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5章
02 ひとつの作戦
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「渚ちゃんは豪(たけ)ちゃんの元彼女!?」
「マジかい! 信じられねえ!!」
修助と茂勝の驚きの声が更衣室内に大きく響いた。
「ああ、そうなんだ」
ふたりとは対照的に落ち着いた声で応じ、ゆっくりと豪篤はうなずく。修助は首をひねった。
「なんでよりにもよって、このタイミングで言おうと思ったの? もっと前に言ってよ」
「本当はすぐにでも言おうと思ったんだが……なんか、言い出せなかった。すまん」
「世の中に偶然ってのはいくらでもあっけど、ここまでの偶然はなかなかねーな」と茂勝。
「ねえ。必然めいたものというかここまでくると因縁を感じるよね。それで、どこで出会ってそうなったの?」
豪篤は少し遠い目をして語り始めた。
「数週間前の歩道橋だな。お互いに老夫婦を反対側まで運んだんだ。初めて会ったとき、ビックリするほど周りより華やいで見えて、心にグサッと突き刺さった。ナンパしてでも付き合ってみたかった。クールな感じで、スタイルがよくて、とにかく全部がよかった。遊ばれてる、からかわれてる感がよかった。渚といっしょにいるだけで、なんでもできる気がしたし、自分の心が満たされていくことを実感できてたんだ」
なんとも微笑ましい話に、修助は笑みをこぼした。
「豪ちゃんは彼女のことを、真摯に相手と付き合って、仲を育んでいきたい気持ちがわかった。少なくとも自分を彩る飾りとしては見てないね」
「たけあっつんは、良くも悪くも単純な男だからなー。打算的に見てたらちょっと引いたかもな」
「好きなら好きで一緒にいれたらだけでいいんだ。なのに、自分の欲を満たすために好きでもない相手と付き合う。そういうのが俺には到底理解できない。だから、付き合ってる間は全力で渚をもてなしたり、楽しませようと努力したんだ。……結果的にフラれちゃったけどさ」
「ちなみに、どんな所にデートしに行ったんだ?」
「主にスイーツ巡りやケーキバイキング」
「えっ……それだけ? ほかにどこかに行かなかったの?」
「ほかにも遊園地や街をブラブラしたりしたぞ。8:2ぐらいの割合だったかな。ほら、女子って甘いもの好きじゃん」
「……」
ふたりの呆れた視線に、豪篤は瞬時に真顔に戻った。
「……いや、ごめん。あのころの俺はその考えに支配されてたから。今は、事前に会話の中で好きなものを聞き出すことが、当然だと思ってるから」
ふたりはホッと胸を撫で下ろした。
「成長したねー豪ちゃん。頭がカブトムシのままだったら、とんでもない人生になってたかもね」
「生涯独身の生活習慣病待ったなしだわな」
豪篤は受け流しつつ、切り換えるように真面目くさった表情で言った。
「それでなんですが、俺がそうだったように、誰でも好きな人には振り向いてもらいたいもの。アイツは優美に対する親密度が、ある程度のラインまで達したと思ってるはず」
茂勝がいやいやと言いながら首を横に振った。
「達したどころか振り切れてるがな。行動だんだんエスカレートしてっしのう。筋金入りのストーカー並に」
「そろそろ遊びのお誘いがありそうだよね」
「そう、そうなんだよ。そこで、明日も渚があんな感じだったら、浩介さんと美喜さんも入れてどこかで話し合いがしたいな、と。これは俺もだけど、店の問題でもあるから」
修助は難しい顔をしつつ相槌を打った。
「確かに……。ああやってプレゼントを特定の店員に連日渡すのは、ほかのお客さんもそうしなくてはならない、という義務感を植えつけてしまうことになる。僕らが望んでなくても、お構いなしに」
茂勝は腰にバスタオルを巻き、ふんどしからトランクスに取り替えながら首をかしげた。
「美喜ちゃん来るんかねぇ。このところ来てねーし」
「優美ちゃんと渚ちゃんの仲を、嫉妬しているみたいだからね……。どっちにも会いたくもない可能性があるかもよ」
「修助に美喜さんの今の心境を訊いてもらいたいんだ」
修助がブラジャーを外しながら目を丸くした。
「僕が? どうして?」
「正体をバラしたときのショックが、一番少なそうだから」
「そうだな。俺だと通報されかねんもんな」
茂勝は豪快に笑い飛ばす。
「ああ、確かにそうかも」
修助は苦笑しながら納得した。豪篤と茂勝では短時間でイコールに辿り着くどころか、逃げられるか通報されるのがオチになりそうだったからだ。
「じゃあ、重要な話があると言って誘おうか」
「それでいいと思う。まあ、どんな理由でも来そうだけどな。ということで、修に茂さん」
