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4章
02 美喜の友達
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午後3時を回ったころ。
横山(よこやま)美喜(みき)が鼻歌を歌いながら店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ~。あれ、美喜ちゃん。ずいぶんと機嫌がいいのね」
すっかり店の常連になっていた美喜は、迷わずカウンター席に座る。
美喜は、優美から温かいお茶とおしぼりを受け取ると、上機嫌に話を切り出した。
「実はね、新しく友達ができたの」
「おおっ」
「ネット上のだけど」
「あらら」
優美がわざとらしく体勢を崩すと、美喜の頬がぷっくり膨れてくる。美喜は最初のお客さんということもあって優美が素を出せる相手――特別な存在なのである。
「そんなカクッてなることないじゃない。今度ね、会うことになったの」
「それっていわゆるオフ会?」
「うん。人生初のオフ会だからすっごく緊張するけど、楽しみでもあるのよ」
美喜は、まるで恋する乙女のように手を合わせ、一点を見つめ始める。
「……とりあえず、いつもと同じでチョコレートパフェでいいのね」
半ばひとり言のような注文を取り、優美はその場を離れた。
「ねえねえ、みっちゃんはどんな人だと思ってるの?」
聞き覚えのある声の質問に、妄想の海を泳いでいた美喜が、現実に引き戻された。ふと気づいて視線を落とせば、しゃがんでこちらを見ている成実がいた。
「うーん……チャットの会話文からして、綺麗系というよりもかわいい系だと思うんだ。絵文字とか文体で判断するのもなんだけど。でも、こうやって妄想するのも楽しいじゃない!」
目を異様に光らせて断言する美喜に、成実はたじたじになった。
「ま、まあね。前向きな妄想は気持ちを若くするって言うしねっ」
「ヤだなぁ、成実ちゃん。わたし、おばさんじゃないよ」
美喜が成実の頭に手を置いて髪をかき回していると、優美がチョコレートパフェを持ってやってきた。
「はい、お待たせしました~」
「あれ、いつもよりトッピングが多いけど?」
普段のチョコレートパフェは、生クリームとチョコチップアイスとチョコフレークの3種のみ。この日は、チョコチップクッキーや板チョコのかけらやチョコポッキーが、器から落ちそうなくらい、絶妙な均衡を保って盛り付けられていた。
優美は軽くウインクしてみせる。
「郷子さんに話したら、盛り付けてくれたのよ。何も言わなかったけど、祝ってくれてるんだと思うわ」
「郷子さん、ありがとうございますー!」
美喜はカウンター席から厨房に向かって叫ぶ。すると、少し経ってから、
「どういたしましてー」
棒読みのような返事が飛んできた。
「それじゃ」
と言い、美喜はスプーンを正面の優美に渡す。
「ねえねえ、いつものいつもの!」
ねだる美喜は、見た目そのまま子どもだった。犬のようなしっぽがついていたら、ちぎれそうなぐらい振っていただろう。
「しょうがない娘(こ)ね」
優美は目を細めると、左手を伸ばして美喜の頭をゆっくり優しくなでた。
美喜の顔が気持ち良さそうにものになり、吐息を漏らしている。
優美の右手には、パフェの中身が乗ったスプーンが握られていた。なでるのをやめ、右手を少しずつ伸ばす。
「はい、あーん」
下唇にスプーンが少し触れると、余韻を残すようにゆっくりと美喜の口が閉じられる。
優美はスプーンをスッと引き抜いて、左手で美喜の頭をまたなで始めた。
「ああ~、至福のときだわ~」
「お疲れのようですわね」
優美の横でコーヒー豆を挽いていた萌が声をかける。
「気を張りすぎて疲れてまして……。わたし、ゼミ長だからしっかりしないといけないんです」
「あらあら、それはお疲れ様です」
「だからこうして、がんばった自分へのご褒美ってほどでもないですけど、ここに来るんですよ。みなさんを見てると元気をもらえるんです。優美ちゃんからはこうして癒してもらえるし」
