セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
40 / 52
5章

08 もうひとつの告白

しおりを挟む
 
 土手の階段のひとつ下がった所に座って修助は、赤々とした太陽と幾重にも色が混じり合った空を眺めている。
 そこへ女装を解いた私服姿の豪篤が現れた。片手には紙袋。もう片方の手にはコンビニ袋。背中には少し大きめのリュックが背負われている。

「すまんな、待たせちまって。ロッカーが遠くてな。これ、待ってくれた礼だ」

 修助にコンビニ袋を手渡す。中身は缶のホットココアと肉まんがふたつずつ入っていた。

「ありがとう。ちょうど少しお腹がすいてたんだ」

 修助はひとつずつ取り出しながら、体を横にずらす。空いたスペースに豪篤が腰をおろすと、コンビニ袋を返した。

「今日は世話になった。ありがとう」

 修助のほうに体の正面を向けて、深く頭を下げる。

「そして、迷惑もかけてしまった。すまなかった」

 再び深く頭を下げる。修助は首を横に振り、にっこりと笑う。

「迷惑だなんてとんでもない。楽しくすごさせてもらったよ」
「そ、そうか? まさかあいつ、おまえに告白するとは思わなくてさ。黙って見てたからそれを止めようとしたんだけど、なぜかダメだったんだ」
「『締め出し』だね」
「『締め出し』?」
「人格の自我が強いとそういうことが起きるんだよ。悪い言い方をすれば乗っ取りだね。まあでも、最悪なところまではいかないと思うから安心して」
「犯罪行為はしないってことか」
「あと、殺人や傷害とかね。泥棒や犯罪者の人格とかだったら別だけど。でも、優美ちゃんはそんなことをする娘(こ)じゃないし、大丈夫だよ」
「そりゃそうだ。あいつは俺に対してはつんけんしてるが、みんなの前では愛想はいいし、根っからの善人なんだ。そんな奴が、犯罪なんかするわけがねえ!」

 最後は我知らず語気が荒くなり、持っていたスチール缶を片手でつぶしてしまう豪篤。

「あ、すまん」
「心の底から人格――優美ちゃんを信じきれてる証拠だよ。短い時間の中でそこまでいけるなんて、うらやましいよ」
「いや、俺なんかまだまだだ。……そういや、人格同士って恋をすんの?」
「するよ。優美ちゃんみたいに、人格と当人もあれば、人格と人格も普通にありえる話だね」
「ほー。それじゃ最初のころに、おまえを見てドキッとしたのも、郷子さんになでられてドキッとしたのも……ついでに、大山の字にドキッとしたのも」
「きっと、顕在化してなかった優美ちゃんだろうね」

 豪篤は拳で手のひらを軽くたたいた。

「なるほどな。おかしいと思ったんだよ。優美が中にいるとき、ことあるごとにおまえにドキドキさせられてたんだ。それは優美がおまえのことを強く意識していたんだな。これで謎が解けたよ。ありがとう」
「どういたしまして。大変だったんだね……。まさか、優美ちゃんの好きが移っちゃったりとかしてないよね?」
「それはないから安心してくれ。俺は一緒に働く仲間として、友達としても大好きだ。でもな、俺たちは男同士だ。否定するつもりはないが、おまえやほかの男に恋愛感情を持てないわ」
「ハハハハ、なんか僕もフラれたことになってない?」
「言い方がへたくそで悪かったな」

 ふたりが顔を見合わせて笑う。

「うんまあ、それが普通だよ。多分。僕も言われても困るしね。そうだ、好きと言えば……好きなの? 渚ちゃんのこと」
「俺にはあいつしかいないと思ってる」

 豪篤は真剣な顔をして言い切る。

「ま、下心はあると思われても仕方ないわな。でも、あいつをまともに戻すことが先決だと思ってる。話はそれからだ」
「うんうん、順を追っていかないとね」
「でもさ、複雑っちゃ複雑なんだよな」
「どうして?」
「俺がフラれた場所がここでさ、俺とさっきの優美を合わせると2連敗になるわけだ」
「ああ……でもほら、3度目の正直って言うしさ! ……僕が言うのもなんだけど」
「まあまあ、気にすんなよ。そうだよな、3度目の正直……よーし!」

 いきなり立ち上がると、豪篤は沈みゆく夕日に向かって全身の力を振り絞り、腹とのどに力を入れた。

「俺は明日やるぞ―――ッ!」

 叫び終わるや、ドカッと座る。

「青春だねぇ」

 からかいではなく、ねぎらうような口調の修助。

「なあ、修助」

 強い眼差しで虚空をにらんでいる豪篤は、大きく息を吐くと、再び腹に力を入れた。

「俺、告白が成功しようがしまいが、店を辞めようって思ってたんだ」

 修助は目を丸くした。突然すぎる告白である。

「え?」
「いや、正確には迷ってる。働かせてもらったり、修助やみんなの存在、何より優美の存在を知ってからは、考え方が変わってきた」

 二の句が継げない修助は、目を白黒させるばかりだ。

「優美が楽しそうに仕事をしているのを、心の中から観察してると、自分のことのようにうれしいんだ。心の奥底でずーっと、ひとりぼっちでさびしい思いをしてたんだなって思うと、辞めるに辞められなくなった」
「……」
「またひとりぼっちはかわいそうだ。それに、仕事仲間と友達を同時に失うことにもなるからな」
「……僕がこう言うのも生意気だけど、豪ちゃんは本当に成長したね」

 感心しきりの様子の修助の反応に、豪篤は頬を掻く。

「俺なんてまだまださ。つーか、答えが出ちまったな」
「そうだね。けどね、それでいいと思う。優美ちゃんも喜ぶよ」

 残照に呼応するように、電灯に明かりが点き始めた。

「帰るか」

 豪篤が促すと、修助は尻を払って立ち上がった。

「そうだね」

 ふたりは並んで歩き出す。
 自分の今の気持ちを素直に言い切った豪篤と、ひとりから2種類の告白を受け取った修助。
 今日はこれ以降、ふたりは言葉を交わすことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...