能だなと豪篤は思った。だが、優美は違う捉え方をしてしまったようで、何度か大山の手帳と顔を見比べている。そのつど体――特に顔が熱くなってきた。
――もしかして、逆にギャップにやられたのか……?
大山の声は常にデカく、耳を塞ぎたくなるほどである。しかし、顔立ちはいいほうだ。
――なあ、優美。
(な、何よ? 取材中なんだから引っ込んでてよ!)
――確かに大山はカッコいいわ。俺もここまで鍛えたいなと思う。
(きゅ、急に何を言うのよ!)
――落とすはずのおまえが落とされかけてどうすんだよ。
(違う。わからないのよ! 急にその、キュンというかドキッとしたというか!)
「どうしました!? どこか具合悪いんですか!?」
うつむいたまま顔を赤くして黙ってしまった優美に、大山が心配そうな表情で声をかける。
「そろそろ今日の取材は終了いたしましょうか」
北川のまともな口調で優美の取材は終わった。
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郷子はブスッとした顔で腕を組んだままそっぽを向いている。後輩のメイドたち総出で無理矢理引っ張り出されたから当然だった。
北川と大山は興奮を隠しきれない様子で郷子を見つめている。
郷子も郷子で高身長で顔もスタイルも甲乙つけようがない美女だ。眼鏡をかけ、額を出しているのも知的さを存分に表出させていている。
ふたりの頭の中で妄想の嵐が吹き荒れている。そんなふたりを睨み、郷子はいつもの低い声で言った。
「手短に」
「あ、すいません!! えー、このお店に入ったきっかけはあったのでしょうか!?」
弾かれたように質問を投げかける大山。
「店長に誘われて」
「なるほど。店長さんとは昔からのお知り合いとかで!?」
「答えたくない」
「料理をおひとりで作られてますが、大変ではないですか?!」
「慣れてるから気にならない」
「得意な料理はなんでしょうか!?」
「チャーハンとオムライス」
「先日いただいたその二品は絶品のおいしさでしたが、料理関係の学校に行っていたとか!?」
「ノーコメント」
「では、メイドさんとして接客をする日もあるのですか!?」
「気が向いたら。あと、誰かが休んで手が足りなそうだったら出る」
「普段は出ないのですか!?」
「3人もいりゃ、現場は回る」
「こんなに美人なのに、ですか!?」
郷子は大山を一瞥し、無言で立ち上がろうとする。
「あ、ちょっと! 待ってください!! もう少しだけお話を聞かせてもらえないでしょうか!?」
「そろそろランチの仕込みをしたいんだが」
「そこをなんとか!!」
食い下がる大山の目の前に北川の手のひらが現れた。
「貴女はなんといいましょうか。あの御三方とまた違った匂いがするのです。わたくしは、男が心から安息や愛情を求められる方だと愚考します。感覚的に感じ取ったもので、果たして本当にそれが真(まこと)であるかはわかりかねます。しかし、わたくしの様々な女性遍歴の経験上で申しますと、貴女が接客する時間が増えれば、新たな客層が開拓にも繋がるでしょう。いやいや、差し出がましいことを言って申し訳ございません。気持ち悪いおっさんの戯言としてご容赦ください」
「嫌です」
郷子は舌打ちをし、厨房へと帰っていった。
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