「うれしいことを言ってくれますね。ねえ、萌さん」
「そうですわね。こうした言葉をいただくと、わたくしたちも働いている甲斐がありますわ」
そこに、美喜に頭を乱暴になでられていたはずの成実が、裏に通じるドアから出てきた。
「あれ、どうしたの? みんなして笑って」
美喜が成実のいた位置を確認してから尋ねた。
「いないと思ったら、どこか行ってたの?」
「ちょっとお花を摘みに」
成実は持っていたお盆で口元を隠してほほほと笑う。つられて3人も笑った。
「お、なんだろう。楽しそうだね」
店長の島(しま)が、裏に通じるドアから顔を出した。いつものYシャツネクタイに、今日はさらに深緑のカーディガンを着ていた。
「おはようございます」
3人のメイドがあいさつをする。
「おはよう、今日は本当に寒いね」
言いながら、美喜から2席ほど離れた席に座る。
「萌さん。とりあえず、コーヒーを1杯くれ。どうだい、優美さん。絶好調かい?」
「ええ、おかげさまで。それもこれもみなさんのおかげです!」
「はっはっは、驕らず謙虚なところがいいね。その姿勢は大事だぞ」
「はいっ!」
「ところで、こちらのかわいい彼女はお客様でいいんだよね?」
「最近よく来店されてる横山美喜さんです」
島の好奇な目線が突き刺さり、美喜のほほに赤みがさして緊張した様子になった。
「よ、横山です」
「店長の島です。うちの店をご贔屓していただいているようで、ありがとうございます。まだまだ優美は未熟者ですが、横山さんが温かく見守ってくだされば幸いです」
「いえいえそんな。優美さんはいいメイドさんだと思いますよ。みなさんの接客も丁寧ですが、だれよりも丁寧でお客さんの喜ぶことを考えてるのは、わたしは優美さんだと思いますし」
「美喜さん……」
「良かったな優美さん。君のがんばりをだれよりも認めてくれる人がいて」
優美は感極まりそうになる。込み上がってくる感情に涙腺が緩む。うれし涙をこらえ、にっこり笑った。
「はいっ!」
「うんうん、よかったよかった」
萌から淹れてもらったコーヒーを島は満足気にすすった。
午後3時を回ったころ。
横山(よこやま)美喜(みき)が鼻歌を歌いながら店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ~。あれ、美喜ちゃん。ずいぶんと機嫌がいいのね」
すっかり店の常連になっていた美喜は、迷わずカウンター席に座る。
美喜は、優美から温かいお茶とおしぼりを受け取ると、上機嫌に話を切り出した。
「実はね、新しく友達ができたの」
「おおっ」
「ネット上のだけど」
「あらら」
優美がわざとらしく体勢を崩すと、美喜の頬がぷっくり膨れてくる。美喜は最初のお客さんということもあって優美が素を出せる相手――特別な存在なのである。
「そんなカクッてなることないじゃない。今度ね、会うことになったの」
「それっていわゆるオフ会?」
「うん。人生初のオフ会だからすっごく緊張するけど、楽しみでもあるのよ」
美喜は、まるで恋する乙女のように手を合わせ、一点を見つめ始める。
「……とりあえず、いつもと同じでチョコレートパフェでいいのね」
半ばひとり言のような注文を取り、優美はその場を離れた。
「ねえねえ、みっちゃんはどんな人だと思ってるの?」
聞き覚えのある声の質問に、妄想の海を泳いでいた美喜が、現実に引き戻された。ふと気づいて視線を落とせば、しゃがんでこちらを見ている成実がいた。
「うーん……チャットの会話文からして、綺麗系というよりもかわいい系だと思うんだ。絵文字とか文体で判断するのもなんだけど。でも、こうやって妄想するのも楽しいじゃない!」
目を異様に光らせて断言する美喜に、成実はたじたじになった。
「ま、まあね。前向きな妄想は気持ちを若くするって言うしねっ」
「ヤだなぁ、成実ちゃん。わたし、おばさんじゃないよ」
美喜が成実の頭に手を置いて髪をかき回していると、優美がチョコレートパフェを持ってやってきた。
「はい、お待たせしました~」
「あれ、いつもよりトッピングが多いけど?」
