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5章
09 それぞれの再会
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6
帰宅して夕食後。
豪篤はリビングのソファに座り、少し表情に緊張の色をにじませながら、ある人物の登場を待っていた。
――なんでバカ兄貴となんかと話すのよっ。
(べつにいいじゃねえか。おまえが話すんじゃなくて、俺が話すんだから)
――そんなの同じだわ!
(嫌なら、目を閉じて耳をふさいでいればいいだろ。ったく……人が心配してたのに、飯を食い終わったとたん元気になりやがって)
――ふんっ。寝ればこんなものよ!
(ま、元気になってくれてよかったよ)
――あたりまえじゃない! いつまでもヘコんでられないわ。
(お、ドアの閉まる音がしたな。そろそろ来るぞ)
豪はドアを軽く蹴飛ばして登場する。
「おう、愚弟よ。よくも前に投げ飛ばしてくれたな!」
「また投げ飛ばせばいいの?」
しばらく距離をとって豪は豪篤をにらんでいたが、フッと相好が崩れ、
「違う。たくましくなってくれて、うれしいってことだ」
ふたりは熱い抱擁を交わす。
「お、筋肉ついてるじゃねーか。上腕と背筋がいい感じだ。このまま増量していけば90点だな。……ってどうした? 黙りこんで」
「……さすがにサラシを巻いたんだね」
耳まで真っ赤にして、豪は豪篤を突き飛ばす。
「バ、バカ野郎! 俺だってこうなりたくなかったんだ! 本体に言えよ本体に!」
豪は胸の前で腕を交差させる。
「アハハハ、ごめんごめん。でもね、その腕を交差させるやつは女っぽく見えるから、やめないと」
「チッ、クソッタレが!」
胸の前の交差を解除しながら、豪は豪篤にズカズカと歩み寄る。
「そうそう、お宅の妹さん、告白しちゃいましたよ」
――バカ! 何言ってんのよ!
「ッ!?」
豪篤の何気ない口調に、一瞬豪の動きが止まる。だが、すぐに頭に血が上り、豪篤の胸ぐらを締め上げる。
「ど、どこの馬の骨にしやがったんだ!」
泳ぎ回っている豪の目を見ず、眉間の辺りを見つめ、豪篤は口を開く。
「俺はよく言ったなと思う。なんのひねりもない直球も直球、豪直球。不器用で、正面から言うことしかできなかったし、フラれた。けど、俺はうれしかった。優美が、好きな人の前でちゃんと『好き』って言える奴で安心した」
「……」
「言ってやりなよ。ほら、昔言ってたじゃん。『勇気を持て! 声に出せ! 気持ちで相手をぶん殴れ!』って」
「……よく憶えてんな」
「優美のことを褒めてあげてもいいんじゃない? 俺たちが思うほど、優美はもう子どもじゃないよ」
「そう、だな……けどよ」
豪は豪篤の胸ぐらから手を離す。
「長いこと会ってねえわけだし……会いたかねぇだろうな。こんなクソ兄貴に」
「そこまで言ってないじゃん」
「いや、そう思ってるに違いねぇ。俺はあいつにいいことなんてしてやった憶えがねぇし」
「このままじゃダメか……よし!」
「なんかいい案でもあるのか?」
「お互い着替えてこよう」
* * *
ひと足先に身支度を終えた優美が、ソファに座って待っている。
落ち着かないのか無意識に右足の裏を、左足のつま先にしきりにこすりつけていた。
(姉さんとまともに話すの久しぶりで、緊張する……)
――何もとって食われるわけじゃねぇんだから。
(そうだけど……あっ、姉さんに説得されても、バカ兄貴とは会わないし、会話なんかしないわよっ!)
――この強情っぱりめ。
(なんですって!)