ふたりの目を交互に見つめ、豪篤は頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
「マジかい! 信じられねえ!!」
修助と茂勝の驚きの声が更衣室内に大きく響いた。
「ああ、そうなんだ」
ふたりとは対照的に落ち着いた声で応じ、ゆっくりと豪篤はうなずく。修助は首をひねった。
「なんでよりにもよって、このタイミングで言おうと思ったの? もっと前に言ってよ」
「本当はすぐにでも言おうと思ったんだが……なんか、言い出せなかった。すまん」
「世の中に偶然ってのはいくらでもあっけど、ここまでの偶然はなかなかねーな」と茂勝。
「ねえ。必然めいたものというかここまでくると因縁を感じるよね。それで、どこで出会ってそうなったの?」
豪篤は少し遠い目をして語り始めた。
「数週間前の歩道橋だな。お互いに老夫婦を反対側まで運んだんだ。初めて会ったとき、ビックリするほど周りより華やいで見えて、心にグサッと突き刺さった。ナンパしてでも付き合ってみたかった。クールな感じで、スタイルがよくて、とにかく全部がよかった。遊ばれてる、からかわれてる感がよかった。渚といっしょにいるだけで、なんでもできる気がしたし、自分の心が満たされていくことを実感できてたんだ」
なんとも微笑ましい話に、修助は笑みをこぼした。
「豪ちゃんは彼女のことを、真摯に相手と付き合って、仲を育んでいきたい気持ちがわかった。少なくとも自分を彩る飾りとしては見てないね」
「たけあっつんは、良くも悪くも単純な男だからなー。打算的に見てたらちょっと引いたかもな」
「好きなら好きで一緒にいれたらだけでいいんだ。なのに、自分の欲を満たすために好きでもない相手と付き合う。そういうのが俺には到底理解できない。だから、付き合ってる間は全力で渚をもてなしたり、楽しませようと努力したんだ。……結果的にフラれちゃったけどさ」
「ちなみに、どんな所にデートしに行ったんだ?」
「主にスイーツ巡りやケーキバイキング」
「えっ……それだけ? ほかにどこかに行かなかったの?」
「ほかにも遊園地や街をブラブラしたりしたぞ。8:2ぐらいの割合だったかな。ほら、女子って甘いもの好きじゃん」
「……」
ふたりの呆れた視線に、豪篤は瞬時に真顔に戻った。
「……いや、ごめん。あのころの俺はその考えに支配されてたから。今は、事前に会話の中で好きなものを聞き出すことが、当然だと思ってるから」
ふたりはホッと胸を撫で下ろした。
「成長したねー豪ちゃん。頭がカブトムシのままだったら、とんでもない人生になってたかもね」
「生涯独身の生活習慣病待ったなしだわな」
豪篤は受け流しつつ、切り換えるように真面目くさった表情で言った。
「それでなんですが、俺がそうだったように、誰でも好きな人には振り向いてもらいたいもの。アイツは優美に対する親密度が、ある程度のラインまで達したと思ってるはず」
茂勝がいやいやと言いながら首を横に振った。
「達したどころか振り切れてるがな。行動だんだんエスカレートしてっしのう。筋金入りのストーカー並に」
「そろそろ遊びのお誘いがありそうだよね」
「そう、そうなんだよ。そこで、明日も渚があんな感じだったら、浩介さんと美喜さんも入れてどこかで話し合いがしたいな、と。これは俺もだけど、店の問題でもあるから」
修助は難しい顔をしつつ相槌を打った。
「確かに……。ああやってプレゼントを特定の店員に連日渡すのは、ほかのお客さんもそうしなくてはならない、という義務感を植えつけてしまうことになる。僕らが望んでなくても、お構いなしに」
茂勝は腰にバスタオルを巻き、ふんどしからトランクスに取り替えながら首をかしげた。
「美喜ちゃん来るんかねぇ。このところ来てねーし」
「優美ちゃんと渚ちゃんの仲を、嫉妬しているみたいだからね……。どっちにも会いたくもない可能性があるかもよ」
「修助に美喜さんの今の心境を訊いてもらいたいんだ」
修助がブラジャーを外しながら目を丸くした。
「僕が? どうして?」
「正体をバラしたときのショックが、一番少なそうだから」
「そうだな。俺だと通報されかねんもんな」
茂勝は豪快に笑い飛ばす。
「ああ、確かにそうかも」
修助は苦笑しながら納得した。豪篤と茂勝では短時間でイコールに辿り着くどころか、逃げられるか通報されるのがオチになりそうだったからだ。
「じゃあ、重要な話があると言って誘おうか」
「それでいいと思う。まあ、どんな理由でも来そうだけどな。ということで、修に茂さん」
ふたりの目を交互に見つめ、豪篤は頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
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