普段のチョコレートパフェは、生クリームとチョコチップアイスとチョコフレークの3種のみ。この日は、チョコチップクッキーや板チョコのかけらやチョコポッキーが、器から落ちそうなくらい、絶妙な均衡を保って盛り付けられていた。
優美は軽くウインクしてみせる。
「郷子さんに話したら、盛り付けてくれたのよ。何も言わなかったけど、祝ってくれてるんだと思うわ」
「郷子さん、ありがとうございますー!」
美喜はカウンター席から厨房に向かって叫ぶ。すると、少し経ってから、
「どういたしましてー」
棒読みのような返事が飛んできた。
「それじゃ」
と言い、美喜はスプーンを正面の優美に渡す。
「ねえねえ、いつものいつもの!」
ねだる美喜は、見た目そのまま子どもだった。犬のようなしっぽがついていたら、ちぎれそうなぐらい振っていただろう。
「しょうがない娘(こ)ね」
優美は目を細めると、左手を伸ばして美喜の頭をゆっくり優しくなでた。
美喜の顔が気持ち良さそうにものになり、吐息を漏らしている。
優美の右手には、パフェの中身が乗ったスプーンが握られていた。なでるのをやめ、右手を少しずつ伸ばす。
「はい、あーん」
下唇にスプーンが少し触れると、余韻を残すようにゆっくりと美喜の口が閉じられる。
優美はスプーンをスッと引き抜いて、左手で美喜の頭をまたなで始めた。
「ああ~、至福のときだわ~」
「お疲れのようですわね」
優美の横でコーヒー豆を挽いていた萌が声をかける。
「気を張りすぎて疲れてまして……。わたし、ゼミ長だからしっかりしないといけないんです」
「あらあら、それはお疲れ様です」
「だからこうして、がんばった自分へのご褒美ってほどでもないですけど、ここに来るんですよ。みなさんを見てると元気をもらえるんです。優美ちゃんからはこうして癒してもらえるし」
「うれしいことを言ってくれますね。ねえ、萌さん」
「そうですわね。こうした言葉をいただくと、わたくしたちも働いている甲斐がありますわ」
そこに、美喜に頭を乱暴になでられていたはずの成実が、裏に通じるドアから出てきた。
「あれ、どうしたの? みんなして笑って」
美喜が成実のいた位置を確認してから尋ねた。
「いないと思ったら、どこか行ってたの?」
「ちょっとお花を摘みに」
成実は持っていたお盆で口元を隠してほほほと笑う。つられて3人も笑った。
「お、なんだろう。楽しそうだね」
店長の島(しま)が、裏に通じるドアから顔を出した。いつものYシャツネクタイに、今日はさらに深緑のカーディガンを着ていた。
「おはようございます」
3人のメイドがあいさつをする。
「おはよう、今日は本当に寒いね」
言いながら、美喜から2席ほど離れた席に座る。
「萌さん。とりあえず、コーヒーを1杯くれ。どうだい、優美さん。絶好調かい?」
「ええ、おかげさまで。それもこれもみなさんのおかげです!」
「はっはっは、驕らず謙虚なところがいいね。その姿勢は大事だぞ」
「はいっ!」
「ところで、こちらのかわいい彼女はお客様でいいんだよね?」
「最近よく来店されてる横山美喜さんです」
島の好奇な目線が突き刺さり、美喜のほほに赤みがさして緊張した様子になった。
「よ、横山です」
「店長の島です。うちの店をご贔屓していただいているようで、ありがとうございます。まだまだ優美は未熟者ですが、横山さんが温かく見守ってくだされば幸いです」
「いえいえそんな。優美さんはいいメイドさんだと思いますよ。みなさんの接客も丁寧ですが、だれよりも丁寧でお客さんの喜ぶことを考えてるのは、わたしは優美さんだと思いますし」
「美喜さん……」
「良かったな優美さん。君のがんばりをだれよりも認めてくれる人がいて」
優美は感極まりそうになる。込み上がってくる感情に涙腺が緩む。うれし涙をこらえ、にっこり笑った。
「はいっ!」
「うんうん、よかったよかった」
萌から淹れてもらったコーヒーを島は満足気にすすった。
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