優美が歯を食いしばってうなっていると、彩乃がリビングにやってきた。
「どーしたのゆっちゃん。豪篤とケンカ?」
「……っ。あの、その……」
緊張がピークに達して、ちゃんとした言葉がのどに詰まって出てこない。
「告白したんだって? がんばったじゃん」
優美の隣に座り、目じりを下げて頭を撫でてあげる。
「あ、ありがとう……」
優美は近くにあったクッションを抱く。火が出そうな顔を向けられず、わずかに目を動かしただけだった。
「あーもーかわいいなー。メイドのときのキャラ設定はどこにいったのってぐらいに」
「あれは……」
言葉を濁していると、彩乃は優美のクッションを奪うようにして取り、ひしと抱きしめた。
「大丈夫だよ。全部ひっくるめて、ゆっちゃんはゆっちゃんなんだから」
耳元で優しく語りかける彩乃に、優美の胸が急速に締めつけられる。感極まって目頭が熱くなったと思うと、半分無意識のうちに浮かんできた涙で視界がゆがんだ。
「あれは、ゆっちゃんがなりたいゆっちゃんなんだよね」
優美は言葉の代わりに、彩乃の後頭部を手で優しく撫でつける。
「気持ちはわかる。私も前はそうだったからね。なりたいものになるのがどんなに大変なことか。怒って泣いて笑って……絶望することもある。だれかに言えないし、相談できない悩みも増える。でも、なりたいものになれたら、全部吹っ飛んじゃうぐらいうれしいよね」
一度言葉を区切って、彩乃は泣き続ける優美の背中をさすりながら続ける。
「ゆっちゃんとは直接話せてなかったけど、豪篤と会話してて楽しそうだなって思った。だから、行きたくなって行ったんだ。そしたら、かわいい娘がわんさか――もとい、コスプレしてたころの熱が体中を包み込んだってわけね。で、家に帰ってあんな感じだったと」
「姉さんは……コスプレーヤーに戻るつもりはないの?」
優美は鼻水をすすりあげ、クシャクシャになった顔をティッシュで拭きながら訊く。
「戻らないけど――やってよかったと胸を張って言えるよ。それは今も同じ。だからね」
彩乃は優美の目をしっかり見る。
「豪とはもう会わないと思って、1回話してみなさい」
「……」
「まずはやってみる。気持ちをぶちまけてみなよ。殴ったっていい。抵抗するなって私から言っとくから」
「……うん」
ここまで言われては、不服そうな表情ながらも優美は、首を縦に振らざるをえなかった。
「聞こえないよ?」
「はい、わかりました!」
「よしよし、いい子いい子」
彩乃は子どものように頭を撫で回す。優美は無言で甘んじて受け容れている。
「……にしても、ぺったんこだよね」
「豪篤のバカに言ってよ!」
「あははははー、ごめんごめん」
「もうっ」
* * *
帰宅して夕食後。
豪篤はリビングのソファに座り、少し表情に緊張の色をにじませながら、ある人物の登場を待っていた。
――なんでバカ兄貴となんかと話すのよっ。
(べつにいいじゃねえか。おまえが話すんじゃなくて、俺が話すんだから)
――そんなの同じだわ!
(嫌なら、目を閉じて耳をふさいでいればいいだろ。ったく……人が心配してたのに、飯を食い終わったとたん元気になりやがって)
――ふんっ。寝ればこんなものよ!
(ま、元気になってくれてよかったよ)
――あたりまえじゃない! いつまでもヘコんでられないわ。
(お、ドアの閉まる音がしたな。そろそろ来るぞ)
豪はドアを軽く蹴飛ばして登場する。
「おう、愚弟よ。よくも前に投げ飛ばしてくれたな!」
「また投げ飛ばせばいいの?」
しばらく距離をとって豪は豪篤をにらんでいたが、フッと相好が崩れ、
「違う。たくましくなってくれて、うれしいってことだ」
ふたりは熱い抱擁を交わす。
「お、筋肉ついてるじゃねーか。上腕と背筋がいい感じだ。このまま増量していけば90点だな。……ってどうした? 黙りこんで」
「……さすがにサラシを巻いたんだね」
耳まで真っ赤にして、豪は豪篤を突き飛ばす。
「バ、バカ野郎! 俺だってこうなりたくなかったんだ! 本体に言えよ本体に!」
豪は胸の前で腕を交差させる。
「アハハハ、ごめんごめん。でもね、その腕を交差させるやつは女っぽく見えるから、やめないと」
「チッ、クソッタレが!」
胸の前の交差を解除しながら、豪は豪篤にズカズカと歩み寄る。
「そうそう、お宅の妹さん、告白しちゃいましたよ」
――バカ! 何言ってんのよ!
「ッ!?」
豪篤の何気ない口調に、一瞬豪の動きが止まる。だが、すぐに頭に血が上り、豪篤の胸ぐらを締め上げる。
「ど、どこの馬の骨にしやがったんだ!」
泳ぎ回っている豪の目を見ず、眉間の辺りを見つめ、豪篤は口を開く。
「俺はよく言ったなと思う。なんのひねりもない直球も直球、豪直球。不器用で、正面から言うことしかできなかったし、フラれた。けど、俺はうれしかった。優美が、好きな人の前でちゃんと『好き』って言える奴で安心した」
「……」
「言ってやりなよ。ほら、昔言ってたじゃん。『勇気を持て! 声に出せ! 気持ちで相手をぶん殴れ!』って」
「……よく憶えてんな」
「優美のことを褒めてあげてもいいんじゃない? 俺たちが思うほど、優美はもう子どもじゃないよ」
「そう、だな……けどよ」
豪は豪篤の胸ぐらから手を離す。
「長いこと会ってねえわけだし……会いたかねぇだろうな。こんなクソ兄貴に」
「そこまで言ってないじゃん」
「いや、そう思ってるに違いねぇ。俺はあいつにいいことなんてしてやった憶えがねぇし」
「このままじゃダメか……よし!」
「なんかいい案でもあるのか?」
「お互い着替えてこよう」
* * *
ひと足先に身支度を終えた優美が、ソファに座って待っている。
落ち着かないのか無意識に右足の裏を、左足のつま先にしきりにこすりつけていた。
(姉さんとまともに話すの久しぶりで、緊張する……)
――何もとって食われるわけじゃねぇんだから。
(そうだけど……あっ、姉さんに説得されても、バカ兄貴とは会わないし、会話なんかしないわよっ!)
――この強情っぱりめ。
(なんですって!)
優美が歯を食いしばってうなっていると、彩乃がリビングにやってきた。
「どーしたのゆっちゃん。豪篤とケンカ?」
「……っ。あの、その……」
緊張がピークに達して、ちゃんとした言葉がのどに詰まって出てこない。
「告白したんだって? がんばったじゃん」
優美の隣に座り、目じりを下げて頭を撫でてあげる。
「あ、ありがとう……」
優美は近くにあったクッションを抱く。火が出そうな顔を向けられず、わずかに目を動かしただけだった。
「あーもーかわいいなー。メイドのときのキャラ設定はどこにいったのってぐらいに」
「あれは……」
言葉を濁していると、彩乃は優美のクッションを奪うようにして取り、ひしと抱きしめた。
「大丈夫だよ。全部ひっくるめて、ゆっちゃんはゆっちゃんなんだから」
耳元で優しく語りかける彩乃に、優美の胸が急速に締めつけられる。感極まって目頭が熱くなったと思うと、半分無意識のうちに浮かんできた涙で視界がゆがんだ。
「あれは、ゆっちゃんがなりたいゆっちゃんなんだよね」
優美は言葉の代わりに、彩乃の後頭部を手で優しく撫でつける。
「気持ちはわかる。私も前はそうだったからね。なりたいものになるのがどんなに大変なことか。怒って泣いて笑って……絶望することもある。だれかに言えないし、相談できない悩みも増える。でも、なりたいものになれたら、全部吹っ飛んじゃうぐらいうれしいよね」
一度言葉を区切って、彩乃は泣き続ける優美の背中をさすりながら続ける。
「ゆっちゃんとは直接話せてなかったけど、豪篤と会話してて楽しそうだなって思った。だから、行きたくなって行ったんだ。そしたら、かわいい娘がわんさか――もとい、コスプレしてたころの熱が体中を包み込んだってわけね。で、家に帰ってあんな感じだったと」
「姉さんは……コスプレーヤーに戻るつもりはないの?」
優美は鼻水をすすりあげ、クシャクシャになった顔をティッシュで拭きながら訊く。
「戻らないけど――やってよかったと胸を張って言えるよ。それは今も同じ。だからね」
彩乃は優美の目をしっかり見る。
「豪とはもう会わないと思って、1回話してみなさい」
「……」
「まずはやってみる。気持ちをぶちまけてみなよ。殴ったっていい。抵抗するなって私から言っとくから」
「……うん」
ここまで言われては、不服そうな表情ながらも優美は、首を縦に振らざるをえなかった。
「聞こえないよ?」
「はい、わかりました!」
「よしよし、いい子いい子」
彩乃は子どものように頭を撫で回す。優美は無言で甘んじて受け容れている。
「……にしても、ぺったんこだよね」
「豪篤のバカに言ってよ!」
「あははははー、ごめんごめん」
「もうっ」
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